トレンド&テクノロジー / デジタルコンテンツの未来〜温故知新〜
第15回:巻田 勇輔(KASSEN VFXプロデューサー)
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CGと縁の深い方々にお話をうかがい、デジタルコンテンツの未来を見通していく記事をお届けする本連載。今回は2020年に設立された気鋭のVFXプロダクション・KASSENでプロデューサーを務める巻田勇輔氏に登場していただいた。一度は映画監督の道を志すも、学生時代の仲間との再会をきっかけに起業するとたちまち頭角を現し、現在は約60名のスタッフを抱え、米津玄師など数々のメジャーアーティストのMVや大手クライアントのCM、映画『ブルーピリオド』など多数の実写映画のVFXを手掛けるスタジオになるまで成長した。平均年齢30代前半の若い企業の今の働き方を追った。
【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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日藝・映画学科の同級生とKASSENを設立
東映アニメーション/野口光一(以下、野口):KASSENの創業について伺う前に、まずは巻田さんの来歴から教えていただければと思います。
巻田勇輔(以下、巻田):僕は日本大学藝術学部・映画学科・監督コースの出身です。KASSENの代表である太田(貴寛)は同級生です。
野口:日藝の監督コースではどんな授業や課題がありますか?
巻田:僕が在学していた頃は映画学科の撮影・録音コースや演技コースの学生とチームを組んで、3年生と4年生で1本ずつ映画を撮っていました。監督コースは自分の作品以外では助監督を務めるので、監督の数だけ作品がありました。
野口:その頃はどんな機材を使っていましたか?
巻田:CineAlta(SONY)や、VARICAM(Panasonic)といったデジタルビデオカメラがあり、デジタル一眼のキヤノン EOS 5D Mark IIで動画が撮れるようになった時代でした。それらで撮る人が半分くらいで、残りの半分は16mmフィルムで撮っていました。

野口:その時代にもフィルムで撮っていたんですか。何年入学です?
巻田:2007年です。大学に現像所があったんです。僕らはスタインべック(映画業界でデファクトスタンダードだったフィルム編集機)で編集していた恐らく最後の世代だと思います。
野口:日藝は多くの監督を輩出されていますよね。有名な監督というと……。
巻田:監督コース出身ではないですが、藤井道人さんや沖田修一さんがいらっしゃいますね。撮影監督だと、代表的なところでは阪本善尚さんや篠田昇さんらがいらっしゃいます。学内に篠田さんがセットアップしたCineAltaのデータがあるという噂があって、それを使えば岩井俊二作品っぽい映画が撮れると話題になっていました(笑)。
野口:巻田さんは卒業後はどうされたんですか?
巻田:大学卒業前の3月から山田洋次監督の助監督をさせていただいたんですけど、すぐに東日本大震災があり、エンタメの現場がすべて止まって、制作準備中に仕事がなくなってしまったんです。なので、本当に見習い程度の期間しかご一緒できませんでした。ただ、それでも僕は映像の仕事をしたかったので、TYOの子会社のCamp KAZというCMプロダクションに入って、震災復興に関するCMに関わっていました。そしてその後は独立して、フリーランスで制作の仕事をしていたところ、映画『約束のネバーランド』(2020年公開)に声がかかりました。
野口:それは何がきっかけで?
巻田:大学の同級生に今村圭佑がいるのですが、まず彼が撮影監督として平川(雄一朗)監督から声がかかって、今村の推薦で当時Khakiにいた太田にVFXスーパーバイザーとして声がかかりました。太田は映画が初めてだったので、映画の現場の経験がある僕が呼ばれてVFXのチームの1人として参加することになったという経緯です。そのときにCGプロデューサーをしていたのが、佐藤(大洋)です。この座組がベースとなってKASSENを設立しました。それが2020年12月のことでした。
今村圭佑
1988年富山県出身の映画監督・撮影監督。藤井道人監督作品で多く撮影監督を担当する。代表作に『新聞記者』、『ヤクザと家族 The Family』(2021年)、『余命10年』(2022年)、『青春18×2 君へと続く道』(2024年)など。この他、近作の撮影監督作品に『8番出口』(2025年)、『秒速5センチメートル』(2025年)などがある。
野口:2020年のその頃はまさにコロナ禍の真っ最中でしたね。
巻田:そうなんです。まずは赤羽橋のシェアオフィスに一部屋借りていました。そこはAutodesk Flame専用の試写室にして、同じ建物にさらにもう一部屋借りてGrading roomに改装して、少しずつ増床をしていきました。この頃にVFXスーパーバイザーの吉川(辰平)も入ってくれてオフィスも手狭になったので、2023年に現在の原宿に引っ越してきました。
野口:会社としての業務はどのように広げていきましたか?
巻田:まずCGとオンライン編集を軸にスタートし、編集技師の瀧田(隆一)加入によりEDITチーム、カラリストの根本(恒)加入によりColor Grading、吉川の長編部門はコンポジットの部分受けからVFX全体の親受けまで成長、そして2D作画アニメーション部門として「騎虎(キコ)」を加えた現在の体制になりました。
野口:KASSENはCMも映画もできるから、いろんな監督や作品に対応できると思います。VFXのお仕事はどんなルートで届くんですか?
巻田:やっぱり監督や制作担当のプロデューサーから頂くことが多いですね。CGとオンライン編集を軸にスタートしたので、それぞれの仕事に他方が参加することによって間口を広げていきました。その後、社内のCGアーティストの成長や、吉川の手掛ける長編の評判から、短編長編問わず初めての方からもお声がけいただくようになってきました。
多くの作品で活躍するKASSENの仕事術
野口:『怪獣ヤロウ!』(2025年)はどんなきっかけで参加することになったんですか?
巻田:これまた大学の同級生繋がりで(笑)。八木順一朗監督は大学を出た後、(爆笑問題などが所属する)芸能事務所のタイタンに就職して、(同作で主演を務めた芸人の)ぐんぴぃさんのマネージャーをしていて、映画を撮ることになった際に連絡が来ました。八木監督は岐阜県関市出身で、地元を巻き込んで資金を調達したりと、かなり自主映画に近い形です。制作プロダクションはエピスコープです。本作の編集技師を担当した瀧田は日本映画学校出身なのですが、制作プロデューサーと瀧田もまた大学での同級生という関係性です(笑)。

野口:学生時代の繋がりやご縁というのは本当に大事ですね。拝見しましたが、作品としてもしっかり作られて、面白かったです。KASSENがこれからどんどん大きくなって、こうしたインディー作品から離れていってしまったら寂しいですねぇ(笑)。
巻田:いえいえ(笑)。お声がけいただけるかぎり、こういったインディー感のある作品にも積極的に挑戦し続けたいです。もちろん、Netflix制作作品のような大作にも!CM、MV、そして映画にも携わるのがKASSENの特長の一つだと思っていて、それぞれの制作で経験したことが、必ず別の作品に生きるんです。Netflix『グラスハート』(2025年)の柿本ケンサク監督はCM出身の方で、以前CMでご一緒したことをきっかけにKASSENにお話をいただきました。Netflixさんのご厚意で、KASSENのYouTubeアカウントから公開させていただいた『グラスハート』のメイキング〜を見てKASSENの存在を知った別の制作プロデューサーから、他のお仕事に繋がったケースもあるので、間口を幅広く持つことは大切だと思います。
野口:『この夏の星を見る』(2025年)も良い作品でした。
巻田:この作品を立ち上げられた松井俊之プロデューサーは『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)も手掛けており、その際にKASSEN加入前の瀧田が編集技師を担当していました。
野口:そのご縁もあって瀧田がまず本作でも編集技師としてお声がけいただき、その流れでVFXもKASSENで担当させていただくことになりました。
野口:画面のレイアウトや撮影が秀逸でした。
巻田:監督との最初の打ち合わせの時点で、作品のムードが伝わってくる予告編のようなイメージビデオを見せていただき、作品全体のイメージができていました。 撮影監督は菅祐輔さんでした。
野口:撮影現場には行きますか?
巻田:僕は可能な限り行くようにはしています。『グラスハート』のときは吉川もほぼ毎日行っていました。

野口:現場を仕切れるVFXスーパーバイザーはなかなかいないですよね。その辺は上手く人をアサインしている?
巻田:今はなんとかギリギリやっている感じですね。 オンセットに特化した部署は本当に必要だと思います。
野口:作品によってはVFXプロデューサーが仕切る場合もあれば、VFXスーパーバイザーが仕切る作品もあって、それぞれの仕事の領域を敢えてカッチリ線引しない会社もあるようです。例えば、スーパーバイザーは基本的に予算管理をしなく、逆にプロデューサーは予算管理だけをして、現場に出ることがない場合もあります。KASSENではそのあたりどうしています?
巻田:予算管理に関してはKASSENも同じです。最初の工数出しでVFXスーパーバイザーに協力してもらうことはありますが、制作中は極力、予算管理はVFXスーパーバイザーの仕事と切り分けています。
野口:例外的にスーパーバイザーが映像の演出と工数管理、予算管理の両方行なっている会社さんもあります。私も両方行う場合がありますが、そうすることで工数を出したり対外交渉する窓口が一人になり、やりとりがシンプルになります 。
巻田:なるほど。スーパーバイザーがプロデューサーを兼務すれば、スーパーバイザーが出した工数をプロデューサーが計算、予算にはまらないからまたスーパーバイザーに戻して……という段取りを踏む必要がなくなる。
野口:でも本来の領域をカッチリ線引きして回っていれば、お互いに対するチェックが働くから、それに越したことはないですよね。
巻田:そうですね。KASSENでは多様な案件に柔軟に対応するために分業体制を採用しています。
野口:各メンバーが複数の案件を担当できるよう最適化された仕組みで、結果としてより多く広くのプロジェクトを安定してお受けできるような体制を目指しています。
野口:巻田さんはどのくらい抱えていますか?
巻田:僕はCMもMVも映画も見ているので、10本ではきかないですね。
野口:CMの納期はどのぐらいなんです?
巻田:ピンキリですけど、撮影してからオフラインまで3〜4日ということもざらにありますし、そこからまた1週間ほどでオンライン試写ということも。

野口:1か月かけないで仕上げる。
巻田:かけられるものもありますけど、かけらないものもたくさんあります(笑)。MVもピンキリですけど、3DCGが入る案件でもオフラインから納期まで1か月ないものもあります。
野口:それは大変ですね。映画は準備から2年ぐらいかけて作る時間イメージなので。
巻田:そうですよね。我々もどの作品に参加させていただくか判断にいつも頭を悩ませています。
KASSENに集う若者と令和の働き方
野口:DCCツールはどんなものを使っていますか?
巻田:コンポジットはFlameとNukeで、3DはMayaがメインであとはHoudiniとBlenderですね。
野口:Blenderの使いどころは?
巻田:最終ショットの前工程で使うことが多いですね。テクスチャの最初の段階とかモデリングの最初とか。若いアーティストは最初に触れるDCCがBlenderだったりします。Mayaに初めて触れるのは専門学校で、稀に専門学校を出ずに入社するアーティストはMayaを経験していない人もいます。
野口:そんなケースもあるんですか。
巻田:はい。2024年にForbes JAPANの「世界を変える30歳未満30人」に選ばれたwanoco4D(和野公星)という弊社所属のアーティストがおりまして。Blenderの特性を活かして少人数でもとんでもない規模の作品を作り上げてしまう次世代アーティストです。彼の場合は一般的なMayaのパイプラインでないフローで活躍してもらっています。
野口:AIや機械学習の使い所はいかがでしょう?
巻田:少しずつ検証を始めています。「Luma AI」は二つの素材をモーフィングさせる機能機能を使ったり、マスクを切る時にDaVinci Resolveの「AI Magic Mask v2」機能を使ったりします。ただ、使用する際には必ずクライアントの許可を得てからにしています。
野口:アセットの管理は?
巻田:スプレッドシートとFlow Production Tracking(旧:ShotGrid)を連携しながら使っています。
野口:そのあたりの連携は社内のTDのような方が担当している?
巻田:はい。システム周りの担当は3人います。Maya、NUKE、Blender、Houdiniなどのソフトのツール周りやパイプラインも扱ってくれます。

野口:そういう人はシステムエンジニア出身だったりするんですか?
巻田:世の中にはそういう方もいると思うんですが、CG制作の知識も必要なのでアーティストから転身される方もいらっしゃると思います。
野口:いわゆるプログラマ系の人も。ゲーム会社さんとか映像系もそういうケースがあるみたいです。新卒は採用していますか?
巻田:はい。
野口:よく会社の代表が日本各地の学校に行って講演してリクルート活動につなげたりしていますけど、KASSENの場合は?
巻田:学校での会社説明会も行っています。あと弊社ではSNSの運用にも力を入れているので、それで弊社のことを知って応募してくれる学生さんも多いです。最近では作品作りの「きっかけ」にフォーカスするメディア「CUE NOTE(キューノート)」を立ち上げました。ありがたいことに、多い時だと毎日のように応募があります。
野口:現状、会社全体では何人くらいですか?
巻田:社員としては60人ほどです。原宿本社であるKASSEN BASEには短編長編両方のVFXとプロデュース、で、今年の11月から赤羽橋から恵比寿に移転したGrading Roomや、中野のアニメーションチームはまた別です。そこにさらにフリーランスのアーティストの皆さんも集まって、満席になるタイミングもありますが、それでも人手が足りないことが多いです。
野口:そういう時はどうするんですか?
巻田:協力会社の方と組むことが多いですね。
野口:それは海外の会社?
巻田:国内外問わずです。積極的に海外のチームともコラボレーションするようにしています。
野口:最近は東南アジアにも良い会社が多いみたいですね。それらは積極的に見つけようとしている?
巻田:はい。力を入れています。日本のスタジオだけだと空いてない場合も多いので、どんどん探していかないといけなくて。ただ、先方は日本を含めた海外に進出しようとする意識が高く、ありがたいことに日本語が堪能な方が多いのでコミュニケーションに壁がほとんどありません。逆に僕らは日本語しか喋れないので、少し恥ずかしくなります。
野口:アニメやゲームと比べてVFXを受けてくれる会社が少ないという感覚はありませんか?
巻田:ジャンルというよりも長編をできるところが少ないという感覚はあるかもしれません。CMは個人でもできるので、僕らも相談することはあるのですが、長編になると大量のカットを捌くことになるので、ある程度信頼の置ける会社さんにお願いすることになります。
野口:リモートで働いている人はいますか?
巻田:スタッフによりますが、基本的に週1がリモートで、それ以外は出社というスタンスです。

野口:コロナ時期の設立だったから、フルリモートの方に行くのかなと思ったのですが、そうでもないんですね。
巻田:選択肢としてはあったと思うんですけど、やっぱり会って対面して作るのがいいよねというのが、僕らの総意でした。リモートで「KASSEN(合戦)する」というのも変な話なので(笑)。むしろ、コロナ禍に設立したからこそ、会って仕事をしたいと思う人が多いのかも知れません。このビルにはラウンジがあって、そこで社内交流会をしたり、企業間交流会を行なったりしています。
野口:P.I.C.S.さんと共同でワークショップをされていましたね。あれは定期的に行われているんですか?
巻田:まだ1回だけなのですが、できれば他のスタジオさんも含めて恒例化していきたいなと思ってて。P.I.C.S.さんが制作したNumber_iのMVで僕がVFXプロデューサー担当させていただいたのがきっかけで第一回を開催することになりました。僕も制作プロダクション出身なので、プロダクションがVFX部に求めているものが理解できるし、一方で自分がVFXのプロデューサーをやってきたことでVFX部の言い分もいろいろあって、お互いの立場からしか見えていないものを共有することでやりやすくなるだろうと思って。一緒に制作したMVのブレイクダウンを題材に勉強会を開催したという経緯です。
野口:素晴らしい取り組みだと思います。KASSENではデイリー、あるいはウィークリーで社内チェックをするような習慣はありますか?
巻田:案件単位ではプロジェクトチームごとに行っています。完成した案件の共有はチーム単位で行う定例会で見たり、Slackチャンネルに各自が関わった作品を上げるので、そこで周知するようなことはしています。あと、月1の社内交流会の際にYouTubeのプレイリストを流しておいたりしています。
野口:でも、会社全体ではものすごい数をこなしているでしょう?
巻田:そうですね。「これ、ウチの仕事だったんだ」と、そこで見て初めて知るようなこともあります。
野口:スタッフの年齢も若いですよね。
巻田:そうですね。 平均すると30代前半ですね。
野口:ベテランとは仕事のしづらさを感じることはありませんか?(笑)
巻田:いやいや(笑)。むしろ僕は大御所とお仕事したいんですよ。過去に憧れの作品を作られた方なので。僕で言えば、今度こそ山田洋次監督とキッチリお仕事をしたいという思いがあります。

巻田 勇輔
まきた ゆうすけ 株式会社KASSEN VFXプロデューサー。
日本大学芸術学部映画学科卒。在学中に学んだ映像演出を活かし、広告映像の制作進行として多数作品を経験。2020年にKASSEN設立に参画。CGに限らず映像全般の知識を持ち、作品をコントロールするバランス感覚の持ち主。
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT : 日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION : KASSEN