スクウェア・エニックスに聞く、在宅勤務の状況下で1,000本まで導入拡大したShotGrid(旧Shotgun)の魅力
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2021年4月1日にスクウェア・エニックスから「スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部」の設立発表が行われた。プリレンダームービーの「ヴィジュアルワークス部」とリアルタイムグラフィックスの研究開発「イメージ・アーツ部」が統合されたのが「スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部」である。映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』でディレクターを務めた野末武志氏がゼネラルマネージャーとしてチームを率い、それぞれの部署が持つ技術や特長を融合させ次世代の映像表現を追求していくという。
そして、スクウェア・エニックスは、2020年の末から在宅勤務を恒久的に制度化するという発表を行ったことも記憶に新しい。革新的な取り組みはゲーム業界で大きな話題となった。在宅勤務におけるコミュニケーションを支えるソリューションのひとつがShotgunであるという。そこで、今回イメージ・スタジオ部から堀口 直孝 氏と守随 辰也 氏の2名にオンラインでインタビューを実施させて頂いた。映像部門とゲーム開発部門の両方で 多くのユーザーがいるShotgunの魅力や在宅勤務についてお話を伺った。
--本日はよろしくお願いします。はじめに、お二人の自己紹介と担当業務についてお聞かせください。
堀口:よろしくお願いします。「スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部」でテクニカルリードを担当する堀口です。インフラ整備、アプリケーションやストレージの導入検証からMayaのプラグイン開発まで、チームで社内の技術面に関する様々な課題に対応しています。業務の効率化を実現するため、Shotgunの運用管理についても我々が担当しています。
守随:同じくテクニカルチームに所属するエンジニアの守随(しゅずい)です。パイプライン周りのツール開発から日々発生する様々な技術的なトラブルのサポート窓口として他部署との連携も多くこなしています。アーティストとプログラマのコミュニケーションを橋渡しすることも我々の重要な役割です。Shotgunに関しては、Python APIを活用したツール開発を手掛けています。レビューの補助ツールやアップロード自動化といったツール開発です。
--早速ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大から在宅勤務に移行された流れをお聞かせ下さい。
堀口:2020年3月に東京都から緊急事態宣言が発表された時に、会社の方針として全員を在宅勤務にするという決定が下されました。そこから大急ぎで在宅勤務の作業環境の整備を行いました。VPN接続のルートは以前からあったのですが全社員分はカバーしきれなかったので、情報システム部がライセンスや機材を苦労しながら調達して一気に拡充を進めたという感じです。また、「ヴィジュアルワークス部」はプリレンダーがメインのLinux環境、 「イメージ・アーツ部」はリアルタイムがメインのWindows環境というOSの違いがあるためインフラの対応にも少し苦労しました。
並行してVPN接続でネットワークドライブをマウントしてローカル環境で作業するのか、シンクライアント方式で作業するのが良いのかについても検証と議論を行いました。結果として映像制作が中心のイメージ・スタジオ部は、シンクライアント環境を選択しています。全般的に扱うファイルサイズが大きいためにVPN越しのデータトランザクションが発生すると作業負荷が重くなってしまうことが大きな理由です。シンクライアントだと基本的には自宅のローカルPCにデータを持ってくることはありません。たまに動画再生でフレームレートが気になる時にダウンロードするくらいです。
--ゲーム開発部門もシンクライアント環境なのでしょうか?
堀口:ゲーム開発を行う部署は、作業に応じたハイブリッドな環境だと聞いています。2018年からNVIDIAによるGPU-VDI環境の構築が進められており、約2,000ユーザーに対応できるNVIDIA Quadro 仮想データセンターワークステーションが整備されています。ゲーム開発や開発支援において十分にハイパフォーマンスなスペックでMayaも快適に利用ができる環境として活用されています。
一方、ゲーム開発プロジェクトによってはVPN経由でネットワークドライブをマウントして、自宅のローカルPCで作業を行った後にファイルを返すという方式を選択しているケースもあります。イメージ・スタジオ部でもどうしてもこだわる人には例外的にワークステーションを自宅に送って対応しています。リモートデスクトップでもレイテンシーの問題はほぼ気にならないレベルだと思うのですが、人によってはMayaのモデリング作業で頂点を掴む時の非常に繊細な感触などを気にされるケースなどがあるようです。
--現在の在宅勤務制度についてお聞かせ頂けますか?
堀口:ホームベース(平均週3日以上の在宅勤務)とオフィスベース(平均週3日以上の出勤)が選べるようになっています。また、毎月どちらにするか選択も可能です。選択に応じて交通費、または在宅勤務手当が支給されます。
現在のところ、「ヴィジュアルワークス部」の出身者は在宅と出社の比率が50%。一方の「イメージ・アーツ部」は、私も含めてほぼ100%が在宅を選択しています。もちろん、私もハードウェアの再起動が必要な場合など出社するケースはあります。(インタビュー時4月16日)
守隨:私も在宅勤務を選択していますが、その結果、以前と比べると時間の使い方に自由度が増して働きやすくなったなと感じています。例えば、集中して業務をこなした後に、夕方から買い物に出かけたりというのは在宅勤務ならではの自由度かなと感じます。
--逆に在宅勤務で不便だなと感じることはあるのでしょうか?
守隨:プログラム作業などは在宅のほうが集中しやすいと思うのですが、遅くまでメール対応してしまうなどオンとオフの切り替えが人によっては難しい面があるかもしれません。そういった人はオフィスベースを選択するとバランスが取れて良いでしょうね。
堀口:無駄なコミュニケーションがなくなってしまうことかもしれません。例えば、隣の席の人に気軽に相談できる状況はなくなってしまいました。また、気心がしれた仲間だと問題は無いのですが、あまり知らないメンバー同士だとお互いの負荷が見えにくいように感じます。新人ほど作業の進捗が分かりにくい傾向があるかもしれません。
以前から Shotgun を使っていたことで業務に大きな支障をきたすことなく在宅勤務環境に移行ができ、在宅勤務の状況下のコミュニケーションギャップや進捗情報の見える化を補ってくれているのかなと感じています。
--スクウェア・エニックス様全社的にはすでに 1,000 名以上のユーザー様がいらっしゃいますが、その中でイメージ・スタジオ部ではShotgunをどのように利用されているのでしょうか?
堀口:Shotgunの導入は、映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(以下、『キングスグレイブ』)の制作が最初でした。現在はゲームのカットシーン制作とアートアセット制作の管理を中心に活用しています。『キングスグレイブ』の頃の利用方法から何をどう管理すべきかを運用チームで決定しながら徐々にShotgunを発展させてきました。
一般的だとは思いますが、カットやアセットに対する修正指示のコミュニケーション、進捗ステータスの管理、ガントチャートによる期限管理、動画の共有といった部分で主に活用しています。
守随:カットシーンの制作管理についてですが、映画作品と同様にカットとシーケンスの枠組みで構成管理しています。映画は2時間ほどの尺だと思いますが、ゲームのカットシーンは映画の数倍以上の尺や物量が求められる傾向にあります。ゲームに感情移入してもらうためのドラマシーンは重要ですし、イベントによってストーリーが分岐するようなケースもあります。昨今のカットシーン制作で求められる大量の情報を適切に管理するにはShotgunのようなソリューションが必要不可欠だと感じています。
また、Shotgunのアカウント認証で利用ができる動画再生ツールのRVもイメージ・アーツ部ではメインツールとして重宝しています。主要な動画フォーマットはなんでも再生できますし、シーケンスをRV上で手軽につなげられるのが便利です。カラーマネージメントの設定を組み込んだり、コマンドラインによる出力ツールをPythonでカスタマイズしたりといった拡張性も魅力的です。RVは他に代えがきかない信頼性の高いメディア再生ツールといっても過言ではありません。
--アートアセットはどのように管理されていますか?
堀口:イメージ・アーツ部では従来から社内製のアセット管理ツールを運用しています。大量のテクスチャデータ情報、どのバージョンのシーンデータを使うのかといったファイルに関連する情報を主に扱っています。
この社内ツールの登録情報をShotgunに同期させてアセットのページ内で確認ができるようにしています。アーティストが必要な情報に素早くアクセスしたり、ディレクターが見たい情報をフィルターしたりといったデータの可視化はShotgunのほうが得意なためです。成熟した運用が行える自前のデータベースとShotgunを同期させることで、情報の見える化と集約、優れたコミュニケーション機能の活用を実現しています。
--どういった職種の人がShotgunを利用されているのでしょうか?
堀口:イメージ・アーツ部側はプロジェクトに関わる全員が利用しています。職種にはよらず、タスクが割り振られる全員が使っているイメージです。
そして、『キングスグレイブ』の頃からそうですが、モデリング、カット、エフェクトといった要素のアウトソースのために協力会社様にもShotgunを活用してもらっています。自前で社外とのやりとりを行うレビューシステムを開発するとなるとセキュリティ面など含めてかなりの労力が必要になります。Shotgunは高いセキュリティ、レビューやコミュニケーションのための機能などアウトソース管理のために必要とされる要件を満たしています。こういったアウトソース管理での利用は今後も増加してくのではと感じています。
守随:そうですね。今朝もアウトソース用のShotgunアカウントをちょうど追加したところだったりします。物理的な距離を感じさせないコミュニケーション機能は魅力だと思います。
堀口:社内での話題に戻しますと、ゲーム開発の部署でもShotgunはどんどん活用されています。イメージ・スタジオ部とゲーム開発部門ではあえてサイトを分けて運用しているのですが、プロジェクトによってはコラボレーションが必要なケースもあります。そこで、ゲーム開発部門側で更新された情報を必要に応じてイメージ・スタジオ部のShotgunサイトにフィードするといった連動を行っています。前述した社内アセットデータベースとの同期と同じように、異なるShotgunサイト間で情報をスムーズに共有することで変更にも素早く対応ができる工夫を行っています。
--ゲーム開発部門でもShotgunをご活用頂いているのですね。
堀口:秘匿性の高いプロジェクトばかりなので詳細は申し上げられませんが、コンソールゲームの開発部門でもShotgunの利用は増加傾向にあると思います。映像部門よりゲーム開発部門での利用のほうが比率としてかなり大きいです。在宅勤務が始まる前からゲーム開発におけるアートワーク制作の進捗管理やタスクの管理に活用されていると聞いています。そして、リモートワークの状況下でさらに採用が進んでいるのだと思います。
--タイトルがリリースされたらゲーム開発部門の活用事例もぜひお願いしたいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
守随:こちらこそ、ありがとうございました。実は、私は10年以上もShotgunを利用しています。あらためて魅力を聞かれると困ってしまうほどに、無くてはならない身近で便利な存在です。
堀口:Shotgunの魅力は情報が自然と集まってくることだと思います。もちろん、APIで同期させて意図的に集約している部分もありますが、チェックバックの素材や各アーティストの進捗状況などは利用者のみんなが自発的に情報を更新してくれています。情報の見える化やタスクの適切な進捗管理は、在宅勤務であるかどうかに関わらず業務の効率化において非常に重要な要素だとあらためて感じています。
株式会社スクウェア・エニックス
スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部
堀口 直孝 氏、 守随 辰也 氏
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。