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『モンスターハンターワイルズ』を支える制作基盤──大規模ゲーム開発現場でのFlow Production Tracking/Maya/MotionBuilder活用術

『モンスターハンターワイルズ』を支える制作基盤──大規模ゲーム開発現場でのFlow Production Tracking/Maya/MotionBuilder活用術
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2025年2月にリリースされた「モンスターハンター」シリーズ最新作の『モンスターハンターワイルズ』。広大なフィールドに息づくモンスターの生態や緻密な背景描写、そしてハンターのダイナミックなアクションが生み出す臨場感の裏側では、大規模開発を支える高度な制作基盤が機能している。キャラクターや背景アセットのモデリングにはMaya、アニメーションやモーションキャプチャーの調整にはMotionBuilderが用いられ、ゲームのひとつひとつの要素を構成した。また、数千単位に及ぶアセット管理を効率化するために本作から導入されたのがFlow Production Trackingだ。サムネイルやメタデータを一元管理し、カプコンの自社エンジンRE ENGINEの連携した際にも齟齬がないデータ運用を実現した。こうした制作現場を支えるAutodesk製品群の活用方法を開発陣に聞いた。

インタビューを受けていただいたカプコンの皆様

インタビューを受けていただいたカプコンの皆様

上段左上から
伊藤 大地 氏:テクニカルアニメーター
桝谷 丈太郎 氏:テクニカルアニメーター
澤田 太衛 氏:背景アセットリーダー
佐々木 浩哉 氏:PLリードアニメーター

下段左下から
諸星 岬 氏:テクニカルアーティスト
中森 洋行 氏:キャラクターセクションリーダー
山口 健二 氏:EMリードアニメーター
三宅 宗一郎 氏:イベントセクションリーダー

モンハン開発を変えた「Flow PT」──進行管理とビジュアル共有の実践

全世界にファンを持ち、カプコンの人気ブランドの1つである「モンスターハンター」のシリーズ最新作だけあって、『モンスターハンターワイルズ』(以下、『ワイルズ』)は制作規模も非常に大規模だ。キャラクターセクションのチームだけでも約60人を数え、開発者に携わったのは総勢数百人規模だという。大規模ゲーム開発において、進行管理は作品の完成度や制作効率を大きく左右する。Flow Production Tracking(以下、Flow PT)は、数百人規模の開発チーム、数万点に及ぶアセット、そして並行して進む複数の開発ラインを統合的に管理し、品質とスケジュールの両立を実現。巨大プロジェクトの進行管理における中核的な機能を担った。

『ワイルズ』には、新作としてのチャレンジがさまざまな箇所に施されている。キャラクターセクションではモンスターの筋肉表現や瞳孔の挙動といった細部のリアリティ向上に特に力を入れたという。また、倒したモンスターを素材とすることにより新たな武器防具を作り出すのが本シリーズの特徴の一つで、今作も、プレイヤーの収集欲を刺激するさまざまなギミックやデザインを施している。ここが装備品の制作における要点となる。開発者の目線に立つと、モンスターをデザインする段階で装備品のデザイン側と擦り合わせておく必要があるというわけだ。

モンスターハンターワイルズのモンスターのデザイン画
モンスターハンターワイルズのモンスターのデザイン画
モンスターハンターワイルズのモンスターのデザイン画

「新規モンスターの開発では、1体につき膨大な関連アセットが必要となります。装備4種類、オトモ装備一種類、音響データ、そして最大14種類の武器を制作する必要があり、作業範囲は指数関数的に拡大していきます」と語るのはキャラクターデザイン/モデルセクションリーダーの中森洋行氏。

モンスターハンターワイルズのキャラクターデザイン
モンスターハンターワイルズのキャラクターデザイン
モンスターハンターワイルズの武器のデザイン
モンスターハンターワイルズの武器のデザイン

かつてこの重要なやり取りは、基本的に口頭で進めていたという。新たなモンスターの登場やデザインの方向性など、制作全体に影響を与える情報が会議や雑談レベルで伝達されることも多かったため、下流のアーティストが手を動かすタイミングを見極めるのが難しく、効率面で大きな課題となっていた。そこで導入が検討されたのがFlow PTだった。カプコン社内でも他タイトルの開発チームで導入が進んでおり、その噂は『ワイルズ』のチームにも届いていき、かくしてFlow PTの導入が決定した。

Flow Production Trackingの画面

キャラクターセクションにおけるFlow PTの使い方は基本に忠実だ。だが、これだけでもビジュアル制作を担うアーティストにとって、映像や画像ベースでの共有する手法は大きなメリットになった。従来のテキスト中心のプロダクション管理が、視覚情報に変わることで、モンスターや装備のイメージを直感的に把握できるようになり、制作初期段階から具体的なアウトプットへとつなげやすくなった。タスクに進捗状況がリアルタイムで反映され、テキストだけでなく画像や映像を添付できる仕組みにより、情報共有が一変した。進行状況も視覚的に把握できるため、下流の担当者が先行して作業を始められるようになり、全体のリードタイムが短縮されたという。

Flow Production Trackingの画面

Flow PTは、アートディレクターとのフィードバックサイクルにも活用されている。各アセットのタスクに映像を添付すれば、ディレクターはそこに直接修正指示を書き込める。記録が履歴として残るため、後から「どの時点でどの指示があったか」を容易に確認でき、口頭ベースでは失われがちだった情報が確実に蓄積されたという。

1つの装備品の制作期間は平均で3人月とされているが、スカートのように揺れ物が入る場合は専用の工程を挟みこむ必要がある。こうした作業であっても、Flow PTではタスク追加が容易だ。中森氏は「ビジュアルで見えるのは作業者、管理者ともにとっつきやすいですね」と語る。

モンスターハンターワイルズのプレイ画面

システム統合における大きな改善点として、イベントセクションとの連携強化がある。イベント班では、そのシーンに登場する全てのアセットが100%完成していなければ、最終的な成果物を制作することができない。Flow PTが導入される以前は、チームごとに別々のプロジェクト管理システムを使用していたため、個別タスクの進捗状況をイベント班側が把握できず、口頭での情報共有に依存していたという。しかし、全チームのプロジェクト管理をFlow PTに統合することで、この問題が解決された。

中森 洋行 氏:キャラクターセクションリーダー
中森 洋行 氏:キャラクターセクションリーダー

「現在では、詳細資料のEVM(イベント用アセットのこと)セクションに登録されていれば、制作チームの進捗状況が自動的に反映され、イベントセクションもリアルタイムで確認できます。この統合により、部門間の情報共有が劇的に改善され、もはや他の管理方法は考えられないほど効率的なワークフローが確立されています」(中森氏)。

また、『モンスターハンターワールド』の際は個々に技術検証をしていたが、今作では各スタッフが技術検証の映像をFlow PTにアップロードすることで、セクション同士の刺激となり、お互いがさらに良いものを仕上げようとする機運も生まれたという。

イベントセクションチームにおけるFlow PT 2つの活用方法

Flow Production Trackingの画面

イベントセクションチームでは、本作において「映像とゲーム体験のシームレスな統合」に挑戦した。プレイアブルのインゲームからムービーへ自然と切り替えることで、作品世界への没入感を途切れさせないようにする仕組みだ。セクションリーダーを務めた三宅 宗一郎氏がこうした演出を手掛けるのは本作が初めてで、特にゲーム序盤のカットシーン制作では、他セクションと密に調整を重ねて制作を進めたという。

ゲーム序盤のカットシーン
ゲーム序盤のカットシーン
ゲーム序盤のカットシーン
ゲーム序盤のカットシーン

「ユーザーからも、『お話部分にとても没入感があった』、『新しいゲーム体験になった』という反響をいただき、とても励みになりました」(三宅氏)と話すほどの仕上がりだ。
カットシーン制作の流れはこうだ。まず静止画の絵コンテやプリビズをアートディレクターに提出し、OKが出た後にモーションキャプチャー撮影に臨む。その後、レイアウト作業を行い、フェイシャルや手足の調整をブラッシュアップした後、ライティングやエフェクトセクションに渡し、最後にもう一度アートディレクターとともに実際のモニタを囲んでチェックをする。

カットシーン制作の流れ
カットシーン制作の流れ
カットシーン制作の流れ
カットシーン制作の流れ

このように多くのチームとの連携作業が多いイベントセクションでは、Flow PTを主に2つの用途で使っている。1つはアートディレクターに向けたプレゼンテーションだ。完成したカットシーンや会話デモを映像として共有し、リモート環境でも確認できる仕組みを構築。さらに映像上に直接書き込みができる「アノテーション機能」や、修正点を箇条書きで整理できる「ノート機能」を用いることで、修正依頼が履歴として残り、以前の指摘内容を簡単に参照できるようになった。加えて、シークエンスをプレイリスト化して管理できる点も効果的だった。日付ごとに提出したバージョンをリストとしてまとめ、フィルター機能で切り替えることで、「いつ、どの映像を確認してもらったか」を即座に把握できるようになり、リモート環境下でのカットシーン映像共有、フィードバック、修正履歴管理を劇的に効率化することに成功した。

これにより、承認・意思決定プロセスが高速化し、手戻りが大幅に削減されることで、制作効率の向上とクリエイティブ品質向上を実現した。

Flow Production Trackingの画面
Flow Production Trackingの画面

もうひとつの活用事例は、カットシーンの詳細資料作成。各キャラクターやモンスター、天候やシナリオなどを含んだ、外部スタッフを含む多人数が参照するための情報を網羅したドキュメントだ。従来はExcelで管理していたが、更新頻度が高く仕様変更も多いため、担当者が逐一反映することは困難だった。その結果、最新情報と資料が乖離し、外部協力会社への共有が非効率になるケースもあった。

この問題を解決するため、アップデート版制作以降はFlow PTを用いた一元管理に移行。背景チームが利用するアセット情報を直接Flow PT上に紐づけることで、最新状態を常に反映できる仕組みを構築した。これにより、デザイナーやグラフィックマネージャーの負担が軽減され、情報の見落としも大幅に減少したという。

「以前は他セクションの資料を集めるために担当メンバーが駆けずり回っていました。Flow PTではシーケンスやアセットのリンク先といった情報がまとまっていて、必要な情報へは、単純なタブの切り替えや検索によって速やかにアクセスできます。資料作成時のコピペミスもなくなり、非常に有益でした」(三宅氏)

これにより、情報収集や資料作成にかかるダウンタイムと担当者負担を大幅に軽減し、情報齟齬によるリスクを排除することで、プロジェクト全体の生産性と品質の安定性向上に貢献した。

1.シーケンスの基本構造 各シーケンスを用意(シーケンスには以下の情報を記入:カットシーン番号、背景設定、天候、時間帯、補足メモなど)入力内容はリストとして蓄積され、再利用可能。
1.シーケンスの基本構造
各シーケンスを用意(シーケンスには以下の情報を記入:カットシーン番号、背景設定、天候、時間帯、補足メモなど)入力内容はリストとして蓄積され、再利用可能。
2. 動線図の管理 (「タマミツネがここから登場」などの流れを可視化)複数のシーケンス間で一貫した管理が可能。
2. 動線図の管理
(「タマミツネがここから登場」などの流れを可視化)複数のシーケンス間で一貫した管理が可能。
3. アセットのリンク設定 EVT(主要キャラ) / EVM(イベント登場アセット) タブから各アセットを呼び出し、シーケンスにリンク設定。名前が表示されるため、登場頻度の調整や出番管理が容易。同一のアセットは複数シーケンスにわたりリンクされ、更新時には自動反映。
3. アセットのリンク設定
EVT(主要キャラ) / EVM(イベント登場アセット) タブから各アセットを呼び出し、シーケンスにリンク設定。名前が表示されるため、登場頻度の調整や出番管理が容易。同一のアセットは複数シーケンスにわたりリンクされ、更新時には自動反映。
4. 表示インターフェース ページを切り替えることなく、ウィジェット的に情報を並列表示可能。追加キャラクターが即時表示される。画面を見るだけで「必要なもの」が一目で把握できる。
4. 表示インターフェース
ページを切り替えることなく、ウィジェット的に情報を並列表示可能。追加キャラクターが即時表示される。画面を見るだけで「必要なもの」が一目で把握できる。

背景アセットは社内ツールとFlow PTの連携で管理効率化

Flow Production Trackingの画面

背景セクションは4500点にも及ぶ膨大なアセットを扱うため、外部の協力会社へ依頼する物量も膨大だ。従来はExcelを用いてリスト化していたが、各アセットのサムネイル画像や説明文を含めるとファイルは肥大化し、同時編集もできないため、管理速度が追いつかなかったという。Flow PTはサーバーベースで運用されるため、複数メンバーが同時に編集可能であり、サムネイル画像を含む大量のデータを高速かつ一元的に扱える。これにより開発スピードの大幅な向上に寄与した。

さらに社内のテクニカルマネジメント室と連携し、RE ENGINEとの親和性を高める仕組みも整備された。Flow PT上のアセット情報をゲームエンジン内部と同期させることで、齟齬をなくし、即時反映が可能な環境を構築。たとえば「テーブル」のアセットであれば、名称・ID・素材情報などをFlow PTの専用フィールドに登録し、そのままエンジン側でも解釈できるように設定。レイアウターは、Flow PTに登録された情報を直接呼び出して作業できるため、逐一説明を受ける必要がなく、能動的にレイアウト作業を進められるようになったという。

背景管理用の内製ツール例

カプコンには自社エンジンである「RE ENGINE」が存在する。社内TAチームはこれとFlow PTとを連携させ、背景アセット管理効率化ツールを開発した。このシステムの特徴は、完成したRE ENGINEアセットからFlow PTへの情報転送を自動化した点にある。アセットID、サムネイル画像、3Dメッシュポリゴン数、シェーダー名称、そしてコリジョン属性まで含んでいる。これらが自動化されたことで、ヒューマンエラーがなくなったことは大きな効率化につながったという。
「このツールにより、管理総数がいくら増えても『このアセットがどういう状態にあるか』がFlow PT上のみで把握する事ができるのが利点です。また各項目をフィールドとしてフィルター併用すると、見直すべきポリゴン数アセットを瞬時にリスト化できます。また、処理が重いアセットシェーダーの見直しも管理画面上で即座に共有できたりするなど、様々な状況に柔軟に対応できるリストとして重宝していました」(澤田氏)

背景管理用の内製ツール例
背景管理用の内製ツール例

このシステムのもう一つの革新的な特徴は、Flow PTからRE ENGINEへの逆方向連携だ。アセットに付随する情報をタグ付けし、CSV経由でRE ENGINEに転送することで、両システム間の情報同期を実現している。この双方向連携により、ふだんはRE ENGINEしか触らないレイアウト担当者も、Flow PTを開いてアセットを探す手間が省ける。サーバーベースであるため、「別の人が開きっぱなしで参照できない」といったようなストレスが発生しないこともメリットだ。

注目すべきは、このシステムが技術的な完成度だけでなく、現場の実情に合わせた柔軟性も備えている点だ。一般的にFlow PTは予めルールを固めた運用に向いているとされるため、こうした柔軟な使い方であれば別のソフトを使う考えもある。澤田氏は本作からこのポジションを任されたため、「導入したての頃は右も左も分からず、こんな使い方できるんだと、独学で試すなかで使い方が固まっていきました」と、状況を振り返る。

澤田 太衛 氏:背景アセットリーダー
澤田 太衛 氏:背景アセットリーダー

澤田氏は「内製では『誰々の作業を手伝って』といった自由な動きもあり、必ずしも厳格なルールに縛られない運用」を重視していると語る。タスク管理においても、「細々とした抽象的なタスクは自由度を保ちつつFlow PTへ登録のみ行い、数字として管理する段階になった際にアセットリストで厳密に管理するという使い分け」を実現している。この " 柔軟性と厳密性のバランス " が、システムの実用性を高めている。結果として、開発チーム内での柔軟なやりとりも可能になったという。

「最終的にはFlow PTに最新データをまとめていますが、それまでの段階では自由にExcelで管理してもらって構いません。「最終的にCSVに出力できるため、自由な管理で問題ありません。」と伝えることで、より管理体制に幅を持たせられたのは大きな利点でした」(澤田氏)

モデリングTAが考えるMayaの強みとは?

つづいてモデリングテクニカルアーティスト(以下、TA)の諸星 岬氏に話を聞いた。TAとは一般的にモデラーが苦手とするウェイトやリギング作業において、これらのセットアップをサポートする役割だ。諸星氏がセットアップの際に使用したMayaについて、ソフトウェアとしての魅力を聞くと、「実績のある強力なプラグインがきちんとサポートされた体制であることが魅力の一つと考えています」という答えが返ってきた。諸星氏は「Simplygon」、「Quad remesher」、「ngSkin Tool」など幾つも挙げてくれたが、なかでも特に推していたのが筋肉シミュレーションプラグインの「Ziva VFX」だ。

諸星 岬 氏:テクニカルアーティスト
諸星 岬 氏:テクニカルアーティスト

モンスターを作り上げるときはまず、骨格を構築するところから始める。その後、筋肉の挙動のシミュレーションを行ない、最終的に皮膚や脂肪まで含めたシミュレーションの結果をRE ENGINEに出力する。
「シミュレーションを安定して動かすためには、小さな頂点の破綻も見逃さずにチェックする必要があります。そうした頂点単位のチェックをMayaのAPIを使うと高速に行えるため、Maya上でZiva VFXが使えたことは非常にやりやすかったです」と諸星氏は語る。

モンスター制作:完成画像例
モンスターの筋肉シミュレーション設定例

この手法は、現実に存在しないモンスターにも適用可能だ。『ワイルズ』に登場するクリーチャーはすべて架空の存在だが、現実にいる近しい動物などを参考に想像で筋肉を組み上げていく。骨格や筋肉の形状作成はキャラクターアーティストが担当し、シミュレーション設計と運用は諸星氏らTAが担う分業体制で進められたという。チームにはアーティスト出身のTAも在籍し、解剖学の知見を下敷きに数値パラメータを設定して挙動を作っていった。諸星氏もこれまで『モンスターハンターライズ』などの作品にモデラーとして携わり、それらの経験を踏まえて現在のポジションを務めた。「TAは"便利屋"のような側面もありますが、モデラーを務めた経験がすべてにおいて活きています」と語る。

開発効率をさらに向上させるため、チームは独自のツール開発にも積極的に取り組んだ。Ziva側からAPIが公開されているため、それをMaya上で呼び出して独自のUIを構築した。「そのままでは使いにくい部分も、自分たちの好きなようにカスタマイズできる点が、Mayaを使っていて良かった点です」(諸星氏)。

モンスターの筋肉シミュレーション設定例

Houdini Engineによるプロシージャルワークフローの革新

さらに、モデリング周りではHoudini Engineの活用が効いた。Houdini Engineは、Houdiniが得意とする処理をMayaから呼び出して実行できるブリッジプラグインだ。具体的な活用事例として、ファー(毛)のリダクション処理が挙げられる。多くのファーがついているマントはそのままでは重すぎるため、実装の際にはリダクションをする必要があり、これをアーティスト自身が触って削減できるものを用意した。

Houdini Engineによるプロシージャルワークフロー
Houdini Engineによるプロシージャルワークフロー

このヘアーカード枚数削減機能について、諸星氏は「こうした処理は、MayaのPythonで一から作ろうとすると大変ですが、Houdiniを使うと比較的早く実装できます。そして、それをHoudini Engineを通じてMayaのUIから触れるようにすることで、ツールを制作する側も素早く機能を用意できますし、アーティストにとっても使いやすいという利点があります」と説明した。アルファ(透明)領域の描画負荷削減について、ヘアーカードのように透明な部分が多いポリゴンが何枚も重なると、描画が重くなるが、このツールを使いアルファ領域をメッシュの形状に合わせて詰めることで、負荷を軽減することができる。

ヘアーカード枚数削減機能

これをMayaだけで行えるようにするのは難しいが、かといってHoudini の使用に長けているモデラーも多くはない。MayaのUIでHoudini が使えるようにできることはアーティストにとっても親切であり、TAにとってもこうした方法がサポートされていることはMayaの大きな強みだと言える。「こうした処理もMayapy(Maya Python)でUIなしに起動して自動実行してしまうので、プラグインが安定して動くのも大規模なアセットをリダクションするときにとても役立ちます」と諸星氏は付け加えた。

Mayaの使い勝手の良さについて尋ねると、「MayaはPythonのドキュメントが豊富なので、初心者でもツールが作りやすい」という点を挙げた。「セットアップ作業ではRE EngineとMayaを行ったり来たりすることが多いのですが、例えば、Engine側でアニメーションを再生すれば、即座にMaya側でも同じものが動くように同期が取られています。これにより、揺れものなどのセカンダリアニメーションのセットアップについて、最終的な見た目をDCCで確認しながら効率的に行うことができます」と話す。

MayaとRE ENGINEの連携例

「ギミックの都合で『キャラモデルに位置情報や法線の情報を埋め込む際、専用のテクスチャを用意してほしい』という要望がありました。そのときは、Houdini EngineやMayaのAPIを触りながら、合せ技で処理をするのが一番早いことが分かりました」と諸星氏。これもMayapyで毎夜自動実行されるワークフローになっているという。エンジンからMayapyを呼び出し、FBXを読み込んで座標情報のテクスチャベイクやLOD作成を行い、再びエンジンに戻してコミットする。これら一連の流れもすべて自動化されている。

「これにより、モデラーの負担なく、膨大なアセットを管理することが可能になりました。もちろん、すぐに結果を確認したいという要望もあるので、手動で実行するツールも別途用意し、急ぎでなければ夜間の自動処理を待ってもらう、という運用にしています」(諸星氏)。

「作り方を、作る」。TAの仕事の真髄

スカート表現の(セカンダリ)アニメーション
スカート表現の(セカンダリ)アニメーション

特に注力した部分について尋ねると「スカート表現の(セカンダリ)アニメーション」を挙げた。プライマリのアニメーションは共通の骨格で再生され、そこに各装備のユニークな形状に応じた骨を追加し、揺れものやスカート制御を適用する流れとなっている。スカートはキャラクターの動きに伴って複雑な挙動をするため、従来の手法では足の貫通やポーズ時の暴れが発生しやすかった。開発初期は過去のノウハウをもとに対応していたが、品質のばらつきが大きく、装備やモーションによっては破綻が目立つケースも多く、対応するための時間を浪費していたという。これを解決するために、スカート制御のためのテンプレートを導入した。補助骨を組み込み、足の動きのベクトルを参照して自動的にスカートを回避させる仕組みを構築している。Maya上では専用ノードを用いたノードエディタで処理を組み、RE ENGINE側にも同等の仕組みを実装することで、同じ入力から安定した出力を得られるようにした。こうしたテンプレート化と標準化されたフローによって、どのようなキャラクターや条件であってもボタン操作だけで、リッチな表現を安定的に出力できる。「作り方を、作る」。TAの仕事の真髄がそこにあった。

左図:Mayaのノードエディタでセットアップをすると、右図のRE ENGINE側でアウトプットする対応関係になっている。
ShotGrid は Flow Production Tracking に製品名が変更されました。
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