トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第36回:MentalRayとVrayどっちがいいの?

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今回の表題は読者の方にとってちょっと興味を引くものではないでしょうか。過日、本コラムの読者の方より質問がありました。「これから3dsMaxを使ってCG制作を行おうと思うのですが、MantalRayとVrayのどちらのレンダリングエンジン(以降RE)の方が良いでしょうか」という内容で、私は「簡単には答えられないので電話で話しましょう」と電話で小一時間ほど話をしてしまいました。そこでちょっと考えたのは、案外この辺りで悩んでいる人がいるのかな?という事で、これを今回のコラムのネタにしてみました。私はMentalRayを使い始めて8年弱、Vrayは5年程度と、巷に言われるMentalRay使い、Vray使いと称される方に比べれば素人の域を出ていないとは思いますので、細かな技術的な比較論をするつもりはありません。ただし、これらで仕事をしている以上、CG制作上やプロジェクトの性質上の問題点などそこそこの経験はありますので、その辺りからこの問いに答えてみたいと思います。


完璧なREは

この手の話題は同業者の間ではよく酒の肴にされる話です。その際には様々な理由・根拠を上げてどちらが良いか力説するレンダラーも多いのですが、今回の様にこれから3dsMaxを始める人、または始めて間もない人にとっては経験者の意見がそのまま参考になるのかは疑問です。そもそも初心者がこの手の内容を十分理解出来るかという問題もありますし、もっと問題なのは聞いてきている本人が漠然とした考えでどちらが良いか問うている点です。何をもってどちらが良いかという比較に対する判断の元が無いと明快な答えは出てきませんす。考えて見て下さい。あるREがあったとします。このREは誰が見ても素晴らしい表現力を持っていて、それなのに無償(又は業界最安値)で提供されています。インターフェースも秀逸で分かり易く設定も容易。一度レンダリングを走らせると月並みなスペックのPCでも高速に計算してしまいます。更にはこのREは世にあるCGソフト全てにプラグインとして提供されていてプラットフォームとなるCGソフトさえも選びません。このような万人にとってあらゆる面で素晴らしいと称されるREが存在するのなら、このRE以外のソフトは全て駆逐されこの世から消滅し、この手の疑問そのものが起こりえるはずがありません。しかし現実世界では複数のメジャーREが存在しているという事は、MentalRayにしろVrayしろ何れもこの様な完璧なソフトでは無いという事です。完璧なソフトが存在しないからこそ、この手の話題が尽きないのです。


お勧めのREは

完璧では無いにしろ「3dsMaxにお勧めのREは?」という問いの答えはあるのか? 私が回答を求められればこう答えます。「レンダリングされた絵の好きなREを選べば」と。正直言ってこの問いの内容だとこの程度の答えしか出しようがありません。恐らく別の人に聞けばその人なりの回答が出てくるのでしょう。一括りに建築CGといっても制作者のスキル、制作環境など様々です。それぞれの拘り、制約の上にRE選びを行っているのでしょうから、自分を基準にした回答は何かあるのかも知れませんが多種多様な回答があるでしょう。そろそろ結論といきましょう。万人に向けた良いREは……、「ありません!」。何だそれ!とお叱りを受けそうですが正直な意見です。しかしこれでは質問してくれた読者の方にも失礼なので、自分にあうREの選び方を私なりに考えて見ます。


REの選び方

それでは私なりの選定項目を以下挙げていきます。

1)絵の品質
自分が求める絵が作れるかどうかの判断ですね。人によってはフォトリアルかどうかと置き換えられる項目かと思います。私はREを考える際にまずレンダリングされた絵の品質を見ます。自身のデザインを表現する商売道具としての最重要項目ですのでこれが1番です。レタッチされたものはREの本質が見えにくいのでアニメーションのサンプルがあればそちらを見ます。勿論アニメーションもポスプロ次第でどうとでもなってしまいますが、建築のCGアニメーションはあまりポスプロ処理をしていないものが多いので丁度良い物差しになります。判断基準の大元は好きか嫌いか程度で私の場合はフォトリアルであるかどうかはあまり重要視しません。

2)レンダリング時間
1と同じくらい重要な項目です。どれだけレンダリングされた絵が良くても、計算時間がかかりすぎては仕事の納期に間に合いません。基本的には1と2、更に3を天秤にかけて判断します。

3)必要なハードウェアスペック
2と直接関係しますが、例えばAという絵はレンダリング時間は5分でしたといった場合に、どんなスペックのハードウェアを使用したかでその評価は変わってきます。どれだけ計算が速いREだと言われていてもハードウェアの推奨スペックが高いと導入経費に大きく響いてきます。

4)価格
言わずもがなの項目ですが、1本だけで良い場合と10本必要な場合は当然シビアさが変わってくると思います。ここで注意しなければならないのは、ネットワークレンダリングのコストです。パースであれアニメーションであれネットワークレンダリングしない事は無いと思いますので、ノードライセンスが有償の場合は複数本のノードライセンスが必要になるためコストに大きな違いが生じます。

5)設定のしやすさ(パラメータのわかりやすさ)
これは使ってみなければ分からないということと、使う人のスキルによっても判断が異なってくるため、自分と同レベルの人(又は同レベルで話をしてくれる人)の意見が重要です。私はこの辺りはあまり考えません。REの絵が良ければ何が何でもマスターしようとしますし、そういうターゲットがないとそもそも触りたくも無くなってしまうので。

6)制作環境
複数の会社で共同作業をやることが多かったり、クライアントにデータ納品することを求められたりする場合などは周囲(クライアント)とのデータのやり取りをスムーズにできるREを選択する必要が出てきます。また、一人で完結する場合が多くても、周囲の仕事仲間が多く使っているものを選ぶのも手です。何と言ったって、困った時に助けてくれる人が多くなる訳ですから。もの珍しいREを使う場合は覚悟も必要です。トラブルに遭遇した場合は自分の力だけで解決しなければならなくなるので。

大体こんなところでしょうか。1〜6と順番を付けていますが、人(会社)によってプライオリティは変わってきますし、1〜6も単体の項目というよりこれらが複雑に絡み合うので順番というよりこれら全ての項目を天秤にかけて考えることが重要です。


筆者の選択

これまでお話ししたように簡単にどのREがお勧めかは通り一遍ではお話し出来ないので、ここでは私のREの選択の話をさせて頂きます。表題ではMentalRayとVrayの2本ですが、使ったことのあるMaxwellRenderも含め、ちょっと触ったことのあるREも入れながらお話しします。(MentalRayとVray以外は触った時期が古かったり、知識が浅かったりするのであくまで私見とご理解下さい)。

私が最初に今時のREを触ったのはMentalRayです。理由は3dsMaxに無償でついてたから(笑)。勿論絵も気にいっての選択ですが、そんなイージーな理由です。ただし表現の点で言えばMaxwellRenderの絵が1番好きです。使用していない理由は計算速度が遅いからです(Ver.1.0の頃の話)。最近はだいぶ解消されたという話ですが、ノードライセンスもそこそこしたと思いますので、REを変更する又は追加して使用するには至っていません。現在はVrayの使用頻度が高くなってますが、最初の頃は外観はMentalRay、内観はVrayと切り分けてました。内観も最初はMentalRayでしたが、面光源の計算時間が遅かったのでVrayを使い始めました。私は共同作業をする事もしばしばあるので、データ授受の問題もあって外観もVrayを使うことが多くなりました。ただし今後はどうするか迷っています。というのもVrayの最新版はノードライセンスが有償になったためです。最初に計算速度の話をしましたが、それはネットワークレンダリングありきの話なので、ノードライセンスが有償か無償かはコストとして無視できない問題になります。暫くはVrayメインでいくとは思いますがMentalRayメインに戻すかもしれません。また出た当初はとんでもないグラボのスペックが必要だったirayも今どうなっているか把握してないので、良くなっているようでしたら選択肢に入れようと思ってます。irayついでにいうと今後はGPUベース(もしくはCPU+GPU)のREが頭角を現してくると思います(VrayもRTがありますよね)。GPUベースのものも表現力が格段に上がって来ている事と総じて低コストであるという理由から現在いくつか評価中です。話は脱線しますが今後は間違いなくGPUレンダラーが主流になってくると思います。最近のGPU系はちょうど20うん年前にCGソフトが乱立していた状況に近く、何かわくわくしてきます。今後GPU関連のソフトは要チェックですし、むしろこれから始める人はGPUベースを最初から使うという選択肢が先を見据えた上で賢明な選択になりそうな気がします。


最後に

今回は経験の浅い人向けに書きましたので、当たり前すぎて面白くなかった方もいらっしゃったと思います。また、「お前の書いてる事はちょっと違うぞ!」とか、「間違ってるぞ!」などありましたらどしどしご指摘下さい。指摘事項が多い場合は次回訂正させて頂きます。基本的に初心者の方の判断材料にと思って書いているので、私一人の意見よりもより多くの意見が集約された方が良いと思いますし。


MentalRay Sample:Next Picture株式会社

Vray Sample:Next Picture株式会社
今回のパースは以前もお見せしているパースですが、同一プロジェクトで外観と内観をMentalRay、Vrayと使い分けたものプラスMaxwellRenderというREの違う3枚を改めて載せてみました。筆者自身としては全て自分の絵にしているつもりなので、REの違いは重要視してないんですけれど、皆さんはどう感じられたでしょうか。因みにMentalRayは使い始めて5プロジェクト目のパースで、Vrayも3プロジェクト目程度。MaxwellRenderは初仕事で描いたものです。「習うより慣れろ。」色々考えすぎて動けなくなるより、目の前にあるものを使ってみると案外簡単に使えたりするものですよ。それがどのようなレンダリング手法のものでも、次のソフトを習得する際に必ず覚えたことは役立つので。



Maxwell Render Sample:Next Picture株式会社


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