産業用ロボットの迅速なビジュアライゼーションで 3ds Max が力を発揮 ~ ファクトリーオートメーション(FA)の提案に新たな風を ~
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AGV(自動搬送ロボット)が工場を走り回り、ロボットが製品を作る。「デジタルツイン」や「スマートファクトリー」といった用語を目にする機会が増え、製造業界でも未来を見据えた工場への変革が待ったなしの状況となっている。
名古屋に本社を構える製造業の総合技術商社マルエム商会は、日本の製造業を次のレベルに持っていくため、新たなテクノロジー、膨大な情報量、革新的な製品群で次世代の工場を顧客と一緒に作り上げてきている。
この変革をリードする部署の一つであるFAロボットソリューション事業部が、「3ds Max」による3DCGビジュアライゼーションの導入を決断したという。これは、同社のFAソリューションをより効果的に顧客とイメージ共有するための決断だ。
しかし、決断の時点では3DCGに関する知識やスキルは、ほぼゼロの状態からのスタートであったという。そこから2ヶ月という短期間で「第4回 ロボデックス展」での展示映像お披露目に成功した3DCGビジュアライゼーション運用の一部始終について、マルエム商会TECの大岩一彦氏とFA ロボットソリューション事業部の下野大地氏に話を聞いた。
3ds Max未経験からわずか2ヶ月で3DCGビジュアライゼーション
ーー3ds Max の導入決定からわずか2か月で「第4回 ロボデックス展」向けの展示映像を制作されたとのことですが、まず初めに「3DCGを使ってビジュアライゼーションしてみよう」と企画された背景についてお聞かせください。
大岩:2021年の4月にマルエム商会に入社したばかりのタイミングで私の方から社長に提案させていただきました。実は、以前に勤めていた会社がバーチャルショールームを導入していたこともあり、CGを活用すると何ができるかという魅力や利点は理解をしていました。
FA事業では「どのようにロボットが動いて、どのようにモノが搬送されていくのか」などをお客様に提案することが商談で必要となります。しかし、従来の図面や3DCADデータ、ロボットシミュレーションだけでは、どうしても具体的なイメージの共有が難しいという課題に直面していました。もっと綺麗にわかりやすく紹介することが出来ればと感じていたのです。
ーー確かに完成のイメージは、設計している方は当然理解していると思いますが、そのイメージを他の人に伝えるのは図面や言葉だけではなかなか難しいですよね。
大岩:はい、ロボットやシステムの正確な機構アニメーションに加えて、カメラやライトの演出で強調したい部分などを分かりやすく伝えることが出来ないかと考えていました。そこで、映画やゲームで使われている3DCGツールを導入してみてはどうかという流れになりました。
幅広いお客様に製品を見てもらえる機会として、年に1回のロボデックス展という展示会があります。このチャンスに実物と一緒にアニメーション映像を展示できればと思い、3DCGツールについてオートデスクさんへご相談させていただきました。
ーーなるほど、前職でビジュアライゼーションから得られるメリットを感じとられていたのですね。
大岩:視覚的にその魅力を伝えられると、複雑なシステムであっても担当者が上層部を説得する際にも大きな助けになります。動画による提案だけでなく、静止画をホームページやパンフレットに掲載することもできるので、データのマルチユースという観点でも3DCGツールを活用するメリットは大きいと考えました。
ーー大岩さんは以前から3DCGに詳しかったのでしょうか?
大岩:実は全く詳しくありませんでした。ただ、前職のデジタルツインにフォーカスしたプロジェクトが脚光を浴びたこともあり、「デジタルでリアルな体験をつくり出す」ことに可能性を感じていました。また、そういった新たなことに取り組んで行かなければ、今後のビジネスは難しくなるだろうとも感じていました。
例えば、「ロボットを10台作る」という案件の場合、言葉と図面だけで「どんなことができるのか」を伝えるのはなかなか困難です。シミュレーション動画を提案するようになって以来、工程の「後戻り」は起きにくくなりました。本物と変わらない動きをお客様に正しく伝えることができますからね。
ーーなるほど。アニメーションを見せることでイメージが正確に伝わり、認識のズレが減ったわけですね。今回はそこからもう1歩踏み込んで、ロボットの質感だったり、設置方法、動作などをさらに表現力豊かにお客様に見せたいということなのですね。新たな3DCGツールの導入に際しては、どのように社内で承認を得られたのでしょうか?
大岩:まず「ビフォー&アフター」の動画を観てもらいました。「ビフォー映像」はこれまでマルエム商会が作ってきたシミュレーション動画で、「アフター映像」はオートデスクさんにご相談した後に用意していただいたサンプル映像です。
3ds Maxに3D CADデータを読み込み、質感を与え、アニメーションを付け、綺麗にレンダリングされた映像は説得力の違いが一目瞭然でした。これにより、すぐに社内承認をもらうことができました。
ーーちなみに、建築業界ではビジュアライゼーションの活用は進んでいるように思うのですが、製造業ではいかがですか?
大岩:ドイツをはじめ海外ではよく見かけますが、日本では事例が少ないですね。まだまだこれからだと思います。よく自動車のコマーシャルで3DCGが使われていたりしますが、製造業においても実際に撮影するより3DCGでビジュアライゼーションした方が良いケースがあるんですよ。例えば、機械内部の様子をスケルトンにして説明することができるのも3DCGならではの表現ですよね。「どういう仕組みで動いているのか」を映像で説明するなんて、3DCGでなければできないことですから。
ーー現状の提案方法から、さらにお客様に理解してもらうにはと考えられての決断だった訳ですね。今回3ds Maxを使って実際に映像制作されたのが下野さんだとお聞きしております。下野さんは3DCGツールを使われた経験はあったのですか?
下野:いえ、私も何もかも初めての経験で3DCGに関する知識は一切ありませんでした。というのも私は普段、メーカーなどに出向いて技術提案をさせていただく営業の仕事をしています。ただ、工業大学の機械工学科を卒業していることもあり、学生時代に2D CADや3D CADで作図をしたという経験はありました。
ーー営業の方が作られた映像だったんですか!てっきり日頃から3D CADを使って設計の仕事をしている方が3DCGに挑戦されたのかと思っていました。
下野:これまでお客様に説明する際には「MotoSim」というシミュレーションソフトを使って、ロボットの干渉チェックやレイアウトの提案をさせていただくことはありました。しかし、3D CADで設計は担当していませんし、「3ds Max」というソフト名も恥ずかしながら聞いたことがないという状態でした。
ーーこれまでは、シミュレーションソフトを使って映像を作成されていたのですね。
下野:はい、動作を制御するためのツールなので映像表現はかなり限られています。最初にオートデスクさんが用意してくださった3ds Maxで作成されたサンプル映像を見て、「これまでの映像は、お客さんにとって分かりにくいものだったのかもしれない」とあらためて気付かされました。3ds Max を活用して映像を作ると、お客様の反応はもっと変わるんじゃないかと。
ーー構造の動きが分かりやすいだけではなく、見てもらいたいところをしっかりとアピールできますからね。しかし3DCG初挑戦だったにも関わらず、わずか2ヶ月で制作し展示会で発表できたわけですよね?
大岩:そうですね、オートデスクさんに相談を持ちかけたのが6月初旬で、そこから2~3回打ち合わせ後、社内の承認を得ることができました。実際に3ds Maxのトレーニングを開始したのが8月になります。9月ぐらいにロボットの3D設計が完成した段階で、下野が3D CADデータを3ds Maxに読み込み、そのデータを使い映像を制作し、実物のロボットも同時並行で作りはじめて10月の展示会で両方をお披露目するというスピード感でした。
ーーロボデックス展でのお客さんの反応はいかがでしたか?
大岩:とても好評でしたよ。今回は「九州に置いてあるロボットを名古屋の会場から遠隔操作する」といったデモンストレーションを行なったのですが、さすがに1日中デモンストレーションをし続けるのは困難です。そこで下野が3ds Maxで制作した映像を並行して流すことで、ブースに訪れたお客さんにいつでもデモンストレーション並の理解を促すことができました。映像を見たお客さんの中には、3DCGで制作した映像だと気が付かない方までいらっしゃったぐらいです。
ーーフォトリアルに仕上げると実物と見分けるのは困難かもしれませんね。短期間で3ds Maxを習得し、そのようなリアルな映像を制作できた秘訣についてもお聞かせいただきたいのですが、一体どのようなトレーニングを行われたのですか?
下野:まずはオートデスクの担当者の方から勧められた3ds Maxのチュートリアル(やさしい3ds Max -はじめての建築CG-)をひと通り視聴して基礎を学んだのですが、所感としては「3DCADに使い方が似ているな」といった印象を受けました。
ーー営業のお仕事もあり大変だったかと思いますが、ひと通り視聴するのにどれくらいの時間がかかりましたか?
下野:仕事が終わった後にちょこちょこと観て、丸4日くらいでしょうか。チュートリアルで基本操作はしっかりと理解できました。カメラアングルやライティング、背景の付け方、拘束を利用したアニメーション設定など、応用的な部分はその後の講習で理解を深めていきました。
ーー担当者による講習は何回行われたのですか?
下野:講習と質疑応答を合わせて2~3回程度です。事前に「こういう映像を作りたい」という相談をさせていただき、その内容に沿った手引きと3ds Maxで作成されたサンプル動画を送っていただきました。それを使用して講習が行われ、その後は2週間に1度くらいのペースでZoomやメールで質疑応答を行っていただきました。
3DCGでなければ実現できないことがある
ーー3DCGビジュアライゼーションに挑戦された感想はいかがですか?
下野:今回は「M-TAS(マルエムテレスコピックアームシステム)」といって、先端に付いているセンサーで車の表面の傷などをカメラで計測し、品質面での確認ミスがないかを自動で確認するロボットの映像を作りました。アニメーションを付けていく過程で「格好良いと思ってもらえる動画を作りたい」という気持ちが出てきて、そういった思いが、映像を観たお客様の印象に深く関わってくるんだなと改めて感じました 。
ーーリアリティがあって、ロボットの動作も分かりやすい映像になっていますよね。
下野:ありがとうございます。この動画で最もアピールしたかったのは、「設置場所によってはどこからでも撮影できる」という点です。さらに、センサーで表面を計測するだけではなく「ニーズに合わせて様々な使い方ができる」ということを想像してもらえるよう工夫しました。
大岩:おかげで展示会では、「横に置くタイプ」と「天井から吊るすタイプ」の両方を映像で伝えることができました。ブースに両方の設置方法を展示するのはスペースの関係で不可能ですので、3DCGでなければ実現できないことだったと思います。
下野:正直、最初はこの短納期で完遂できるか不安もありましたが、結果として1~2か月で8割がた納得できるような成果物を仕上げることができたと思います。ちなみに残りの2割は、車の表現まで手が回らず白い3Dモデルのまま使っている点です。できればガラスなども透明にして、もっとリアルに表現できたら良かったなと。
ーー実際に3ds Maxではどのような作業をされましたか?
下野:3Dモデルの拘束作業やアニメーション設定、レイアウトの検討、その後カメラのアングルやアニメーションを決めていき、マテリアルや環境光などの色調に関わる部分の作業を行いました。個人的にはカメラワークの検討作業に苦戦しました。
ーーちなみに、3Dモデルはどうされたのでしょうか?
大岩:M-TASのモデルは、CADの設計データをそのまま読み込んでいます。今回用意したのはSTEPファイルですが、3ds Maxは、幅広いフォーマットのCADデータを読めるのでとても便利ですね。車はフリー素材をダウンロードして使わせてもらっています。こういったデータを気軽に活用ができる点も3DCGの利点ですよね。
ーー実際に車を借りてデモンストレーションするとなると、場所も必要だしお金もかかりますからね。CADの設計データを読み込んで作業されたとのことですが、3ds Maxでモデリング作業は行ったのでしょうか。
下野:ほとんど行っていません。3D CADのデータを使用することにより、3ds Maxでのモデリング作業を省略することができました。トレーニングを受けた時に、オートデスクさんからも3D CADデータを活用するワークフローを提案していただきましたが、モデリング作業を省くだけで、習得期間や制作期間が大幅に短縮されたと感じています。
ーーカメラワークが難しかったようですが、参考にした資料などはありますか?
下野:ドローンによる空撮映像をYouTubeで観たり、カメラメーカーや自動車メーカーの映像を観たり。カメラアングルを中心にひたすら観ていました(笑)。あとは2週間に1度のペースで質疑応答のお願いをしていたので、そのたびに「こういう操作をしたいです」と質問させていただき、その都度教えていただきました。
ーービジュアライゼーションの可能性を実感されたかと思います。今後の3DCGに関する取り組みについて展望をお聞かせください。
下野:そうですね。一度理解してしまえば要領は同じなので、今後はよりリアルに制作できるのではないかと思います。今回、実際に3ds Maxで動画を制作してみて「このクオリティでお客さんに提案したらお客様も絶対驚く。提案も進みやすくなるんじゃないか。」というふうに感じました。
大岩:お客様サイドでも我々が提案した製品を使うために社内でプレゼンする必要があるのですが、その際に「図面だけでは説明が難しい」というお声をよく聞きます。お客様のそういった悩み解決にも、ビジュアライゼーションは助けになるはずです。また我々としても、製品単体だけでなく設備まで一緒に提案する「パッケージ化したシステム」の開発に繋がっていくのではないかと考えています。
ーー「どんなことができるのか」が具体的にイメージできるので、アイデアの幅が広がっていきそうですね。さらに3ds Maxで制作した3Dデータはアセットとして様々な用途に活用できるので、ARやVRに展開して新たなビジネスに発展する可能性もありますね。
大岩:製造業もこれからますますバーチャルを活用する方向に進んでいくかと思いますが、ビジネスをする以上、必ずお客様の存在があり要望があります。「モノを売る時代からコトを売る時代へ」と言われていますが、「コトを売る」となると表現が非常に難しいんですよ。ただ、今回のように弊社の製品やソリューションをわかりやすく伝えたいときに3DCGツールを使えば今までとは違う深いレベルでコミュニケーションが取れるでしょうし、工場の変革で話題になっている「デジタルツイン」や「IoT」といったテーマでも、3DCGデータを活用する方向に進んでいくのだと思います。今回に限らず、製造業の未来のためにお客様とともに3DCGのチャレンジは継続していきたいですね。
ーーいかにデジタル化が進んでもそこには必ず人間がいますからね。お客様とビジョンを共有することでアイデアの幅が広がり、より円滑にビジネスが進んでいくのですね。大岩さん、下野さん、本日はありがとうございました。マルエム商会の新たな展開を楽しみにしています。
株式会社マルエム商会について
https://www.maruem.jp/
マルエム商会は、日本のモノづくりを支える工場や施設の各種電機・機械設備を提案する国内でも数少ない総合技術商社である。取り扱い製品は、産業用ロボット、受変電設備、各種電機・機械機器、水処理・太陽光・空調機器など多岐にわたる。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。