『GRANBLUE FANTASY: Relink』3Dアクションゲームでの「原作再現」に貢献したMayaとMotionBuilder のインテグレーション
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累計登録者数3700万人を超える人気モバイル向けRPG『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)のファンタジー世界を、アクションRPGとして構築した『グランブルーファンタジー リリンク』(以下、『リリンク』)が2024年2月1日に発売された。原作の美麗なイラストをそのまま3Dにしたようなキャラクターを操作して作品世界を駆け巡り、多彩な武器や魔法を駆使して魔物たちと戦う、ファンにとっては夢のような作品だ。ユーザーを物語に誘うカットシーンも、ハイエンドなプラットフォームならではの演出が数多く採り入れられ、世界中のファンからたちまち絶賛の声が上がった。その仕上がりの原動力は、スタッフから異口同音に語られる「原作の再現に注力する」という制作チームのテーマだ。今回、開発陣を取材しそのこだわりと工夫を伺ったところ、ユーザーの心を捉える数々の演出をMayaやMotionBuilderといったオートデスクのソリューションが支えていた。それら開発シーンの裏側を見せていただいた。
インタビューを受けていただいたCygamesの皆様
シニアキャラクターモデルアーティスト:田中 氏
リードキャラクターアニメーター:安井 氏
リードリギング&シミュレーションアーティスト:神田 氏
リードフェイシャルアニメーションアーティスト:芝 氏(写真は非掲載)
2Dの原作を3Dで「再現」するために ― 各パートの創意工夫
『グラブル』は10年にわたる歴史の中でアニメや格闘ゲーム、3Dライブなど、さまざまな形でキャラクターたちを表現してきた。それらで初めて『グラブル』を知った方でも原作のキャラクタービジュアルに親しみを感じられるのは、各種コンテンツで共通して『グラブル』らしさが表現されているからだろう。
『リリンク』は、原作のアートスタイルそのままのキャラクターを3D空間でプレイヤーが自在に動かし、冒険を繰り広げてもらえるゲームに仕上げるという、究極の使命を帯びたプロジェクトだ。リードキャラクターアニメーターの安井氏は「原作を丹念に研究し、リアルな等身で360°どこから見てもそのキャラらしいアクションになるよう、ディレクターやプランナー、エンジニアと、3Dに落とし込めるように作り上げてきました」と話す。
「原作の再現」という大きな目標に向けて、リアル等身の3Dキャラクターを作り上げる上では、2Dで描かれたビジュアルの色彩感や立体感などの諸要素を、3DCGで強調したり落とし込んだりすることがらが多く発生する。リードフェイシャルアニメーションアーティストの芝氏は「『3Dモデルとして2Dを再現すること』を大事にしようと思いました」とフェイシャル表現の方針を語った。
シニアキャラクターモデルアーティストの田中氏も「完全なトゥーン調というよりも、3Dとして情報量を足していく方向で仕上げていきました」と話す。『グラブル』のイラストらしさを象徴するキャラクターのアウトラインは、線の強弱を付ける制御用のマスクマップを使って0から1の範囲で塗り分けている。「アウトラインの太さは、部位によって細かく強弱をつけており原作のテイストを表現しています」(田中氏)。
『グラブル』らしさを表現する上で大事にしたことは何か。改めて尋ねたところ、「このキャラクターは格好良い系か、可愛い系か、ハッキリと目的を持って作ることです。中途半端な表現はしないようにしました」と、断言したのは芝氏。
カットシーンにおけるキャラクターの表情づくりにおいてはフェイシャルキャプチャー(iOSアプリ・MocapX)を使用して顔の芝居を付け、口周りの動きを作っていった。これは情報量の多さはもちろん、モーションキャプチャーされたボディ側とトーンを合わせるためだ。
その後、Mayaを使用して芝居に合わせて眉や表情の調整を行ない、細かな部分の画作りをしていく。本作は秒間30フレームのフルコマで動いているため、リミテッドアニメのような誇張表現は目立ちやすい。そこで見栄え良く、モーションキャプチャーされた動きを生かしながらも、フルコマでも違和感のないバランスを意識して作っていったという。
「口を閉じようとしたときに、上下の歯が両方見えてしまうと違和感が出るので、そこはリミテッドのようにコマを飛ばしていますが、口パク自体までリミテッドで作ると(※リミテッドアニメでは開き・中・閉じの3枚をリピートさせる)、ボディーモーションと釣り合わなくなってしまうため、きちんと整合性を加味したうえで各キャラクターのテイストを維持するように調整しました」(芝氏)
ほぼ全てのカットシーンに手が入っているものの、大前提として芝氏が大事にしていた考えは「手作業で変形に手を加えたとしても最小の手数で行なうべき」というもの。この方針はチーム内で徹底されたという。「モデルを変形させずにそのままで成立するのであれば本来はそれがベストです。その上で、『グラブル』のイラストを再現するにあたり、足りていないと思う部分を補い、より良くするというのが私たちの仕事です」と芝氏は語る。
「動きの中でメッシュが変形する場面においても、できるだけ綺麗にシルエットを保つことを意識していたので、難度の高いことをしていたと思います。でも、一番はプレイヤーの皆さんが違和感なく物語に入り込めて楽しんでもらうこと。それができれば作品を制作した身としては頑張れたかなと思います」(芝氏)
『リリンク』に登場するプレイアブルキャラクターは主人公のグランやジータをはじめとしたヒューマンから、耳や尻尾の生えたエルーン、1メートルに満たない小柄な種族のハーヴィン、男性では2メートルを超える種族のドラフという4つの種族が存在しているが、これらは男女それぞれ1体のユニバーサルメッシュ(共通素体)から全て作られている。これは20人以上登場するキャラクターを効率的に制作するためだ。また、アーティストが各自モデリングする手間を考えても、一つの基準となるメッシュからそれぞれのキャラクターを構築していくほうが、クオリティの面でも安定したものを作り上げることができたという。
キャラクターモデリングに使用したDCCツールはMaya。田中氏は「ツイーク(Tweak Mode) と四角描画ツール(Quad Draw) を併用すると、スピード感をもって作業できます。ペンタブとの相性が非常によく、直感的な作業ができるので使いやすいです。また、コンポーネントエディタを使うような直観的ではない作業面でも、小数点単位の調整をしながらデザイン作業の補完を取れる一面も持っています」と、Mayaでは有機的なデザイン作業と細かな調整を同時に行うことができ、アーティストにとって指先のように扱えるツールであることを示してくれた。
武器やNPCのルック監修を務めることが多かった田中氏が特に多用したツールは、リファレンス機能だったという。「制作された武器を並べて、形状を見比べたり仕様に沿っているか確認したりする際に、一度に多数の武器をロードしても軽快に動作してくれました。その場でリファレンスとしてロードしてきたメッシュデータの編集および保存が即座にできるので、非常に良かったと思います」と、利便性を語った。
また、モデリングチームではスクリプティングを使って繰り返し作業を自動化し、効率化を図ったと教えてくれた。
「メニューをたどって機能を実行する反復作業を効率的に処理する際、テクニカルアーティストに相談することなく自分で完結できました。というのも、スクリプトエディタでは、実行した作業をクエリしてくれるためゼロからコーディングする必要はなく、実行した作業をコピー&ペーストでシェルフに登録でき、自分が作業すべきスクリプトをちょっとの時間を掛けて登録し、次回以降はワンクリックで処理できたのも時短という意味でも便利でした」(田中氏)と話す。
リードリギング&シミュレーションアーティストの神田氏は揺れもの設定のシステムを社内エンジニアとともに開発を進めていった。そのとき参考にしたのがMayaのnClothやnHairのパラメーター制御だったという。「物理的なシミュレーションの説得力がありつつも、ファンタジー作品である見栄えをいかに付け足していくか。ときには髪の毛や衣装を強調して揺らしたり、ハイスピードになった瞬間に揺れものが無重力のような挙動をするといった動きをパラメーター制御に落とし込んだりしていきました」(神田氏)
また、NucleusのScene ScaleやTime Scaleに当たる表現ができないかとエンジニアに要望してゲーム上で再現してもらい、大きくバタバタ揺らす表現にも耐えられる、破綻の少ない安定した揺れものシステムを構築することができたという。
さらにnClothのwind shadowの機能を参考に、キャラクターの身体の向きと風の向きが平行になった場合に受ける風の力を弱める機能を追加してもらい、どの方向から風を受けても揺れものの破綻が少なくなるように調整されている。これはルリアのようなロングヘアのキャラクターが風に対して背を向けた際に髪の毛全体のシルエットの崩れを軽減するのに寄与している。
最初に揺れものの指針として作ったフラカーン祭壇前のシーン。「作中で最も強風が吹いている場面で、どこまで風を受けた動きを出せるかをここで詰めて、ディレクターとともに方向性を決めていきました」(神田氏)。
開発時には風の挙動を検証するための部屋が用意された。これは作中で演出される風の表現に対してキャラクターの揺れものが破綻しないか、そして演出に合致しているかを確認するための場所だ。用意された風の種類は、穏やかな風から山岳地帯で吹くような強風まで、無風状態を含めて6種類あるという。インゲームのキャラモーションの数は膨大だが、この風テスト部屋でそれら全てを試して確認を行いながら、破綻のないよう繰り返し揺れもの設定を詰めていったという。
パラメーター設定では取り切れないめり込みなどは、ガイドモーションという工程で揺れものの骨に直接アニメーションを入れ、そのブレンドで調整する作業で一つ一つ取り除いた。
「ヴェインやパーシヴァルのように、長い服を重ね着しているキャラクターであっても破綻しないように調整したり、エモート(決めポーズやあぐらをかくなど特殊アクション)のめり込みを、モーションパートに一つ一つ丁寧に処理してもらったりと、揺れものの細部にまでこだわって仕上げました」(神田氏)。
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*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。