バイオハザード RE:2 ~ MayaとMotionBuilderが支える開発プラットフォーム~
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目次
・名作のリメイク
・RE ENGINEとMaya
・MotionBuilderの強み
・フォトグラメトリーとルックデブ
・テクニカルアーティストの重要性
・大規模開発で大切な事、Shotgunの可能性
名作のリメイク
不朽の名作「バイオハザード2」の発売から21年、全ての想像を裏切り上回る再:新作と銘打ち「バイオハザード RE:2」が株式会社カプコンからリリースされた。
2019年1月に発売された「バイオハザード RE:2」(以下、「RE:2」)は、全世界で累計420万本を超える大ヒットを記録。(2019年3月31日時点) 世界中のファンからも高い評価を受けている。今回、「RE:2」に携わった開発スタッフの皆様にインタビューする機会を得た。
「バイオハザード2」(以下、「バイオ2」)には、長年多数のユーザから強いリメイクの要望があがっていた。期待値の大きさ、高さは非常に大きなものだった。2015年ようやく開発の決定がアナウンスされる。大作をスムーズに開発できるチーム体制と、クリエイターの想像力を形にするテクノロジーの進歩がついにプロジェクトを始動させたのだ。
「今の時代のユーザは、表現力に富んだゲームを体験されてきています。そういった方達にリメイクをどのような形で提供するかには相当に悩みました。単純にオリジナル作品をブラッシュアップするのでは、オリジナルのままで良いのでは?となってしまいますから。」と本作でプロデューサーを務めた平林氏は当時の心境を冒頭に語ってくれた。
「バイオハザード7」(以下「バイオ7」)が1人称視点であったの対して、本作は「バイオハザード4」、「バイオハザード5」、「バイオハザード6」と同様の3人称視点のゲームプレイとなっている。なお、オリジナルの「バイオ2」は、固定カメラ方式だ。「RE:2」で3人称視点を採用した大きな理由は、プレイヤーに主人公レオンやクレアのアクションや表情、そして、ゾンビの恐怖感をより感じ取ってもらえると考えたからだ。原作のプレイフィールに現代の3人称視点をミックスすることで新たな体験が提供されているのである。
「バイオ2」と言えば、魅力的なキャラクターやストーリーを思い出す方も多いことと思う。「RE:2」では原作のストーリーのキーポイントをしっかりと押さえつつ、登場人物の人間味をさらに感じてもらう様、より豊かなストーリーテリングが心がけられている。
また、美しいグラフィックで描かれるカットシーンとゲームプレイの間でスムーズな移行が行われるように細心の注意が払われた。プレイヤーの気持ちを途切れさせないためには重要なポイントだ。
ドラマ性やゲームプレイの検証には膨大な時間と試行錯誤が費やされた。リメイクの手ごたえは、開発中盤から後半にはどんどん確信へと変わっていったという。
RE ENGINEとMaya
「RE:2」では表現の方向性として「ウェット&ダークネス」という標榜が掲げられて、カプコンの自社ゲームエンジンRE ENGINEの表現力向上が行われた。
シリーズ前作にあたる「バイオ7」は、VR対応させるためにも60fpsを堅持する必要があった。このため、処理パフォーマンスを優先した調整がRE ENGINE上では行われていた。例えば、スペキュラ計算では近似値を用い、反射率は一定に保つといった制限をあえて持たせるといった対応だ。
一方、「RE:2」では細かな部分のクオリティを引き出すためのチューニングがRE ENGINEに施されている。スペキュラやスペキュラ リフレクタンスの計算処理が行われ、反射しやすいもの反射しにくいものをさらにリアルに表現出来るようになっているのだ。他にも、キャビティ、スペキュラ マスク機能、コンタクトシャドウ、スクリーンスペースのレイトレースなどが新たに実装された。こういったエンジン側の機能強化で雨が降る夜間のシーン中心の舞台を美しく描くことに成功している。
「実は、MayaからRE ENGINEに出力をするだけでなく、RE ENGINE側の配置情報をMayaに読み込むための環境も整っています。MayaのAPIは、とても充実しているのが魅力ですね。おかげでインプットもアウトプットもこなせる柔軟なワークフローの構築が可能です。」と種田氏は語ってくれた。
ゲームエンジンとMayaのスムーズな連携が実現していることによって、シネマティック用のモーションキャプチャ撮影のぎりぎりまでレベルデザインのクオリティを上げることが出来たそうだ。
MotionBuilderの強み
カットシーンの制作ではMotionBuilderが活用されている。やはり、MotionBuilderの魅力は、その圧倒的なスピードであるという。複数のキャラクターを扱う際にも快適なFPSでアニメーション編集やプレイバックが行える。
MotionBuilderで演出を作り上げた後に、フェイシャルアニメーションやセカンダリシミュレーションなど最終的な微調整をMayaで行うといった流れだ。
フェイシャルセットアップは、「バイオ7」で組まれたシステムのパフォーマンス改善が行われている。計算コストの高いジョイント部分の処理を省略し、シェイプアニメーションのみで高速に動作するモードが追加され、従来に比べてはるかに快適に作業できるようになった。
HIKリグは体形の違うモーションをリターゲットするのに日々活用されている。MotionBuilderでもMayaでも同じHumanIKの機能が利用出来るため、アニメーション作業の効率化で大きな力を発揮している。
「モーションキャプチャ データを扱う場合にMotionBuilderは必須ツールです。そして、カットシーン制作でも生産性の向上に大きく貢献しています。他にも、イベントシーンの制作等でRE ENGINEに気軽に出力してアイデアを検証したい時なんかにも重宝していますね。」とは福井氏のコメント。
モーションキャプチャ撮影に関しては、大規模なカットシーンや高度なアクション性が求められるものは外部の専門アクターに依頼しているという。しかし、ゲーム内の多くのモーションは、社内のスタッフが演じているそうだ。例えば、階段を転げ落ちるようなアクションやゾンビの動きなども社内のアニメーターが演じている。
カプコンではアクター向けの社内講習というものが存在するという。受け身や注意事項をしっかりとマスターした選ばれし者が、晴れてモーションキャプチャのアクターとして演技が出来るのだ。
フォトグラメトリーとルックデブ
人気作のリメイクにあたって皆モチベーションも高く、チーム内で様々なアイデアを積極的に出し合ったそうだ。金曜日には社内でピザパーティを開いて意見交換を行うイベントも開催された。
ゲーム内の警察署でピザが登場するシーンがあるが、そのピザは社内パーティー用に調達したものを急遽フォトグラメトリー撮影したものだという。このように、スキャンを行いたい対象物をスムーズに撮影するための体制も整っているのだ。
また、社内にはアセットの表示状態を確認するためのルックデブ部屋という場所も存在する。実際のライトを計測し、ゲームエンジンの中で値を再現したライトを用いてアセットのルックを確認するための部屋である。この部屋を活用し、単一の環境光のもと一定条件でプレビューを行うことで実際のゲーム内のアセットがリアルに仕上げられる。
たまたまプロジェクトの進行期間にカプコンの地下駐車場がちょうど改築中であったそうだ。そこで地下駐車場が暗室に仕立て上げられ、ルックデブ部屋として活用された。
制作初期の確認では主人公のレオンは、ともするとアニメチックな印象があったという。しかし、地下駐車場のルックデブ部屋に立たせると、リアリティや説得力を強く感じることが出来て、モデリングやシェーディングが確かなものだと正しく認識が行えたのである。
レオン、クレアなど主役級のキャラクターにはユーザそれぞれに思い入れがある。オリジナル作品のイメージは踏襲しつつ今だからこそ表現が出来るカッコ良さが目指された。
リアリティを追究したヘア表現には、バイオ7と同様に3ds MaxのOrnatrixプラグインが利用された。
テクニカルアーティストの重要性
「RE:2」は3人称視点の作品であり、常にプレイヤーの前に主人公が描画されている。必要とされたモーションやアセットは1人称視点の「バイオ7」を上回る分量となった。作業に適したツールを用意したり、反復作業をうまく効率化することがスケジュール通りの進行の鍵となる。「RE:2」プロジェクトで具体例を挙げると次のようなものがある。
Maya上でOBB(Oriented Bounding Box) やCapsule形状を配置するコリジョン判定設定ツールがテクニカルアーティストチームによって用意された。ポリゴンデータと違い処理の軽いオブジェクトをコリジョン判定用にゲームデータに仕込むためのツールだ。
登場するゾンビにバリエーションもたせるため、何着もの服装のフォトグラメトリーによる制作が行われた。しかし、スキャンした服装だけではバリエーションを持たせることが難しいという状況に陥ってしまったという。単純にスキャンデータを増やしてしまうとゲームを処理するためのメモリを圧迫してしまう。シャツの形状は同じでも見た目を異なるように見せるという必要があった。
そこで、ゾンビのバリエーションを増やすための機能が、まずRE ENGINEのシェーダ表現として実装された。あわせて、顔やシャツなどのパーツをスライダーによる指定で組み合わせ、ゾンビのパターンをいくつも生み出せるエディターがテクニカルアーティストによって開発された。
あるときは、服装のアセット制作で問題に直面したという。当初、スピードを重視するあまり服装をフォトグラメトリーでスキャンしたデータは自動リトポロジーを行いゲームに出力されていた。しかし、後になって肩と袖のつなぎ目の部分にポリゴンラインが通っていないという問題が判明してしまったのだ。そこで、DCCサポートチームによって対応がとられた。すべての上着を読み込み、平面ポリゴンを肩に突き刺してその接合面を元にすべてのパーツにポリゴンラインを追加し、当初よりつなぎ目がある前提で設計されていた自動化ワークフローに乗せなおしたという。
「アーティストにはなるべく直感的に楽に作業してもらうことが大事だと思っています。昔は人海戦術で行っていたようなクリエイティブではない作業は、出来るだけ自動化や効率化するよう心がけています。ゲーム開発におけるMayaは、モデリングやアニメーション機能も優れています。しかし、我々にとっては問題解決や効率化のためのツールとも言えます。」と東野氏は語ってくれた。
Mayaの社内ツール類は、Python言語で開発が行われている。MayaのAPIは、シーンデータを開く前でもシーンを開いた直後でも意図したタイミングで処理を制御出来る。このため、アーティストが快適に作業を行うための環境を思い通りに構築することが出来るそうだ。
大規模開発で大切な事、Shotgunの可能性
バイオハザード シリーズのように大規模な開発においては、計画や設計がとても重要であるという。昔のような力業ではなくテクニカルアーティストが開発の方向性をしっかりと収束させて、生産性を落とさないようなワークフローを考えることが必須なのだ。そして、常にワークフローを改善し見直していく必要もあると福井氏は説明してくれた。
アセットの制作をアウトソースする場合にもリスク分散が大事ではないかとは種田氏のコメント。背景シーン全体を丸ごと発注するよりも、あえてパーツごとに分けてアウトソースすることも多いという。問題の発生時にパーツで切り分けられるほうがスマートに対応がとれるためだ。アウトソースの管理においては、チェックフローやデータの見える化も大切だ。
「今後のゲーム開発では、作業の細分化がさらに進み工程間の連絡が増えていることは明らかです。プロジェクトの制作進行の"見える化"をより促進していく必要性があると考えています。」とプロデューサーの平林氏。
現在、カプコンではShotgunの本格導入に向けて積極的に環境構築を進めている。アセット制作の進捗管理やアセットライブラリーの検索インターフェイスとして、さらにはアウトソース先とのチェックバックのやり取りでの使用にも期待しているとのこと。作業の工程間だけでなく、異なるセクション間でもShotgunを介して効果的に情報共有が出来る開発環境を目指しているそうだ。
昨今のゲーム開発では様々なツールが利用されている。しかし、カプコンでは最終的なRE ENGINEへの出力は、あくまでMayaやMotionBuilderから行われている。「Mayaは建築物でいうところの基礎構造のようなものです。途中経過は様々であっても、ルールを一本化するためのプラットフォームとして非常に安心感があります。」と福井氏はMayaに対する信頼感を語ってくれた。
「バイオハザードRE:2は、大変ご好評を頂いており感謝しています。まだプレイされていないという方は、手にとって遊んでもらえると嬉しいですね。また、カプコンでは一緒に働いて下さるクリエイターを募集しています。ご興味のある方は、ぜひ採用ページを覗いて見て下さい。」と平林氏は最後に締めくくってくれた。
バイオハザードRE:2公式サイト http://www.capcom.co.jp/biohazard2/
株式会社カプコン人材募集サイト http://www.capcom.co.jp/recruit/mid-career/index.html
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。
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