トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第14回:Visualizationとは

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今回は本コラムのタイトルとなっている「建築ビジュアライゼーション」について考えてみます。

そもそも「ビジュアライゼーション」って何でしょうか?

直訳すると「目に見えるようにする」「可視化」と言った所でしょうか。一頃前には「見える化」などとも言われていました。この様に目に見えない(見えにくい)物を目に見える形で表現した物をビジュアライゼーションと呼びます。その頭に「建築」が付けば、建築業界での「見える化」ということになります。建築での目に見えるゴールは建物になります。
更に広げれば、その建物による空間の創造や、更には都市の構築までに発展します。ただしこれらは最終のゴールであって、そこに至るまでに「目に見えない建築(空間)」を目に「見える形で表現」するために様々なビジュアライゼーション手法(コンテンツ)が使われます。


ビジュアライゼーションのコンテンツ

建築業界にずっと昔からあるビジュアライゼーションの最たる例は設計図面や模型です(他業種もそうですが)。CG側の人間に取ってみれば、ビジュアライゼーションの前段階(元ネタ)に思えますが立派なビジュアライゼーションコンテンツです(何せこれがないと始まりませんし)。今やCGが大半を占めるようになってきたパースも図面の一部です。実際に大学時代の設計課題と言えばパースは必須でしたし、そもそも私は大学の図学の講義でパースの描画手法を習いました。それから提案図書などのDTPも文字にグラフやポンチ絵を加え、分かり易い表現にしたビジュアライゼーションと捕らえることができます。

私が会社に入った頃(90年初頭)からアニメーションも頻繁に制作するようになりました。暫くはCG制作者にとってのビジュアライゼーションはパースとアニメーションになりましたが、その後、DTPRコンテンツが頻繁に用いられるようになり、簡便なものとしてPowerPoint、Keynote、レベルが上がってくると、Director、Flash等を使用して制作するようになります。また、アニメーションの次の段階としてVR(Virtual Reality)が脚光を浴びました。当時は大規模なシステムにプアなコンテンツといった状況であったため思ったほど建築では使われず、今も主役にはなれていません。VRの派生としてAR(Augmented Reality)も出てきましたが、建築ではこれも今一のポジションに止まっています。

つらつらと建築ビジュアライゼーションのコンテンツと言えるものを大まかにお話ししましたが、今回のコラムでお話ししたいのは、個々のコンテンツ云々の話ではなく、全てを包括した上で、プロジェクトに対して最適な表現手法のビジュアライゼーションを構築する姿勢を持とうというとことです。


最適解を提案出来るか

多くの場合、私たちから見たクライアント(設計者等)は、「パースを2カットお願いします」とか「外観のアニメーションを作りたいのだけれど」などといった依頼をしてきます。このような依頼に対して、「内観ですか外観ですか? 」「リアルな表現にしますか? 」とか、アニメーションであれば「尺はどの位? 」「STD、HD? 」等テクニカルな事から会話をスタートさせていませんか?

この様な技術的な話題からスタートしていくと、ここで表現しなければならない事柄がぼけてきます。この際に私たちがまずやるべき事は、どういった用途・目的でパース(又はアニメーション)が必要なのか? ということをクライアントから聞き出すことです(もちろん枚数や画像サイズ、尺などの物理的な事も無視出来ませんが、それは最後の話です)。次にその話の内容からそこで表現すべき内容を明瞭にしていきます。そうすれば、パースであればパースの表現手法は自ずと決まってきますし、アニメーションのストーリーや尺も明確になってきます。またプロジェクトによってはクライアントから要求されているものよりも別の手法が適していると判断できる場合も多々あります。そのような時はクライアントに対して適した提案をしてみます。

このような手順を普段から踏んでいる方は当たり前の所行なのでしょうが、私が見聞きしたところではクライアントに逆提案をする事を躊躇している人が割と多いような印象を受けます。お客様、ましては建築のプロに対して、パース屋如きが進言してはとへりくだって考える人がいるようですが、そんな事はありません。私たちはパース、否、ビジュアライゼーションのプロとして堂々と話をするべきですし、設計者もそんなに度量の狭い人ばかりではないと思いますよ。依頼されたプロジェクトに対する最適解を提示・提案してこそビジュアライゼーションのプロとして有るべき姿だと思いますし、それによってプロジェクトを成功裏に導くことが出来れば、制作者サイドの提案がクライアントとの信頼関係を築く重要なファクターとなります。

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JARA 審査員賞(久米設計 原嶋さん)


ビジュアライゼーションのプロとしての行動

これまでお話ししてきたことは、前回のSolutionのお話しや、それ以前のコラムで話してきた事とかぶる所が多いのですが、改めてビジュアライゼーションという項目を取り上げたのには理由があります。冒頭で建築ビジュアライゼーションとは、これから建つ計画中の建築物を目に見えるように表現する事とお話ししましたがその先があります。建築は竣工後の姿が必ずしも設計者の描く完成像と同じにはならないケースが多々あります。構造技術の問題、コストの問題等理由は様々ですが、設計者のデザインを完璧に表現されるケースは希だと思います。この事を前提に考えれば、コンペ段階等で表現される建築が設計者のコンセプトを最も色濃く表現できるものであるここに気づくと思います。

これは何を意味するかと言えば、建築ビジュアライゼーションでは現時点では見ることの出来ない今後建つ建築物を表現しているだけでは落第で、現時点でも、更には建物が建ってからも見ることは出来ないかも知れない設計者のコンセプト(思い)、つまり現実的に目にする事の出来ないもの(設計者の頭の中や感性)を表現出来るかが重要だという事です。私が考えるビジュアライゼーションの仕事とは、コンセプトを目に見える形で表現出来て初めて及第点が貰えるものだと思っています。


コンセプトを表現する

コンセプトを表現する事は大変難しい課題です。私はコンセプトを表現せんがためにあらゆる手段を講じます。パースでお話しすると主役となる建築は勿論のこと、空の色や色の変化、グラデーション、雲の表現、配置、近隣の建物の表現等々かなりこだわりを持ってパースを構成していきます。また、パースやアニメーションでは表現しきれないと考えれば、別の手法や場合によっては自分も実戦投入したことの無い新しい手法を提案したりします。全ては目に見えないコンセプトを目に見える形で表現するためで、ここで妥協はしません。(最終的にクライアントに様々な理由で押し切られる事も多々ありますが。苦笑)

みなさんも(特にパース制作を主な生業にしている方)コンセプトを表現する事を主眼に仕事をしてみてはどうでしょうか。色々な高さのハードルが待っているとは思いますが、乗り越えられた時の達成感はかなりのものです。またそうした試みを多くの方が実践されることで建築ビジュアライゼーション業界が活性化していくものと私は信じています。


最後に

今回のコラムを書くきっかけになったのは、レンダラー間でパースの品評会になった時の話が発端です。非常にリアリティのあるパースで、その時は各テクスチャの質感の話や奥行き等を表現する陰影の話になりました。みなさんはパースを評価する時にどんな点を見ていますか? リアリティのある質感? それとも色調ですか?

私はパースを見る時は最初にこのパースが何を表現しようとしているのかと言う点を見ます。訴えかけようとするものがおぼろげでも感じられたら、具体的な表現を見るようにしています。逆にそのパースに訴えかけようとするものが感じられなければ、例えリアリティが高く技術的に素晴らしいものでも、かなり攻めた表現でアートの様に見えるパースでも評価の対象に出来ません。私流の表現で言えば「良くわからないパース」と言うことになります。

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JARA 選外佳作(久米設計 大沼さん)

仕事柄、人の描いたパースを評価しなければ行けない場面などで、私以外の人はあまり私のような見方をしていないのでは? と思われるコメントが多かったので、今回のコラムでビジュアライゼーションを題材に取り上げてみました。正直、レンダラーの方々がどの様にパースを見ていらっしゃるかわからないので、読者の方の中には今回のコラムは当たり前の事で終始してしまった方もいるかもしれませんが、こういう見方・考え方をあまりしたことが無い読者の方がいたら、今後はこの様な考えで仕事を俯瞰してみると、何かの気づきのような物を発見できるのではと思っています。是非試して見て頂ければ幸いです。

※今回パースを掲載したのは私のコンサル先のレンダラーの方のものです。訴えかけてくる何かがあるパースだと思います。


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