ブロックパーティーが現実世界とCG表現をつなぐ|フィジカルな体験を重視する、3ds Maxでのリアルなものづくり
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CGの現場で「リアル」と言えば「フォトリアル」を差すことが多いかもしれない。しかし、ブロックパーティーが重視する「フィジカルな体験」や「リアルなものづくりの感覚」は、人間の生活と密接に関わる建築ビジュアライゼーションにおいて欠くことのできない刺激なのではないだろうか。CGクリエイターが口にする「リアル」という言葉は、かくも奥が深い。
株式会社ブロックパーティー
2008年9月、東京・中目黒に3D・CGパース&レンダリング制作のクリエイティブオフィスとして野口洋平氏(代表取締役)と山田将太郎氏(取締役)が「株式会社ブロックパーティー」を設立。3ds Maxを用いて五感に訴えるハイセンスな建築ビジュアライゼーションを実現している。
フィジカルな感覚を重視する先にあるもの
ーーどうぞよろしくお願いします。洗練された素敵なオフィスですね。オフィスは何フロアあるんですか?
山田将太郎氏(以下、山田):はじめは2階だけだったのですが、次第に人が増えて、今では1階から3階までオフィスを構えています。
ーー御社は3ds Maxによる建築ビジュアライゼーションを数多く手掛けられていますが、みなさん相当スキルを積まれた方々なのでしょうか?
野口洋平氏(以下、野口):実はこれまでCG経験者が入社したことは一度もないんですよ。美容師やアパレルのパタンナーといった経歴のスタッフも多く、新卒も中途もみんなCG未経験でブロックパーティーに入ってきています。
ーー3ds Maxを触ったことがなかった方々が、ここまでハイクオリティな作品を作られているということですか?
野口:そうですね。特に拒んでいるわけではないのですが、結果的にCG経験者が入社したことがないんですよね。
山田:僕も野口もファッションやインテリアといったデザインが好きなんですけど、そういったものに関する知識や関心って繋がっているじゃないですか。なので逆に「CG経験者のみ」と採用の段階で制限してしまうと、CGのテクニックに偏りすぎて肝心なデザインやアートに対する知識や関心が十分じゃなかったりするんですよね。そうすると、「デザイナーの片腕になる」というブロックパーティーのミッションからブレてしまうんです。
ーー定性的なものは教えられないですよね。しかし3ds Max未経験からいきなり現場に飛び込んでこのクオリティで作り上げられるのは驚きました。
山田:クライアントの感覚的なイメージをビジュアル化していく上で、「汲み取る力」やクライアントが追求しているデザイン感覚を理解する能力が求められます。CGの技術であればある程度教えられるのですが、そういった能力やセンスを教えるのはすごく難しいんですよね。
野口:CGの技術はがんばれば誰でも習得できるけど、構図の取り方や光の入り方といった「絵にする力」を意欲的にインプットすることに重点をおいています。
山田:結局、習得が難しくて時間がかかるのは「絵にする力」なんですよね。
野口:最初からCGモデリングの仕方を覚えてもらうのも効率は良いんですけどね。でも、ひとり立ちするまでの過程が過酷になりがちなんですよ。それで、3ds Maxをある程度まで操作できるようになったら、すぐに「絵作り」に入ってもらうようにしています。
ーー「構図や光」は建築ビジュアライゼーションにおいて重要な要素ですよね。オフィスも非常に洗練されていますし、室内の落ち着いたライティングやインテリア、素材なども細部までこだわっていますね。日中は外からの光もたくさん入ってきそうですし。
山田:そうですね、やはり多少は気を遣っています。
ーーこういった場所に集まって実際にものに触れて、環境からインスピレーションを受けて。そこから新たなアイデアに繋がることってありますよね。
野口:ありますね。世間的にオンラインミーティングが増えましたが、僕たちは対面で話すことを重視しているし、そこにもたくさんの可能性があると考えています。CGでパースやビジュアルを描くところから「もう一歩先の何か」ができるのではないか。例えばリアルタイムのレンダリングを使って建築デザイナーの方と一緒にプレゼンして、その場で素材を変えたりプランを提案したり。
ーー人間が過ごす空間をCGでビジュアライゼーションするわけですし、人間のもつ感覚や心理を考慮する必要がありますよね。
山田:そうなんですよ。CGでつくったビジュアルだけでは、素材感はわからないですから。このように机の上にデザインに関する本がたくさん置いてあってみんな何気なくめくっていますが、電子書籍では紙の質感や重さまでは伝わらないじゃないですか。やはり実際に触って体験しないと。
野口:やはりリアル(現実世界)が好きなんですよね。毎日仕事でCGを扱っていますが、僕たちにとってCGは手段でしかないんです。3ds Maxというツールを使って現実世界とWeb上の世界をつなぐサービスを提供しているといった感じです。CGの技術にひどく偏ったりバーチャルな世界にドップリと浸かったり...ではなく、フィジカルな体験をとても重視しています。その先の「リアルが活きるサポート」みたいなところが自分たちの仕事でもあるので、リアルなものづくりの感覚は残しておきたいですね。
3ds Maxを習得する最短ルートは「実践あるのみ」!?
ーーさて、プロジェクトを進める際はチームに分かれて制作されるのですか? それとも最後までひとりで1プロジェクトを担当して進めていかれるのでしょうか?
山田:チームでもひとりでもなく、月ごとにディレクター、クリエイター、デザイナーの組み合わせが変わる「クリエイター制度」というスタイルで進めています。クリエイターやデザイナーなどの若手は社内にいる先輩ディレクターたちから均等に仕事を学ぶ機会があり、偏りのないフラットな評価がもらえるよう配慮した制度です。
ーー独特な制度ですね。なぜそのような制度を採られたのですか?
山田:残業をさせないこともひとつの理由ではあるのですが、チーム制だと「隣の芝は青い」じゃありませんがよそのチームが良く見えたり、先輩後輩の人間関係で悩んだり、あとは評価も偏りがちじゃないですか。人によって成長の速さも異なりますし、自分のペースで努力してしっかりと伸びてもらえる環境にしたかったんです。
ーーどれも働くモチベーションに大きく関わることばかりですね。スタッフの皆さんにもご同席いただいていますので、少しお話を聞かせてください。クリエイター制度ではどういった流れでお仕事が進められていくのですか?
山崎貴裕氏(以下、山崎):1人のディレクターにクリエイターとデザイナーがひとりずつ付くといった体制でやっています。3人でスピーディーに美しいパースを描いて納品するといった流れです。
ーー1か月で1つの案件を3人でサクッと作ってまた次、そしてまたバラして...という高速回転で案件に当たるわけですね。「クリエイター」というお仕事はどういったお仕事なんですか?
青山直人氏(以下、青山):ディレクターとデザイナーから依頼を受けて3ds MaxでCGとして立ち上げたり、家具を作ったり人を入れたりといった作業を担当します。そしてディレクターとデザイナーが絵作りを行なっていくという流れです。クリエイターは「モデリング力」が活かされるポジションですね。
ーー毎月ローテーションするのは新鮮で良いですね。実際に働かれている皆さん、「クリエイター制度」はいかがですか。
山崎:パースをどれだけ描いたかという数字が明確に出るのですが、効率的に進められている実感があります。
青山:1ヶ月のローテーションの中で、ディレクターやデザイナーによって表現手法や仕事のスタイルが異なるので、良いところだけ吸収して身に着けられるように感じます。短期間であるぶん回転も早いので、いろんな人と触れて経験を蓄積していけるのはとても素晴らしいですね。
ーーみなさんはほぼCG未経験で入社されたとのことですが、3ds Maxの習得に苦労されませんでしたか?
青山:...いやぁ大変でした(笑)。入社後の2か月間、研修担当の先輩に密着して1から教えてもらったのですが、まずはCGを立ち上げるうえで必要となるモディファイヤの中でも「本当に使うもの」から順番に覚えていきました。そこからは仕事を通して覚えたり教えてもらったり、社内でも時々勉強会があるので新しい機能や使える機能について共有したりして、少しずつ3ds Maxに慣れていきました。
ーーほぼ実践で3ds Maxを覚えていったようなものですね!
青山:最初は3ds Maxで線を一本描くのも大変でした。特に曲線がすごく難しくて、3人いる同期の中で、自分が最もできなかった覚えがあります。でも丁寧に教えていただいて次第に3ds Maxが使えるようになっていきました。もちろん今でも覚えることはたくさんあるので、これからも積極的に探っていきます。
松谷研吾氏(以下、松谷):3ds Maxは他のソフトに比べたら覚えやすいと感じています。建築モデリングの場合は使うコマンドが同じだったりするので、基本的な技術をいくつか覚えたらそれだけでも簡単な建物を作れてしまうんです。なので、想像しているほどは苦労していないかもしれません。
山崎:僕の場合は、TVゲームのように遊んでいるうちに少しずつ上達していく感じでした。近道がないように感じていたので、毎日ひたすら3ds Maxを触っていました。
ーー先ほど、野口さんと山田さんが「CGの技術は後から身に付ければ良い。それよりもデザインに対する感性を磨く方が重要だ」と話されていました。皆さんはどのようにお考えですか?
山崎:深い話ですね(笑)。そうですね。たしかにCGの技術は努力次第で追求できると思います。一方で、作るべきものを直感的に理解したり感度の高いものに触れたりといったことは人それぞれ感性に依りますからね。日ごろからセンスを磨き続けられるかです。きれいごとを抜きにして言うと、向き・不向きがある領域なのかなと感じています。
ーー建築やインテリアを取り扱う業界では3ds Maxを使うことが多いですよね。どういったところに強みや魅力を感じますか?
山崎:3ds Maxの魅力を挙げるとすれば「情報量の多さ」でしょうか。3ds Maxはユーザーがとにかく多いので、ネット上に情報がたくさんあるし日本語の文献も多いんですよ。ソフトによっては英語での解説しかなかったりしますから。
山田:昔は他の3Dソフトを使っていたのですが、当時から3ds Maxに憧れていました。V-Rayの性能が圧倒的に高いしレンダラも沢山あるし。ブロックパーティーを設立してからは3ds Maxに完全に移行するチャンスを探していたのですが、コロナ禍による自粛期間で研究する時間ができたので、そこで一気に3ds Maxを社内に広めました。今では全員が3ds Maxを使っていますね。
青山:3ds Maxを触っている時間が好きで、特に隠されたモディファイヤを見つけるのが楽しいです。最近だと「四角面化メッシュ」のモディファイヤですごく簡単できれいに道路の凹凸や歩道の段差を作ることができるので、見つけたときは少しテンションが上がりました。
ーー知らないモディファイヤを見つけるのは楽しいですよね。あと、自分ならではの作り方で融通を効かせてみたり。
青山:そうですね。3ds Maxで壁を立ち上げる場合なども、ラインを引いてから「押し出し」で作るパターンがあれば、スウィープで作るパターンもあったり。会社の中でも作り方が分かれますね。「どのパターンで作れば綺麗に作れるのか」を考えながら、ふさわしいモディファイヤを探すのが楽しいです。
ーーマテリアルも制作されているんですか?
ーー3ds Max未経験でお仕事をはじめられたわけですが、「一人前になれた」という実感はありますか?
ーー私はライターですが、3ds Maxにいつか挑戦したいなという気持ちが日に日に強くなっています。この記事を読んでいる読者の皆さんの中にも、3ds Maxに挑戦したい方が沢山いるはずです。でも正直どこから勉強してどこから手を付けたら良いかわからなくて、なかなか一歩が踏み出せないんですよ...。
山崎:勉強というか、もう実践で飛び込んでしまった方が良いと思います。水泳の本を読むだけでは泳げるようにならないのと同じです。
ーー「〇〇を作るぞ」と目標を決めて作ってみたり?
山崎:そういうことです。誰でもできると思いますよ。
ーーほ...本当ですか(笑)?
ーー最後に心強いアドバイスまでいただいて、3ds Maxに挑戦する勇気が沸いてきました!みなさん、今日はありがとうございました。
TEXT:みむら ゆにこ (@UNIKO_LITTLE)
EDIT:ブロックパーティー、オートデスク
*上記価格は年間契約の場合の1ヶ月あたりのオートデスク希望小売価格(税込)です。