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第32回:カメラの構造と特徴を学ぶ カメラの設定が変わると、見る人の気持ちが変わる3
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こんにちは、パーチ長尾です。
ここ数回「カメラの構造と特徴」についてお話ししています。
海外のアートスクールでは、3DCGを学ぶコースにも実写撮影や編集、カメラについてのカリキュラムがあるそうです。特に映画産業では実写撮影との合成が多いので、3DCG制作側も知っておく必要性が生まれたのが原因だとか。3DCGを活用し始めた当初は合成がうまくいかず、撮影現場に行っても双方が話し合うこともできなかったそうですね。
私がよく制作している【広告用の3DCG写真】も同じような状況です。3DCGが導入された当初(今から10年ほど前)は「質感が本物っぽく見えればいい」「撮影よりコストが低ければいい」という感じでしたが、3DCGが写真の代わりになることが普及し始めた5年ほど前から、「写真の時と同じように商品を魅力的に見せてほしい」という要望が出始めました。
つまり、写真家の視点・ノウハウ・感覚を持った3DCGフォトグラファーが求められるようになったんですね。
実写と合成するにしろ、写真の代わりにするにしろ、18世紀後半から始まった写真術の延長に3DCGがあるかぎり、私たち3DCGクリエイターが写真術をマスターして、先人の築いた物を継承する義務がある!と言えます。
ということで、よりわかりやすく写真術について考えていきましょう!
【ボケ】は人の心をがっちりつかむ!
「もっと背景をぼかして、手前の人物にフォーカスするんだ!」どこかの制作現場で聞こえてきそうなディレクターの言葉ですね。
【ボケ】はそれほどに重要で、物語をわかりやすくしたり、人の心を情緒的にしたりします。
私が尊敬するアンセルアダムスという写真家は「f/64」というグループを作り、手前から奥までピントが合った写真を追求していました。逆に今はやっているのは画面のほとんどがボケている「ピンボケ」「スローライフ」な写真です。 どちらも人の心をつかむ素晴らしい写真ですが、その時代の人の心が求めているものが変わっているだけで、【ボケ】に強くこだわる活動があるほど【ボケ】は大事な存在です。
この【ボケ】は《被写界深度》とも言います。 構造的には、レンズ内部に入っている《絞り》という、人間の目では《虹彩》と同じような部分でコントロールしています。本当の目的は入ってくる光の量を調整しているんですが、その調整がボケの具合を変化させることから、《絞り》調整は【光量】と【ボケ】の両方をコントロールするために利用します。
しかし3DCGでは光量もカメラ側の露出も自在に変化できるので、【光量】をコントロールする点については考える必要がなさそうです。 実写撮影では、その日の天候(太陽の明るさ)、屋内照明の量など、光量は大きな要素となります。
ということで【ボケ】にのみ絞って考えれば良さそうです。
3DCGはもともとベタピン(業界用語で全ての面にピントが合っている状態を指します)でレンダリングし、その後にボケを作り出す計算を行います。
そのためカメラの構造と違った現象が起きて不自然になることもあります。
特に Z深度情報を使ってポスト処理でボケを作る際には注意が必要です。
図1「3DCGレンダリング ベタピン」 円柱を数本立てたシーンをレンダリング。
図2「3DCGレンダリング 被写界深度機能 ON」 3ds Max のカメラについている被写界深度機能を使ってレンダリング。ピントを合わせた3本目の円柱の前後がきれいにボケている。
図3「レンダリング後に Adobe Photoshop で処理」 Z深度情報を使って、Photoshop の「ぼかしレンズ」フィルタでボケを作った。
図4「図3で使用したZ深度情報」 赤い点でピントを合わせため、手前の情報が消えた真っ白な状態。
図1はレンダリングしたままのベタピン状態、図2はカメラの被写界深度機能を使用してレンダリングしたものです。
図3は、Z深度情報を書き出し、Photoshop で【ボケ】をつけたものです。図4がZ深度情報ですが、赤い丸がついた点にピントが合うようにしました。Z深度はピント面より手前の情報が書き出せないため、図3は手前のボケがないものになってしまいました。
ここで、ピントがある領域について考えてみます。
図5「ピントの合う領域」 左のカメラから、中央右にいる人物にピントを合わせたときのピントのある領域。
図5のようにカメラの CCD に平行な位置がピント面になります(赤いライン)。そのピント面から前後にピントが合っているように見える領域(薄い赤の領域)があり、より強く絞る(絞り値 f を大きくする)とその領域が広がっていきます。
ピントの合う領域はピント面の前後で違います。奥の方が広く、手前が狭い。 つまり【手前の方がより強くボケる】ということです。
ポスト処理の際にピント面の前後を均等にぼかすのではなく、手前になるほど強くぼかすようにするとより実写に近いリアリティが得られます。
それと、このピントが合っている領域はピント面の距離と比例しています。そのため遠くにピントを合わせたときはピントが合っている領域も広くなり、近いと領域は狭くなります。
この減少を利用してポスト処理に気をつけるとリアルになります。1m程度の距離にある被写体や、接写をするようなシーンの場合は、かなり強くぼかすとよりリアルになる、と覚えておくと勘所を忘れずに済みます!
図6「接写レンズを使った写真」 絞りを【開放】にしてピント面以外をなるべくぼかすようにして、柔らかな光と花の雰囲気を出す。
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