チュートリアル / 読んで触ってよくわかる!Mayaを使いこなす為のAtoZ
第43回:遅ればせながらGDC2013の話題
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前回のコラムで「先日GDCに行って来ましたので次回その話をします」とお伝えしました。GW過ぎて「先日」も何もあったもんじゃないですがGDCの雑談でございます。
GDCでよく話題に上がっていたのが Compute Shader でした。このCompute Shader はMayaで使うこともできます。Maya2013 Extension2 から DirectX11 に対応しているので Compute Shader が使えるのです。とはいえプラグインを書く必要があるので何か動くサンプルを用意しようとしていたのですが、間に合わなかったのでサンプルはありません!その代わりに Compute Shader のゲームエンジンでの使われ方の話をしたいと思います。
それとゲームの話で面白いものがあったので、その話もお伝えしつつお茶を濁そうという魂胆でございます。
Compute Shader で負荷を分散
Compute Shader とは、まあつまり、GPUを使って計算するということです。AAAタイトルで DirectX11 の対応を始めているので、その一環として Compute Shader を活用しているようです。
これで何か凄まじいことをしているのかというと意外とそうではなく、今のところはCPUでやっていることをGPUでやるということが多いようです。たとえばオクルージョンの計算、髪の毛の計算です。トゥームレイダーのララ様の髪の毛ですね。
ゲームエンジンはいろいろな種類のゲームで使われます。ゲームの内容によっては処理負荷が特定の部分に集中するということがあります。そこで、同じ処理でもCPUとGPUの両方で行えるようにエンジンを作っておくのです。
「うちのゲームはAIのシミュレーションでCPU使いまくるから、なるべく負荷をGPUに回そう」とか「ゲームロジックがシンプルなのでCPUが空き気味だけど、描画がたくさんなのでGPUが大変。ならCPUでできるところはCPUでやろう」という風にして処理負荷を分散できます。その結果全体のパフォーマンスが上がるわけです。
このような選択肢を持つために Compute Shader を使う、CPUで行っていたことを Compute Shader に置き換える、というのが流行っているようです。いったんこれが落ち着くころには Compute Shader への慣れもできているでしょうから、本格的に Compute Shader を生かした何か新しくてすごいことが出てくるはずです。なんと楽しみなことでしょうか。
ゲームはアートなのか?いや、それよりも儲けることを考えよう
二つ目の話はゲームの話です。BioWareのセッションで「Sex in Videogames」というのがありました。何とも聴衆に日本人がいなさそうな過激なタイトルなので、ついつい出てみたところなかなか興味深い話でした。
内容を一言でいえば、「一般大衆向けゲームというのは操作が簡単とかじゃなくて、セックス・アンド・ザ・シティの様なラブ・ロマンスドラマがあるゲームなんだぜ!それの何が悪いというのだ」というものです。(超訳)
紹介された統計によると、ゲーム人口の半分以上は大人で、ゲーム人口の半分は女性とのこと。しかしゲームのストーリーといえば大人向けに作られておらず、ましてや女性向けに作られてもいないという状態を指摘。
確かに「ゲーム」という単語を忘れて、一般大衆に多く受け入れられているものとはなんだろうと周りを見渡してみると、インターネット・テレビ・映画・本・音楽などです。履歴書を見れば「趣味:映画鑑賞、音楽鑑賞、読書」と8割が書いていると勝手に思っているのですが、そういうことなのですね。そしてそれらに欠かせないのは人間ドラマ、感情、ラブロマンスなのです。
再び「ゲーム」の世界に目を移すと、不思議とこれらが足りないわけです。そこで昨今欧米のゲームは軒並みストーリー重視、映画のようなゲームを作る傾向になっています。これは結局「ゲームを大衆化」しようとしていることの現れのようです。
この話聞いて、確かにTPS/FPSゲーに「24」のジャック・バウアーの不倫だとか、「ダイハード」のマクレーンとホリーとのイマイチな関係の修復とかいう人間臭いドラマが足されれば、もっと楽しく遊べそうだなあと想像してしまいました。ストーリーにニヤつきつつ、ゲーム仲間とああでもないこうでもないと盛り上がれそうです。直接ゲームプレイに関係ないところですが、ゲームを大衆化するのに必要なことなのでしょう。
一昔前はCGがリアルではなかったので「不審の一時停止※」が働き、ストーリーの欠如が気にならない時代でした。むしろ見た目に足りないからこそ想像する余地があるという状態です。ところが見た目が写実になればなるほどドンパチだけじゃ物足りなくなります。戦わなければならない事情、ドラマを堪能したくなります。映画で銃撃シーンや爆発を見て満足するのではなく、主人公のストーリー、特に恋仲、なんてのが展開することで満足するように。
次世代機が出ようとしている今、実はゲームの中身を見直す必要が出ているという事のようです。たくさん売るためには大衆受けが必要で、大衆に受けるにはドラマが必要です。ドラマには人間関係、男女の関係が不可欠。なので今までは避けられていた「Sex in Videogames」を入れ込んでいく必要がある、ということでした。とてもおもしろい話を聞けて、GDCに来てよかったなと思った次第です。
不審の一時停止とは
※ 不審の一時停止(Suspension of disbelief)
見ているものが現実でないと脳が判断すれば、いろいろと気にならなくなります。おかしいと思うことが一時的に停止します。このことを「不審の一時停止」と呼びます。
たとえばアニメのキャラが多少足を滑らせて歩いていても気にならないのはこれが理由です。アニメのキャラは現実のものではないので細かいことが気にならなくなります。逆に脳が現実と思い込むと、細かいところが気になります。CGで写実に作ると1cmの足のずれがものすごい違和感になる原因もまたこれです。
ゲームのアートを考えるとき、予算が少なければノンフォトリアルなデザインにすることで、アニメーションの作りこみを減らすことが出来たりします。フォトリアルでなければ、脳が細かい動きまで気にしなくなる点をうまく利用した例です。
一方ドラマを作るには、たくさんのディテールが必要です。これはフォトリアルというだけではありません。たとえば「フランダースの犬」や「アルプスの少女ハイジ」のようにさりげない日常を主としたアニメでは、単に動いているだけではリアルではないので脳が感情移入しません。うまく感情移入して、そこにある生活が現実であるように錯覚させるため、戸を開けたらきちんと閉めるというアニメーションがされていたりします。こういう細かい動きでドラマにリアリティを持たせます。
3DCGをやっているゲーム開発は基本的にフォトリアルを目指すことになると思います。モデルはどんどん本物のようになってきています。ライティングもそうです。次は動きの描写をしっかり作りこむことで企画が用意したドラマをよりよくすることが求められます。動きの描写とは、指や顔が本物のように動くというものではなく、一つ一つの行動の細かさのことです。キーボードに文字を打つシーンがあるとして、いきなりキーボードに手を伸ばすのではなく、ちょっと自分の手をにぎにぎしてから打つとか、袖をまくってから打つとか。そういう人間臭い動作を取り入れて、現実感を出していきます。その次の段階では、顔の細かい動き、筋肉の動きなどさらに細かい部分の描写が重要になっていきます。
というわけでこれからはよりたくさんのデータを作らなければなりません。更に高品質が求められます。そこでMaya、3dsMax、Softimage、Motion Builder、MudboxといったDCCツールをフルに活用しましょう!(宣伝?)
もちろん絵がリアルになってもストーリーを大人向けにしなければかえって話のスカスカ感が目立つようになります。これからのゲームはより高度なエンターテインメントを目指していくのかなあと、BioWareのセッションを聞いていて楽しみになりました。
まとめ
ただの宣伝で終わってしまうとアレなので、次回はドラマを信ずるに足るものにする重要な要素、目のアニメーションについていろいろと紹介したいと思います。
アニメでもCGでも目にはとても気を使います。顔がアップになるとき、会話シーンの時、観衆は目を見るので重要です。一方で舞台演劇を見るとき役者の目は見えませんが、見ている人は感動を覚え、感情移入します。つまり目は重要でないという考えもできます。目のモデルの造形がものすごく写実だからと言って人が感動するわけでもありません。
目にまつわるアニメーション話はそれだけでたくさんあるのですが、リグに関係するところの話を次回したいと思います。