チュートリアル / fieldjamのDesignVizエッセンス
第10回:Compositeのススメ - HDR画像について

更新日 2011.08.08

かなり時間があいてしまいましたが、今回からCompositeについてお話しを進めたいと思います。Compositeとは、3ds Max やMayaなどに同梱されているコンポジットソフトです。私の事務所の仕事は、静止画の建築CGを制作することがほとんどですが、昨年から画像編集のメインツールとしてCompositeを使用しています。Compositeは主にアニメーション用として開発されていますが、静止画の編集で使用しても十分使えるツールです。そこで、なぜCompositeを使おうと思ったのかについて、お話しします。

mental rayやV-rayなど、よく用いられているレンダラーのレンダリング結果は各チャンネルが32bitデータです。一方、一般的な画像は8bit/チャンネルなので、レンダリング結果の情報量は膨大です。しかし、昨今の物理的なライティングや露出補正をきちんと利用するには、32bit/チャンネルのHDR画像が最適です。レンダリング自体は32bitで行われているので、その結果を利用しないのは勿体ないと常々考えており、その機能を備えたソフトを探していました。

<これ以降のビット数とは、各チャンネルのビット数を意味しています>

さてPhotoshopは、CS4以降32bit画像の編集機能の充実が図られています。しかし、8bit/16bit画像に比べると、まだまだ機能制限が多くフラストレーションが溜まります。さらに、Photoshopファイルは完全な外部参照形式ではなく、基本的にすべてのデータを編集ファイル内に保持しておく必要があります。つまり、作業過程ではレンダリングデータ+Photoshopデータの2つをキープしなければならず、32bit画像ではたくさんのHDD容量が必要です。

以上のことから、仕事で使える新しいツールとしては、最低でも「HDR画像をきちんと編集できること」「外部参照を完全にサポートしていること」の2点を満たさなければならないという結論に至りました。そのポイントを押さえているツールは、コンポジットソフトの中には幾つかありました。しかし、私の事務所はアニメーションの仕事があまり無いので、例えばNUKEなどは高機能過ぎて、やはり高価なものになってしまうため、二の足を踏んでいました。

そのように悶々としていた頃、3ds Maxの2011版にCompositeなるものが付いてくるということがアナウンスされました。このソフトは、元々単独で販売されていたToxikというコンポジットソフトで、機能を調べてみると私の行いたいことが実現できるのでは?という印象を持ちました。手元に届いてから、思い切って実際のプロジェクトで使用することに決め、格闘を始めました。なにしろノードベースのソフトは初めてだったので、その部分での頭の切り替えに時間が掛かりました。インターフェースとリファレンスが、すべて英語だったことも苦労しました。しかし、2週間ほど掛けて何とか基本的なことを理解し、仕上げるところまで漕ぎ着けることが出来ました。かなりチカラワザで使用したのですが、メインツールとして使えるという結論に達し、現在に至ります。


その当時、私が使えると思った主なポイントです。
HDR画像をそのまま編集できる
ノードベースである
・Compositeに読み込まれる画像データは、すべて参照データである
追加コストなし(サブスクリプションの年貢は必要ですが...)

もっとも重要なポイントは、HDR画像の編集機能でした。そこで今回はHDR画像とはどのようなものかをまとめようと思います。


ダイナミックレンジとは?

HDRとはHigh Dynamic Range(ハイ・ダイナミック・レンジ)のことで、これと対になる言葉はLDR(Low Dynamic Range/ロー・ダイナミック・レンジ)です。ダイナミックレンジとは、最小値と最大値の比率のことを示す言葉で、音であれば音量、画像であれば明るさの比率です。HDR画像とは、明るさの最小値と最大値の比率が「大きい」のではなく、事実上「無制限」の画像を指しています。まず、HDRを理解するために幾つかの表を用意しました。

<自然界の輝度の例>
対象 輝度(cd/㎡)
星空の平均 0.001
夕暮れ空の平均 0.5~1.0
400lxでの黒い紙(反射率0.04) 5
400lxでのグレー紙(反射率0.4) 50
400lxでの白い紙(反射率0.8) 100
日中の日陰 100
液晶モニタ 50~200
液晶テレビ 400~500
曇り空の平均 1,000~2,000
青空の平均 5,000~6,000
蛍光灯 5,000~10,000
日中の日向 10,000
白熱球 200,000
太陽 1,650,000,000

輝度については【宗さんの第10回】で詳しく説明されているので参照して下さい。この表のように、自然界の輝度はものすごく広範囲に渡っていることが分かります。

参考までに、光によって照らされている面が完全拡散面(どの角度から見ても輝度が等しい)であれば以下の数式が成立します。

【輝度】=【反射率】×【照度】/π

例えば750lxで照らされた反射率0.5のグレーの紙の場合は、

0.5×750/3.14 ≒ 120cd/m2

という計算になります。反射率については【宗さんの第5回】で解説されているので参照してください(宗さん、度々スイマセン)。輝度のサンプルはインターネットで検索してもあまり出てこないのですが、照度から大まかな輝度を求めることができれば、ある程度の目安にはなると思います。

次にダイナミックレンジ(コントラスト比)です。

<コントラスト比の例>
対象 コントラスト比
新聞紙 1:10
光沢紙プリント 1:60
液晶モニタ 1:500~1,000
コンパクトデジカメ 1:250~380
APS-Cデジタル一眼 1:600
フルサイズデジタル一眼 1:1,000~2,000
人の目 1:10,000
ネガフィルム 1:12,500


<ビット深度>
ビット深度/チャンネル 階調数 LDR or HDR
8bit 256 LDR
16bit 65,536 LDR
32bit 無制限 HDR

32bitの階調数は2の32乗ではありません。これは32bitの記録方法が他のものと異なっており、フローティング(浮動小数点)データをサポートしているためです。

データの出力について考えてみます。印刷物はそれ自体が発光していないのでダイナミックレンジは低くなります。ダイナミックレンジとビット深度の関係は、8bit画像を光沢紙にプリントした場合、1:60のダイナミックレンジ内で256階調の表現を行なうということです。新聞紙のダイナミックレンジはとても低くなっているので、それに印刷された写真はコントラストが浅く沈んで見えます。

では、データの入力はどうでしょうか?これまでの表から分かるように、自然界の値はとても大きいため、例えば、カメラでの撮影においては工夫が必要です。そこで、露出制御によって撮影対象のダイナミックレンジのどの部分を使うのかを決めて、RAWやJPEGなどのデータにLDR画像として記録します。このようなことから、デジタルカメラで多段階露出で撮影したLDR画像を統合してHDR画像を作成するという手順が考えられました。

さて、デイライトを設定し室内のシーンをレンダリングする場合、窓の外が見えていれば、室内の一番暗いところと屋外の一番明るいところのコントラスト比は1:数千~数万にも及びます。LDR画像で保存するには、コントラスト比が大きすぎるため、カメラと同じように露出制御(トーンマッピング)による補正を行い保存します。一方HDR画像では、コントラスト比が事実上無制限なので、生データを保存できます。ちなみに、先述のようにデジカメの生データであるRAWデータはLDR、レンダリング結果の生データはHDRのため、両者の生データは全く別物です。では、これまでの点を踏まえてHDR画像編集の検証を進めていきましょう。


V-rayのデイライトは正しい?

検証は3ds Max Design 2012 + V-ray 1.5 SP6で進めます。mental ray や他のレンダラーでも基本的な考え方は同じなので、参考になると思います。

metnal ray のmr Sun+mr Skyでは【CIEスカイモデル】などで照度(lx)を設定することができます。一方V-rayでは【CIE Clear】などを使用してスカイライトによる水平面照度は設定できますが、太陽光による照度は不明です。少し不安なので、確認のため以下のような簡単なシーンでV-rayのデイライト照度を検証してみます。床面だけ色分けをしていますが、これ以外のRGB値は(0.5, 0.5, 0.5)です。



VraySunのsky modelは3種類あるので、それぞれについてレンダリングしました。【環境と効果】の【照明分析イメージオーバーレイ】は3ds Maxの【レンダリング フレーム ウインドウ】を用いればV-rayでも使用できるので、その結果を示します。ちなみに、この機能はディストリビュートレンダリングには対応していません。


Sky model ; Preetham et al.


Sky model : CIE Clear


Sky model : CIE Overcast

照度の値を確認するとSky modelによって異なっていますが、概ね自然界と同様の結果になっているので、安心して作業を進められます。今回はSky modelを検証するわけではないので、このあたりで止めておきます。

〈 次ページへ続く 〉HDR画像の出力と補正

更新日 2011.08.08
著者プロフィール
林田 豪元
林田 豪元
fieldjam
設計事務所勤務を経て独立し、1995年フィールドジャムを設立。アトリエ系からゼネコンまで/住宅から超高層まで、といった様々な規模の設計事務所とプロジェクトに携わり、建築CGを制作している。さらに、CG制作環境のコンサルティングや、部品作成、スクリプティングの依頼も受けている。3D Studio MAX 1.0から使用しており、メインレンダラーはV-ray。

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