トレンド&テクノロジー / サイエンスCG最前線!
第2回:「サイエンスを、正しく、楽しく。」サイエンスCGクリエーターになるまで その2
- Maya
- コラム
- 中級者
- 建築・製造・広告
まず始めに、更新が非常に遅くなってしまったことを心からお詫び致します。医師としての病院の仕事を最優先に生活しているのですが、思った以上に忙しい日々が続き、きちんとした文章を書くための時間をなかなか確保することが出来ませんでした。大変申し訳ありませんでした。
自分で色々と調べているうちに、3DCGの世界では、Alias Mayaと言うソフトウェアが業界標準になっていることを知り、書店で本をめくってみたりもしたのですが、これは流石に独学では無理そうだと感じました。
と、なるとどこかで学ぶしか方法はありません。いくつか専門スクールを見学したのですが、ちょうど大学2年生の夏休み期間で卒業制作を作れるような週末コースが見つかり、且つ東大から近いこともあって、大学1年生の1月からデジタルハリウッド東京本校に通うことを心に決めました。
しかし、東大に通いながらデジタルハリウッドにも通うと言うダブルスクールを実現させるためには、ダブルスクールが可能になるような時間を捻出しなければなりません。
でも、自分のやりたいことをやるために、大学の授業や実習をおろそかにすることだけはしたくない。
東大の最も良いところは、教養課程が2年間あり、且つ私が大学1, 2年生だった頃は2年間で必要な単位のうち選択科目に関してはどのような順番でどの時期にとっても構わないと言う、極めて自由度の高い制度を採用していたところだと思います。私はこの制度を最大限に利用し、2年間で取得しなければいけない選択科目の単位を全て東大に入学してから最初の半年間で取得しました。毎日朝9時から17時50分まで、1コマ90分の講義を毎日5コマ、計25コマ、単位を取りやすい科目ではなく、自分の興味のある科目で埋め尽くし、授業に出席して試験を受け、秋からは週に数回だけある必修の授業にさえ出席すれば良い状態にしました。「よくもまぁ大学で朝から夕方までそんなに授業詰め込みましたね…」と言われることも多いのですが、高校卒業までは毎日朝8時過ぎには学校に行き、授業が15時半頃まであり、その後夕方からは夜遅くまで塾に行ったりしていましたから、大学受験のときの勉強量に比べればたいしたことはありません。
大学1年生 1学期の時間割
こうして、晴れて大学1年の冬(2006年1月)から、授業のある平日は大学に通い、週末と授業のない時間はほぼ全て専門スクールでMayaを学ぶと言う日々がスタートしました。
入学時に提出した、当時の自己紹介シートを引っ張り出してみました。
当時から想いは変わらなかったみたいですね。卒業制作で「分子細胞生物系の映像」を作ってみたいなんて話す学生はまずいなかったのではないかと、我ながら思います。
専門スクール入学時はAlias Maya 6.5の時代でした。After Effects以外は見たことも触ったこともない状態でしたから、本当に基礎の基礎から学びました。大学に通う電車の中で、「W, E, R…move, rotate, scale」と呪文のように心の中で何度も唱えたりしたことを今でもよく覚えています。
専門スクール時代の最初の提出物は静止画課題。お題は、「この世に存在しないものを作れ」。
週1回、高々5, 6時間の授業しか無い中で、確か入学して3ヶ月頃が提出締め切りだったと記憶しています。まだMental Rayも習っていないし、Pass出力なども全く知らない状態での課題制作です。
何とか当時知っている技を持ち寄って作ったのが、この作品です。私にとって人生初の3DCG作品です。
頑張ったところと時間がなくて手を抜いたところとの差が一目瞭然であります。笑。
ちなみにこれ、自分の中では元ネタがありまして、おそらく誰にもわかって頂けないとは思いますが一応解説しておきますと、高校の生物や大学の生化学の教科書に必ず出てくる「リン脂質」です。高校生のときにリン脂質の立体構造を見たときに、「これ、CGで生き物っぽく表現したら面白いだろうなぁ。」とひらめいてしまい、それを形にしてみたものです(「リン脂質」で画像検索してみて下さい!)。一応、このCG画像では黄色の「足」と緑の「足」があるのですが、緑の「足」は、二重結合を反映して少し曲がっているという、相当にマニアックなこだわりがあったのです。
私は絵を描くセンスが本当に全くないため、所謂procedural textureで頑張りました。中学・高校時代に3DCGのプログラミングやっていたこともあり、外積・内積などのベクトル演算の知識や、Ray Tracingアルゴリズムの基礎であるLambert余弦則などの理解がMaterial制作に非常に役立ちました。
静止画課題の評価はまずまず。一息つく間もなく、今度は「15秒間架空CM制作課題」が始まりました。
ちょうどゴールデンウィークが課題制作期間と重なっていたのですが、まさかの発熱でほとんど作業が出来ず、仕方なく慌てて数秒間の素材CGのみを複数作り、あとは高校生時代に独学で勉強したAfter Effectsの編集テクニックを使い、何とか15秒に仕上げました。
私の人生初となる、CG素材を取り入れた映像作品です(音楽のみ、当時のものから差し替えてあります)。
CM制作課題が終わると、あっという間に卒業制作に取りかかる時期になります。 他のクラスメイトが皆、何かしらのキャラクターが出てくる作品を目指す中、私1人だけが、感情移入できる主人公が一切登場しない、「分子細胞生物系の映像」を作る気満々でおりました。
これは当時私が描いた卒業制作の絵コンテの1枚です。私の絵のレベルはこんなもんです…。
卒業制作の絵コンテ
美しい細胞の中をカメラが漂っている、そんな様子を頭の中でイメージしていました。
決定打となる主人公がおらず、かつ分子細胞生物系を題材にした作品ですから、絵的に美しくしなければまず誰も見てくれないでしょう。
それもあって、卒業制作ではとにかく質感とマテリアルにこだわりました。テクスチャ描きは苦手すぎて自分には無理でしたので、ここでもとにかくprocedural textureで頑張りました。
モデリングは、高校の生物の資料集や、Molecular Biology of the Cellなどに掲載されている写真やイラストをリファレンスにして作りました。プロのCGクリエーターの皆さんの目から見れば素人レベルかとは思いますが、何度も質感の実験を繰り返しました。
また、プロの作品や、綺麗な熱帯魚の写真などを日々観察し、構図や色遣いなどを独学で勉強しました。以下は当時実験的に素材を組み合わせて作ったものです。
こうして、夏休みをほぼ全て費やした初めてのフル3DCG映像作品「細胞の世界」が完成しました。
この作品は制作してから既に約6年も経ちますが、未だに私の代表作となっています。
2007年に、この「細胞の世界」は第19回CGアニメコンテストで外伝 意欲作・異色作に選んで頂き、このときの授賞式がきっかけで多くのプロのCGクリエーターの方々と知り合いになることができました(実は、「フミコの告白」で一躍有名になった石田祐康さんも外伝作として受賞されていたりします。)
この作品、一年前に立体視映像としてリメイクしました。詳細はまたの機会にお話しさせて頂ければと思いますが、我ながら、同じMayaシーンファイルを使っているのに編集技術と音楽とでここまで印象が変わるのかと驚きました。
細胞の世界3D Short Version
(上記YouTube映像は非立体視版です。)
こうして、私のサイエンスCGクリエーターの基礎の基礎が出来上がりました。これをどのように発展させるか。次回は、私の大学生時代の最大の業績である、「裁判員制度での3DCGの導入」についてお話ししましょう。
3DCGを学ぶために
一浪の上、かろうじて東京大学理科三類に入学したわけですが、東大には3DCGを学べるような環境も授業もありません(実は工学部の一部の研究室などには3DCGソフトウェアが研究用にインストールされていたりもしますが)。自分で色々と調べているうちに、3DCGの世界では、Alias Mayaと言うソフトウェアが業界標準になっていることを知り、書店で本をめくってみたりもしたのですが、これは流石に独学では無理そうだと感じました。
と、なるとどこかで学ぶしか方法はありません。いくつか専門スクールを見学したのですが、ちょうど大学2年生の夏休み期間で卒業制作を作れるような週末コースが見つかり、且つ東大から近いこともあって、大学1年生の1月からデジタルハリウッド東京本校に通うことを心に決めました。
しかし、東大に通いながらデジタルハリウッドにも通うと言うダブルスクールを実現させるためには、ダブルスクールが可能になるような時間を捻出しなければなりません。
でも、自分のやりたいことをやるために、大学の授業や実習をおろそかにすることだけはしたくない。
東大の最も良いところは、教養課程が2年間あり、且つ私が大学1, 2年生だった頃は2年間で必要な単位のうち選択科目に関してはどのような順番でどの時期にとっても構わないと言う、極めて自由度の高い制度を採用していたところだと思います。私はこの制度を最大限に利用し、2年間で取得しなければいけない選択科目の単位を全て東大に入学してから最初の半年間で取得しました。毎日朝9時から17時50分まで、1コマ90分の講義を毎日5コマ、計25コマ、単位を取りやすい科目ではなく、自分の興味のある科目で埋め尽くし、授業に出席して試験を受け、秋からは週に数回だけある必修の授業にさえ出席すれば良い状態にしました。「よくもまぁ大学で朝から夕方までそんなに授業詰め込みましたね…」と言われることも多いのですが、高校卒業までは毎日朝8時過ぎには学校に行き、授業が15時半頃まであり、その後夕方からは夜遅くまで塾に行ったりしていましたから、大学受験のときの勉強量に比べればたいしたことはありません。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
9:00~10:30 | 生命科学基礎① | 基礎統計 | 数学IB① | 記号論理学I | 日本語テクスト分析I |
10:40~12:10 | 身体運動科学 | 中級英語 | 物理学B (力学) | 英語一列① | 認知神経科学 |
13:00~14:30 | 英語二列① | 情報処理 | 熱力学B | スポーツ・身体運動I | 数学II① |
14:40~16:10 | 中国語一列① | 数学I II演習 | 中国語二列① | 物質・生命一般 | 現代思想 |
16:20~17:50 | 物質・生命一般 | 基礎現代科学 | 科学史 | 人間行動基礎論 | 応用倫理学 |
こうして、晴れて大学1年の冬(2006年1月)から、授業のある平日は大学に通い、週末と授業のない時間はほぼ全て専門スクールでMayaを学ぶと言う日々がスタートしました。
サイエンスCGを作りたい
私が選択したのは、CG業界への転職を目指す方々が大半の週末コース。大学生は私を含めてわずか2人だけでした。私以外の全員が、映画やゲーム、CM業界と言う、所謂エンターテイメントCGに憧れて入学してきた中で、私だけがサイエンスCGに憧れて入学しました。入学時に提出した、当時の自己紹介シートを引っ張り出してみました。
・受講の動機、このコースを選択したきっかけ
小さい頃にテレビで見た「NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III」に衝撃を受け、それ以来科学的な分野を視覚化するコンピュータグラフィックスにずっと興味がありました。高校でも生物の授業で「驚異の小宇宙 人体」シリーズを用いたり、物理でもイメージをつかむために海外で制作されたCGのビデオを見るなどしてますますサイエンスCGの魅力に惹かれていきました。自分の知識を活かしてそのようなCG作品を作れれば、と思い、大学とのダブルスクール可能なコースを選択しました。
・学んだことを活かして、何をやりたいか。
卒業作品などには、分子細胞生物系の映像を作ってみたいです。細胞の中では、色遣いなど多くの部分を自分のイメージで世界を表現することが出来ますので、科学的な知識・事実と自分の映像作成技術を重ね合わせて、誰にとってもわかりやすく、そして人を魅了するような綺麗な作品を作りたいと思います。
小さい頃にテレビで見た「NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III」に衝撃を受け、それ以来科学的な分野を視覚化するコンピュータグラフィックスにずっと興味がありました。高校でも生物の授業で「驚異の小宇宙 人体」シリーズを用いたり、物理でもイメージをつかむために海外で制作されたCGのビデオを見るなどしてますますサイエンスCGの魅力に惹かれていきました。自分の知識を活かしてそのようなCG作品を作れれば、と思い、大学とのダブルスクール可能なコースを選択しました。
・学んだことを活かして、何をやりたいか。
卒業作品などには、分子細胞生物系の映像を作ってみたいです。細胞の中では、色遣いなど多くの部分を自分のイメージで世界を表現することが出来ますので、科学的な知識・事実と自分の映像作成技術を重ね合わせて、誰にとってもわかりやすく、そして人を魅了するような綺麗な作品を作りたいと思います。
当時から想いは変わらなかったみたいですね。卒業制作で「分子細胞生物系の映像」を作ってみたいなんて話す学生はまずいなかったのではないかと、我ながら思います。
専門スクール入学時はAlias Maya 6.5の時代でした。After Effects以外は見たことも触ったこともない状態でしたから、本当に基礎の基礎から学びました。大学に通う電車の中で、「W, E, R…move, rotate, scale」と呪文のように心の中で何度も唱えたりしたことを今でもよく覚えています。
専門スクール時代の最初の提出物は静止画課題。お題は、「この世に存在しないものを作れ」。
週1回、高々5, 6時間の授業しか無い中で、確か入学して3ヶ月頃が提出締め切りだったと記憶しています。まだMental Rayも習っていないし、Pass出力なども全く知らない状態での課題制作です。
何とか当時知っている技を持ち寄って作ったのが、この作品です。私にとって人生初の3DCG作品です。
頑張ったところと時間がなくて手を抜いたところとの差が一目瞭然であります。笑。
ちなみにこれ、自分の中では元ネタがありまして、おそらく誰にもわかって頂けないとは思いますが一応解説しておきますと、高校の生物や大学の生化学の教科書に必ず出てくる「リン脂質」です。高校生のときにリン脂質の立体構造を見たときに、「これ、CGで生き物っぽく表現したら面白いだろうなぁ。」とひらめいてしまい、それを形にしてみたものです(「リン脂質」で画像検索してみて下さい!)。一応、このCG画像では黄色の「足」と緑の「足」があるのですが、緑の「足」は、二重結合を反映して少し曲がっているという、相当にマニアックなこだわりがあったのです。
私は絵を描くセンスが本当に全くないため、所謂procedural textureで頑張りました。中学・高校時代に3DCGのプログラミングやっていたこともあり、外積・内積などのベクトル演算の知識や、Ray Tracingアルゴリズムの基礎であるLambert余弦則などの理解がMaterial制作に非常に役立ちました。
静止画課題の評価はまずまず。一息つく間もなく、今度は「15秒間架空CM制作課題」が始まりました。
ちょうどゴールデンウィークが課題制作期間と重なっていたのですが、まさかの発熱でほとんど作業が出来ず、仕方なく慌てて数秒間の素材CGのみを複数作り、あとは高校生時代に独学で勉強したAfter Effectsの編集テクニックを使い、何とか15秒に仕上げました。
私の人生初となる、CG素材を取り入れた映像作品です(音楽のみ、当時のものから差し替えてあります)。
CM制作課題が終わると、あっという間に卒業制作に取りかかる時期になります。 他のクラスメイトが皆、何かしらのキャラクターが出てくる作品を目指す中、私1人だけが、感情移入できる主人公が一切登場しない、「分子細胞生物系の映像」を作る気満々でおりました。
これは当時私が描いた卒業制作の絵コンテの1枚です。私の絵のレベルはこんなもんです…。
卒業制作の絵コンテ
美しい細胞の中をカメラが漂っている、そんな様子を頭の中でイメージしていました。
決定打となる主人公がおらず、かつ分子細胞生物系を題材にした作品ですから、絵的に美しくしなければまず誰も見てくれないでしょう。
それもあって、卒業制作ではとにかく質感とマテリアルにこだわりました。テクスチャ描きは苦手すぎて自分には無理でしたので、ここでもとにかくprocedural textureで頑張りました。
モデリングは、高校の生物の資料集や、Molecular Biology of the Cellなどに掲載されている写真やイラストをリファレンスにして作りました。プロのCGクリエーターの皆さんの目から見れば素人レベルかとは思いますが、何度も質感の実験を繰り返しました。
また、プロの作品や、綺麗な熱帯魚の写真などを日々観察し、構図や色遣いなどを独学で勉強しました。以下は当時実験的に素材を組み合わせて作ったものです。
こうして、夏休みをほぼ全て費やした初めてのフル3DCG映像作品「細胞の世界」が完成しました。
この作品は制作してから既に約6年も経ちますが、未だに私の代表作となっています。
2007年に、この「細胞の世界」は第19回CGアニメコンテストで外伝 意欲作・異色作に選んで頂き、このときの授賞式がきっかけで多くのプロのCGクリエーターの方々と知り合いになることができました(実は、「フミコの告白」で一躍有名になった石田祐康さんも外伝作として受賞されていたりします。)
この作品、一年前に立体視映像としてリメイクしました。詳細はまたの機会にお話しさせて頂ければと思いますが、我ながら、同じMayaシーンファイルを使っているのに編集技術と音楽とでここまで印象が変わるのかと驚きました。
細胞の世界3D Short Version
(上記YouTube映像は非立体視版です。)
こうして、私のサイエンスCGクリエーターの基礎の基礎が出来上がりました。これをどのように発展させるか。次回は、私の大学生時代の最大の業績である、「裁判員制度での3DCGの導入」についてお話ししましょう。