トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第35回:中国、東南アジアを見て思うこと(その2)

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今回は前回から引き続きのお題です。前回は中国がメインの話になりましたが、今回は東南アジアの国々についてお話しします。未遂、中途、進行中と色々なタイプで建築ビジュアライゼーションを中心とした事例をお話ししようと思いますが、各プロジェクトに関しては、その性質上国名を含めプロジェクトの内容を細かにお話し出来ない事を最初にお断りしておきます。


ん〜、もったいないと思うのは私だけ?

最初は東南アジアでも近年話題の今後のアジアを牽引していくだろう国です。ここでは仮にA国とさせて頂きます。

最初私の所にコネクションを頼りに工事に関する話が来ました。A国でレジャー施設の計画があるのだが、施工技術が必要なため技術力のある日本の会社とコンタクトを取れないだろうかと。何故に私の所にこの様な話が、しかもCG関係ないし(笑)、と思いましたが、話を聞いてみると興味が湧いてきました。クライアントはA国の投資家(日本でも有名な人物の関係者)で土木から建築に至るまでの設計・施工の依頼をしたいというもので、レジャー関連の施設なのでプロジェクトの節目ではCGによるビジュアルプレゼンテーションも重要ということでした。また先の話にはなるがPRのための広告系のCGも必要との事で、更にはデザインの監修にも加われるという好条件です。これは一肌脱がねばと夢を膨らませて会社をあたりましたが、結論からいうと門前払いでした。

理由は、
1.今は日本国内の仕事が活況で人手を回せない。
2.A国は海外企業に門戸を開いているといってもやはり金銭の回収が難しいのではないかというものでした。

表だっては言われませんでしたが、クライアントが胡散臭いということもあったのでしょう。私が考えるに2の理由が全てだと思います。もちろんA国でも実績を持ってる会社の話なのですが、A国のような新興国の場合の最初の足がかりは政府絡みが殆どです。官絡みの場合はその後も含めて官が保証してくれるようなものですので進出のハードルがかなり下がります。しかし今回はクライアントが民間なため途端腰が引けたのでしょう。

日本の担当者(結構上の人物)からみれば、国内が活況で実績を上げている時期に何を好んで危険な橋を渡らなければならないのか? 自身の進退から見ればネガティブな要素が強すぎると考えたのも無理も無い話ですが、会社全体としてみればどうでしょうか。この手の新興国の仕事で官の元に動いている限りは安心ではあるでしょうが、本当の市場にはなり得ません。それは隣国を見れば顕著です。新興国が市場となるにはとっかかりは官であったにしても、最終的には民の仕事の受注にかかっていると私は思います。現時点では官の仕事しかない状況で民の仕事の依頼が来ているのです。しかも規模は大きな案件です。私が決済件を持ってたら少なくとも話は聞くし、前向きに望んだでしょう(実際にそんな権限はありませんが 涙)。

規模が大きいと言っても恐らく数十億の話です。回収が不十分であったとしても、民の仕事としてその国に大きくPRが出来ます。このPRが官から入ってくる他社との差別化で中長期的な目で見れば大きなアドバンテージが築けると思うのですが間違っているでしょうか。海外の仕事なので私も中規模の会社に打診などはしてません。回収できない際に赤字として計上しても会社が傾くことは無いところにコンタクトを取っているつもりです。赤字と考えるか、今後を見据えた宣伝広告費と考えを発展させられるかの違いだと思いますが、この辺りが日本の建設会社の限界なんですかね。グローバル社会においてこの様な状況で済んでいる建設業の先行きが老婆心ながら心配になる出来事でした。


パース?アニメーション?どちらを選択する?

次に紹介するB国もレジャー施設を含めたコンプレックスで大規模な施設の話です。この話は官絡みで動いているプロジェクトです。プロジェクトには官は勿論、金融関係、通信関係、建設関係、etc.、と関係会社が多いなか、コンサルタントとして知り合いが参画していました。企画がほぼ纏まりB国に対してプレゼンテーションを行わなければならない時期に、パースを描いて貰えないかと件の知人から依頼が来ました。

面白そうな話なので快諾して打合せを始めたのですが、パースを描くには「?」という状況でした。緑も多く取り込んだ施設で、その部分の雰囲気は分かるのですが、施設に関しては面積と配置を決めただけ(箱が並んだだけ)の状態でした。手描きであれば腕さえあればこれでも何とか魅力的な施設に見せる事は可能かも知れませんが、CGオンリーの私にはきつい話です。私は「金額はパースの値段プラスαで良いのでアニメーションを作らないか」と提案しました。

「パースが無理だと言っているのに何をアニメーションとか言ってるんだ?」と思った読者の方はいますか? もしそう考えているのであれば大きな間違いです。CGの場合は曖昧な状況(ここでは企画段階)であってもアニメーションは効力を発揮します。勿論、今回の制作にあたり施設として箱を並べたりはしません。私が適当にデザインをしたり、使えそうなフリーのモデルをネットからダウンロードしたりと色々とやってはいます。しかし、いかんせんその程度のモデルでは静止画だと粗が露呈してしまいます。手描きだとこの粗を筆力でカバーできるのでしょうが、CGだとモデルの作り込みしか手段が無いため、時間と費用が潤沢ならいざ知らず、一般的には失敗作が出来てしまいます。一方アニメーションであれば動きによって粗を目立たなくさせること、言い換えれば本当に伝えるべき別の事に目を向けさせる事が出来ます。またポスプロで光や光の反射、空気感、水や樹木の描写、動きのある人物の配置等でパースでは出せない時間軸をベースとした空間を表現する事が出来ます。更には音も効果的に使えるため、パースと同等の労力で成果品には大きな違いがでます。蛇足ですが、出来映えはあるにしろ静止画2〜3枚を見せるよりアニメーションの方が労力をかけていると相手に好印象(此方の本気度)を与える事も出来ます。

私の話を聞いた知人は納得してくれてアニメーションを作ることになりました。残念ながら出来たアニメーションをお見せすることは出来ないのですが、手前味噌ながら関係者には好評で、B国の官の人間も乗り気になり、話が前に進んだとの事でした。
このプロジェクトは現在第2段階に進んでいて、ここを乗り切れば実現にこぎ着けるようです。第2段階も佳境になってきた際は依頼を頂けるとの事なので、話がぽしゃらない事を祈りながらも楽しみにしているプロジェクトです。

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CG制作:Next Picture株式会社


CGの可能性を広げてくれるアジア

次のC国の話は民間のマンション建設の話です。C国の投資家に対して日本のデザイン・技術力を売りにして受注している現在進行中のプロジェクトです。受注出来ているのでこれまでの苦労話のような話では無く実際のCG利用の話をしたいと思います。

設計の受注に関しても3次元満載のプレゼで取れている仕事ですが、私の知っている諸外国の例に漏れず、随所でCG制作の話が出てきます。海外を問わず良くある設計初期段階での施主説明用のパースはまだしも、確認申請段階でもCGが必要と言われ、現在パースとアニメーションを制作中です。地方での事例がありはしますが一般的に日本ではあまり例が無い事です。何故確認申請段階でCGが必要かというと、CGによる説明を行う事で申請が通りやすくなるそうです。中国でのパースの利用に似てはいますが、流石にこれには私も驚きました。何と言っても確認申請でのCGの有用性が明確であるなら仕事は沢山ある訳ですし、フィーも設計業務の一環として位置づけられる訳ですからしっかりしています(何せ申請が通るか否かの判断材料であるのですから)。

更に話が進むと着工前後には現地でのプロモーション用パース・アニメーションの制作が控えています(用途が違うので先ほどの成果品とは別です)。模型の依頼もあるので久々中国のパスを使って模型制作を行う予定ですが、これさえもCGに取って変わる可能性があります。それはVR展示を行うことで模型の代わりに出来ないかという検討を行っているからです。メインの外観全体の模型は作ると思いますが、各住戸のモデルタイプなどはヒューマンスケールで見せる事が出来るVRがうってつけです。以前日本のマンション販売で提案はしてみたものの代理店に却下されてしまいました。きれいなパースの方が良いという理由で…。私に取っては理解不能な理由ですが、C国のクライアントは話に乗ってくるかもしれません。私は可能性が高いと思っています。といううのも新興国でVRでプロモーションをやるという事自体がプロモーションになるからです。現在制作進行中の案件ではありますが夢膨らむプロジェクトで大いに期待しています。


最後に

今回は異なる3つの事例をお話ししました。それぞれの事例は全て国が違います。関係している会社の種別も建設業だけではありませんし、その規模も大小様々です。この事はアジア諸国では様々な仕事が転がっている事を意味します。また、小さな会社でもアジアであればこれだけの内容の仕事が受注可能であることも示しています。更にはCG制作者にとってはアジアの仕事に対するきっかけは建設業だけでは無い事も語っています。私がこの手の話をすると私の出自がスーパーゼネンコンだからという事で、自分には無縁の話と思う方がいるようですが、小さな会社での例があるように、別に大手ゼネコン絡みの仕事でしか起こらない事ではありませんので、クライアントの規模に関わらずどこの会社でも起こりうる事ですし、その場合は誰もが関わるチャンスがあります。

ではどうやってチャンスを掴むか? それは自分がこれまでやって来た成果品、更にはこれから制作する成果品のPR力と、人脈の構築です。皆さんは色々な催し等に参加してますか? 勿論CGに限らずです。参加した際には必ず名刺交換は行い、ビビッと来た人には後日コンタクトを取って会いに行っていますか? 根本的な話で言えば、どの様な場面でもチャンスを逃さず営業するために自分の仕事をプレゼンテーションできるツールは常に持ち歩いていますか? このような日々の積み重ねが、否この様な積み重ねこそが有望市場への参入の足がかりの最初だと思うのですが如何でしょうか。


CG制作:Next Picture株式会社

今回は駄目になった話もしていますが、どの様な形にしろ海外の仕事は常にCG制作と共に有るということを覚えておいて頂ければと思います。日本よりも伸び代があり、発想豊かに仕事が出来そうなアジアもクライアントの選択肢に入れてみては如何でしょうか。

今回のパースは某学校のデザインコンセプト説明用のパースです。こんなパースも設計初期段階でクライアント説明用として活用されています。では今回はこの辺で。


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