コロプラ『ドラゴンプロジェクト』 リッチなフル3Dが描き出す爽快感と緊張感
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コロプラが提供するマルチハンティングRPG『ドラゴンプロジェクト』は、本格的なアクションバトル、軽快な操作性、最大4人でボスと戦えるマルチプレイなどが評判を呼び、着々とプレイヤーを増やしている。2016年6月のサービス開始から2ヶ月間で、利用者は300万人を突破した。ザコを蹴散らす爽快感、巨大ボスに挑む緊張感の両方を味わえる本作の高いゲーム性は、リッチなフル3D描画によって支えられている。
なお、コロプラでは『白猫プロジェクト』『ランブル・シティ』をはじめ3Dベースのタイトルを数多く開発しており、その全てでAutodeskのハイエンド3DCGツールであるMayaが使用されている。「『ドラゴンプロジェクト』のキャラクターは頭身が高く、先行タイトルを超える数のポリゴンやボーンを使っています。その分、モデルはもちろん、モーションにおいても、ワンランク上のディテールを表現できました」と開発部長の伊藤大輝氏は語る。本記事では、本作のグラフィックス制作に尽力した中核スタッフへの取材を通して、最新のフル3Dスマートフォンゲームの開発事情をお伝えする。
ボス・防具・武器のデザインが、ゲームの価値に直結
伊藤氏はコンシューマゲームのアニメーション制作を手がけた後、2013年にコロプラへ入社した。その後は主に『白猫プロジェクト』を担当してきたという。「『ドラゴンプロジェクト』も並行して開発されていたので、相談にのったりはしていましたね。主要な仕様が決まり、3D素材も揃い、いよいよゲームとしての面白さを追求していくという段階で本格合流しました。先に参加していたアートディレクターのタナカウサギ、デザイン&モデリング担当のA.S、リギング&モーション担当のH.Kらと共に、もっとリッチなグラフィックス、もっと面白いゲーム性を目指し、サービス開始の直前までテコ入れを続けました」(伊藤氏)。開発チームの中にはコンシューマゲーム開発や3D映像制作の経験者が数多く所属しており、今現在もハイエンドを目指すグラフィックス表現や、高いゲーム性の探求に余念がないという。
▲左から伊藤大輝氏(開発部長)、タナカウサギ氏(アートディレクター)、A.S氏(デザイナー)、H.K氏(デザイナー)
「なるべく多くのポリゴン、なるべく多くのボーンを使いたいというのがデザイナーの性分です。とりわけ本作ではボスの表現にこだわっており、何度もエンジニアに相談しながら仕様を決めていきました」(H.K氏)。例えば『白猫プロジェクト』の場合、キャラクター1体あたり約3,000ポリゴン、30~40本のボーンを使っている。一方『ドラゴンプロジェクト』では、約4,500ポリゴン、50~70本のボーンが使われているという。
本作のバトルフィールドは、無数のザコや中ボスが登場するフィールドと、巨大ボス1体が登場するフィールドに大別できる。前者では最大8人のプレイヤーによるマルチプレイが可能な一方、後者ではプレイヤーが4人に制限される。1画面に表示されるのは、ボス1体とプレイヤーキャラクター4体のみなので、より多くのポリゴンやボーンをボスに割り当てられるというわけだ。
「本作のプレイヤーはモンスターを討伐する"ハウンド"となり、様々な敵を倒し、装備を強化するための素材を集めます。巨大ボスを倒し、レアな装備を入手することが本作の醍醐味なので、プレイヤーが『戦いたい』『倒したい』と思うような魅力に溢れたボスを創る必要がありました」(タナカウサギ氏)。
ボスのクオリティがゲームの面白さを左右するため、ボスのデザインやモーションはもちろん、討伐によって得られる防具や武器のデザインにもこだわったという。「サービス開始時点で公開されたボスは約10体で、それぞれの特徴を反映した防具や武器を用意しました。本作では、ボス・防具・武器のデザインが非常に大切で、デザインの一貫性とカッコ良さの両立がゲームの価値に直結しています。そのため、サービス開始の直前までブラッシュアップを続けました」(A.S氏)。本作には、A.S氏のようにデザインとモデリングの両方を担えるスタッフが複数所属しており、デザイン修正のモデルへの反映がスムーズに行われる。そのため、短時間でのクオリティアップが可能だったという。
▲バルギリオンの討伐によって得られる防具(女性用)のデザイン画と、シェーダ設定のためのマスク指定
▲【左】バルギリオンの討伐によって得られる防具(男性用)のデザイン画と、シェーダ設定のためのマスク指定/【右】同じく武器のデザイン画と、シェーダ設定のためのマスク指定。刃先の部分はバルギリオンのウロコと同じ質感のシェーダを設定するため、マスク指定がなされている
▲【左】ボスのフールフール。本作のタイトルは『ドラゴンプロジェクト』だが、ボスのデザインは典型的なドラゴンタイプに留まらない。人型もあれば、フールフールのようにウサギをモチーフとするタイプもある/【右】フールフールの討伐によって得られる防具(女性用)と武器を装備中のゲーム画面。装備は、頭・胴体・両腕・両足の4種類からなる。例えば両腕の装備を変更した場合には、両腕のデータが差し替わる仕様になっている
▲フールフールの討伐によって得られる弓矢のデザイン画と、シェーダ設定のためのマスク指定。防具と同じく、フールフールを彷彿とさせる房飾りが付いている。武器は片手剣・両手剣・弓矢・双剣・槍の5種類で、異なる攻撃特性をもっている
▲開発途中のプレイヤーキャラクター(女性)。理想的なバランスを検討するため、身体に対する頭部の大きさを下2桁単位で変更し、比較している。顔のバリエーションは男性5種、女性5種が用意された。肌は頂点カラーで指定し、シェーダで色を付けており、10色以上の中から選択できる。髪型と髪の色のバリエーションも豊富に用意されている
▲パメラの初期デザイン画。このキャラクターはホームである王都アルティアに常駐し、プレイヤーに様々なクエストを依頼する。数多くのシルエット、デザイン、色味のバリエーションが描かれ、検討が繰り返された
▲【左】パメラのデザイン画の決定稿/【右】Mayaでモデリングした後、Unityでシェーダを設定中のパメラ。デザイン画から伝わる親しみやすさや快活さが3Dで忠実に再現されている。ホームではフィールドよりもキャラクター描画に容量を割けるため、若干ハイスペックにつくられている
▲【左】森遺跡のイメージボード。サイズ感が伝わるように、プレイヤーキャラクターが描き込まれている/【右】イメージボードを基に、3Dで表現された森遺跡。このフィールドには、後述するボスのザハーギルが登場する。ボスをなるべくリッチに表現するため、フィールド制作においては、描画負荷を極力抑えつつ見映えを良くするための工夫が凝らされた
▲ザハーギルは水辺に生息するボスなので、魚類・両生類・爬虫類をベースにデザインされている。【左】Mayaでモデリングした後、Unityにインポートされたザハーギルの3Dモデル/【右】テラテラとした質感は、Unityのシェーダで設定されている
▲【左】砂漠フィールド。本作では、他にも草原、洞窟、雪原、森など、多様なフィールドが用意されている/【右】砂漠フィールドに登場する中型ボスと、その色(属性)ちがい。シェーダで表現している部分は異なる色、テクスチャで表現している部分は同じ色になっている。共通のモデルデータで様々なバリエーションを表現できるのに加え、短時間での修正・変更が可能なため、本作ではシェーダが多用されている
▲【左】前述の中型ボスのテクスチャ。シェーダで色や質感を指定する部分はグレースケールで描かれている/【右】シェーダ設定のためのマスク。RGBの3色で塗り分けられており、それぞれに異なるシェーダを設定できる
ボスのモーションが、ゲームの難易度や面白さに影響
本作のプレイヤーキャラクターのリグは男女ともに共通で、装備する武器によって若干のカスタマイズがなされている。一方、ボスの場合は形もモーションも千差万別のため、個別のリグが設定されている。H.K氏は、それらのリギングとモーションの多くを担当したという。
「コロプラに入社する前は、CGプロダクションでアニメーションやコンポジットを担当していました。当時はクロスやヘアのシミュレーションも使っており、リギングは専門スタッフに依頼するケースが多かったですね。本作のキャラクターは基本的にボーンで制御するシンプルな構造のため、リギングからモーションまで一貫して担当できました」。
前職ではAutodeskの3ds Maxを使っていたH.K氏だが、現在はMayaに移行している。まだ慣れない部分もあると語るものの、MELスクリプトを使ってエクスプレッションを組んだり、FBX形式で規定の出力先に自動的にエクスポートさせたりと、しっかり使いこなしている印象だ。とりわけMayaのリファレンス機能は重宝しているという。
「モーション付けの際にはリグ付きのモデルをリファレンス機能で参照し、リグ付きのモデルはボーンの入ったモデルを参照しています。おかげでモーション付けとモデルのブラッシュアップを同時に進行でき、モデルを更新すればモーションデータのモデルにも反映されます」(H.K氏)。仕様変更やデータ更新が短いサイクルで発生しがちなスマートフォンゲーム開発にとって、リファレンス機能は非常に有効と言えそうだ。
前述の通り、本作のボスには多くのポリゴンやボーンが割り当てられている。そのため、攻撃前の予備動作をはじめ、細かいモーション付けが可能になったという。「例えば特定の攻撃の前にちょっとした予備動作を入れておくと、ボス戦をやり込んだプレイヤーは、攻撃を事前に察知して回避できるようになります」(伊藤氏)。ボスのモーションはゲームの難易度や面白さに影響する大切な要素となるため、プランナーの意見も踏まえつつ様々な試行錯誤がなされたそうだ。モーション担当者の負担は増えたものの、先行タイトル以上に表現の幅が増えたため、やりがいも大きくなったとH.K氏は語る。
▲【左】パメラのリグ。表情の変化はテクスチャの切り替えで表現され、目が5パターン、口が5パターン程度用意されている/【右】ボスのドドンキのリグ。基本的にリグの仕様は統一されており、頭部・右半身・左半身でG(グローバル座標系)とL(ローカル座標系)や、IKとFKを切り替えられるようになっている
▲【左】攻撃モーションを設定中のドドンキ。大型の霊長類の動きがベースになっている/【右】同じくザハーギル。普段は4足歩行だが、怒りで興奮すると2本足で立って威嚇してくるという設定だ。こちらはワニやトカゲなどの動きがベースになっている。モーションのチェックはMaya上で行い、OKの出たものがUnityへとエクスポートされるフローになっている
▲プランナーから渡されるモーション発注資料。【左】はモーションの大まかなイメージ、【右】はより具体的なモーション内容や攻撃範囲などが解説されている。これらを基に、モーション担当者が具体的な動きをつくり、イメージをすり合わせていくという
派手な攻撃エフェクトを、複数プレイヤーの連携で撃破
エフェクトは基本的にUnityのパーティクルシステム(Shuriken)で表現されており、氷の柱など、ポリゴンで描画した方が良い要素はMayaも併用している。エフェクトの場合も最大の見所はボスの攻撃だという。「ボスの強さを表現するため、派手な攻撃エフェクトを複数用意しました。この攻撃への対抗策を創意工夫で編み出すことも、本作の醍醐味のひとつです」(伊藤氏)。例えばザハーギルが起こす津波攻撃に対して、片手剣のプレイヤーが単身で挑んでも勝機は少ない。複数のプレイヤーが攻撃特性のちがう武器を使って連携することで、勝利がより確実なものになるという。
最後に、本作のUIについても解説しておこう。UIはゲームの操作性に直結するため、ほかの要素以上に何度も仕様が変更されたという。「初期デザインはダークファンタジー風でしたが、画面の小ささ、ライトユーザーとの親和性などを考慮し、明るくわかりやすいデザインに変更していきました」(タナカウサギ氏)。最終的には『常に何らかの要素が動いているリッチなUIにする』『ガラスのような透明感で高級な雰囲気を演出する』というコンセプトに行き着いたそうだ。
コロプラが培ってきたスマートフォンゲームの開発経験が結集された本作は、現時点でも目を見張るクオリティのグラフィックスを実現している。しかしここで満足することなく、新しい技術、新しい遊びを取り入れていきたいと伊藤氏は語る。「1年後、2年後にふり返ったとき、サービス開始当時とは全然ちがうよねと言われてもいい。そのくらい変化や進歩に対して貪欲でありたいし、スマートフォンゲーム市場では、そんな成長力のあるゲームが歓迎されると考えています」。
リッチなフル3D描画を実現し、今まで以上に高いゲーム性を有することになった『ドラゴンプロジェクト』。今後も進化を続けるだろう本作は、スマートフォンゲームにおける3D表現の優位性や可能性を示す指標のひとつになりそうだ。そんな日進月歩のスマートフォンゲーム開発において、Autodeskの3DCGツールがどのような活躍を見せるのか、引き続き注目していきたい。
▲プレイヤーが連携し、ザハーギルの討伐に挑んでいる。マルチプレイならではの戦略を駆使したバトルを楽しんでほしいと伊藤氏は語る
▲【左】プレイヤーキャラクター(女性)の装備画面/【右】同じく男性の装備画面。操作可能な部分(ここでは画面中央下部の『装備セット』の付近)に動きを付けることで、さり気なくプレイヤーの操作を補助している。男女の足の開き具合に差をつけることで、男性らしさ、女性らしさを表現している点にも注目してほしい
▲『装備・工房』用のUI要素。ガラスのような透明感、高い反射率にすることで、高級感を演出している。また、スマートフォンの小さな画面での操作性や視認性を確保するため、装飾を抑えたシンプルなデザインとなっている
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。