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カプコン「バイオハザード7 レジデント イービルにおけるワークフローの改革」

カプコン「バイオハザード7 レジデント イービルにおけるワークフローの改革」

2017.06.02

  • Maya
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すべては"恐怖"のために。

2017年1月に株式会社カプコンからリリースされたバイオハザード7 レジデント イービル(以下、バイオ7)は、シリーズの原点とも言える"恐怖"を追求した大ヒットタイトルである。

物理ベースレンダリングへの移行、自社ゲームエンジンの開発、PlayStation®VR完全対応などの様々な課題をどのように乗り越えてタイトルを完成へと導いたのか。今回、バイオ7開発チームから川田氏(プロデューサー)、福井氏(テクニカルディレクター)、津田氏(アートディレクター)の3名に様々なエピソードをお聞きした。

左から、アートディレクター 津田壽彦氏、プロデューサー 川田将央氏、テクニカルディレクター 福井誠氏

左から、 アートディレクター 津田壽彦氏、 プロデューサー 川田将央氏、 テクニカルディレクター 福井誠氏

バイオ7の開発が、本格的にスタートしたのは2014年2月頃だ。つまり、約3年という開発期間でリリースが行われている。ゲーム開発が大規模化、複雑化している昨今、バイオハザードのようなAAAタイトルにおいて、約3年という開発期間でリリースが実現したというのは驚きである。そこに隠された秘密について川田氏は以下のように語っている。

「フォトグラメトリーといった新規技術の積極的な導入は必須だったと思いますが、そこに至るまでスタッフ全員が明確なビジョンを共有し、目標に対して邁進(まいしん)出来たことが成功の秘訣だと思います。」と川田氏は語る。

プロデューサー 川田将央氏

プロデューサー 川田 将央氏

バイオ7ではフォトグラメトリーのような新規技術の本格導入と合わせて大幅なワークフローの見直しも図られている。アセット制作パイプラインの中核となるMayaから自社ゲームエンジンへの出力環境に様々な改善を行うことで、さらなるクオリティの向上を実現するためのパイプラインが構築されたのだ。(記事の後半で詳しく解説。)

本作は、コードネームがHarawataと名付けられたように30年以上前の映画作品である"死霊のはらわた"をモチーフにしている面があるという。本作で表現したいことを感じ取ってもらうために開発メンバーへの上映会も行われたそうだ。"テキサス・チェーンソー"や"死霊館"といった作品をビジュアル面でリファレンスにするなどディレクターや開発スタッフにはホラー映画好きの人もやはり多いそうだ。

「前作まではグロテスクになりすぎないよう配慮している面もありました。本作は嫌悪感を出さない絶妙なバランスを保ちつつ振り切ってしまえという気持ちで恐怖感を限界まで追求しています。」とは川田氏のコメント。ビジュアル以外にも冒頭からガンガン押してく予定調和ではないストーリー、登場人物の豹変に衝撃を受けたプレイヤーも多いだろう。"世界一怖いホラーゲームを送り出す"という明確なビジョンのもと、チーム一丸となりバイオ7の開発は進められたのである。

物理ベースワークフローへの移行

PS4世代の物理ベースレンダリング環境では、光学的に正しいことを念頭に3Dデータを制作しなければならない。これまでの作り方であれば、仮に現実世界の処理では正しくなくとも見た目さえ良ければOKといった方法も選択肢の一つとしてありえたかもしれない。また、法線マップなどのテクスチャについても、従来より高解像度のデータを準備しなければならなかったという。

このため、バイオ7では過去作品で作成されたアセットデータの再利用は行われず、ほぼ全てを作り直すということが前提となった。従来、高解像度のモデル制作にはZBrushなどのスカルプトソフトが使用されていた。この部分で効率化を図るためにフォトグラメトリーという複数の視点で撮影された写真から3Dデータを構築する技術がワークフローに全面採用されたのである。生成された高解像度モデルは、リトポロジー作業が行われた後にMaya上で形状の微調整が行われる。

「フォトグラメトリーは、撮影時点の素材というものが答えそのものとなってしまいます。このため、事前の準備というのが最も大事な工程かもしれません。ゲーム開発は、ハードウェアの進化で作り方も変わるのです。」と津田氏は語る。

例えば、人物をスキャンする際には、プロのメイクアップアーティストと事前に入念にイメージのすり合わせが行われたそうだ。背景アセットや小物に関しては、素材を入手するというプロセスが肝となる。良さげに腐食した板を自宅から持参したり、食事シーンのアセット用には焼肉店がひしめく鶴橋にモツを買い出しに行くといったこともあったそうだ。ちなみに、撮影は無事に成功したが、さすがにニオイには皆さん困ってしまったそうだ。
(※その後、スタッフが美味しくいただきました。)

フォトグラメトリーは、キャラクタモデル制作のみならず、テクスチャ制作、背景モデル制作でも大きな力を発揮した。

もちろん、全てのモデルでフォトグラメトリーが使用出来るわけではない。例えば、実在しないクリーチャー、モデリングしたほうが早いもの、サイズが小さ過ぎるもの、工業製品(反射する素材は特徴点が捉えにくい)などは、Mayaのモデリング機能を駆使して一から作成された。アトリビュートの転送を活用したデータ調整や使い勝手が良いUVエディタは、そういった作業でとても役立ったと福井氏は語ってくれた。  

フェイシャル作業でも3DスキャンとMayaがワークフローの肝となった。次のような流れでフェイシャルキャプチャーのデータはゲームへと出力されたという

① フォトグラメトリーでアクターの表情パターンを撮影(約80パターン) 
② ①のハイメッシュを、ローメッシュにリサーフし、ボーンでウェイト付けを行う。
③ ②のボーンポーズ集を適宜分解し、コントロールリグに格納。
④ モーションキャプチャ時、①と同様の表情をレンジオブモーション(ROM)として収録。
 レンジオブモーションは、マーカータイプとマーカレスタイプの2種類を収録。
⑤ フェイシャルデータを収録する。(フルパフォーマンスキャプチャー)
⑥ ⑤のデータを使ってアニメーション解析する。解析されたアニメーションは表情パターンのウェイト値のアニメーションとして一旦出力される。
⑦ ⑥をボーンにベイクプロットし、ゲームエンジンへ出力。

キャプチャーしたボディモーションもゲームに出力するとスピードやイメージが違ったりすることが多い。そこで、Maya上でカッコよいアニメーションとなるまで調整を突き詰めるのがアーティストの腕の見せ所だ。

髪の毛やヒゲも特徴点が捉え難くいためにフォトグラメトリーによる再現が困難である。ヘアーデータの制作には3ds Max の Ornatrix プラグインが活用された。

VR開発への挑戦

テクニカルディレクター 福井誠氏

テクニカルディレクター 福井 誠氏

「Kitchen」というタイトルが、VRの技術デモとして2015年6月のE3に出展された。VR空間への没入感から生み出される恐怖は、開発スタッフ自身もテストプレイの時点で手応えを感じていたそうだ。そして予想以上に、出展作をプレイしたユーザーからは大きな反響が巻き起こった。続く東京ゲームショウの出展ではあまりの恐怖にプレイを中断してしまう人も出たという。こういった裏付けも後押しとなってバイオ7に向けたVR対応にゴーサインが出された。しかも、ゲーム全編を通じたVRプレイが可能な完全対応という選択が下されたのである。「ここからはPS VRを装着して下さいという遊び方ではゲームの魅力が下がってしまいます。そのため、部分対応ではなく完全な対応になるだろうとは予想していました。」と福井氏は語る。

本作はアイソレートビュー(主観視点)で開発が進められていたため、システム的には対応し易いという下地が存在した。しかし、新しいデバイスへの対応作業は、60fps処理の最適化やVR酔いへの対策など苦労の連続であったそうだ。中でも、ユーザーインターフェースをVR専用にレイアウトを作り直したり、エフェクトでは60fpsをキープするため一部のフィルタ処理を抑えつつクオリティを担保したりする地道な調整が行われた。VR酔いを防ぐためには出来る限りカメラのブレをおさえたり、歩くスピードをVRに適したものに調整したりと細かい調整が行われた。

体験している人のリアクション映像を拡散することでVRの魅力を効果的にアピールが行われた。
また、SNSで活躍する拡散力を持つ熱心なファン自身から情報を発信してもらうアンバサダーというプログラムも実施されたそうだ。

MayaとRE ENGINEの親和性

バイオ7の開発と並行して、RE ENGINEという自社製ゲームエンジンの開発も進められた。
RE ENGINEの特徴は、今世代のレンダリングパイプラインを採用しており、イテレーションも素早く行えることがあげられる。「VR対応、優れた描画処理、データの堅牢さ、そして、使いやすさが備わった開発者に優しいエンジンである」と津田氏は語る。

従来、エンジンのビルドに修正を反映させるのには3日ほどかかっていた。設計が見直されたRE ENGINEは、自動ビルドで更新が行われる。このため、最短で20分程度で修正が追加されるなど凄まじい速度でゲーム開発と並行してエンジンの完成度も高められていった。

RE ENGINEは、バイオ7以外のプロジェクトでも利用可能な汎用的な設計となっている。汎用的ではあるが、Pythonのマクロ機能でプロジェクトに適した処理を実装するカスタマイズも可能となっている。

物理ベースワークフローでは従来のようなステージ全体をひとかたまりの俯瞰とした絵作りではなく、皿やランプといった小さい単位で膨大な数のモデルを作り込む必要がある。前作と比較するとアセットの管理単位が細分化されたため、これらをどう管理するのかについても課題となった。これに対する答えとして「SceneDataManager」と呼ばれる、アセットを一括管理する為のプラグインの開発が行われた。つまり、サーバー上のデータを開発スタッフの誰もが見られてMaya上に直感的にアセットが読み込めるライブラリーの機能だ。過去の開発ではアセットデータをサーバーで管理することが徹底されておらず、各人のローカルで管理されている状況も多く発生していた。SceneDataManagerの導入によって、サーバーベースで最新データをバージョン管理する方式に無事移行が行え、データの信頼性と共有効率が大幅に向上したという。

SceneDataManagerでは仮モデル段階から情報の登録を行い、そこを基点にコリジョン情報などゲームに必要な属性設定のステータスも管理出来る。つまり、作業フローに抜けが発生しないようにファイナルのアセット完成まで導けるのだ。

SceneDataManagerからMayaに読み込まれたアセットは、最終的にRE ENGINEへの出力作業が行われてゲームの調整が行われる。

MayaとRE ENGINEを行ったり来たりする作業のなかで相互に操作感覚が違わないように連動させるツールなども開発された。「Mayaが提供する開発環境は、とても柔軟でパワフルだ」と津田氏は語る。

レベルデザイン作業ではテンションカーブと呼ばれる安堵感と恐怖心のバランスの調整が大切だという。ライティング表現や空間の狭さなど試行錯誤の調整が行われた。

今後の展望

大きな成果を残したフォトグラメトリーは、今後のプロジェクトでも積極的に活用される予定だという。今回のキャラクタ制作では撮影時のテクスチャの品質(解像度)に依存している面があったという。高解像度テクスチャを使用する場合、キャラクタを何体も登場させるとなるとテクスチャメモリの関係から限界が発生することも考えられる。そこで、既に背景制作では活用されているプロシージャルなシェーダ技術をキャラクタにも活用することも検討されているという。

アートディレクター 津田壽彦氏

アートディレクター 津田 壽彦氏

「テクスチャとシェーダの合わせ技で、高品質、かつ省メモリーなキャラクタ表現を実現したいですね。後は、Maya上でのフェイシャルセットアップもまだまだ表現を追求したい部分があります。成果は出ていますが、技術革新は日進月歩なので終わりはありません。立ち止まってしまったら負けですからね。」と福井氏は熱く語った。

続いて、津田氏も、「背景制作において、Mayaの充実したモデリング機能がとても役立っています。そして、大規模データの扱いや操作のスピード感、そして、カスタマイズ性の高さは、ゲーム開発ではとても重要なポイントです。これまではプロジェクトを超えたアセットの流用が難しかった問題もMayaとシーンデータマネージャー、RE ENGINEの連携強化によって改善されています。今後は、資産のライブラリー化と再利用が行いやすくなり開発のクオリティアップにつながることは間違いないですね。」とコメントいただいた。

「昨今のゲーム開発では、短期間に大量の人員を投入しコストを抑えるためには外部委託というものが必要不可欠です。しかし、社内にノウハウを蓄積する意味で内製の比率を上げながら外部を活用することが重要なんです。」とプロデューサー川田氏は語った。現在、カプコンでは内部制作の比率を高めるため積極的な開発スタッフの採用が行われている。具体的には、2021年度までに開発スタッフを2,500人規模まで拡大する計画が掲げられているという。

技術が成熟してきた昨今では、ゲーム開発が映画制作のワークフローに近づいているのかもしれない。例えば、写真のスキル、映画やテレビのノウハウ、舞台演出やメイキャップといった様々な知識を持った人材のインプットをゲームにフィードバック出来る状況がそこにあるという。インタビューの最後に、川田氏より、「グローバルなゲームタイトルを手がけているのもカプコンの特徴です。ゲーム以外にもハイエンド映像制作に携わっていたような経験者の方の参加をお待ちしています。また、学生の皆様も熱意や尖った感性を持った人は大歓迎です。Mayaは、弊社ワークフローの根幹です。アナログ絵の知識もあり、Mayaの基礎知識やスクリプトが組めるようなバランスの取れた人も大歓迎ですね。」と締めくくった。

商品名:バイオハザード7 レジデント イービル(BIOHAZARD 7 resident evil)

対応ハード:PlayStation®4(PlayStation®VR対応/HDR対応、PlayStation®4 Pro 4K/HDR対応)、Xbox One(Xbox One S HDR対応)、PC

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