チュートリアル / ゼロから始めるMAYAアニメーション
第6回(最終回):カメラを動かしてみる。

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学生の就職作品では一生懸命キャラクターのモーションを作り込んだものはたくさん見かけるのですが、カメラワークをアピールしている作品は少ないように感じます。
私も学生の頃はカメラワークに対する知識もこだわりもなく、現場に出てから学ぶことが多かったです。
一番大変だったのが某ポケットに入る系モンスターのTVアニメでカット制作をしていた頃でした。業務内容に3Dキャラクターのモーションは一切なくキャラクターは2Dのセル画で、MAYAのカメラだけ動かして3D背景をセル画に合わせるというものでした。
何度も何度も激しいバトルシーンを再生したため、人生初の3D酔いを経験したことを鮮明に覚えています。
大手の会社になると分業制がはっきりしていてカメラワークを専門で行う人がいることもありますが、基本的にアニメーターにはカメラワークの技術が求められます。

今回はキャラクターのモーションを更に魅力的に見せるために、カメラワークについて学んでいきましょう。

①レンズの選び方

カメラの操作はカメラの位置や回転だけではありません。カメラにはレンズが存在しており、広角~望遠のレンズを選ぶことによって同じ被写体を写しても違う表現になります。

広角レンズ…広い範囲が写る(画角が広い)。遠近感が出やすいが近づきすぎると被写体が歪んで見える。
標準レンズ…人の目(50mm)と同じくらいの焦点距離のレンズ。
望遠レンズ…狭い範囲が大きく写る(画角が狭い)。歪みは出にくいが被写体から離れ過ぎると遠近感が薄くなる。

カメラの位置とレンズ選びによって同じ被写体がどのように写るか比較してみましょう。
使用するシーンデータはCam_focus_fixVer.maです。
(チュートリアルで使用するシーンデータはこちらからダウンロードできます。)

②レンズの種類とカメラ位置によるアニメーションの見え方の違い

被写体が動いているとレンズの焦点距離の差は更に明確になります。自分の見せたい絵を頭の中で描いて、それを逆算してレンズとカメラの位置を決めていくことになります。広角、標準、望遠それぞれの写り方の違いを理解してキャラクターモーションをより魅力的に写しましょう。
使用するシーンデータはCam_focus.maです。
(チュートリアルで使用するシーンデータはこちらからダウンロードできます。)

望遠になるほど遠近感が希薄になる理由

カメラレンズと位置について

猫が女の子を中心に周回していますが、軌道の直径を1としたとき、
20mm広角レンズと女の子の距離:猫の移動幅=1:1 (カメラから被写体までの距離:被写体の奥行=1:1)
200mm望遠レンズと女の子の距離:猫の移動幅=7:1(カメラから被写体までの距離:被写体の奥行=7:1)
望遠になればなるほど被写体の奥行に対して、カメラから被写体の距離が大きくなるため遠近感が希薄になります。
例えば20mmレンズのカメラと被写体の中心までの距離に対して、猫が同じだけ移動すれば前後移動は大きく写ります。200mmレンズのカメラから見たら、猫は被写体の中心までの距離の1/7しか前後移動していないので変化が小さく写ります。400mmなどの超望遠などにすると、カメラからの距離と比べたら猫の前後移動なんてほんの誤差に過ぎないので、まるで横にだけ動いているような映り方をします。

③画面サイズ

画面サイズとは被写体が画面内でどれくらいの大きさになっているかを表したものです。被写体が小さいものから順にロングショット、ミディアムショット、アップショットと呼びます。その中でも細かく分類されているのですが、一例を示します。

カメラレンズと位置について

WS:Waist Shot(ウエストショット) KS:Knee Shot(ニーショット) FF:Full Figure(フルフィギュア) LS:Long Shot(ロングショット)
Detail:Detail Shot(ディテールショット) BCU:Big Close Up(ビッグクローズアップ) CU:Close Up(クローズアップ) US:Up Shot(アップショット) BS:Bust Shot(バストショット)

絵コンテなどで略して表記される事があるので覚えておくと良いです。

④カメラワーク

カメラワークとはカメラを動かす技術のことで、カメラワークによって迫力が増したり、映像の情報が分かりやすくなったりします。
どんなに上手なモーションが付けられていてもカメラワークがガタガタだと台無しです。
カメラもキャラクターと同様に3D空間上でキーを打つことでモーションを付けていきます。
第3回 リアルな動きに見せるコツ!はカメラワークでも活かせますので、ぜひ復習してみてください。

カメラワークには色々な手法がありますが、いくつか紹介をしていきたいと思います。

FIX(固定)

カメラを固定して動かさない基本のカメラワークです。
カメラは動かしませんが、被写体や背景の収まりを考えたり、レンズの焦点距離を選ぶなど大事な要素を含みます。
カメラを固定して大判サイズで映像を書き出して、After Effectsなどの編集ソフトで2Dカメラワークを付ける事もあります。
同じモーションでもカメラを置く位置やレンズを選ぶだけで違うものに見えます。

手ブレ/画ブレ(画面動)

カメラ位置はFIXでも人が撮影しているような状況を表現する場合、微妙に動かして手ブレ感を出すこともあります。
画ブレは爆発や着地などのインパクトを強調するときに用いるカメラワークです。衝撃波がカメラに当たってカメラが揺れるようなイメージを感じさせることができます。MAYAシーン内でカメラを揺らす方法の他に、After Effectsなどで動画自体を揺らす方法もあります。

PAN(パン)

パノラミングの略です。
カメラ位置は固定された状態で首を横に振るカメラワークです。
ゆっくりPANさせることをじわPANと呼びます。

ティルト

カメラ位置は固定で首を縦に振るカメラワークです。縦パンと呼ぶこともあります。
見上げるように上方向に振るのをティルトアップ(パンアップ)、見下ろすようにした方向に振るのをティルトダウン(パンダウン)と呼びます。

フォロー

移動する被写体にカメラを追従させて、被写体が常に同じ位置に収まるようにするカメラワークです。
PANとの違いはカメラ自体を動かして追いかけるところです。
カメラの動きを被写体より少し遅れさせると被写体が加速した感じを表現でき、反対にカメラの方を被写体より速く動かせば被写体は失速した感じを表現することができます。

フォローパン(付けPAN)

被写体を追いかけながら被写体の動作に合わせてカメラの首を振るカメラワークです。

T.U(トラックアップ)/T.B(トラックバック)

カメラを対象物に近づけるカメラワークをT.Uと呼びます。ドリーインと呼ぶこともあります。
カメラが直接被写体に近づいていくので、吸い込まれるような臨場感を感じさせることができます。

逆に遠ざけるカメラワークをT.Bと呼びます。ドリーアウトと呼ぶこともあります。
孤独や喪失感を表現したり、周囲の状況を見渡すようなときに用います。

Q.T.U(クイックトラックアップ)/Q.T.B(クイックトラックバック)

急速に対象物に寄ったり引いたりするカメラワークです。カメラ移動もいきなり止めずにイーズを加える事が多いです。

ズームイン/ズームアウト

レンズの焦点距離を変えるカメラワークです。広角から望遠にするのをズームイン、望遠から広角にするのがズームアウトです。

一見、前述したTUと同じように被写体に寄っているように見えますが、実際にはカメラは移動しておらず、レンズを望遠にすることでキャラが大きく写るように変化しています。背景に注目するとTUはカメラの位置が動いているので3Dオブジェクトの立体感の変化が伝わるのに対して、ズームインは同じ絵の一部が拡大された印象になります。

ドリーズーム

カメラ位置はTU(ドリーイン)しているのに、レンズをズームアウトさせると、メインの被写体は近づいて見えるのに背景だけ遠ざかっていくように見える不思議な映像が出来上がります。
下のシーンではカメラ以外は何も動いていません。

回り込み

被写体を中心にカメラが回るように動かすカメラワークです。周囲の様子を視聴者に把握させたいときや、対峙しているシーンなどでメインの被写体を自然に切り替えるときなどに使われます。

バレットタイム

被写体を固定、超スローモーションにして、カメラを通常速度で回り込むと周囲の様子を見渡しながら時間がゆっくりと流れる表現になります。

POV(ポイントオブビュー)

一人称視点で撮影する「主観ショット」を指します。 カメラの視点と登場人物の視点が一致した撮影手法です。

⑤まとめ

カメラを自由自在に扱えるようになれば表現の幅は飛躍的に広がります。
キャラクターのモーションをより魅力的に見せるためにも、カメラレンズの選び方やカメラワークをしっかり覚えて実践してみましょう。
カメラもシーン内にある物体の1つなので、カメラワークを付ける際はモーション軌跡を表示して運動曲線(アーク)を整えたり、イーズイン、イーズアウトを意識して物理的に自然な動きを付けるよう心がけましょう。

これをもって、全6回でお送りしてきた本コラムも最終回となりました。
MAYAを使ったアニメーション制作は奥が深く、覚えなければならない事もたくさんありますが、これまでに紹介してきた機能さえ使いこなせれば業界に飛び込む準備としては十分だと思います。
後はみなさんが出会う上司や先輩と仕事をしていくうちに、徐々に技術は磨かれていきますので、怖がらずに3Dアニメーションの世界へ飛び込んできてください。

最後に

私は、高等学校教諭や警察官をやってきたので、普通のアニメーターより広い世界と沢山の若者の人生を見てきました。普通ではない人生を歩んできた私ですので、アニメーターの先輩としてだけでなく、一人の社会人としてこれだけは伝えたいです。

「当たり前の人生なんてありません。感謝の気持ちを忘れずに生きましょう。」

好きなことを仕事にできる人はごく稀です。大好きなアニメーションに没頭できることに感謝しましょう。
また、アニメーターとして大成するためには、皆さん自身の努力や才能はもちろん必要ですが、仲間がいなければ得られないものは本当にたくさんあります。
入社して間もない頃は、地味なカットしか担当させてもらえず、楽しくないことも多いかもしれません。そのようなときでも、作業の方法を教えてくれる先輩への感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。先輩は自分の時間を割いて教えてくれているのですから。
そして、経験を積んで自分自身が先輩となった時も、一緒に働いてくれる後輩達に感謝の気持ちを持ち続けてください。かっこよくて難しいカットの制作に時間を費やせるのは、地味なカットを担当してくれる仲間がいるからなのですから。

会社と社員との関係も同じです。
社員は安心して働ける環境を会社に用意してもらっているのですから、感謝して働かなければなりません。一方、社員が稼がなければ会社は収入を得られませんし、社長は社員に食べさせてもらっているわけです。
どちらが欠けてもダメなんです。どちらか一方でも感謝の気持ちを忘れたらチームは崩壊します。

お互いを敬い、感謝の気持ちをもって支え合えるチームや会社は、きっと良い作品を世に送ることができるでしょう。
感謝の気持ちは意識して持ち続けないと、いつの間にか当たり前のことだと思ってしまうので注意が必要です。

絶望的に厳しい案件でも笑顔が絶えないチームっていうものも実在しています!
そんなチームで乗り越えた時の達成感は…言葉にできないやつです。みなさんにも是非体験してほしいと思っております。
この業界は狭いので、もしかしたら同じ案件に携わることもあるかもしれません。
そんなことがありましたら、「コラム読みましたよ。」と声をかけてくれると嬉しいです。
このコラムを読んでくださったみなさんの人生が、より良いものになることを祈っております。

それでは、最後までご覧いただき本当にありがとうございました。
またどこかで、お会いしましょう!


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