Autodesk University Japan 2017直前!dot by dot 富永 勇亮 &ライゾマティクス 齋藤 精一対談
- テクノロジー・アート
9月21日(木)・22日(金)に開催されるカンファレンス「Autodesk University Japan 2017」。オートデスク製品の最新テクノロジー動向のご紹介、イノベーションを推進されているお客様による事例、ソフトウェア操作のスキル向上のためのセッションを行う。
このセッションの初日・21日(木)はアニメーショントラック。二日目の22日(金)はテクノロジーアートトラックとして、革新的なアイデアでものづくり&ビジネスを展開する、WOW、チームラボ、dot by dot、ライゾマティクスのクリエーターが登壇する。
この記事では、テクノロジーアートトラックに登壇するdot by dotのPlanner/CEO 富永 勇亮 氏と、株式会社ライゾマティクス 代表取締役 齋藤 精一 氏の対談をお届けする。
富永 勇亮 氏
富永:僕、そもそも「ライゾマティクス」という名前がすごく好きなんですよ。かっこいいですよね。"リゾーム"という言葉が語源になっているそうですが、僕もリゾームという考え方がすごく好きなんです。ツリー型構造の組織ではなくて、繋がりが横に広がっていくという考え方ですよね。
齋藤:ありがとうございます。"リゾーム"のことを気づいてくれる人は多くないんですよね。
富永:ライゾマティクスは社内でもすごく横断的なチーム構成をされているし、社外でもいろんな人とコラボレーションをしている。それは今の時代の働き方にはとても合ってるんじゃないかなと。
齋藤 精一 氏
齋藤:ライゾマティクスは昨年からリサーチ、デザイン、アーキテクチャーの3部門体制で活動しています。所属しているメンバーも多様で、デバイスからソフトウェア、音楽、グラフィックまで色々なジャンルのクリエイターやプロデューサーがいるので、一通りのものづくりが社内で完結できる。"リゾーム"が表すように、結果的に量子化されている組織になりました。
ーーdot by dotさんは既存の会社とはかなり違った構造になっていますね。
富永:テクニカルディレクター、クリエイティブディレクター、プログラマー、デザイナー、プランナー、プロデューサーの 13名が在籍しているのですが、所属クリエーターという制度があり、その内3名は独立したフリーランスの方をマネージメントしているカタチになっています。
ーーマネージメントとはどういった制度ですか?
富永:フリーランスと会社員の良い所どりで、働き方のハイブリッドスタイルだと思ってます。50〜70%ぐらいの活動をdotメンバーとしてやりながら、フリーランスとしての受注やアーティストとしての活動を並行していくような制度※です。
※詳しくはこちら(http://careerhack.en-japan.com/report/detail/549)を。
ーー働き方そのものから既存のやりかたを改革しようとしていますよね。会社組織ではありますが、クリエイターとすごく対等な関係を築こうとしている。
富永:社員も所属クリエイターもクリエイターとしてすごく優秀ですから、僕らプロデューサーが面白い仕事やアイデアを持ちかけられなかったらやってくれないというプレッシャーがあります。そういう関係性が作れたのも、起業する時にシェアオフィス自体(HOLSTER)を作ってしまったからですね。社内のリソースだけでなく、シェアオフィスにいるクリエイターにも気軽に相談できるという関係性があるので、会社の規模を大きくしないままでも出来る仕事の規模を大きくすることができるんです。
齋藤:シェアオフィスに入る選択肢はなかったんですか?
富永:自分で物事を決められないプラットフォームに乗るのがイヤなんです(笑)。仕事も人も、自分で選びたいんです。
ーーそういうマインドの方が起業されるんでしょうね。ところでお2人のもとには、膨大な仕事のオファーが来ると思うのですが、受ける/受けないの判断はどうやってされていますか?
齋藤:面白い仕事だと思うのは、「誰も解けなかった知恵の輪を解く」ような仕事です。予算の大小に関わらず燃えますね。そういう仕事って、実は世の中にたくさんあるんです。企業の中に、いつの間にか掛け違えてしまったボタンというものがたくさんある。グローバルの企業だと、日本支社が本国に気を使って、気づかれないような範疇で何かを仕掛けたいという。でも僕はそもそも本国と話がしたいと言って、クライアントと直接話をするようにしているんです。
富永:齋藤さんのプロジェクトを見るたびに、「よくこの規模で出来るな」と思いますよ。発想はもちろん、大きいプロジェクトでは、エクゼキューションの部分がすごく大事になってくるので。
Nike RISE - House of Mamba
約30×15mにわたりLEDを敷き詰めたコート。プレイヤーの肩に付けた赤外線LEDを会場に設置したカメラによって認識し、プレイヤーの場所を特定している。
齋藤:知恵の輪もそうですし、「往年のネタ」も大事にしています。例えば以前作った床が全部LEDのバスケコート(Nike RISE - House of Mamba)なんて、小学生でも思いつくことですが、じゃあ実際にどうやるのか、誰をクライアントにするのか?を組み上げていくのは難しい。「これをやったら絶対楽しい」とみんなが思っていることを実現するための具体的な施策が必要で、そこを間違うと駄目な企画になってしまう。だから今は、ほとんどの仕事が実現するための調整になっています。それはそれで面白いんですけどね。
富永:齋藤さんのお話を伺っていて思うのが、広告の人じゃなくて建築の人の思想だということですね。建築物は建てられてある時期にピークを迎える。そのピークに対して、建築がどう街に寄与しているかを考えているのかなと。
齋藤:僕がやっている建築の仕事は、単なる箱物ではなく、どの時代でも変貌できるシステムと組織を作ることなんです。いわゆる建築家の神の視点のような理想論もいいと思いますが、そうやって計画されたものが全て成功するわけではなく、二転三転して、まちのなかでようやく落ち着いてくる。その二転三転を早くできるもの、人のニーズと世の中のニーズと時代性が合う仕組みを設計している。ストラクチャーの構造の組織論とか、ソフトウェア論の話ばかりしているので、「なんだこの人」と思われているかもしれない(笑)。
「3D City Experience Lab.」(3DCEL)
ーー今齋藤さんが取り組んでいる「3D City Experience Lab.」(3DCEL)はそういう意味でいうと構造のお話になるんでしょうか?
齋藤:3DCELは、東京にふさわしい地図は二次元ではなく三次元という発想から生まれています。日本の地形は起伏が激しいし、東京は地下のデベロップメントがすごく盛んに行われている。だからこそ三次元の地図は国が主導するべきだ、ということで経産省とWIREDと立ち上げました。地上のデータは航空測量で取ることができますが、このプロジェクトでは渋谷の地下を測定してデータを取っています。
富永:もはや地上だけで語っても仕方がない時代なんですね。
齋藤:でもいざやってみようとすると、やっぱりいろいろ複雑な問題にぶつかるんです。地権者に関しても、地上は国交省で、持ち主は東京メトロで、管理は東京都というように...。全てに配慮していると何も進まないから、とりあえず一度データを取って、どう活用されるのか様子を見ましょうということで始まりました。実際にやってみると、アプリに使いたいという依頼から行政、番組にしたいなどの反響があって。そういう実験をしながら、3Dデータというものをインフラの視点ではなく、もうちょっとエンタメ的に軽いノリで作ってどうなるかのケーススタディを作っている。研究で行われているような難しいことをそのままではなくて、スピード重視で実際にやってみて結果を見るという。地上でドローンが飛びまくっている時代に、地下も発展させていこうと。
ーーそのためのいいきっかけになったプロジェクトですね。dot by dotも、JAXAの人工衛星「だいち」が撮影したデータを使った自社サービス「WEAR YOU ARE」をローンチして話題になりましたよね。
富永:調整が大変なプロジェクトでした。三社に声をかけて共同で立ち上げました。まずは「RESTEC」という衛星画像を取り扱っている会社。サーバーサイドや後ろの作り込みは「FUTUREK」、あとはデータを送ったらすぐにフルグラフィックTシャツにしてくれるっていうところでGMOペパボがやっている「SUZURI」というサービス。アイデアは僕らが考えて、その回答を皆で導き出したんです。
齋藤:このサービスいいですよね!僕も今度、海岸線で綺麗な切り替えになるような場所を探して購入しようと思ってるんです。
「WEAR YOU ARE」好きな場所を指定してプリントしたものを購入できるサービス。ピンを打ったり、文字を入れてフィルターをかけるなども可能
ーー企画自体からdot by dotさんが立ち上げたんですか?
富永:そうです。最初にRESTECさんに連絡した時には、衛星画像データの利用料が高くTシャツになんかできない値段だったのですが、彼らもとてもこの企画に興味を持ってくれて、色々とご調整いただいて、新しいデータではなく10年くらい前の衛星画像のデータなら現実的なコストで実現可能となったのです。今、世の中はいろんな再利用の時代に入っています。特にデータものは常に最新が是とされていますが、こういう場合には最新である必要はない。むしろ10年前のデータであれば、東京の場合だと、取り壊された国立競技場が残ってたりする。街の記憶を着る、という価値があるとも言えます。
ーーそういった企画の際のコラボレーション相手にはどうアプローチするのでしょうか?info@に突然メールするとか?
富永:だいたいそうですよ。面白そうなところを見つけたら自分たちで声をかけてお誘いします。
齋藤:僕もいろんな場所に同時にアプローチする、いわば複数のミサイルを打つタイプですね。3DCELではGIS(地理情報システム)、空間情報を扱う「パスコ社」と組みました。サイトではスキャンしたデータと渋谷を含めた市場データを一般公開しているんですが、そもそもデータを公開していいのかも前例がなかった。彼らはB to G(ガバメント)のビジネスなので、一般公開をしたことがなかったんです。でもこれだけデータを取得するのが簡単になった世の中で危機感はあった。そこで、同じように古いデータであれば公開できるということになったんです。
富永:そうやって調整して成立してからも、さらに要素を加えたいと思うんですが、自社企画の場合はその負担が全部お客様の単価に跳ね返ってくるんです。広告の場合のフラストレーションとして、我々が完璧にいいと思ったものでも、クライアントのNGをもらうことがありますが、自社企画は自分たちのやりたいようにやれる一方で、単価が上がってしまうのが悩ましい。在庫のリスクもありますし。
ーーdot by dotさんは本当にいろいろなプロジェクトを手がけられていて。3000本の花が動くインスタレーション「Flower Mirror」から、「進撃の巨人」の関西弁バージョンまで、ものすごくバラエティに富んでいて、一言でまとめるのが難しいくらいですね。
齋藤:そうは言っても、自分たちの中では統一感があるんじゃないですか?
富永:ないんです。僕達は作家集団ではなくて、商業クリエイターなんです。だから頂いたお題に対してどうしようか、と考える。「進撃の巨人」でも大丸のプロジェクトの「Flower Mirror」も、あれが僕らの最適解だったんです。僕達は自分たちが作品を発表するというよりも、完全に職人であるというか代打職人というか、来た球を確実に打つことにしています。弊社のCTOのSaqooshaも凄腕プログラマなんですが、「こういうビジョンを実現したい!」という野望がないんです。でもアイデアを出したら、サクッと作ってくれる。その作りどころの丁寧さとか、海外の論文を片っ端から読んでいて圧倒的に情報量がすごいので、深く掘って適切に打ち返すという強みがあります。
ーーお二人の話を聞いていると、やりたいことを実際に出来る環境に持っていく力がすごいですね。今、日本のエンタメ業界(もしくはコンテンツ業界)に求められているのは、そうやって自らが実現し、発信していく力なのではないかと思います。
齋藤:どの業界であっても、R&D、研究開発が必要なんだと思います。例えば僕らが出来るというエビデンスがある上で「プロジェクターを15台使ってみたい」とクライアントに提案しても「ケーススタディがないから駄目」と言われてしまう。それなら小規模なものでも、まずは自分たちで作ってみてYouTubeに上げるだけで効果が出る。そこが出来るところはBtoBのループから抜けてBtoCにもなれるし、スタートアップのように、違うサービスを作ることもできる。ルーティンになってしまっている人のマインドを変えるためにはそうやって自発的に行動していくことが必要なのでは。ビジネスマインドだけでも、クリエイティブマインドだけでも駄目なんですよね。
富永:ライゾマティクスにはまさに「リサーチ」というR&D部門(Rhizomatiks Research)があって、いいサイクルが回ってるんだと思います。"新規事業開発室"なんて、形だけ作っても機能しないでしょう。いわゆる、なんちゃらラボみたいなものがたくさん立ち上がっていますが、本来のラボとしての機能を果たしてないようなケースはよくありますね。
齋藤:僕が思うに、会社の中にアリとキリギリス、どちらもいないと駄目なんです。きちんと統制されて倫理のもとに動くことができるアリさんと、統制された動きからはみ出すけど、即興的に考えているキリギリスのような人。両方共存している会社が一番いいんじゃないかと思います。普通の会社だと「この人の発想って大丈夫?」と思われている人がイノベーティブなことを考えられるんです。その例えで言うと、ライゾマティクスには、一人の中で二つの側面を持っている人がすごく多いんですね。しっかり仕事をするけど、その一方でリミットを外すこともできる。作品と問題解決系の広告の両方をやってきたから、そのタガの外し方を知っている人がすごく多いんじゃないかな、と思います。
アルチンボルド絵画化インスタレーション
ーーそれでは当日、お二人が何をお話しされるのか教えてください。
富永:3DCGをやってる皆さんが僕らに興味があるかはわからないんですが(笑)、とにかく生み出し続けることが大事だということをお話したいです。僕たちが大切にしている「SHUT UP AND MAKE SHIT」の精神で、作り出している大小様々なケースを紹介して、「こんなことしてても生きていけるんだな」ということを感じてもらえたら。
ーー了解しました。齋藤さんは?
齋藤:ライゾマティクスという会社は、エンタメの会社としても、建築系の会社としても見られていると思いますが、そういったレンジの広さといったものは、スキルセットとリソースがある会社であれば出来る可能性があるということをお話したいと思います。
ーー楽しみにしています。
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