株式会社バンダイナムコゲームス
ACE COMBAT ASSAULT HORIZON

バンダイナムコゲームス Interview「より本物らしく、より効率的に――リアルかつ高密度な"実在都市"再現手法」

2011年10月に発売された「エースコンバット アサルト・ホライゾン」は、シリーズ累計1,100万本を超える人気フライトシューティングゲーム「エースコンバット」シリーズの新作である。今回はPS3とXbox 360の2大ゲームマシンでの発売となり、従来のフライトシューティングゲームを超えた"超音速・大破壊シューティング"へと飛躍。高層ビル群を超音速で駆け抜け、至近距離で敵を木っ端みじんに破壊する爽快なドッグファイト・モードをはじめ、ゲームのあらゆるパートが格段の進化を遂げている。その中でも大きな話題を呼んだ1つが、"実在する世界各地の都市"を舞台としたことである。特にその町並みを完璧なまでに再現した、リアルかつ精緻な背景が大きな注目を集めている。Autodesk Mayaを駆使してこの奇跡的なマップを作りあげた、バンダイナムコゲームスの千家氏と鈴木氏にお話を伺った。

"破壊の壮快さ"をきちんとユーザに伝えるために

――まずこの作品の特長についてご紹介ください

千家氏:本作では、これまでシリーズを楽しんでいただいてきたエースコンバットファンの方々はもちろん、より多くの人たちにも広く楽しんでいただこうという狙いがクローズアップされています。前作はXbox 360のみの発売でしたが、今回はPS3でも発売されるということもあり、より多くのユーザにアピールしていこうと考えたのです。そこで新規のお客様にもアピールするにはどういう要素を強化すべきか追求し、行き着いたのが"より手軽に迫力ある戦闘を楽しめるようにする"ことでした。もちろん簡単な操作ということについては従来作でも追求していましたが、これをより強化して行こう、というわけですね。そしてもう一点、戦闘そのものの迫力もいっそう高めています。

――戦闘の迫力を高める、とは?

千家氏:本シリーズは戦闘機のゲームなので、敵がまだ接近しないうちからがんがん攻撃できてしまいます。その結果、従来は爆発などの"見せ場"となるべきエフェクト類がどうしても遠くの方で発生してしまい、ユーザにとっては距離感があってせっかくの爆発もあまり派手に感じられません。そこで、たとえばユーザ機のもっと身近で爆発が起きたり、さまざまなイベントが起きるなどの工夫を施し、手軽に遊んでいただけるようにしています。エースコンバットはフライトシューティングゲームですが、特にこのシューティング要素を大きく強化したわけですね。これによりFPS(First Person shooter/一人称視点シューティングゲーム)等のファンにもアピールしよう、という狙いもあります。

――そこから生まれたのが、あのゲームコンセプトですね?

千家氏:ええ、「もがれる翼の断末魔!」です。このキャッチフレーズの通り、破壊の爽快さを味わってもらおう、と。開発においては、この"破壊の爽快さを味わってもらう"ということを、どんな風に実際のゲームに落とし込むか、という処でさまざまに工夫していきました。たとえば、至近距離の超音速ドッグファイトで敵を木っ端みじんに破壊するドッグファイト・モードや、地上の強大な敵戦力を破壊し尽くすエアストライク・モードといった新システムを通じ、"破壊の壮快さ"をきちんとユーザに伝えることを目指しています。結果として、このような新しいゲームコンセプトや新システムは、背景の開発にも大きな影響をもたらし、私たちも新しいチャレンジが必要となったのです。

――背景開発で必要となったチャレンジとは?

千家氏:ポイントは2つあります。まずドッグファイト・モードなどで至近距離で戦う場合、従来に比べて画面の視野をややズーム気味にして敵機との距離感をより近く感じさせたり、高層ビル街に逃げ込んだ敵機を自機で追いかけるといったイベントを用意しているんですが、そうすると従来のような上空での戦闘に加え、はるかに低い高度で戦うシチュエーションが多くなるんですね。そうなると、やはり地面側の解像度というか、地面のグラフィックの密度をより強化しなければ、ユーザに低空での戦いをリアルに感じてもらえません。われわれ背景班としても、よりリアルな地面の開発を通じて、低空での超高速バトルの迫力をきちんと伝えていこうと力を注ぎました。

千家英嗣氏
株式会社バンダイナムコ ゲームス
第1スタジオ ビジュアルアートディビジョン
VA1部VA3課
チーフビジュアルアーチスト
千家英嗣
鈴木摩耶氏
株式会社バンダイナムコ ゲームス
第1スタジオ ビジュアルアートディビジョン
VA1部VA3課
ビジュアルアーチスト
鈴木摩耶

――もう1つのポイントは?

千家氏:これまでエースコンバットシリーズでは、どんなにリアルな戦闘を描いても、舞台はあくまで現実と異なる架空の世界としていました。しかし、本作ではユーザ層を拡大するため、ユーザにとってより実感の湧くようなストーリィにする必要がありました。そこでシリーズとして初めて、現実の世界を舞台とすることにしたわけです。もちろんストーリィは架空のものですが、ゲーム中に現実の都市の町並みや地形を登場させたのです。従って背景担当としての私たちは、現実世界の都市や地形を、より高密度でリアルなものとして作っていかなければなりませんでした。プロジェクトが立ち上がったのは2008年頃でしたが、私たちにとっても初めてとなる試みが多く、限られた開発期間の中でこれをどうやって作っていくのか、いろいろ考えながら進めていく必要がありました。

――人気シリーズをこれだけ大きく変えるのは重要な決断でしたね

千家氏:そうですね。既に形ができ上がっているシリーズであり、ユーザも「今までこうだったから次もこうだろう」とか「ここは変わらずに」といった部分が当然あったと思います。しかし、その方向にばかり進めていくとどんどん尖っていってしまい、シリーズとして先細りになりかねません。そんな事態を避け、ユーザ層を広げていくためには、思いきって変える必要がありました。もちろんそのためには、私たち自身、今までのやり方に囚われない新しい発想というものが非常に重要になりました。

背景づくりに関わる3つの課題

ドバイのゲーム中画像
ドバイのゲーム中画像
※画像は開発中のものです。

――背景づくりに関わる取組みでまず課題となったのは?

千家氏:今回の背景のテーマは"現実世界の都市や地形を、より高密度でリアルなものとして作っていく"ことですが、まず課題となったのはリソース量の問題でした。盛り込む情報量を増やそうというのですから、普通に考えればリソースも増えるでしょう。しかし当然ながらリソースには限りがあり、今回 「背景でこれだけ使っていいよ」と分配されたのは、前作と変わらないボリュームだったのです。本作ではたとえばエフェクトも派手に緻密にする必要があるなど、どのパートも課題を抱えリソース量が全体に不足していたため、そのどこかから削って背景だけリソース量を増やすのは現実には難しかったんですね。

――ではどうやって解決を図ったのですか

千家氏:まず背景で使っていたリソースの配分をもう一度見直しました。たとえば今まで建物に使っていたリソース量が「1」だとしたら、今回はこれを緻密にリアルに作るため「3」に引き上げる。その分、従来は地面に「9」ほど使っていたリソースを「7」に抑えるなど、目的に合わせて優先順位を変え、"より見せる必要のある場所"に多くを割けるようにしました。プログラマにも、プロジェクト初期段階からより多くの建物を造れる仕組みを考えておいてほしいと伝え、彼らにもかなり頑張ってもらいましたよ。アーチスト側もプログラム側も最初から明確な目標を掲げ、それに対するアプローチを課題として取組んでいったんです。後述しますが、処理全体の高速化もそうした努力を結集した結果の1つだと思っています。

――――背景づくりに関する具体的な取組みについてご紹介ください

千家氏:そうですね。現実世界の都市をよりリアルに再現していく上で、実際の作業上3つの課題がありました。1つ目はゲームで"再現すべき範囲が非常に広大"なこと。ジェット戦闘機を超音速で駆って遊ぶゲームですから当然ですが、あっという間に数十キロの距離を飛んでしまうため、非常に広範囲の"遊べる場所"が必要になるんです。たとえば「東京」ステージでは25km四方。池袋から羽田空港までカバーする広さで、これがマイアミやドバイではさらに50km四方といっそう広大になります。1つの都市とはいえ、これだけ広い範囲を、しかもできるだけ現実の都市に忠実に再現するにはどうすればよいのか......これが私たちの1つ目の課題となりました。

衛星写真をMayaでモデルに適応させる
衛星写真をMayaでモデルに適応させる。
※画像は開発中のものです。

――その解決策は?

千家氏:答えは衛星写真。衛星写真を使って地面のディティールを作ってしまうんです。方法は、まず対象となる都市の衛星写真を入手してPhotoshopで編集します。この段階では色調補整や海面等のマスク、不要な色をレタッチするといった簡単な処理だけです。そして、その画像データをMayaに取り込み地形のポリゴンメッシュに貼り付けます。基本的にはこれで完成。本物の都市の衛星写真を使うことで、本物通りの都市のベースとなるマップができ上がるわけです。単純な作業だし、このパートの8割くらいは私がひとりで作りました。ただ、それですべて完成とは行きません。写真を貼っただけでは、全体にのっぺりした2Dマップっぽいものしかできないんですね。そこでこの衛星写真で作った地面の上に3Dで建物を建てて配置していくことで、人間の目線で見てもちゃんと街らしい街になるように仕上げていかなければなりません。......そこで2つ目の課題が生まれました。

――その2つ目の課題とは?

千家氏:衛星写真で作った地面に建物を置いていくわけですが、その置いていく建物の数が少ないと、どうしても嘘臭くなってしまいがちなんですね。大きな都市、特に東京のようなごちゃごちゃ複雑に密集した大都市は難しくて、少々の建物を適当に並べただけでは本物には見えません。東京は道もぐにゃぐにゃ複雑に曲っているし、建物の向きもてんでんばらばらです。やはり、それらしい建物を大量に作って配置していかなければなりません。それも同じ向きに整然と並べるのではなく、本物のように曲った道に沿ってあちらこちらに向けて、です。これが2つ目の課題、"大量の建物を作り本物通りに配置"するにはどうすればよいか?ですね。でも、実は当初手がけたドバイやマイアミなどのマップでは、この課題については力技、つまり人力で対処していたんですよ。

――人力ということは?

鈴木氏:私たちが1つ1つ手で並べていたんです(笑)。私はドバイなどを担当しましたが、まずその街のあらゆる資料を集めてどんな建物があるか研究するんですよ。特に特徴的な建物についてはいろんな角度からの写真を集めて、それが工場か、オフィスビルかなどと予想し、またwebの写真画像や衛星写真で写った建物の影の長さから高層ビルの高さを推理したりして、そうやって建物を作り並べていきました。しかし、これがパリ等の大都市になってくると建物の数も半端ではないし、手作業では凄く大変なことになったんです。

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