トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第15回:制作費用について考える

更新日 2011.04.25

先の地震の影響が今なお続いていますが、みなさん如何お過ごしでしょうか。震災で被害に遭われた方謹んでお見舞い申し上げます。あまりの惨状と未だ解決できない諸問題に考えさせられる事が多く、改めて自身の仕事について考えさせられる今日この頃です。

今回は制作フィーについて考えて見たいと思います。というのも、先日友人のレンダラー達と飲んだ時に、「CGパースの制作費が安すぎるんじゃないか!」という意見が出て、それに対してつらつらと話をしているうちに私自身考えさせられる事があったのでコラムで取り上げてみました。これまでのコラムでも部分的に取り上げていますので被る部分もあるかと思いますが、お復習いの意味も込めて書きたいと思います。


現状の制作フィーはどうやって決定されるか

みなさんは制作内容に見合っただけのフィーをクライアントから支払ってもらってますか? 勿論、成果品のクオリティや修正対応、深夜・休日作業などをひっくるめて納得出来る金額を貰えているかということなんですが、恐らく希に儲かったと思える仕事はあっても、大半はもう少し考えてくれないかな~っというフィーで仕事をしているんじゃないでしょうか。この辺りを問題無くこなしている方がいらしたら、是非ご教授願いたいと思う位に私も制作フィーの交渉は上手くいかない事が多いのが実情です。

そもそもみなさんは制作経費をどのように見積もっているんでしょうか? 時間単価ベースで考えていますか? 時間単価であれば実費以外(儲けの部分)をどの様に計算していますか。この部分って悩ましいですよね。案外、世間の相場のような曖昧な物をベースに考えてませんか?

そもそも建築ビジュアライゼーションの相場って幾ら位なんでしょうか。話を簡単にするためパースをベースにお話ししますが、私の知る範囲ではパース1カットにつきコンペ用が10~20万前後、コンペ以降(基本設計や実施設計)で15万~20万前後、広告用が30~50万前後といったものです。この数字が高いか安いか、満足か不満足かはおいておいて、素直に?と疑問を持ったことはありませんか。

だいたいこの価格ってどのようにして決まってるんでしょうか。私は広告用パースの仕事をした事が無いので(近々、広告用パースに初参戦する予定ですが)、広告系はリアリティが少し乏しいため、広告系以外で話を進めようと思いますが、以前勤めていた建設会社でCGの外注を統括する業務をしていた経験からお話しすると、金額設定の基準となる物は一般的に言われるCGパースの単価や発注者の経験則から決められ、まともな根拠などは無かった気がします。

と言うことは恐ろしいことに制作内容に関わらず、誰が始め、いつ頃から広まったのか定かでは無い、実情に即していない「一般的な単価」やクライアントの「事情」、「思い込み」が価格設定の基準となっています。先に挙げた一般単価よりも高い場合や、もっと安い仕事も有るでしょうが、それが仕事の内容に即して上下していれば良いのですが、クライアントから見た時に「ちょっと無理をさせてしまっているから、一般的な単価より多めに支払う」又は、クライアントの一方的な判断基準で「この程度の内容なら一般単価より安くなるでしょう」といったあくまでもクライアントの気持ちだけが反映した金額になってしまっているような気がします。

ここまで読んで「私のお付き合いしているクライアントはちゃんと業務内容に即した形で料金を支払ってくれているよ」と思われた方もいるでしょうが、私が話したようなことが全てとは言いませんが多い事も事実です。

15_tomita_visualization_01.jpg
RevitでのRealtime Renderingイメージ


異業種から見た建築CGの価値

ここで以前勤めていた自動車のデザイン会社にいた時のエピソードを紹介します。カーデザイナー達と机を並べて仕事をしていた時のことです。私が講演会の準備でモニターに建築のCGパースを表示していた時に、デザイナーの一人が私に尋ねました。「冨田さん。このCGパースって幾ら位で描いているんですか?」私は「幾ら位だと思う?」と問い返しました。すると件のデザイナーは即答で「100万位ですか?」と答えました。私は驚いて自虐気味に「そんなに貰えれば苦労しないよ。20万前後かな~。30万貰えたらラッキーだね」と答えました。因みに上でお話ししているように私は広告系のパースは描いていなかったので、コンペ用のパースに関する話です。私の答えに今度は彼が驚く番です。「え~、そんなに安いんですか!」

私は冗談交じりに「そんなに払ってくれるんなら、完全に自動車業界に転身して車のパースを描くかな~」と答えましたが、彼は「このクオリティがあってそのくらいしか貰えないと大変ですね。本当に背景込みで車のCGを描いた方が良いんじゃないですか」と、私の絵を褒めてくれた嬉しさ半分と、建築CG業界の仕切りの低さに落胆半分の複雑な気持ちにさせる言葉をくれました。最初彼の言った金額は半分冗談か、はたまた私を建築CGの大家と思ってる節もあったのでその辺を考慮しての高額な回答かと思いましたが、彼にしてみればCGパースを見た素直な解答だったのです。

このエピソードから2つの事が見えてきます。1つは車のデザイン業務では(もっと言えば建築以外のデザイン業種では)、表現力などのクオリティに対して対価を支払われるという事。更に重要なもう一つの点は、私たちが常日頃描いているパースは業種によっては100万円のフィーを貰ってもおかしくはないクオリティを持っているという事です。フィーに関しては建築の世界で一般的な単価と思っている金額のなんと3~5倍です!


建築CGが安価な理由

では何故他業種に比べて建築ビジュアライゼーションの世界ではここまでフィーが安いのでしょうか。自動車は開発コストをかけているから、CGにお金が使えるんだという意見もありますが、例え自動車の開発に何百億円のコストがかかり、売り上げもそれ以上の物があるとしても、建設業だって数百億円以上のプロジェクトは存在しますし、そんなに見劣りする物ではありません。実際には収益率や業界の構造その他が違ってくるので、この後お話しする話を全てと捕らえると誤解を生じる恐れもありますが、根幹は間違っていないと思いますので焦点をぶれさせずにお話しさせて頂きます。

一番の違いはデザイン料(建築で言えば設計料)にCGの予算が組み込まれているかどうかという点です。デザインの過程でCGを使用(活用)する事が当たり前になっているか否かと言い換える事も出来ると思います。建築の世界でもパースの重要性は認識されているものの、予算を取っていないため今のような価格設定に陥っています。予算を取っていないという事は、本来設計者が全額貰いたい設計料の一部を削ってCG制作費に充てる訳ですから安くなって当然です。

自動車のデザインと建築の設計はデジタル化されている部分が大きく違う事から起きることでもありません。建築ではCG(デジタルデザイン)によって3次元を自由に操り設計を進めている設計者はまだまだ少ないのが現状だと思いますが、自動車の世界でも実はデザイナーはアナログ(スケッチ)でデザインをスタートさせることが多く、スケッチをCG化しているという現実があります。この様に異業種でありながら案外建築設計と似た環境でデザインは進められているのです。

正直、何故建築では設計料の中にCGにかかる経費を算入出来ないのか?、設計料が安いからという理由だけでは理解できません。事実海外の場合はCG経費を算入している例が多いですし、予算が確保されているため海外のCGパースの単価は私が知っている範囲では日本の2~3倍です。根幹には建設業が抱える構造的な問題、高コスト体質等枚挙にいとまがありませんが、その辺りを書き出すと迷宮入りしそうなので、ここでは深入りしません。

実際そこまで考え出すと我々の力ではどうしようもないという結論に陥ってしまいがちで、現状で考えるべき(考えられる)方策も見えなくなってしまい、良い事は何もありません。
(注:ここでは日本の現状をお話ししています。海外の場合は話が違ってきます。)

ここで考えるべきは、この様な現状でCG制作者が考える正当なフィーに近づけるためにはどうすれば良いかということです。別の観点から言えば、一般単価を上げるためにはどうすべきかと言うことです。

15_tomita_visualization_02.jpg
Revitでの mental ray によるレンダリングイメージ


その方策とは

ではどうすれば良いのか。実に難しい問題です。相手(クライアント)のいる話でもあるし、建設業の業界体質に起因するところも多々あります。いきなりネガティブな解答に陥ってしまいそうですが、策はあります。大きくは2つで、これまでの建築ビジュアライゼーションに携わってきた者達(私達)が体質改善を根気よく行う事と、視野を広げて本来のデジタルデザインの利点(恩恵)を仕事に生かすことです。

いよいよ本題ですが、ここからは次回のコラムで行を割いてお話します。もったいぶるほどの内容では無いのですが、紙面の都合上お許し下さい。本コラムのUP後、1ヶ月くらいで後編もアップできると思いますので、普段忙しくてなかなかこの様な事を深く考える時間も取れないかも知れませんが、皆さんもこの問題に対して真摯に思考をめぐらせてもらえればと思います。

掲載しているイメージはキャプションのようにRevitによるリアルタイムレンダリングの画像と、同じく mental ray によるレンダリング画像です(画像提供:株式会社ビム・アーキテクツ)。これらのイメージも次回の話題の1つです。

更新日 2011.04.25
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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