「『共感』を漫画に求めていない」浅野いにおの頭の中

「『共感』を漫画に求めていない」浅野いにおの頭の中
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(第二章)インターネットのクリエイターって、どうしたら生き残れると思いますか??

――もうひとつ伺ってもいいですか? SNSの発達で、ネット発のクリエイターや漫画家もたくさん出てきている昨今だと思います。漫画業界もカタチを変えてきていると思いますが、浅野先生はどのように考えていらっしゃいますか?

漫画家の人口も、発表される作品数も、ネットによってめちゃくちゃ増えたと思います。pixivで描いている方たちも、ものすごく技量が高いし。しかも情報発信もできるから、以前よりもデビュー自体はしやすくなったんじゃないですかね。

――確かにそうですね。

けど、そこから頭一つでるのが難しいですよね。出版業界はまだ「作家として付き合う」という文化があるので、長い目で見てもらえる可能性があるんですけど、ネットの世界では即物的なおもしろさや爆発力が求められているので。作家としての才能とコンテンツの面白さがイコールにならないケースもあると思います。

――とくに無名のクリエイターの作品は、作家性よりもコンテンツ力が求められますよね。「この人なら長く描かせられる」っていう安心感は、得られにくくなっているのでしょうか?

そうですね。売れた作品が出たときに、その人が作家として見られてるのか、コンテンツとして見られてるのかによって、継続的に食っていけるかが決まってくると思うんです。

とくにネットは、シェアされてきた作品を楽しんではいるけれども、じゃあその作者が次の作品を出したときにも読むのかっていうと、そんなことはあまりない。だからTwitterやWeb媒体で人気が出たクリエイターが、作家としてその後も継続的に売れ続けることはとても難しいと思います。

――確かに......。でも、SNSで人気が出たとして、そこから頭一つでるためには、なにが有効なんでしょうね......。もちろん作品の面白さが一番、という前提で。たとえば浅野先生だと、『プンプン』連載後に始まった『デデデデ』が「このマンガがすごい!2016 オトコ編」 のランキングに入ったかと思うのですが。そのときは、どのような心境でしたか?

昔はランキングとかにもこだわっていたんですけど、今はそんなに......。ランキング上位に入っても、本の売上はそこまで上がらない時代なんです。それを言うと、『情熱大陸』に出たときだってそんなに上がらなかったし。今は『アメトーーク!』に取り上げられるぐらいじゃないと、実売には効果がないような気がしますね。

――そうなんですか!?

もちろん個人差はあると思いますけどね。いま売れる作品は、「わかりやすく共感を得られるもの」か、俗にいう「萌え系」だと思うんですけど、そこばかり考えていると、表現の幅みたいなものが偏っていっちゃうと思うんです。

浅野いにお(あさの・いにお)先生

昔は自分が良いと思うものを描けば売れるし、ちゃんと分かってくれる人は着いてきてくれるという感じだったんですけれど、最近はそういう感覚がなくなってきた。すごくバカにした言い方だと、「市場に合わせりゃ売れるだろ」っていう空気が感じられるんです。

――確かに「売れること」と「良い作品を作ること」のズレが生じてきている気はします。わかりやすいものを作れば、フォロワーはそれだけで賛同してくれますし。

さっき、Twitterの話も出ましたけど、僕はフォロワーが10万人を超えたときに、 いよいよその数字がどうでもよくなって。一番そう思ったきっかけが、単行本の新巻の売り上げ部数がフォロワー数を下回ったとき

漫画家としてTwitterを始めたのに、そこで宣伝してもあまり効果がないとわかってしまったので、少しSNSへのやる気が削がれてしまって。今のフォロワーの大半は漫画家としての僕ではなく、落書きとかプライベートの僕を期待しているんです。それはちょっと本業と違うし、「うーん」って感じだったので。

浅野先生の飼い猫のうなぎ。少し人見知りだけれど、めちゃ可愛い。

浅野先生の飼い猫の「うなぎ」。少し人見知りだけれど、めちゃ可愛い。

――僕もライターとしてTwitterをフル活用していて、フォロワーも9万人になり、完全に「SNSの人間」として括られるんですけど、クリエイターが「フォロワーの喜ぶモノづくり」に迎合していくと、芯となるスキルが欠落していくように感じることがあります。

言い方は悪いですが、わかりやすいもの、軽くて薄っぺらいものの方がやっぱり読みやすいし、時間つぶしにちょうどいい。元々漫画は暇つぶしのものだって考えれば、それも一つ正しい道なんですよね。

ただ、みんながみんな、それをやりたくてやっているならいいんですけど、「軽くて薄いコンテンツしか作れないからそれを作る」という状態は、長い目で見たときに危険かなって思います。

――共感コンテンツばかり作って飽きられるのを恐れたり、他のことに手が出しにくくなっている「共感」のジレンマとか消耗みたいなところは、危惧しているところでした。

『進撃の巨人』がバッと売れたときに、なんであれにみんな注目したかというと、作品が面白いことは大前提なのですが、そのときって萌え漫画みたいなのが急激に増えていた時期で、とにかく「大作がない」って状態だったんですよ。

進撃の巨人でようやく大作を描く若い作家がでてきたってことで、大人たちが注目したんだと思います。やっぱりそういうものを描ける人がいないと、業界的にはヤバいので。

――それ、すごく感じます。『進撃の巨人』って、誰も共感はしないじゃないですか。でもあれはそういうものではないっていう作品だからこそ、超大作になり、映画化もされていて。読者との距離感が大事になっていると思います。

そうですね。

――浅野先生の作品も『デデデデ』や『プンプン』がそこまで多くの共感を生むかと言ったら、僕はあんまりそうは感じていなくて。『デデデデ』を読んだときの「遠さ」っていうのは、ある意味業界へのリスペクトだったりとか、今のコンテンツ社会自体への反骨精神とかがあったりするのかなって、個人的に思ったんですけど。

そうですね。確かに共感というものは、僕も漫画にはあまり求めていないです。自分自身が作家の名前で単行本を選んでいたタイプだったので、「作家のわがままに着いていきたいかどうか」が買う基準だったんですよね。

だから僕は、今多くいる共感系の漫画家とは別のタイプだし、CGなどのテクノロジーで可能性は広げていくものの、基本的には昔のやり方で作り続けるしかない。これからも、大きく方向性は変えずに続けていこうって思っているんです。

――「たとえそれが険しい道で、世界の果ての果てまで続いていても(by種田)」、ですね。

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