チュートリアル / 読んで触ってよくわかる!Mayaを使いこなす為のAtoZ
第46回:3Dプリンターを導入しよう!意外とゲーム制作に役立つ3Dプリンター
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世の中のモノづくりに革命を起こす!!
との触れ込みで話題の絶えない3Dプリンターが日本のオートデスクにもやってきました!その名もReplicator2。MakerBot製の3Dプリンターです。PLAと呼ばれるプラスチックの線を溶かして押し出して、底面から重ねて印刷する3Dプリンターです。
工業製品のラピッドプロトタイピングやらモックアップ制作、小規模ロットでの製品づくりに使用するなど、製造業でのメリットは想像に難くなく、実際に実用化も進んでいます。
そんな3Dプリンターを「欲しい!」と思うゲーム開発者も少なくないでしょう。しかし欲しいと思ってもゲーム会社ではおいそれと購入出来ないのではないでしょうか。値段こそ手の届く範囲ですが「何に使うの?」というところで購入に踏み切れない…。まあ、それはそうですよね。プリント出来そうな3Dデータが沢山あるといっても、プリントする明確な理由がなければ購入してもみんなが活用出来るところまでいきません。
というわけで今回は「3Dプリンターを使えば、ゲーム制作の環境がこんなふうに変わるかも?」という話をして行きたいと思います。
CGモデルのクオリティを現実世界で評価できる!
アメリカ映画のVFXメイキングを見ると、粘土でモデルを作って、それをスキャニングして、デジタルでモデルをリファイン、レンダリング可能なモデルに仕上げる、というのを昔から見かけます。
私は簡単にアメリカンなものにかぶれるので、それを見てすぐ「粘土を買おう!」と思い立ち、買ってきて、会社でこね回してクレイモデルを作ったりしていました。その当時は123D Catchの様なものがなかったため、クレイモデルを直接3Dデータ化できませんでした。望遠レンズを装着したカメラでクレイモデルの前後左右の写真を撮り、MayaやMudboxの中に表示して、モデルを作り直していました。
粘土でのモデリングをやってみるとわかることがあります。粘土でこね回すとアナログな脳ミソが働き出すようで、デジタルで作業するよりも圧倒的にアイディアが出てきます。目をつむっても細部の形状が思い出せるぐらい形状を記憶できます。デジタルに換算すれば数億ポリゴン以上あるであろうディテールを思い出せますし、モデリングの仕方も把握出来ます。ここの形を作るには、粘土を盛っておいてから削る方法で作れる、など。
粘土で作業したあとにデジタルのスカルプティングをすると、びっくりするぐらい正確で速い作業が可能になります。これには本当に驚きます。そして出来上がったモデルのクオリティが、一からデジタルで作ったものと全然違うことに気づきます。なぜ違いが出るのか?これははっきりしています。粘土という「物体」の体積や重さ、重力が形状に影響を与えているのです。デジタルではこの「物」としてのリアリティが出ないのです。
車のデザインをするのに、粘土を盛る方法と、木を削る方法があります。それぞれでデザインに差が出るらしく、それと同じ事なのだと思います。
もし3Dプリンターがあれば、この差を埋めるきっかけを作れるかも知れません。デジタルで作ったモデルを一度プリントアウトします。そうするとモデルは重力の影響下にさらされます。画面の中で見ていたモデルが実物化すると、それまで気づかなかった問題点や、より良くするためのアイディアが湧いてきます。この感覚は、カンバスに近づいて絵を描いたあと、遠くから見なおした時に色々気づく感じに似ています。一度客観的な環境にさらすといろいろ見えてくるのです。
例えばここにミニオンという敵キャラモデルがあります。
これをプリントアウトしてみましょう。次の写真の緑色の方が始めにプリントしたものです。(プリントのノウハウは次回!)
手にとって机に置いてみるとすぐに気づくことがあります。
「ありゃりゃ、なんかすぐにコケるなあ…」
足が三本あるにしても、確かに上半身に比べてちょっと小さめです。重力にさらすと重心、バランスがとてもよくわかるのです。
ではデザインにどのように反映できるでしょうか?例えば次のパターンが考えられます。
モデルの調整
・足を太くする → 支えが安定する。
・上半身を小さくする → 重心が下に移り安定する。
マテリアルの調整
・上半身を軽そうなマテリアルにする。 → 重心が下に移り安定する。
アニメーションの調整
・上半身を低くして歩かせる → 重心が下に移り安定する。
キャラ設定の調整
・背中にあるバーナーをこまめにふかして、バランスをとっている風にする。
というように、いろいろなアイディアがするする出てきます。これも3Dにプリントしなければ気づかないか、気づくまでとても時間のかかることなのです。気づくかどうかはアーティストのスキルに依存しますから、うまくモデルを作るアーティストはプリントしなくても大丈夫かもしれません。でもプリントをすればその経験の差を埋める事ができるのです。
ちなみに足を太くしてプリントしたものが上の写真の白色のモデルです。置くと緑色のモデルよりも安定しています。
こういう方法でモデルを評価することで、CGモデルに現実世界での「リアリティ」を出せます。この積み重ねがゲーム全体のクオリティに影響するのです。
3Dプリントしたモデルに粘土を盛ってから、スキャンで3D化してデジタル世界に持って帰る、という流れで作業しても面白そうですね。
簡易レベルエディタで誰でも参加できるゲーム作成!
ゲームの品質を上げるために、プログラムを作る前にプロトタイプをしっかりやることが有効です。例えばゲームを一旦ボードゲームのようにしてゲーム性を研究する方法があります。これならゲームのルールを変更するのが簡単でパラメーターも好きに変えられますから、試行錯誤がしやすく、トライ・アンド・エラーの回数が増えるので、品質も上がっていきます。
ゲーム制作のどの段階であっても、簡単に試せて、誰でも意見を出せる環境を作ることで、ゲーム制作のスピードアップやクオリティアップが期待出来ます。
というわけで、FPSを作ることを想定して3Dプリンターを活用してみましょう!
まずゲーム中に出てくるアセットを適当にプリントします。今回はこれだけプリントしました。あと、床も必要なので紙にプリントしておき、アクリル板の下に敷きます。
これで何をするかというと、フットボールやサッカーでよくある「作戦ボード」を真似しようというわけです。
こうすればゲームのアイディア出しやビジュアル・コミュニケーションに3Dプリンターを活用できるわけです!では試しにやってみましょう。
良いレベルデザインと言われる基準の一つは、ステージの範囲をもれなく移動して周り、再利用感を出さずにうまく同じ場所を再利用することです。更にストーリーの盛り上がりが出せれば完璧です。
まず手前にスタート場所を決めます。ゴールは一番遠く左上にしましょう。(STARTにある白い塊がプレイヤーキャラです)
プレイヤーがゴールを見つけて、そちらに向かいます。そのままゴールさせるわけにはいきません。敵を出しましょう。敵を出すなら隠れるところが必要です。こんな感じ箱を置きます?アクリル板にマーカーで付随情報をいろいろ書き込みます。アセットやキャラの寸法はあくまで参考なので、実際に背景制作するときには箱の数を合わせなくてもよいのです。
敵とひと通り戦って倒したらゴールに行きます。でも鍵がかかっています。どこで鍵を手に入れるのかと悩んで周りを見渡すと、あんなところに何か怪しい建物が。
足場があれば「登れそう」とプレイヤーが思うはずです。こんなふうに足場を置いてみましょう。(あくまでプレイヤーが発見した風を装う)
登り切ると、鍵はここにないことに気づきます。(ご褒美の回復アイテムだけはおいておくとかしてがっかりさせないようにする?) レベルの右上の方を見ると、敵が攻撃してきます。
上から見下ろすと、敵の下に鍵があるではないですか!敵を一掃したらプレイヤーはそちらへ移動します。 プリントしていないものが必要になったら、とりあえずマーカーで書き込めばOK。
鍵をとったらゴールに向かいます。ところが扉が開くまで時間がかかる様子。気がつけば周りは敵だらけ!四方八方から攻撃してきます。プレイヤーには隠れるところが必要なので、箱を増やしておきましょう。
敵を倒し終わる頃に扉が開くので、素早く次のレベルへ行きます。
…と、まあ、レベルの内容は若干いい加減な感じがしないでもないですが、こんな感じで子供の頃のキン消し、ガンプラ、レゴで遊んだ感覚をふんだんに思い起こしてレベルをデザインできるのです!:)
これは積み木遊びのようなものですから、3DCGを知らなくても、プログラムを知らなくても、誰でも意見を出せます。チームの誰でもゲーム制作に参加できるのです。
先ほど紹介した粘土のモデリングの時のように、現実世界でレベルデザインを見ることでアイディアがたくさん出るようになります。試行錯誤も簡単ですし、高さや奥行きを生かした、3DCGを使うゲームに最適なアイディアが浮かびやすくなります。
通常アメリカのゲーム制作では、仕様書が用意できたらレベルデザイナーが簡易な3Dの背景を作り、テストプレイを繰り返しながらレベルデザインを修正してゲーム性を詰めていきます。日本だと大抵アーティストがレベルデザイナーを兼ねていると思います。レベルデザインをアーティストが行った瞬間に、そのレベルの所有者がプランナーからアーティストに移ってしまいます。こうなると仕様変更がやりにくくなります。プランナーがDCCツールを使ってレベルデザインをできないなら、この問題が常について回ります。ゲームの内容がしっかり固まるまではプランナーがレベルの所有者として、ゲームを面白くするためにレベルデザインを変更できるようにし続けられる必要があります。その方法として、3Dプリントしたジオラマを使うと上手くいくかもしれません。3DCGの知識がなくとも簡単にレベルを変更できますので。
プランナーがプログラマ、アーティストと打ち合わせするときもこれを使えば、意思疎通がとてもしやすくなります。文字や図形の仕様書では理解度が読み手によってマチマチです。でもこのジオラマなら誰でもレベルで起こることが理解出来ます。しかも一度理解すると忘れにくいのです。ここらへんはアナログの勝利と言って良いでしょう。結局脳ミソはアナログにできていますから、それにあった制作環境を作り上げることが、プロジェクトを円滑にしていくのではないでしょうか。
まとめ
今回は2つのケースで3Dプリンターの活用例をご紹介しました。まだまだ様々な使い方が出来ることでしょう。123D CatchやRecap Photoでアナログをデジタルにし、3Dプリンターでデジタルをアナログ化。プリントしたものを加工してまたデジタル化というふうに、デジタルとアナログを自由に行き来してそれぞれの利点を生かせれば、新たな開発スタイルが出来上がるのではないかと楽しみにしています。
そうそう、3Dプリンターをプロジェクトに導入するのに、忘れてはいけない事がもう一つ。ゲームのアセットがモノとしてプリントされると、妙にテンションが上がるのです。やっぱり物がそこにあるというのは、モチベーションに繋がりますね。
次回は、今回説明に使用した3Dモデルのプリント方法についてご紹介したいと思います。