【インタビュー】KLabに訊くプロジェクト管理ツール「SHOTGUN」導入事例―管理業務の負担を半分に削減?!
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関わる人数、使用するアセット数、長期化する開発期間など様々な要因によって日増しに拡大していくゲーム制作の現場において、ワークフローやアセットの明瞭な一元管理は非常に重要な意味合いを持ちます。今回はKLab株式会社クリエイティブ部 大石 煒氏とアニメーションクリエイター 朝日 秀樹氏に、『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』での事例をもとに、プロジェクト管理ツール「SHOTGUN」の実用例をお伺いしました。
ーーそれでは、お二人とも宜しくお願いいたします。まずはKLab株式会社についてと、お二人のプロフィールを教えて頂けますでしょうか。
大石:はい、宜しくお願いいたします。KLabは2000年8月に設立された会社で、ゲーム事業とその他の2つに分けられます。 ゲーム事業ではスマートフォン向けアプリを中心にモバイルオンラインゲームの企画、開発を行っております。私は2013年に入社後クリエイティブ部に所属し、海外拠点とのやり取りや外部委託の管理業務などを担当しています。
朝日:KLabGames事業部でアニメーションクリエイターをしております。もともとはガラケー時代にFlashを用いたアニメーションを制作しておりまして、『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』ではアニメーションやエフェクトなど、目に見える部分をトータルで見ていくような役割でした。
ーーありがとうございます。今回は『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』でSHOTGUNを導入されたとのことですが、それより前はどのようなツールを使ってワークフローやアセットの管理を行っていたのでしょうか。
大石:使用ツールは本当に色々ありましたね。Redmine、Backlog、Basecamp、もちろんスプレッドシートなどGoogleのツールも使っていましたし、外部パートナーとのやり取りはSlackでした。また、弊社では内製の管理ツールがありまして、こちらを用いるプロジェクトも多かったです。
ーー改修するか、外部ツールに切り替えるかの選択があったんですね。結果的には後者の選択がされた訳ですが、そこに至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか。
大石:機能、コストの両面から検討した結果です。内製ツール運用時は、毎月ツール管理のためのミーティングを行っており、その都度問題を抽出していました。ただ、これまで複数人が関わって比較的自由に機能追加をしていたため、安定性を保ちながらあらためて改修を行うという事がなかなか難しい状況だったんです。当然そこにアサインするエンジニアのコストも掛かりますし。ですから、その二択が話として上がった段階で、私の方では外部ツールの調査を始めたんです。
ーーそんな中、白羽の矢が立ったのがSHOTGUNだったということでしょうか。
大石:この調査を始める前に、まずは各プロジェクトに必要な機能をみんなからヒアリングしたんです。それらをまとめた上で、社内のエンジニアチームに「これを作って5年運用するのにどの程度コストが掛かるのか」というのを見積もってもらいました。
5年運営すると、半年改修や毎月運営に掛かるコストがあるはずなので、その部分を金額として出してもらって、その金額と世の中にある外部ツールの価格比較したんです。SHOTGUNもその中で名前が挙がりました。
ーーかなり様々なツールの費用検討をされたんですね。結果的にSHOTGUNが採用されたのはどういった理由だったのでしょうか。
大石:我々が欲している機能を全て書き出していって、候補の外部ツールごとに機能の有無を比較する資料を作ったんです。その中でSHOTGUNが一番ニーズを満たしていたので、一旦切り替えてみようという話が出た形でしたね。
朝日:私も風のうわさでSHOTGUNというツール自体は知っていました。動画がプレビュー出来て、ペン入れも出来るという凄いツールがある!というのは聞いていましたが、それがいつの間にかテスト導入がされていたという感じでした...。
実は、納品物の管理をどうする?というところで一番苦労していたのがうちのところだったという経緯もあって、『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』プロジェクトもSHOTGUNに移行しようという話になりました。
ーーこちらのタイトルは、何年ほど掛けて制作されていたのでしょうか?
朝日:およそ2年です。SHOTGUNを入れたのはリリース後ですね。制作は一旦終わっていて、ここから先、必要なものを再び外部パートナーにお願いする段階で切り替えてみようと。
ーーなるほど、運用時での切り替えだったんですね。朝日さんは実作業者として、導入前に困っていたことなどありましたか?
朝日:いえ、今までも良かったと言えば良かったんです。それこそ、リリースまでに全部間に合わせることは出来ましたので。ただ、そこから主に動画周りでさらに効率化が出来るのではないかというところもありました。基本、スプレッドシートで管理したり、Excel化して外部パートナーに渡したり、Slackでお話をしたり、先ほどから話に挙がっている内製ツールで納品物を貰ったりというところで一応の管理は出来ていました。しかし、一元化されていないと管理が煩わしいという問題がありました。
ーーバージョンが分からなかったり、リストが最新か分からないといった問題は、様々な現場で聞きますね。
朝日:自分が持っているファイルのどれが最新かが分かりづらいし、動画ファイルの納品の場合は1度動画を落として、それを動画再生ソフトで見て、赤入れするためにPhotoshopを立ち上げて保存して、また画像を貼り付けて、というのが大変だったんです。
大石:内製ツールは動画再生が出来なかったので、動画のチェックは1回ダウンロードしてサーバーに上げ直して、内部メンバーで確認するという流れがあったりもしました。プロデューサーのところに、パソコンごと持って行って「どうですか」と直接見せてましたね。(笑)
ーーそれはえらく物理的な感じと言いますか、大変だったんだろうなというのが良く分かります。
大石:フィードバックも、1個の制作物に対して何人分も貰わないといけないんです。スプレッドシートを用意して、サーバーにアップした動画のリンクをシートに貼って、フィードバックをそのシートに書いていく、という流れです。
ーーそうなると、SHOTGUNのようにツリー表示でフィードバックが出来るのは良いかも知れませんね。既存の外部ツールからSHOTGUNへの移行は、比較的スムーズにいったのでしょうか。
朝日:正直最初は見た目なども慣れなかったのですが、いろいろテストを繰り返しつつ、ステータスの項目やソートの方法などを大石が作ってくれたおかげで、どんどん自分の使い易い方向にカスタマイズされて行きました。この辺りは基本、管理者権限のある大石がやってくれていました。
大石:アカウントの管理者権限は、アカウント管理の部署に1つ、あとは私が保持していて、他の人には渡さないようにしています。
ーーそれはなにか理由があるのでしょうか?
大石:以前内製ツールの使い方をヒアリングした際、同じツールなのにプロジェクトによって使い方が全然違うことにとても驚いたんです。案件によってまちまちで、場合によってはそれが効率の悪い方法だったこともありました。また、内部メンバーの異動も案件ベースではそれなりにあって、ツールの使い方に多様性が生まれてしまうと新しい環境に適応するコストが掛かるのではないかという話もあって。だから、今回SHOTGUNの導入に際しては、きちんと同じような管理方法で統一させようという狙いがありました。
ーーなるほど、管理者権限を絞っておかないと、同じことがSHOTGUNでも起こってしまう懸念があったんですね。
大石:その通りです、同じようなことを繰り返すなら、せっかくいいものを導入しても意味がない。もちろん最初は問題ないと思うのですが、次第に...それこそ弊社は今210人ほどスタッフが関わっていますが、そうなるともう管理も難しくなってきてしまって。場合によっては勝手に設定されると困ってしまう部分もありましたので、最初にきちんと制限を設けました。
ーー運用方針をきっちりと立てているということですね。
大石:その方が研修コストも減りますから。
ーー『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』では何名のスタッフがSHOTGUNを使用されているのでしょうか?
朝日:導入時は企画、チェックする側が4人、制作は私1人、あとは外部パートナーが1アカウント分、進行管理の人が見る用で1アカウント分、SHOTGUN上は都合7人ですね。
大石:弊社は外部制作会社に対しては、弊社側でアカウントを購入してベンダー権限で外部発行を行っているんです。これは内製ツールを使っていた時からもそうでしたが、SHOTGUNの場合は外部の権限なども容易に管理出来るのがすごく使いやすかったですね。
ーー外部の方にSHOTGUNを使ってもらうようにお願いした時の反応などはいかがでしたか?外部パートナーが新たなツールを導入する際、抵抗感があったりはするものなのでしょうか。
大石:これは内製ツールを使っていた時のノウハウがあって、我々はきちんと説明書や操作ガイドラインを作っているんです。これは私が全部、社内のものも含めて全てきちんと作りました。外部制作会社にお願いする際の説明コストを減らせますしね。外部の方々からは概ね扱いやすいという意見を貰っています。抵抗感もないですね。
ーーちなみに、SHOTGUNではどういった情報を管理されているのでしょうか。
朝日:今回のプロジェクトでは必殺技の演出チェックを中心に利用してきました。そこからUI制作の管理にも活用を広げています。あとは過去のエフェクト類もバージョンアップしてバンクで登録しています。必殺技だけでも500近いカット、ダッシュなどの汎用を合わせると更に数が増えて...総数で1000弱のカット数になっています。
大石:2Dのイラスト管理も今月中にはSHOTGUNでの管理に切り替える予定です。そして、年内には一旦『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』のクリエイティブ制作を全部入れ込む予定ではあります。SHOTGUNを一部の管理に使う案件は弊社内にもありますが、全ての制作情報を一元管理するというのはこのプロジェクトが初めてで。
全部入ったときに全体の進捗管理上のガントチャートをどこまで生かせるかっていうチューニングが始り、綺麗な形になっていくのは1月、2月くらいですかね。そうなった時、はじめてトータル的な効果が分かるのではないかと思っています。
そして、キャプテン翼以外のプロジェクトでも様々なプロジェクトでSHOTGUNの採用が加速してくると考えています。
ーー過去作ったものをバンクで再利用されているとのことですが、これはどういった形で行っていたのでしょうか。
大石:例えば外部のコピーライターさんにキャッチコピーを書いて欲しい時、SHOTGUN上でプレイリストを作って共有することがあります。そのためだけにアカウント発行までしなくても、見えている成果物を簡単に外部と共有出来るんですね。
朝日:プレビューのプレイリスト機能は本当に良いですね。見る側もどれを見たら良いのか分からないというのがなくなるし、変な誤解もなくなります。チェックも一括ですしね。
大石:全体的なワークフローは基本、3DについてはMayaで制作してアニメーションを付けて、これをUnityに持っていくというやり方ですね。モーションを作ってテーマカラーを決めて、エフェクトを作ってサウンドを付ける、という、「動く」「再生する」というものはSHOTGUNで管理しています。そこに今はUIのアセットページもあって、専用のテンプレートで企画から発注、チェックまで全部この中で行っていますよ。
ーー従来の方法と比較して、SHOTGUNを導入後は、具体的にどの程度作業効率が上がったのか、または変化がありましたか?
大石:これも数字は出していて、まずは以前の仕組みでアセット1つに対してどのくらい時間が掛かるかを計算したんです。ダウンロードして、またサーバーに上げて、フィードバックをして、という流れは、5時間ほど掛かる計算でした。これとSHOTGUN導入時に軽減された時間を比較すると、26個のアセットに対しトータル135時間ほど削減できるという計算になったんです。実際のところは分からないのですけど、当時はこの時間的見積を見て、「じゃあやってみようぜ!」となったんですね。
ーーかなり理詰めでやられていますね。時間的見積が出たからこそ、きちんと運用しましょうという結論に至ったと。
大石:弊社はその辺りをきちんとやらないと、承認がなかなか通らないのです。ですが、そういったところをきちんとやったからこそ、胸を張って持っていけるような形になりました。そのために半年以上、私自身はSHOTGUNをずっと勉強してカスタマイズを続けたんですね。半年間はもう鬼のようにメールでやり取りをしていました。夜に質問メールを送って、朝に返ってきたものに対してまた質問をして...ただ、その際に本当に手厚くサポートをしてもらったおかげで、最終的に現場が使い易いツールになったと思っています。
ーー朝日さんはいかがでしょうか。実作業者として、体感ではどの程度ラクになりましたか?
朝日:大量のアセットに対して複数の工程を管理しているとどうしても情報が混乱しがちです。目的のファイルを複数の場所から探しているという時間やファイルのダウンロードを待っているといった無駄な時間がかなりなくなりました。体感としては半分以上の時間が削減出来ているようにも感じます。
ーー例えば、作業時間が半分に削減できたということで、それによって新たなメリットが生まれた、などありましたか?
大石:そうしたことで削減できた時間は、ゲームのユーザーが喜んでくれるような取り組みに使ってもらえるようにと思っています。お客様に喜んで頂けるような品質をというところです。
朝日:あとはSHOTGUNの使い方をまとめる時間もできたので、システマティックな運用のために次の人間に引き継ぐ資料を作ったりもすることが出来るようになりましたね。
大石:資料をきちんと整理して新しい担当者でも迷わずに運用出来るようにするというのは重要ですね。
ーーきれいにまとめて頂き、ありがとうございます。少し変な質問ではありますが、正直に言って残業も減りましたか?
朝日:残業に関しても、そうですね(笑)。ディレクターに確認してもらうための資料を即座に作ることが出来るようになったので。今までは夕方までに来たものを1回自分で確認し、その後情報をまとめて...という手順があったのですけど、今は一瞬で情報をまとめることが出来るので、例えば17時までに区切っていたら17時半にはプレイリストを作って見せることが出来るようになりました。1時間2時間くらいは、得してそうですね。
ーーありがとうございました。最後に、今ワークフローやアセット管理に悩んでいる方向けに、今回SHOTGUNにおいてどういったところを工夫したか、どういった部分を注意したらいいか、メッセージを頂けますでしょうか。
大石:まず、SHOTGUNのメリット的な部分は一言で言えば"カスタマイズ性"ですよね。大まかにはデータベースのようなもので、慣れると好き放題に必要な情報を簡単に引き出せるようになります。このメリットは非常に大きいです。
気を付けなくてはいけないところは、ワークフローがあらかじめしっかり決まっていないとSHOTGUNを導入しても難しいだろうということ。逆に、ワークフローがある程度固まっている現場では、本当に一瞬で使えるようになるだろうという所感もありました。二重管理は、全てではないにせよほぼ軽減出来るのではないかと思いますね。
ーーきちんとワークフローが確立している現場であれば、使うツールは変われど使う脳みそは変わらない...そしてそれを簡易化出来るというのがメリットなんですね。朝日さんは、いかがでしょうか。
朝日:制作物、動画はもちろんですがイラストのやり取りをしている方にはオススメです。特に私はプレイリスト機能が大好きでして、以前のスプレッドシートに比べるとものすごい作業時間の短縮になっています。シートを作って共有して...ではなく、SHOTGUN上だけで確認、他のツールを立ち上げることもなくその場でチェックバックも出来るというのは、本当に助かりますね。
ーープレビューの利便性とチェックバックの素早さ、というところですね。ありがとうございました。お二人は12月5日に開催予定のイベント『The day of SHOTGUN 2017』でご登壇されるとのことですが、なにか意気込み等あればここで語って頂ければと思います!
大石:私の実感として、最初の半年は正直、軌道に乗るまでは苦労しました。どうすれば良いのか、これらをどう社内に広めていけるのかを悩んでいて。今回のように成功したプロジェクトもあれば、逆に初期の段階でスムーズに行かなかったプロジェクトもあります。ですから、既に導入済みの方はもちろんですが、以前にSHOTGUNを検討したが挫折してしまったという方にも参考になるような、初期検討から運用までの一連の流れを事例としてご紹介出来たらと思っています。
朝日:大石の話と重なる部分もありますが、やはり最初の導入が一番苦労するところだと思うんです。社内への共有や外部の見せ方、UI的な見え方も含めて、ゲーム制作現場ならではの実例を出しながらお話をさせて頂きますので、参考になれば嬉しいなと思っています。
ーーお二人とも、ありがとうございました。
©高橋陽一/集英社
©高橋陽一/集英社・テレビ東京・エノキフィルム
原作「キャプテン翼」高橋陽一(集英社文庫コミック版)
©KLabGames
本記事は、「GameBusiness.jp」からの転載となります。
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。