『モンスターハンターワイルズ』を支える制作基盤──大規模ゲーム開発現場でのFlow Production Tracking/Maya/MotionBuilder活用術
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キャラクターとモンスターのアニメーションを作るための3つの方法
次に話を伺ったのはアニメーションチーム。インゲームアニメーションの制作管理、およびアニメーション全般に関わるリグの制作管理を行うチームだ。アニメーションは、これまでのモンスターハンターシリーズ過去作のモーションデータを活用し、「加工」を行なうケース、新規に「モーションキャプチャー」を撮影する場合、そして完全に手付けで行なう「フルスクラッチ」の3つのパターンがある。
モーションキャプチャーにおいてはMotionBuilderを使用してキャプチャーデータをMayaにインポートし、アニメーション作業を行う。キャプチャーに際しては人型のキャラクターはもちろん、モンスターの場合もアクターが四つん這いになって演じ、アニメーションデータを撮影する場合もある。
ディレクションは人型キャラクターとモンスターで手分けしており、リードアニメーター佐々木 浩哉氏がPL(プレイヤー担当)として、同じく山口 健二氏がEM(エネミー担当)として指導に当たる。佐々木氏は企画担当から届く「5m進んだ先で剣戟を2回繰り出す、ダメージはそこそこで移動性能寄りのやつ」といった大まかな仕様を実際の演技に落とし込む、殺陣師のような役割だ。「ゲーム中での性能と映える動きを両立させつつ、常に新鮮に見える技を目指しています。撮影では何度もテイクを重ね、アドリブ的に調整を加えることも多いです。ミステイクをあえて使うこともあります」(佐々木氏)。
一方、モンスターは「あくまでもアニメーション付けにおいて初動のスピードを上げるための手段で、加工を前提とした素材」(山口氏)であると捉えており、それぞれの使用目的によって手段が異なることが伺える。
アニメーション制作の際の技術的な工夫についてTAの伊藤 大地氏(プレイヤー担当)と桝谷 丈太郎氏(エネミー担当)はリダクションを挙げた。モンスターのモデルのテクスチャファイルは4Kサイズで作られているが、作業中はフレームレートを確保するために1Kに落として使用したり、ペアレントコンストレイントで補助骨を軽量化するなどの対処を行っている。
自然な動きの再現をする揺れもの制御の例
Maya上での揺れもの制御は、モンスター表現における自然な動きの再現を目的として、内製の仕組みによって実装されている。
具体例として「ウズ・トゥナ」のヒレを挙げると、単純に歩行モーションを適用しただけでは変化が生じない。ここに揺れ用アトリビュートを付与すると、体幹の動きに追従した二次的な揺れが生成される。ただし初期状態のままでは挙動が直線的で不自然であるため、オフセット制御を導入し、S字カーブに沿った変位を与えることで、より生物的な動きを再現している。
この「カーブに沿った揺れ挙動」の組み込みが、表現の自然さを担保する上で重要な要素となっている。このシステムの基盤となるのは「Position-Based Dynamics」という、『モンスターハンター:ワールド』開発期に当時のTAによって構築された技術。Maya上ではExpressionを用いて計算が行われ、手付け作業では不可能な量の揺れ挙動を自動生成している。この枠組みは多くのキャラクターに展開され、エンジン側においても揺れが継承される仕組みが構築されている。干渉判定をオプションとして設定することも可能で、ポリゴンメッシュで球体を配置することで、その領域を回避するように揺れ挙動を制御できる。この衝突回避機構はすべてのキャラクターに導入されたわけではないが、「ドシャグマ」ほかさまざまなモンスターで使用され、動作のたたき台となっているほか工数削減に繋がっている。
同様の発想は「アルシュベルド」の鎖ギミックにも見られる。鎖はIKカーブに沿って伸縮し、伸張に応じてブロック部分が開閉する。さらに、サブ武器の鎖刃(さじん)にはディレイ制御を実装しており、メインの動きから任意のフレーム数を遅延して追従させることができる。また、地面や頭部・腕部との干渉を避けるための制御も内包されており、複雑な物理計算を必要としない効率的なシステムとなっている。最終的にはベイク処理によりコントローラへ書き込み、あるいは既存アニメーションと部分的にブレンドすることが可能であり、研究開発段階から実制作段階まで柔軟に適用できる仕組みとなっている。
Mayaの拡張性を象徴する「Animツール」
Mayaの拡張性の高さは大きな魅力としてしばしば挙げられる。TAチームでは、アニメーターの要望に応じてスクリプト追加などで柔軟に対応している。ハンターの複雑な武器の持ち替えや変形、モンスターのリグの制御の切り替えなどを行えるのが内製ツールの「Animツール」だ。
Mayaで作業する際、リグにアニメーションを適用しなければならない場面が出てくる。「Animツール」には、FBXを用いてRE ENGINEとMayaの間でモーションをやり取りするための仕組みがあり、リグ側に「FBXをリグへインポートする機能」と「リグからFBXへエクスポートする機能」をあらかじめ組み込んでおき、これを「Animツール」から呼び出せるようにしている。
これにより、FBXを簡単に読み込んでモーションを出力できるだけでなく、リグにベイクしてアニメーションとして適用することが可能になる。結果として、モーション担当者がすぐにデータを編集・調整できる環境が整えられている。従来は、リグが更新されると、mb形式で保存したシーンがバージョン違いによって壊れてしまうリスクがあった。しかしこの仕組みでは、常に最新のFBXをリグに読み込むことで、自動的に最新のリグにアニメーションを適用できる。これにより、バージョン差異による不具合も解消され、安定した作業環境が保証されている。


さらに、このツールはキャラクターごとにカスタマイズされており、リグや専用機能に応じてUIや制御項目が調整されている。代表的な機能のひとつがLODの切り替えだ。モデルの描画負荷を低減するため、テクスチャ解像度やモデル精度を段階的に落とせる仕組みが導入されており、イベントシーンや大量の敵キャラクターが配置される場面では特に効果を発揮する。たとえば、遠景に配置されるモブキャラクターはLOD5で処理し、必要なアニメーション対象のみをLOD0で扱うといった運用を行っている。
このように、「Animツール」はモーション資産の再利用、バージョン差異の吸収、作業効率化、負荷軽減といった複数の観点から設計されており、現場のクリエイターにとって安定かつ柔軟な制作基盤となっている。
「モンスターハンターワイルズ」開発者からゲーム業界志望者へのメッセージ
最後にそれぞれからゲーム業界を目指している学生や若きクリエイターに向けたメッセージをもらった。
「デザインの腕を磨くことと同じくらい、コミュニケーションを円滑にすることは大事です。スキルの高い人材はもちろん重要ですが、きちんとコミュニケーションを取れない場合、せっかくの100ある能力が10程度しか発揮できなくなってしまいます。逆に、コミュニケーションができて誰とでも仕事ができる人は、それ自体で強みになりますし、そこに個々のスキルが乗れば更に力を発揮できるようになります。Flow PTを習得することも、そうした職能のひとつの強みになると思います。人柄と技術の両面でコミュニケーション能力を磨いていただければと思います」
「作品作りはテーマパークづくりに似ていて、皆が得意分野を持ち寄って作り上げる合せ技です。僕自身はファッションや生物などが好きで、そこから3Dモデルに興味を持ち、今はキャラクターを専門にしています。でもキャラクターは背景美術があってこそ映えるものだと思っていて、そうしたチームプレーの中で形にできていることに魅力を感じています。僕らはめちゃくちゃ仕事しているんだけど、同時に『遊び』を作っている会社にいるわけです。その意味で仕事も重苦しくない素敵な業界ですので、ぜひ頑張ってスキルを磨いて飛び込んできてください」
「先ほどコミュニケーションの話がありましたが、ゲーム業界は適性のある人が上に上がっていける構造になっているので、コミュニケーション力が高ければ、自分の力をアピールできます。さらに絵心があれば、どんなチームでも活躍できるし、その上で自分のやりたいことを出していけます。入社したからといって必ず自分の希望するチームに入れるとも限りませんが、自分が本当にやりたいことは、しっかりアピールしておけば、遠回りしてもきちんと見てもらえる業界です。そして最終的には必ずやりたい場所にたどり着けるはずです。どんな人でも可能性はあるので、技術とコミュニケーション力の両方を磨いてほしいと思います」
「私はテクニカルアーティストなので、その視点からお話しします。ゲームを作っている以上、最終的な表現、つまりアウトプットにはぜひこだわっていただきたいです。それに加えて、『作り方』にも目を向けると、テクニカルな分野への一歩につながると思います。同じものを作る場合でも、3日かかるワークフローと1日でできるワークフローがあれば、当然後者に価値があります。また、データがメンテナンスしやすい構造になっているかどうかも重要です。ただし『作り方』にこだわりすぎるあまり、表現を狭めたり画一的になっては本末転倒です。あくまで大前提は、ゲームを良くすること。そこにバランス感覚が必要だと思います。作り方そのものを作れるようになれば、テクニカルアーティストとして活躍できると思います」
「リグの成果物は直接映像に出るものではありませんが、アニメーターが動かして演出を加え、ゲームとしてリリースされると、自分も同じように嬉しい気持ちになります。多くの会社ではリギングをする人とアニメーションを付ける人と分かれていますので、広く意見を聞く姿勢が必要です。いろんな人に触ってもらい、フィードバックを受け、その意見を取り入れて改良したうえでリリースする考えを持ってほしいと思います。『自分はこれが良いと思ったから、こういうリグにしました』で完結してはいけません。私自身はインターンを通じてリグを学ばせてもらう機会があり、その後の知識の多くは会社に入ってから学んだものでした。今は会社側に充実した研修カリキュラムを用意していますので、リガーを目指す気持ちさえあれば、いくらでも教えることができます。頑張ってください」
「とにかく色々なものを観察して、自分の中に引き出しを増やしてほしいです。駅を歩く人、雲の動き、何でも構いません。また、実際に自分で体を動かしてみることも重要です。重いものを持ったときの重心の感覚など、実体験から得られるものは大きいです。そのうえで『自分は何を本当に作りたいのか』という芯をブレずに持ち続けることが大事です。ツールや技術は目的ではなく手段です。作りたいものが決まれば、それを実現するために自然とツールを覚えるようになります。それは『義務』ではなく『動機』になります。また、ゲームクリエイターを目指すのであれば、製品であるゲームがどんなものであるか知見を深めることが大事です。ゴール地点を常に意識して取り組んでほしいなと思います」
「モンスターを作るうえで、まず大事なのは資料を徹底的に見ることです。どんなに奇抜なモンスターでも、必ず土台には現実の動物があります。その動物がどう動くのかを観察し、理解してから制作に臨むようにしています。動物園に行ったり、YouTubeなどで映像資料を見て、動いて作ることをオススメします。ただし、リアル一辺倒になってもゲームとしてはストレスフルな状態になることもあります。そのあたりのバランス感覚も意識するようにしてください」
「リガーを目指す人には、とにかく幅広い知識を持ってほしいと思います。僕自身もそうでしたが、専門学校で学んだことは全体の1割程度で、残りの9割は会社に入ってから現場で学びました。ですから特定の分野だけでなく、いろんなことに興味を持ち、好奇心旺盛に学び続ける姿勢が大切です。リグの知識は、AREA JAPANさんをはじめ、海外のフォーラムやYouTubeなどから学ぶことが多いです。英語の情報を翻訳しながら勉強することも珍しくありません。リガーとしての喜びは、自分が作ったギミックやツールを使ったアニメーターから『作業が楽になった』とか『効率が上がった』と感謝される瞬間にあります。単純な作業を「面倒くさい」と思える人、どうすれば効率的にできるかを常に考えられる人は、リガーに向いていると思いますので、歓迎いたします。」
TEXT:日詰明嘉
EDIT:カプコン、オートデスク
モンスターハンターワイルズ
発売日:好評発売中(2025年2月28日)
プレイ人数:1人(オンライン1人~4人)
ジャンル:ハンティングアクション
CERO:C(15才以上対象)
対応ハード:PlayStation®5 / Xbox Series X|S / Steam®
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