トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第8回:海外の建築ビジュアライゼーション事情

更新日 2010.02.04

年も明け1ヶ月が過ぎてしまいました。遅くなりましたが、皆様、明けましておめでとうございます。
本年も引き続き本コラムを宜しくお願いいたします。

さて本題です。みなさんは海外の建築ビジュアライゼーションの実情をどの程度知ってますか?ネットに掲載されるコンテストのCGや、もっと身近では中国の話なんかを見聞きされてるんじゃないかと思います。それらを見聞きされてどの様に感じていますか? 技術的なレベルの高さを感じて身を引き締めていますか?「大した事無いな!」と自信を深めてますか?「ほー、海外の連中はすごいなー」と、一傍観者の立場で見てますか?自身の業務に直接影響することとして肌に感じている人はいますか?

私はというと自身の業務に直結する身近な問題として捕らえ、業務上上手く付き合えないかと考えたりしています。
大成建設時代に遡れば、その付き合い方をずっと模索してきたと言えます。これまで海外(特に中国)の建築CGがあまり自身の仕事に影響が無かった方は、今後のワールドワイドでの建築ビジュアライゼーションの動向を頭に描きながら今回は読み物として楽しんで下さい。影響の有った方は今後の海外CGとの付き合い方を考えながら読んでみて下さい。という訳で、今回はこれまでと若干趣向を変えて海外の建築ビジュアライゼーションの様子を私がお話しできる範囲でお話ししたいと思います。


海外というと何処を想像しますか?

海外と言っても範囲は広くそれぞれのお国柄で趣が異なりますが、みなさんは海外の建築CGというと何処が頭に浮かびますか?アメリカ?ヨーロッパ?それとも近隣のアジア諸国?北米やヨーロッパの事情で言えばリアル系のパースが幅をきかせてきているようです。

海外のサイトでのコンテスト等を見ても明らかですし、知り合いからそのような話も聞いています。特にコンテスト等で見られる物は自然物(樹木、芝等)もフル3DCGでやっているんだろうなと思わせる物が多くあって、これを業務のフィニッシュワークに用いることが出来ているとしたら凄いことだと思います。

私が肌で知っている海外事情というとインターナショナルな設計コンペになりますが、コンペの世界では様子が違います。リアル系では無く私が再三お話ししているコンセプト系の表現が大多数を占めるようになります。つい先日、インターナショナルコンペ(中東に計画されるInterContinental Hotel)にD4m設計さんと共にチャレンジしました(共同設計の名の下に参加しているので、私の建築家デビューです(笑))。結果は見事玉砕しましたが、HPで公開されたSecond PrizeとThird PrizeのCGから海外のコンペにおける建築ビジュアライゼーション事情を垣間見ることが出来ました。
このコンペ参戦記は次回に譲るとして、今回の中心はアジアの建築CG事情です。


アジアのビジュアライゼーション事情

アジアの建築ビジュアライゼーション事情として真っ先に挙がるのはお隣の中国です。 ローコストで有りながらクオリティも高い中国のCGと直接競合する場面にさらされ苦慮された経験が有る方も少なくはないのではないかと思います。

中国を代表する事務所に水晶石(クリスタルCG)があります。代表するというか、日本に入ってきている中国のCGでクオリティの高い物は殆どクリスタルCGかクリスタルCG出身者というのが実情です。
スーパーゼネコン各社や大手の組織事務所はクリスタルに発注実績がありますし、優良顧客になっているといっても過言ではありません。また日本だけではなくワールドワイドに顧客を持っていて海外の有名どころのアトリエや組織事務所からの発注も多いようです。


クリスタルCGの特徴

この会社の凄いところは幾つかあります。中国ならではという点もありますし、私たちが見習うべき点もあります。
列挙すれば
1)圧倒的な人員
2)高品質
3)教育制度
の3つが主なところです。


圧倒的な社員数

社員数は支社合わせると2000名近くいるようです!

北京が本社で支社の一番大きな所は上海ですが、北京が1000人、上海でも500人と聞かされています(中国はこの辺の数字がアバウトで幅が有ったりするのですが、誇張は無い数字のようです)。この人数で人海戦術を臨んでくるわけですから、一般の日本の建築CGプロダクションは太刀打ちできません。

特にアニメーションは勝負になりません。設計コンペなどはとにかく制作時間がなくて一週間かそこらで2分から3分のアニメーションを作らなくてはなりません。日本でも制作自体は可能ですが、その間も設計変更に対応しつつハイクオリティを保とうとすれば、日本では無理だというのが私の見解です。

8_designviz_01.jpg
□中国CGパースSample01

潤沢なフィーが有るのであれば、人員を確保して映像制作会社をも巻き込み制作をすれば不可能では無いですが、3桁万円では収まらない制作費になるのでリアリティのある話ではありません。実際のフィーは中国と考えれば高いですが、クオリティを含めて考えれば安いと言える価格設定になっています。

この様な実情からもスーパーゼネンコンなどではここしか発注先が無いという一人勝ちのパターンです。


高品質で独自のテイストを持っている

品質に於いても上記で触れたように価格の割にハイクオリティな物を制作します。

ソフトは3ds Max+VRayという建築CGでは定番の組み合わせですが、この組み合わせでよくあるフォトリアルとは少し趣の違った絵を出してきます。基本はリアル系においているのですが、ちょっと艶があって色気のあるテイストを持っています。私の結構好きなテイストなので以前はよく利用していました。前項で人海戦術による圧倒的な制作スピードの話をしましたが、この会社の持つテイストも人気がある一因ではないかと思います。この会社の最も凄いなと思う所は成果品のクオリティが一定以上を保っているというところです。
勿論凄く出来が良いものと及第点かというものが有りますが、私の目から見ればクリスタルCGという一定基準品質以下の成果品は出てきていないように思います。社員総数が2000人近くいる事を考えればこれは凄いことです。


教育システムの充実

どの様にして品質を保っているかというと会社独自の教育制度にあると私は思っています。この会社は独自で教科書を作っていて、これに沿って学べば一定レベルのクリエーターが育つような仕組みになっています。

教科書も3ds Maxのリファレンス的で網羅的な内容では無く、クリスタルCG社での実戦に即した必要十分な事を体系的に説明している物です。

8_designviz_02.jpg
□中国CGパースSample02

これによって短い期間で最低限クリスタルクオリティを保ったモデラーやレンダラーを増産しています。更にはCGに関する学校まで持っています。
学校の内容に関しては私はそんなに詳しくないのですが、一CGプロダクションが学校を併設しているということだけでその教育に関するポリシーは推して知るべしです。

このような会社が私たちの競合として身近にいる事は驚異以外の何者でもありません。過去はこれに価格競争力を持っていたので太刀打ちできない状況でした。

私が初めて北京のクリスタルCGを訪ねたのはかれこれ6年から7年前になりますが、大変なショックを受けた記憶が生々と今も心に残っています。

私は現在と同じく当時もレンダラー兼管理職という歌って踊れる管理職として尽力していた自負がありましたが、圧倒的な制作環境(当時、北京の人員は総数500人でパース対応が300人、アニメーション対応が200人という説明を受けました)を前にして自身の制作環境(総勢7から8名)と比較してしまい、一気にやる気がなくなりました。これからの建築CGは全て中国に持って行かれてしまうというような気持ちに本気でさせられてしまうほど気持ちが落ち込んだのを良く覚えています。
日本に帰ってクリスタルショックから暫く立ち直れませんでしたが、考え方を変えることで徐々にモチベーションを高めていきました。更には仕事を発注するようになると色々見えてくる事柄が有って、これまでは彼らにしか出来ない事柄にショックを受けていたのですが、日本のプロダクションにしか出来ない事や、もっと言えば私にしか出来ない事が多数有ることがわかってますますモチベーションが高まるとともに、クリスタルCGを知ることで自分の立ち位置がよく見えるようになりました。

私が自信を持ち直すことが出来た日本のプロダクションの利点とは何でしょうか? 読者の方ですぐに思いつくようであれば戦略的にその方の方向性は今後有利に働くと思います。一度皆さんで良く考えてみて貰えないかと思います。こういう事を考えることがこの先のワールドワイドに見た業務上の方向性として重要になってくるので。


中国以外は

中国以外で延びてきている国と言えばベトナムとインドです。ベトナムに関しては設計業務でベトナムの案件と言うことでCG制作を依頼された事が有る方も出てきだしているのでは思います。

ベトナムの建設事情は日本に比べ非常に活発で、建築ビジュアライゼーションのニーズが日に日に高まっています。インドの建設事情も活発なのですが、日系企業の参入という面で脆弱なため制作ニーズが日本国内に無いという悲しい事情もあります。最も身近では韓国もあるのですが、4から5年前に調査した際には価格が折り合わず(日本よりも高価なケースが散見されました)、また品質において十分なクオリティはあったのですが私の好みには合わず、業務提携先としては魅力がなく発注に至りませんでした。現在は円高とウォンの暴落で価格の面で中国より割安になっている可能性があるので調査をしなければと思っているところです。

一方先に挙げたベトナム、インドは価格的なメリットが多分にあります。ベトナム、インドについては現在調査中であるのと、私の会社としての今後の戦略の話もあって詳しくお話しする段階ではないので、もう少し纏まってきてからお話ししようかと思います。


まとめ

紙面と私の都合で(ベトナム・インドを含めてアジア事情をお話ししようとすれば、1年分のコラム量になってしまうので)舌足らずな締め方になってしまいましたが如何でしたでしょうか。ここでお話ししたように近隣アジア諸国での建築ビジュアライゼーションのニーズは確実に高まっています。これを隣の芝生と考えるのか、自分にとってのビジネスチャンスと考えるのかで今後が大きく違ってくるのではないでしょうか。

次回は近隣アジアと比較した際の日本のプロダクションのメリット・デメリットを鑑みた上での付き合い方をお話ししながら、今後のボーダレス時代における建築ビジュアライゼーション業務を生業とする者にとっての生き方を模索してみたいと思います。

昨年末から仕事が増えたという話を日頃付き合いの有るCGプロダクションの方々から聞くようになりましたが、皆さんの会社は如何でしょうか。極寒の2009を乗り切り、少しだけ日差しの暖かさを感じられるようになってきた2010年。皆様の日々の業務に私のコラムが何かの気づきを与える事が出来れば幸いです。

2010年も宜しくお願いいたします。

更新日 2010.02.04
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

カテゴリ

トレンド&テクノロジー
トレンド&テクノロジー
チュートリアル
チュートリアル
Autodesk GAMEWARE
オートデスク クリエイティブ フィニッシング アーチスト名鑑
DEC iNews
オートデスクの業界メールマガジンを月刊でお届けいたします。
登録
Design Visualization

カテゴリ別最新記事

コラム
ユーザ事例
イベント情報

体験版ダウンロード

Autodesk Entertainment Creation Suite Autodesk Entertainment Creation Suite
Autodesk 3ds Max Autodesk 3ds Max
Autodesk 3ds Max Design Autodesk 3ds Max Design
Autodesk Maya Autodesk Maya
Autodesk Softimage Autodesk Softimage
Autodesk MotionBuilder Autodesk MotionBuilder
Autodesk Mudbox Autodesk Mudbox
Autodesk Showcase Autodesk Showcase