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第33回:カメラの構造と特徴を学ぶ カメラの設定が変わると、見る人の気持ちが変わる4
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こんにちは、パーチ長尾です。
ここ数回「カメラの構造と特徴」についてお話ししています。
私の仕事は広告業界と3DCG業界にまたがっています。そこでたくさんの方と会って話をする機会があります。
広告業界でもカメラマンでないと「カメラの構造」に詳しい方はいませんが、「ビジュアルが人間に与える効果」についてはカメラマンだけでなく、クリエイター、アートディレクター、デザイナー、レタッチャー等、ほとんどの職種に関わりがあるかと思います。 しかし、この効果をより適切に使うためには【カメラ】を抜きにして考えることはできず、カメラの構造と、そこから生み出されるビジュアルの効果を深く理解しているクリエイターのほうが狙い通りの物を作り出しやすいようです。
3DCG業界も同じことが言えると思いますが、そもそもカメラを使う職種がないので、その基礎理論と応用が生かしづらいという印象を受けます。もっともカメラマンの世界も徒弟制度なので、言葉による学習は少なく、基本的に「見て学べ」(何が重要かは自分で掴んでいく世界)ですから、その学習が難しいのは変わらないかもしれません。
そこで、このコラムでは3DCG制作の品質を上げるのに必要な知識・ノウハウをより分かりやすくなるよう、言葉(理論化)にして伝えるようにしています。
今回は、実写撮影レンズと3DCGカメラの違いについてです。 実は先日 Facebook のメッセージから、これに関する質問をもらいました。お答えするために実験も行ってみて面白い発見もありましたので、今回のコラムで解説していこうと思います。
では、写真術について考えていきましょう!
3DCGの歪みは、現実のレンズでも起こるのか?
質問をくれた方は、建築パースを作るときに極度に画角の大きいカメラ設定(超広角)をすることが多く、その際に周辺にあるオブジェクトの歪みが気になっているとのことでした。狭い空間を広く見せるための方法ではありますが、実際の建築撮影では超広角は使わず、広角でとどめることが多いんです。それはこの方の悩みと同じ理由で、画像が歪みすぎるのを避けるためです。また、実際の空間とイメージが違いすぎるのも問題ですしね。
このように実際の撮影でも、3DCGでも、同じように画像は歪むわけですが、両者を比較したことがないと実感がわきづらいかと思います。
そこで今回は比較実験をしてみました。
条件は以下の通りです。
● 標準/広角/超広角 3種類のレンズをテスト
● 1面がA3サイズの空間を撮影
● 撮影と3DCG画像を同一条件で比較
歪みをチェックしたいので、レンズは広角系をチョイスしました。
図1「テストしたレンズ」
標準/広角/超広角の3種類。全てNikon マウントのレンズです。
使用したカメラは Nikon D700(CCD サイズは35mmフィルムと同じ)です。
左/正面/右/下の4面に、A3サイズのグリッドを貼り付けています。グリッドサイズは40mm x 40mmです。
図2「撮影風景」
カメラの据えつけ位置は、
・左右:中心
・上下:下から2.5グリッド
・前後:左右面の手前端
図3「キューブの位置」
50mm角のキューブを4つ置きました。下がカメラ側です。
撮影では、図2のような模型を作って撮影しました。3DCGは3ds Maxを使用して、模型と同じサイズ、同じ位置にオブジェクトを配置しました。よりわかりやすくするため、グリッドの他に図3の位置に50mm角の木のブロックを置きました。
では、早速比較してみましょう。
図4は標準レンズで撮影した画像と、3DCGカメラで焦点距離50mmに指定した画像です。
● 撮影範囲:正面の一部
● 歪み:ほとんど無し(カメラには若干の樽状歪みが見られる)
図4「レンズ比較【標準レンズ】」
左が撮影、右が同じ条件で制作した3DCG。
やはり標準レンズでは、狭い範囲しか撮影できませんね。このカメラの位置は実際の屋内空間撮影時には、手前の壁にカメラマンが張り付いて撮影しているのと同じ位置です。不動産写真のような部屋をある程度表現するような場合には、標準レンズは不向きなのがわかります。
【写真】【3DCG】ともに歪みはほとんど見られません。しかし、写真の方は若干ですが、樽状歪みが見られます。樽状歪みとは、中央が盛り上がったような歪みのことです。のちほど比較する超広角レンズには極端に現れているので、見てみてください。
図5は広角レンズの比較です。
● 撮影範囲:正面+左右の一部
● 歪み:ほとんど無し(カメラには若干の樽状歪みが見られる)
図5「レンズ比較【広角レンズ】」
左が撮影、右が同じ条件で制作した3DCG。
ここで使用した広角レンズは焦点距離24mm、画角84°ですが、屋内撮影等でよく利用されるものです。屋内に限らず撮影現場では、このレンズより若干画角の広いレンズ「焦点距離21mm、画角90°」が最も大きい画角になります。これ以上のレンズは歪みが大きすぎるため、被写体のイメージを極度に歪めてしまい、人間が感じる印象とも大きく異なってしまいます。このような理由から「あえて歪みを利用する作品作り」にしか利用されず、商業写真の世界では利用されません。
図6は超広角レンズの比較ですが、ここでレンズと3DCGカメラの違いが大きく出てきました。
● 撮影範囲:全ての面
● 歪み:カメラは極度な歪み、3DCGは歪みがない
図6「レンズ比較【超広角レンズ】」
左が撮影、右が同じ条件で制作した3DCG。
ここで使用した超広角レンズは焦点距離15mmですが、画角180°(対角)という俗称【魚眼レンズ】です。魚の目のようにレンズが筐体からせり出し、180°を見渡すことができるレンズです。
商業写真で使われることはほぼありません。以前に流行した「鼻デカ写真」(犬の写真をよく見掛けましたね)で利用され話題になりましたが、風景写真でも滅多に使われません。やはり極度な歪みからくる非現実的な表現のため利用されることが非常に少ないレンズと言えます。
では、どこで利用されているかというと、代表的なのは水中写真や、3DCGで利用する HDRI 作成です。
比較を見てみると、撮影では、極度な歪みによって本来は小さくなりすぎてしまう中央部分を大きく見せつつ、周囲まで写し込むことができているのがわかります。
一方で、3DCGにはこのような歪みがないため、かえって人間が受ける印象とは異なった画像となっているのがわかります。
標準/広角では全く同じ画角で比較することができましたが、超広角では実写レンズと同じ画角では比較ができなくなりました。そこで、中央部で似たような印象を持つ画角から、レンズと同じ画角までの3種類の画像で比較してみました。
3DCGの3つの画像はいずれも、木製キューブとグリッドの形状が中央から離れるほど「伸びている」のがわかります。これに比べると撮影は丸く歪んでいるとはいえ、キューブもグリッドも見た目に近い形状を保っているのがわかります。
3DCGの画角120°は、撮影の木製キューブと配置が似ていますが、キューブとグリッドの歪みが気になりますし、空間の広さが実際よりも大きく感じてしまいます。
画角165°は、撮影の左右のグリッドと同じ範囲を入れ込みましたが、画像は完全に破綻しています。
画角175°は、撮影レンズの画角とほぼ同じですが、さらに破綻が進みました。165°とはたった10°の違いしかありませんが、画像は極度に変化しています。このあたりの画角になるとちょっとした違いが大きな変化になって現れてくるのがわかります。
このような比較から、【超広角】の使用は避けた方がいいことがよくわかりました。もし利用するとしても撮影レンズのように歪みを入れた方がよさそうです。
しかし、現実の撮影では【超広角】レンズが使用されていないことから、この画角での制作は避けるべきかもしれません。
なぜなら、私たち人間は「過去の経験」に頼って生きています。そのため普段見慣れない「超広角で制作された画像」に大きな違和感を持ってしまいます。これはビジュアル制作者としては望まない結果だと思います。内容よりも違和感が先に立ち、否定されてしまうからです。
逆にこの【違和感】を利用することも可能です。あえて違和感を持たせたいとき、人を不安な気持ちにさせたいときには非常に効果的です。ただし、今回の結果でわかったように120°を超えるような極度な画角は画像が破綻してしまうので注意が必要ですね。
今回は実写撮影レンズと3DCGカメラの違いについて解説しましたが、いかがでしたか。
【カメラ】の構造と、そこから生み出されるビジュアルの効果を知ることで、今後の3DCG制作の品質を上げるのに、役立てていただけると嬉しいです。
また普段から疑問に思っていることなどがあったら、facebook で教えてください。
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それと、一つお知らせがあります。 本連載の第12〜16回と、第25〜29回でも解説していた「カラーマネジメント」という色管理システムに関するセミナーを、5月に銀座で実施します。
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では、次回もお楽しみに。