トレンド&テクノロジー / 3DCG の夜明け 〜日本のフル CG アニメの未来を探る〜
第15回:吉浦 康裕 氏(アニメーション監督)
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- コラム
日本におけるフルCGアニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回は2016年11月に『機動警察パトレイバーREBOOT』を発表し、多くのファンから喝采を浴びた吉浦康裕氏に登場していただいた。学生時代からCGを使った個人作家スタイルでオリジナル作品を作り続けた吉浦氏。初の「原作モノ」となった本作においてもそれまでの方法論を積み上げ、CGを使った特撮スタイルを「パトレイバー」に導入して作り上げ、自身をして「得意技が全部ハマった」と言わしめる会心の作になった。その原点にある“空間フェチ”になったきっかけから、アニメーション作家活動を始めたときのようす、そして監督としての悩みや葛藤まで、率直に語ってもらった。
【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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幼稚園時代の遊びがCGによる空間設計のきっかけに
東映アニメーション/野口光一(以下、野口):今回の『パトレイバーREBOOT』(以下、『REBOOT』)に先立って、同じ「アニメ(ーター)見本市」(※1)で公開された『PP33』(※2)を拝見して、吉浦監督は特撮的な映像作りもされるんだと驚きました。そしてそれが『REBOOT』にも活きていると思います。
※1 アニメ(ーター)見本市
2014年からスタートしたドワンゴとスタジオカラーによる共同企画。さまざまなアニメクリエイターがニコニコ動画で短編を発表する。内容は実験的な映像からパイロットフィルム的なものまでさまざま。
http://animatorexpo.com/
※2『PP33』
2015年、「アニメ(ーター)見本市」で公開された。巨大怪獣と巨大ロボットのバトルを特撮的に表現した短編アニメ。
http://animatorexpo.com/powerplantno33/
吉浦:その感想は僕も自分に対して思ったことです。それまでは会話劇を中心とした作品ばかり作ってきたものですから(笑)。『PP33』の特撮要素については、『サカサマのパテマ』(2013)以来、ずっとお仕事をさせてもらっている美術監督の金子雄司さんからのアイディアが大きいんです。彼は怪獣好きで、『キルラキル』(2013)の美術監督の際に特撮的なブック(※3)を描いたら、「これで怪獣ができるんじゃないか?」と思ったそうです。そこで僕のところに「僕がブックを書いて吉浦さんが撮影して動かしたら“ブック怪獣“の映像ができるんじゃない?」という提案をされまして、そこから企画がスタートしました。
※3 ブック
キャラクターの手前に来る美術素材。切り抜きをすることもある。『PP33』ではブックを重ねることによって巨大怪獣のゴツゴツした表皮を表現している。
野口:撮影はAfter Effectsですか?
吉浦:はい。ひとりで撮影を担当しました。制作に先立って、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんに「特撮とは何ぞや?」ということをお聞きしたんです。すると、「特撮とはトンチ」とのことで、「画面の奥にある大きなクリーチャーを表現するには、その手前にビルや電柱を配置する。このシンプルな理屈です」といった見立てのコツを教えていただきました。それで「つまるところ、特撮とは空間構成とレイアウトなんだ」と理解できたときに、自分にも特撮的なアニメが撮れるのではと思ったんです。今までは、きちんと空間設計をした教室や店内が舞台の作品を作ってきたので、特撮のようなオープンな場所でもそうやって設計して作っていけば派手な映像を撮れるかもと。それに、ぶっ飛んだ作画でガンガン暴れるものよりは特撮的な構図を構えてドッシリとしたものがゆっくり動く方が、同じ派手さにしても自分に合っている気がしたんです。
野口:『REBOOT』のオーディオコメンタリーで「今の人は手前に車があって奥に怪獣があるという構図を実相寺さん(※4)じゃなくて庵野さんって思うんでしょうね」っておっしゃっていましたが、吉浦監督ご自身は特撮をよくご覧になっていた方ですか?
実相寺昭雄(1937〜2006)。映画監督・脚本家。『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』におけるシリアスな作風や独特の撮影構図は後の映像作家に大きな影響を与えた。庵野秀明もそのひとり。
吉浦:僕はライトな特撮ファンで、『ガメラ3』とか『パシフィック・リム』とかが好きなんです。しっかり観たのは大人になってからですね。『ガメラ3』のテレビの特番で渋谷を破壊するシーンを見て、「日本の特撮ってスゴいんだ!」とはじめて思ったくらいの初心者。なので、その影響は自分の中にずっとあって、『PP33』も『REBOOT』も言ってしまえば『ガメラ3』のあのシーンを延々とやっている感じですよね。下に人がいて奥にビルがあってその向こうにガメラがいるという。
野口:そういう画とか2階のベランダから見ている画とか、アニメでは狭い空間をレイアウトするのがなかなか難しいと思うんです。それを可能にしたのはCGでレイアウトをしているからかなと。
吉浦:そうですね。あれを手描きでやろうとしたらレジェンド級に上手い人を揃えないと難しいと思います。今回は本当に自分の得意技が全部ハマったなという感触がありますね。
野口:例えばの話ですが、あのような特撮的なアニメ作品を90分の尺で作ろうと思えばできますか?
吉浦:できると思います。もちろん、労力においてアクションシーンとそれ以外のシーンでの緩急は必要ですが。『パトレイバー』は比較的CGレイアウトやロケーションが組みやすいのかなと思いました。
野口:レイアウトをするためのセットCGは最初に自分で作られるんですか?
吉浦:自分で作ったり仲のいいCGモデラーに頼んだりと、半々ですね。『REBOOT』も半分くらいは自分で作ったんですけど。
野口:それは素体みたいなラフなモデルを作るんですか?
吉浦:そうですね。そういう作り方ばかりをしてきたので、単純なモデルでも背景原図を起こすときに必要な情報量というのがなんとなく見えるようになってきました。
野口:それは絵コンテの前に作業を終えてしまうんですか?
吉浦:今までは絵コンテ前にやっていたのですが、今回はまず絵コンテを切ってから作るというやり方にシフトしましたね。
野口:ちなみにソフトは何をお使いですか?
吉浦:3ds Maxです。
野口:それは学生の頃からですか?
吉浦:学生の頃はMacユーザーでStrata Studio Pro(以下、Strata)を使っていました。買ったのが高校生のときで、ちょうどその頃はセガサターンとかプレイステーションが発売されてゲームにCGが導入され始めた頃でした。それで雑誌の広告で『MYST』(※5)を見たときにものすごい衝撃を受けて一目惚れをしたんです。あの島は歩いたら10分くらいで1周できる島なんですけど、いろんなギミックがあって、ここに仕掛けがありそうだとか1枚の絵からでもすごくワクワクするものでした。昔からそういう絵が好きだったんですよ。子供の頃もピーターラビットとか色々な動物の家の断面図が載っている絵本が大好きでした。通っていた幼稚園も山の中にあって、吹き抜けになっていたり、子供しか入れないような謎の通路があったり、園長室がロフトになっていて螺旋階段になっているとか、子供心にすごくワクワクする場所で、それもあって、空間フェチになっちゃったんです(笑)。だから『MYST』を見た時にすごくハマって、どういうソフトで作られているのか調べて、祖父母にPower Macを買ってもらって、自分ではそれまでずっと貯めていた小遣いをはたいてStrataを買ったんです。
※5 MYST
1993年に発売(PC版)され、世界中で大ヒットしたパズルアドベンチャーゲーム。美麗な3DCGで表現された島の空間を歩き回ったり、仕掛けを解いたりする。後に家庭用ゲーム機にも移植された。
野口:すごい(笑)。
吉浦:ただ、買ったはいいけど難しくて。CGどころか一眼レフも持ったことがなかったので、画角とかパースとかイマイチ分からなくて。ちょこちょこ触っていたんですけど、学校では演劇部に入っていたので、それのポスターを作るぐらいにしか使っていませんでしたね。また、その頃『攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL』とか『MEMORIES』とか、森本晃司監督の『EXTRA』といったデジタル系のアニメを観て、自分の好きな空間をCGで作りつつ、そこに手描きのキャラを載せればアニメを作れるんじゃないかなと思ったんです。それで九州芸術工科大学(現:九州大学)に進学したというわけです。
野口:Strataは大学に入っても使っていたんですか?
吉浦:大学卒業まで使っていました。自分の作品で言うと『キクマナ』、『水のコトバ』はStrataです。ただ大学は、研究・開発の方がメインで、新しいデジタルVRセットとか、レンダリングの新しいアルゴリズムの研究とか、シーグラフに持っていくような方向性で、映像作品では卒業研究にはならなかったんです。そこで、手描きのキャラと背景のCGをどうやってフィルタリングして馴染ませるかという画像処理のプログラムを卒論のテーマにして、それを文書で書きつつも作例として自分の作品を提出した、というわけです。
野口:それで賞を取られて卒業後にそのままアニメーション作家活動を始められたんですか。
吉浦:はい。ちょうど新海誠監督が『ほしのこえ』で世に出た時期だったので自主制作アニメに注目が集まった頃で、『ペイル・コクーン』を商業向けに作り続けていました。恥ずかしい話、『水のコトバ』を作っている最中は、「CG世代の個人作家として有名になる最初の人になれるかも」という無謀な幻想を持っていたんです。そうしたら作り始めて3ヶ月目に『ほしのこえ』が発表されて、自分の想像していたものの10倍すごいものをいきなり見せられて(笑)。だけど、自分としては、新海さんの影響を受けて自主制作アニメを始めたのではないということは表明しておきたいですね(笑)。
『パトレイバーREBOOT』は実写とアニメのハイブリッド思考で
野口:さまざなま『REBOOT』のインタビューで、影響を受けた作品として『パトレイバー』を挙げられていますね。
吉浦:はい。影響を受けた作品はいくつもありますが、そのうちの重要なひとつであるのは間違いありません。だから、今回『REBOOT 』のオファーを頂いたのはすごく嬉しかったです。
野口:好きすぎてやりづらいということはありませんでしたか?
吉浦:それはまったくなかったですね。当初は荒牧伸志監督のCGの『エヴァ』(※6)のような、フルCGで5分間イングラムが暴れるような作品も想定していたらしいのですが、僕の方から、どうせならリブートさせて下さいとお願いしたんです。今回は主に伊藤和典さん(共同脚本)と出渕裕さん(監修/メカニカルデザイン)とのお仕事が多かったのですが、おふたりともメチャクチャ大人な方でした。脚本も最初に伊藤さんが「書いてみたら?」と言って下さってあとからバックアップしてくれましたし、出渕さんもメカデザインだけではなく、さまざまな用語のアドバイスなど全体的な監修をしていただきました。僕が「こういうことをやりたいんですけど」と言うと「いいんじゃない? やってみたら」とすごく自由にやらせていただけました。オリジナルへのリスペクトを込めた新キャラを出すことも許してくれて、とてもありがたかったです。
※6荒牧伸志監督のCGの『エヴァ』
『evangelion:Another Impact(Confidential)』
http://animatorexpo.com/evangelionanotherimpact/
野口:作っていく上で難しい点は何かありましたか?
吉浦:あるカットのCGが絵コンテ通りにならない場合、僕は意図さえ合っていればどんどんアレンジする方なんです。頭の中にあるのは強固な絵ではなく、カメラを構えて、意図を守りつつも、そう見えるアングルならそれが正解というふうに後付けで決める。アニメの考えで行くと「その絵にならない、どうしよう、困った」という形になり、そこで試行錯誤するといったことありました。
野口:こういう意図ですよという、指標としての絵コンテですね。
吉浦:そうですね。CGレイアウトならではの点だとは思いますが。ただ、『イヴの時間』の頃はその指標すら描かずにとりあえずセットを組んで、CG空間で実写映画のようにロケハンをしたらいいんじゃないかと思っていたんですが、このやり方だと却って効率が悪いことに気づいたんです。やっぱり最低限の演出プランや見せ方のプランがないとやたら時間がかかるだけで終わってしまいます。たとえロケが決まっていてCGがあるにしても、最低限のプランは絵コンテで描いた上でロケーションやキャラをセットアップした方が効率がいい。今回『REBOOT』もそうやったら上手くいったので、画ありきで考える旧来のアニメのやり方の上にCGを載せるよりも、実写的な価値観とアニメの価値観のハイブリッドで作ったほうがうまくいくんじゃないかと思います。
野口:吉浦さんもよく参考にされたという『パトレイバー2』の演出ノート(※7)で、「フィルムの品格というのはほとんど美術に負っていると僕は思います」と今 敏さんがコメントをされています。これを読んだ時、何かピンときたのでは?
※7『パトレイバー2』の演出ノート
「METHODS ~押井守『パトレイバー2』演出ノート」。各カットについてレイアウトやカメラワークの意図を押井が記した書籍。メインスタッフへのインタビューも多数掲載している。今 敏はレイアウト(画面設計)で同作に参加している。
吉浦:それは非常に共感できます。
野口:映画は引いた画がないといけないし、フィルムの品格は美術にあるということの行き着く先がCGのレイアウトなのかなと。
吉浦:自分自身が絵描きではないので、それを補完する意味でCGを使っていたんですけど、その意見はすごく分かります。単純に画面を構成する面積でいうと、美術が一番広いですよね。これは決してマニアックな視点を持つ人だけにしかわからないことではなく、ふだんアニメを見慣れない人であっても、その作品の世界観がきちんと描かれていれば心に響きますし。
野口:吉浦さんは空間設計をCGでかっちり作って、カメラワークをつけて、キャラクターが作画という手法を唯一確立している方だと思うんです。『REBOOT』でロボットまで手がけられたから、次はキャラクターをCGで表現する方向に向かうのかなと思うのですが、いかがでしょうか?
吉浦:う〜ん、ちょっと語弊があるかもしれませんが、派手なアクションシーンではなく、地味な会話シーンで没入できるような画をCGキャラで作ることが出来れば、やってみたいかなとは常々思っています。
野口:ピクサーとかディズニーの方向性はいかがでしょうか?
吉浦:それならありかもしれませんね。日本のアニメのルックでフルアニメっぽいものができたらと思っているんですけど。海外のCGアニメーションのロジックに、うまいこと日本のアニメっぽい可愛さを入れつつ、ボディランゲージを入れて日本のアニメとして許せる範囲内の新しい動きの付け方を提示できたら、それに注力したいですね。ただ、まだ手描きでやらせてくれるスタジオはたくさんあるので、その方たちのお世話になりますが。それに今回のレイバーは想像以上に手描きっぽくなったから、やっぱりカラーのCG部の腕前はスゴイなと思いました。
野口:それはアニメーターの力によるものですか?
吉浦:そうでしょうね。やっぱり単純に動かすだけじゃないみたいですね。半分はもう手描きアニメくらいのことをやっているらしいので。
野口:東映アニメーションでも、カットごとにCGモデルを変形させられるようにセットアップしています。そうでないとアニメとして成立しないんですよ。そこまで手間をかけられるかどうかがひとつのボーダーじゃないかなと。
吉浦:ディズニーの『ペーパーマン』(※8)なんて、いったんアニメーションを付けたCGの上から、直感的に2Dライクな修正を加えられるプログラムを組んでいるんですよね。そういうやり方をするなら、効率的にこなすためのシステム構築から始めないといけないんですけど、やる意義はありますよね。
※8ペーパーマン
ジョン・カース監督。『シュガー・ラッシュ』と併映で公開(2012)。日本公開時の名前は『紙ひこうき』。3DCGと2Dのハイブリッドを念頭に置いて制作され、ディズニーの伝統的な表現方法を3DCGを用いて再現した。第85回アカデミー賞短編アニメ賞受賞。
野口:あれだったらOKですか?
吉浦:あれはディズニーの論法で作られているフルアニメーション芝居だからこそ許せるのかもしれません。リミテッドのコマの抜け感と自動補正できる立体のCGは食合せが悪いのかもしれませんね。3コマ作画のアニメの1枚って、ちゃんとそれが3コマぶん(0.125秒)人の目に触れられるように描かれているんですよね。でも、どこかでブレイクスルーは起きるような気はします。現在放送されているフルCGのアニメでも、目を惹くような顔のアップの画面を見ることはあります。将来的には3Dのキャラもやってみたいなとは思います。
閉塞から抜け出した吉浦が、次に目指すエンターテイメント作品は
野口:『サカサマのパテマ』の際に、アイディアの源泉を聞かれて「既存のアイデアを組み合わせることが多いです」(※9)と明言されていたのが印象的でした。いわゆる「データベース消費」的な創作というか、各種データを組み合わせてひとつのクリエイションを作り上げるという方向になっているんじゃないかと。つまり、本当にとんでもない新しいモノはみんなが着いてこないし、同じものでは既視感がある。それを上手く組み合わせるのが本音のところだと思うし、そういう作家がこれから伸びるなり増えると推測します。そうしたことを意識しての発言だったのでしょうか。
※9出典:Gigazine -「イヴの時間」の吉浦康裕監督が「アニメミライ」で得られたものについて語る
http://gigazine.net/news/20141013-animemirai-machiasobi-13/
吉浦:「アイディアは組み合わせだよ」と昔から言われていたのもあるのですが、そうなると最終的には古典や神話から引用するしかないのかな? ある程度の年齢以下の人はそれをナチュラルにやっているような気がします。それがクリエイティブにとって良いのか悪いのかを考え出すとキリがないんですけど。
野口:考えないのがいいんじゃないかな。
吉浦:そうですね。そこで葛藤したり自分を殺したりするという考えがないほうがいいのかも。
野口:僕ら古い世代にしてみると、組み合わせは真似でしかないという価値観のクリエイションかもしれないけど、今はそうではない。そういう価値観のある若い監督が出てきたのが、今の時代らしいかなというのが僕の一方的な感想なんですけど。
吉浦:『REBOOT』に当てはめると、意図的に昔の『パトレイバー』と同じアングルを出したりして、いわば“パクリ“で作っている部分はやっぱりあるんですよね。それをする上での葛藤はやっぱりありました。ただ、そもそも今回の『REBOOT』って『パトレイバー』という作品力の下駄を履かせてもらって、その上でやっているから100%自分の実力じゃないとずっと思い聞かせながらやっていたんです。これが自分のオリジナルアニメとして作った時に、果たして同じ演出を思いつくかというと、たぶん思いつかない。公式の『パトレイバー』作品を作っている以上、文句は言われないとは思っていましたが、とても不思議な気持ちになりました。ただ、演出やカット割りにもセオリーというものはあるし、自分が考えているカット繋ぎだってどこかで見たことがあるものの再生産だろうなという認識はあります。
野口:AIが進んだり、データベース化したりすれば、ヒッチコックっぽい作品を自動で作れるみたいな議論はありますけど、そうはならない。そこには人間が介在しないといけない。
吉浦:それをある程度人力でやっているのがハリウッドのメソッドなんじゃないですかね。
野口:そうですね。定型化して3幕構成とか。
吉浦:一方、そのやり方で作りすぎたために、似たような話になって飽きられるみたいな現象があるから難しいですね。
野口:企画を立てる時もプロデューサーから、この要素とこの要素を入れて欲しいなんて言われたりもするでしょう?
吉浦:田舎・夏・青春劇。そこにSFガジェットが入るのが最近のアニメ映画の流行り、とか(笑)。ただそれも全部自分の好きな要素の範疇ではあるので、それこそ上手いこと組み合わせることで、まだまだエンターテイメント性の高い劇場作品を作れるんじゃないでしょうか。『REBOOT』のおかげで、1〜2年前にあった閉塞感からようやく抜けだせたという実感はあって。娯楽に対する考え方に迷いがなくなった気がします。
野口:「『パテマ』のあと、どっちの方向に向かうのかわからなくなった時期があったけど、これでなんとなくわかった」というコメントをされていましたね。
吉浦:短編はいいんですけど、大きな労力をかける作品を作るモチベーションがなくなった時期があって。何を作ったらいいんだろうとわからなくなっちゃったんですよ。
野口:まだ30代なのに。
吉浦:(笑)
野口:他に自主制作出身でオリジナル作品ばかりを発表されている方は、それこそ新海さんくらいですかね。
吉浦:新海さんには魂というか、確固たる命題がある気がします。でも、そういう風に呼べるものが自分にはない気がしていて、ずっとコンプレックスだったんですよ。今となっては、それが勘違いだったことが分かりましたが。ただ今、自分のやりたい作品に最初に必要なのは、ピンときて前のめりに乗っかって来てくれるアニメーターの方です。「分からないけど、まぁやってみます」ではなく、「興味あります!」って共感してもらえる人。もちろんそんなにトントン拍子で進まないのはよく分かっているんですが、何とか次の大きな作品を作りたいなと思います。
野口:ぜひ大きな作品を作って下さい。その次の次くらいでいいので、東映アニメと組んでいただければ(笑)。
YASUHIRO YOSHIURA
1980年生。北海道出身。スタジオ六花代表。九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)在学中に『キクマナ』(2000)、『水のコトバ』(2002)を個人で制作。TV番組「デジタルスタジアム」や「DoGA CGアニメコンテスト」の各賞を受賞。卒業後アニメーション作家活動を開始し、『ペイル・コクーン』(2005)で商業デビュー。以降、『イブの時間』(2008-09)や『サカサマのパテマ』(2013)、『アルモニ』(2014)など、いずれもアニメオリジナル企画で脚本から撮影・編集までを手がける、個人作家スタイルを貫く稀有なアニメーション監督。2015年から「日本アニメ(ーター)見本市」で短編作品を発表。2016年には『機動警察パトレイバーREBOOT』を制作した。同作は2017年2月28日まで「日本アニメ(ーター)見本市」のサイト上で無料公開中。
http://animatorexpo.com/patlabor-reboot/
Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER : 野口光一(東映アニメーション)
EDIT :日詰明嘉
PHOTO : 弘田充
LOCATION : 東映アニメーション