『鉄拳8』32キャラ分のアセット制作と同時進行の映像制作におけるFlowPT活用術
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CEDEC2024にて「『鉄拳8』32キャラ分のアセット制作と同時進行の映像制作におけるFlowPT活用術」と題したセッションが行なわれた。これはバンダイナムコスタジオと、キャラクターエピソードムービー制作を担当したデジタル・メディア・ラボの間で管理ツールとして使用された「Flow Production Tracking」の機能や長期的な運用設計、データマネジメントへの活用、ワークフローの自動化など、このアプリケーションの持つ多様な可能性について紹介するもの。導入からカスタマイズまでの実例が詳細に語られた。
登壇者
株式会社バンダイナムコスタジオ 第1スタジオ スタジオプロジェクトマネジメント室 PM 鈴木温子氏
株式会社デジタル・メディア・ラボ 制作本部 CG制作部CG制作部長/テクニカルスーパーバイザー 片山敏春氏
株式会社デジタル・メディア・ラボ 制作本部 制作副本部長/クリエイティブプロデューサー 吉田学氏
まずは両社よりFlow Production Tracking(以下、FlowPT)の導入経緯について、それぞれ説明が行われた。
バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)では、インゲーム演出の管理ソフトを選定する際に、アーティスト側からの意見でFlowPTを導入したという経緯があり、キャラクターエピソードムービー(ストーリーモードの一つ、各キャラクターに焦点を当てたエピソードモードのムービー))制作にもスムーズに導入ができたという。
ただし、プロジェクト進行中での導入ということもあり、アセット管理はムービー側のFlowPTには導入せず、ステータス管理やフィードバックの記入、バージョンのチェックの使用に留めた(データのアップロード/ダウンロードやCSVのインポート/エクスポート、プレイリストの作成編集などは、PM含むある程度限られた人数で対応した)。
対するデジタル・メディア・ラボ(以下、DML)は、旧Shotgunの時代から10年来のユーザーだ。それ以前はExcelやメールなどを使う旧来的な方法で、それらに手間や時間を浪費することを避け、一元管理のために導入したという。
今回のキャラクターエピソードムービー制作において、スケジュール管理はExcelで、アセットの受け渡しはPerforceやファイル転送システムを使い、映像のステータス・バージョン管理とチェックムービーとそのフィードバックをFlowPTを使って管理を行なった。
吉田氏は今回のムービー制作における課題を3点挙げた。
1つ目は「両社の異なるアセットの管理方法」。
エピソードムービーを制作する際に使用するアセットの大半は、インゲームアセットを使用する。DMLではBNSと同様に配置するが、ムービーでしか使用しないアセットや、インゲームからムービー用にカスタムしたアセット(戦車や砂漠背景)などもあり、DMLではこれらを共有のファイルサーバーで管理する。これらは階層構造が全く異なるため、アーティストは使用するアセットがどちらの管理階層にあるのかを把握し、アクセスする手間がかかる。そのため、アセット情報をFlowPTに集約し、その情報をもとにアセットをリファレンスできるようにした。
ここで、片山氏はFlowPTの基本構成について解説を行った。
FlowPTを利用する際にはまず「プロジェクト」の作成を行う。ここにはショットやタスクなど制作に必要な全ての要素が含まれる。Excelに例えると、ブックに相当する。
「エンティティ」はショットやタスクなどを管理したい要素ごとに作成できる箱。Excelのシートに相当する。
「リンク」は、エンティティ同士を関連付ける意味で、ExcelのVLOOKUP関数や参照式に相当する。
「フィールド」は各エンティティに持たせられるプロパティのようなもので、Excelの列に相当する。
つづいてFlowPTへ、アセット情報を集約する手順を紹介した。アセットデータを管理する上で追跡したい情報を洗い出し、それらをどのエンティティで管理するのかを決め、各エンティティのリンクを決める。アセットエンティティ情報はタスクテンプレートを作成し、CSVファイルで一括インポートされる。
情報登録が終わったら、FlowPT構造に沿ってアセットのデータ構造を決める。
ここで設計した通りのディレクトリ構造を自動生成して、ファイルの読み書きを行ってくれるのがFlowPTのToolkitだ。
Toolkitとは、FlowPTと連携したパイプラインツール群のこと。FlowPT上の情報をもとにディレクトリの作成や制作データへのアクセスや保存ができ、ディレクトリ構造やツール動作のカスタマイズも可能だ。Mayaや3ds Max、After Effectsなど対応DCCツールが豊富だ。セッションではこのあと、実際にパブリッシュツールを使用して、Loaderツールからリファレンスを行ない、アセットをFlowPTへ登録するデモンストレーションを見せてくれた。
2つ目の課題は「アセット開発とムービー制作が同時進行であること」。
開発側から32体のキャラクターのアセットデータが次々と制作されるだけでなく、クオリティアップのためのアップデートも行なわれるなかで、更新の自動化は必須だった。
片山氏は「アニメーションシーンのアセット構成からUnrealEngineのレベルシーケンサーを自動構築できれば、アセット更新や追加コミット情報も反映されますし、更新時のミスも軽減できると考えました」と話す。自動化するためには、ショットデータの様々な情報を得る必要があり、それらをFlowPTで管理する。
ショットエンティティの情報はアセット同様にデータ構造を設計する。ショットエンティティで管理するものはshotsフォルダ以下で管理する。
このあと、アセットと同様にアニメーションデータをFlowPTへ登録するデモンストレーションを見せてくれた。アセットの数次第によってはパブリッシュに時間がかかるため、今後の課題としているとの認識を示した。
全てのパブリッシュデータは、Published File エンティティに自動登録され、エンティティ同士もリンクしている。例えば、アニメーションデータのPublished File エンティティには「Upstream Published File」というフィールドに、アニメーションシーンでリファレンスしているPublished File エンティティが登録されている。つまり、このフィールドを見れば使っているアセットが分かる。「Downstream Published File」というフィールドでは、アニメーションシーンから生成されたPublished File エンティティが登録される。これによって、どのシーンでどのアセットが使用されているかや、パブリッシュデータを生成した元のシーンはどれかも追跡可能となる。
つづいて片山氏はこれらのパブリッシュ情報を利用してシーケンサーの自動構築をするデモンストレーションを行なった。作成したショットのアニメーションタスクにパブリッシュされているアニメーションシーンを読み込むと、以降は自動で処理される(行なわれているのは、FBXアニメーションデータのインポートレベルシーケンサーの作成、カメラのインポート、アクターの配置とアニメーションのアサイン、キャラグローバルアニメーションのインポート、シーケンサー内のキーフレームを全てリニア化したりタイムレンジの設定など)。
自動化することでアーティストはすぐにライティング作業を開始することができる。
3つ目の課題は「膨大なチェックムービーの管理」。
32キャラクター分の映像制作が同時進行であったため、32キャラ各工程ごとに膨大なチェックムービーが生成された。このフィードバック管理を人力で行うには限界があり、FlowPTを使った効率化が必須だった。
チェックデータをアップするときに守るべきルールは、タスクにリンクするバージョンエンティティを作成するという1点のみ。この作業において、社内の利用者からは、「複数カット複数ファイルをまとめてアップしたい。アップ後にタスクステータスも自動変更してほしい。さらにチェック担当者へ通知もしてほしい」という要望が上がったため、ツールキットのパブリッシュツールのカスタムを行なった。
デモのパブリッシュ完了後には関係者にメンション付きのメッセージが自動投稿される。パブリッシュが完了すると、Publish Fileエンティティが自動で作成され、ショットエンティティへのリンクやタスクへのリンクも設定される。
次に行うのがクライアントチェック提出だが、これまでに各エンティティの構成をしっかり決めているため、標準機能にあるクライアントレビューサイトを使用した。プレイリストをクライアントと共有し、直接レビューをフィードバックすることが可能。オーバーペイントをすることもできる。フィードバックコメントはバージョンにリンクするノートエンティティとして作成されるため、どの動画に対してのコメントなのか明確だ。さかのぼって確認することも容易だという。
鈴木氏は「個々の映像のチェックバックはこちらのサイトで十分」としつつも、最終的な段階では全体の修正量が見えないため、Microsoft SharePoint上でExcelでリストを作成して、一つ一つ潰していく方法を採ったと語った。
最後に片山氏はFlowPT活用術のまとめを行なった。
アセット管理はとにかくPublishツールでアセット情報FlowPTへ集約した結果、アーティストは管理階層を意識することなく、ローダーツールでアセットシーンリファレンスできるようになり、アセット情報を集約するためには、何をどのエンティティで管理するかの事前設計が重要であると強調した。
アセット開発とムービー制作が同時進行については、アセット更新が発生したら、セット単位ではなく、シーケンサーを自動生成し総入れ替えする方法を採用。自動生成を行うために、ショット情報をPublishツールでFlowPTへ集約した。情報集約するためにはアセットと同様に、エンティティの事前設計が重要だと繰り返した。
チェックムービーの管理については、ここまででエンティティの設計は進んでいるため、チェックムービーはタスクにリンクするバージョンエンティティを作成するということのみを徹底し、一括でバージョン作成するためにパブリッシュツールをカスタムして使用。クライアントチェックはクライアントレビューサイト経由でプレイリストを共有した。その結果として、プレイリストでチェック提出履歴やフィードバックコメントを管理することができたと振り返った。
最後に「FlowPTやツールキットは非常に柔軟で拡張性が高い素晴らしいツール」と話し、「設計思想がぶれていると情報が整理されず、カオスになりやすい一面もあります。カオスになるとユーザーが離れます」と注意を促した。
吉田氏は「昨今ゲームの開発と映像制作が並行で行われることが多く、従来の映像制作のようにパートを切り分けて作業進行というところが難しくなってきている」と、実態を語り、「ゲームの開発側に寄り添い、開発状況を理解してより良いものを一緒に作っていく必要がある」と、CGプロダクション側の姿勢を示し、FlowPTは「開発側・映像側双方にとって大きな恩恵を受けられるツール」と評価を語った。
鈴木氏は、「双方で管理ツールを使用していく場合、どのように折り合いをつけていくかは様々」であると延べ、「よりプロジェクトに適した形態でカスタマイズしていくことがベスト」と、開発側の立場で語り、セッションを締めくくった。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。