DXでアパレル業界の常識に革命をもたらすGOOD VIBES ONLY

DXでアパレル業界の常識に革命をもたらすGOOD VIBES ONLY
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華やかで憧れの的であるアパレル業界が、現在危機に瀕しているという。業界が長年抱え続けてきた構造的な問題を変革し、業界を救う一筋の光になっているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。

アパレル業界の新星経営者の野田氏が率いるGOOD VIBES ONLY(以下GVO)は、このDXを武器に大きな躍進を遂げているという。流通の最適化からワークフローでのMayaの活用まで、ファッション業界のデジタル化についてGVOの皆様に詳しくお聞きした。

GOOD VIBES ONLYの事例
GOOD VIBES ONLYの事例

アパレル業界のDX先駆者であるGVO最高経営責任者の野田氏に聞く

ーー早速ですが、アパレル業界がかかえる課題についてお聞かせください。

野田氏

野田氏:例えば、アパレルショップを訪れた際にセール品を見かけるといったことも多いのではないでしょうか。お店側の立場に立つと、できるだけ正価で売ってしまいたいのが心情にもかかわらず。本来であれば需要を予測した適切な量を作って、それをきっかり販売すれば良いのですが、なかなかそうはいきません。

アパレル業界全体に言えることなのですが、全般的にデジタル化が遅れており、現在も勘任せで発注を行なっているブランドが多いのも実情です。

結果的に在庫を補完するコストに耐え切れず廃棄が多くなり、利益率が下がるという問題が発生しているのです。廃棄という行為は、環境保護の側面でも当然良くはありません。

一昔前の場合は、作り手側から買う人の顔が見えていたのだと思います。しかし、ブランド規模が大きくなったことで効率化を求め、次々とアウトソーシングするがあまりに分離が行き過ぎてしまいました。結果、サプライヤーは1枚でも多く売りたい、ブランドは1円でもコストを下げたい。そして、見通しの立たないまま大量生産することになってしまいました。機会損失は"悪"とする業界の風潮も影響しているのでしょう。売り切れると逆に怒られてしまうので、多めに作っても在庫を切らさない状況を作るわけです。それが積もることでバーゲンセール、酷い場合は廃棄処分です。

同時に、近年はオンラインショップの普及もあり、小規模のブランドが数多く設立されました。市場規模は変わらないため、それぞれの発注枚数は減少し、コストが高くなり、利益幅も小さくなるといった負の連鎖が発生しています。

ーーGVOを設立するに至った経緯をお聞かせください。

野田氏:私はアパレル業界の出身というわけではなく、もともとはデジタル業界に身を置いていました。そこで、アパレルとデジタルを上手く繋げることで化学反応が起きるのではという考えからD2Cブランドを立ち上げたのが始まりです。この時も在庫の課題は存在していましたが、SNSの反応と売上点数のデータを取り、反応率をもとに在庫管理を行うロジックを組むことで営業利益を伸ばすことに成功しました。

このD2Cブランドについては株式の売却を行い、そこでの経験を活かして2018年に新たにGVOを共同で設立しました。GVOではデジタルデータをワークフローで活用していく、従来のアパレルメーカーとは一線を画した制作・流通販売の手法を採っています。

現在、4つの自社ブランドを販売展開しており、取得したデータの分析を行うことで適切な流通を実現しています。多様なデータを蓄積する意味でも4つのブランドでポートフォリオを組んでいます。例えば、モード系のブランドの場合は、SNSでの評判と実際の受注がある程度紐付くデータを示す一方、フェミニン系のブランドはまた違った反応を示すといった傾向があるためです。

ーーGVOでは、CGをどの部門で活用されているのでしょうか?

野田氏:衣装サンプルの制作工程をデジタル化しています。単に服飾シミュレーションのみで終わらせるのではなく、その先の販売促進にいたるまでデジタルデータを活用しているワークフローが特長です。

具体的に言うと、Mayaを活用してSNSやECサイト向けのコンテンツ制作まで行うことで表現力やビジネスの幅を広げています。こういったデジタルの一気通貫ワークフローを実現するにはCG業界の経験を持ったスタッフの力が必要不可欠でした。

ーーそれが本日お集まりの皆さんですね。どのような経緯でGVOに入社されたのでしょうか?

冨尾氏

冨尾氏:私はCG制作会社で約5年間ライティングやコンポジットを担当していました。その当時はバーチャルヒューマンの制作にも携わっていました。そんなところ、アパレル業界の課題解決を行ってみないかという野田からの誘いに大きな意義を感じ、GVOへの入社を決意しました。

アパレルや縫製に関する知識は仕事を進めるなかで吸収していき、現在は3DCGチームでMayaを使ったワークフローの構築を担当しています。

キム氏

キム氏:私は学生時代にアパレルの専門学校に通っていて、卒業後はCLOという服飾シミュレーションソフトウェアの日本代理店でインストラクターを担当していました。CG技術を活かして、さらにクリエイティブな展開を行うことに興味を抱きGVOに転職しました。GVOでは3Dモデリストという肩書でデジタルサンプルの制作を統括しています。

市村氏

市村氏:私はキムと同じ専門学校の出身で、前職も同じという後輩にあたります。学生時代には実際に洋服のパターンを作ったり、洋服を縫ったりしていましたが、CGに出会いその可能性に魅了されました。就職後もCGを使ってさらに面白い事ができないかなと思っていたところ、野田から「単にCGを使うだけにとどまらず、アパレル産業を変えるんだ」というビジョンを示さてれ3Dモデリストとしての入社を決意した次第です。

デジタルサンプルがもたらすスピードアップとコストパーフォーマンス効果

ーーサンプル制作において、従来方式とデジタルの違いを教えていただけますか?

冨尾氏:まず、企画をもとにデザイナーが仕様書を作ります。そのあとにパターンを作成し、型紙をもとに洋服のサンプルを作成します。通常、このサンプル作りは一度で終わらずに、色や布の検討をするため複数回作成することになります。

アナログ方式の場合は、生地集めから工場への発注、縫製、仕上げと20日ほどかかってしまいます。何か変更がある度にこの期間がかかり、修正対応に関わる人数も必然的に多くなります。

デジタル方式サンプルであれば、この工程をたった1日か2日で完了できます。大幅な期間の短縮が実現できるうえ、デジタルならではの臨機応変な変更対応も可能となるのです。

※ 仕様書の一例
※ 仕様書の一例
※ アナログとデジタルの工数を比較したチャート。
※ アナログとデジタルの工数を比較したチャート。

ーーデジタル活用のメリットは他にもありますか?

冨尾氏:例えば、サンプルを5色のバリエーションで作って検討した結果、3色だけを採用するといったこともよくあります。そうすると、物理的サンプルでは2色分は無駄になり、廃棄する布もたくさん出てきます。しかし、デジタルではそういった問題は発生しません。以前、諸事情で企画自体は流れてしまいましたが、デジタルサンプルを大量に作っていた企画がありました。もし、物理的なサンプル品を大量に作成していたら、コスト面でさらに大きな損害になっていたことでしょう。

ーーデジタルサンプル作成の流れをお聞かせください。

キム氏:デジタルデータ作成は、「クレアコンポ」(東レACS社製品)をはじめとした2D CADソフトからパタンナーがデザイン画をもとに型紙を作ることろから始まります。

冨尾氏:この作業はわれわれ3Dモデリストが行うのではなく、専門のパタンナーさんに一度起こしてもらうほうが最終的なクオリティが高くなります。実際に縫える形に仕上げる作業は、専門のパタンナーさんの方がスピードもノウハウも優れているためです。服の着心地はパターンの善し悪しで決まると言っても過言ではないくらいの職人技です。

CADソフトで制作された型紙
※ 2D CADソフトで制作された型紙

2D CADで作成したデータはDXF形式などで書き出されます。これらを服飾シミュレーションソフトの「CLO」(CLO社製品)に読み込んでポーズやアニメーションを設定したのちにシミュレーションを実行します。そして、洋服のドレープ感や動きが再現された形状をOBJフォーマットでCLOから書き出すというのが3Dモデリストの主な役割です。

※ CLOの作業画面。型紙デザインをつなぎ合わせ、ボディに対して着装シミュレーションが行えるソフト。
※ CLOの作業画面。型紙デザインをつなぎ合わせ、ボディに対して着装シミュレーションが行えるソフト。

※ CLOの作業画面。型紙デザインをつなぎ合わせ、ボディに対して着装シミュレーションが行えるソフト。

ーーオートデスク社のMayaではどういった手順で作業を行われていますか?

冨尾氏:CLOから書き出されたデータを「Maya」(オートデスク社製品)に読み込んで、SNSやECサイト向けのクオリティが高いビジュアルを作成していくのが3DCGチームの担当パートです。物理的に正確なライティング表現や、布・ファーといった繊細な質感を正確に描写するためには、やはりMayaは必須になります。

全体の流れとしては、実在するモデルさんの写真撮影を行い、その写真とMayaでレンダリングを行った質感が再現された洋服部分のCGを合成していくという形です。

はじめに、OBJフォーマットのデータとテクスチャをMayaに読み込んでRedshift用のマテリアルを割り当てる作業を行います。GPUレンダラーであるRedshiftは、レンダリング時間を削減するために使用しています。企画から1週間でECサイトにアップするケースもあるため、スピード感がとても重要なためです。

Mayaのハイパーシェードと呼ばれるマテリアル設定エディタ
※ Mayaのハイパーシェードと呼ばれるマテリアル設定エディタ

なお、実物のモデルさんを写真撮影するときに、HDRIも撮影しています。その画像をMaya内で利用することで撮影スタジオと同じライティング環境をデジタル空間に再現しています。そのあとは、イメージプレーンを使用してカメラ位置とボディを合わせてレンダリングを行います。
そして、Mayaからのレンダリング結果を合成する最終処理では「Nuke」(Foundry社製品)を利用しています。

※ 環境マップ用のHDR画像
※ Mayaでスタジオの撮影、ライティング環境を再現している様子。

※ 左図は環境マップ用のHDR画像。右図はMayaでスタジオの撮影、ライティング環境を再現している様子。

※ Maya上でモデル写真とぴったり位置合わせした状況
※ Mayaからの出力結果と写真をNukeで合成している様子。

※ 左図はMaya上でモデル写真とぴったり位置合わせした状況。右図はMayaからの出力結果と写真をNukeで合成している様子。

ーー全てをバーチャルヒューマンにするよりも実写と合わせる方が良いのでしょうか?

冨尾:バーチャルヒューマンは、どうしても「いかにもバーチャル」という感じが残ってしまいがちです。そうなってくるとクライアント様からもなかなか受け入れていただけません。また、ブランドによってイメージするモデルさんは異なります。フォトリアルなバーチャルヒューマンを複数体揃えるとなったら、途方も無い工数になってしまいます。現状は、Mayaからの洋服CGと実物モデル写真を組み合わせるのが最適解かなと思っています。

ーー布の質感や動きといったものはCGでどこまで再現できるのでしょうか?

冨尾氏:質感はデジタル上で限りなく実物に近い形で再現することができます。専用の物性測定器があり、布の落ち感とか硬さを計測したデータをテクスチャとして利用しています。そして、先ほどもお伝えしたように、Mayaのレンダリング環境は物理的に正しい結果を出力するための様々な機能を備えています。

市村氏:動きに関してですが、デザインを修正したり、生地を変更したりといった判断材料にもCGアニメーションを活用しています。例えば、スカートで歩いた際の布の流れ方は、洋服のデザインで大事なポイントです。そこで、モデルが歩いたときに布がどう反応するのかをシミュレーションを行いCG映像でチェックしています。この時に実物の生地を手に取り、感触を確かめながら行うと、イメージが補間されてより確かな判断が行えるというのはあります。

ーーデジタルサンプル画像に対するクライアントさんの反応はいかがですか?

冨尾氏:「ここまでやってくれるとCGだと分からないね」という反応をいただけています。ECサイトの画像は1つのアイテムに対して何十枚もポーズ違いを見せることもあります。また、ディティールのアップを見せるのであれば、表面以外の部分の作り込みが必要になってきます。お客様から「ここまでCGでできるなら」と期待をかけられるのは嬉しいので、限られた時間でもクオリティの担保と制作の効率化を両立させたいです。

※ 3枚目まではMayaでレンダリングを行った洋服CGとモデル写真を合成したデジタルサンプル
※ 3枚目まではMayaでレンダリングを行った洋服CGとモデル写真を合成したデジタルサンプル
※ 3枚目まではMayaでレンダリングを行った洋服CGとモデル写真を合成したデジタルサンプル
※ MayaからフルCGでレンダリングを行った例。

※ 3枚目まではMayaでレンダリングを行った洋服CGとモデル写真を合成したデジタルサンプル。4枚目はMayaからフルCGでレンダリングを行った例。

ーーMayaを使った工程に以前はフリーソフトを採用されていたとお聞きしました。コストを掛けてでもMayaに移行した理由はどこにありますか?

冨尾氏:Mayaの導入は、ワークフローの構築が行いやすいというのが大きな理由です。説得力のあるデジタルサンプルを制作するには、作業者の力量やノウハウに依存してしまう部分があります。このあたりをいかに自動化、汎用化させるかが今後の課題です。ある程度Mayaの操作を覚えるだけで、CGにあまり詳しくなくても誰でもデジタルサンプル画像を簡単に作れるワークフローの構築を目指しています。

具体的にはMayaはファイルリファレンスの機能も優れているので、事前に準備した照明セットやカメラのデータを自動的に参照させたり、イメージプレーンの位置合わせを補助したりするツールを開発するなどで作業の効率化を図りたいと考えています。

ーー最後にGVOの今後の会社全体としての展望についてお聞かせ下さい。

野田氏:現在の私たちが行えているのは、デジタルからのモノづくりと在庫課題の解決、そして販売のサポートといった、カスタマーに対して現物をお届けする事業です。

今後は、現物はもちろんですが、ゲームやメタバースといったデジタルの世界ともつなげていきたいと考えています。弊社のクライアント様は現実の世界では非常にブランドネームのある企業ばかりです。しかし、デジタルの世界ではまだまだ浸透させる余地が残っていますし、そういった分野にクライアント様も興味をお持ちのようです。メタバースとブランドを繋ぐブリッジ役も目指したいですね。

まだまだ様々な状況がひしめき合っているなかですが、どのような変化にも対応ができる体制をデジタルデータやMayaを上手く活用して構築していければと考えております。

ーーGVOの皆様、本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社グッドバイブスオンリー

株式会社グッドバイブスオンリー
https://goodvibesonly.jp/

写真左から
松本晃太 氏 / 3DCG Team, Junior Artist
キム ドンヒョン 氏 / 3D Modelist Team, Lead 3D Modelist
野田 貴司 氏 / 最高経営責任者
冨尾 礼美 氏 / 3DCG Team, Top Artist
市村 悠貴 氏 / 3D Modelist Team, 3D Modelist

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