トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第7回:これからの建築ビジュアライゼーション(その2)

更新日 2009.12.07

前回に引き続き、「これからの建築ビジュアライゼーション」のその2として、ビジュアライゼーションに求められる変化についてお話しをしたいと思います。

前回BIMというキーワードを提示しておきましたが、「Change」という言葉でお話しした宿題の回答は出ましたか?本コラムのVol.1、Vol.2辺りが参考になったかも知れませんがいかがでしたでしょうか。これから私が最近の業界動向や業務から感じ取っている回答もどきを順序立ててお話ししたいと思います。


3D CAD(BIM)を導入し始めた設計者の変化

建築ビジュアライゼーションの世界に身を置いていても、BIMという言葉やその内容に関しては、「知っている」又は「耳にしている」人が大半だと思います。もしBIMという言葉にピンと来ない人がいたら、今後は自分の業務の範疇内の言葉として、その内容と今後の動向は必ずチェックして下さい。BIMを理解しているか否かは、今後の建築ビジュアライゼーション業界で生きていけるか否かの死活問題となりますので心してBIMに取り組んで下さい。

ちょっと横道に逸れてしまいましたが、ここからが本題。これまではBIM(正確には3D CAD)によって建築ビジュアライゼーションの世界が変わるというお話しをしてきたと思いますが、実はBIMの渦中にいる設計者自身のビジュアライゼーションに対する発想が少し変わってきています。

設計者の発想する端的なビジュアライゼーションとしてパースがありますが、これまではパース制作者に描かせるものだったのが、自分たちでも描けるものだという考えに変化しつつあります。この変化は至極当然で、BIMによって早い段階から3Dモデルが自動的に生成されるのですから、シェーディングレベルの簡単なパースであれば設計者でも無理なくおこせてしまいます。Revitに至ってはmental rayを使って一定品質レベルのレンダリングを簡便に実現してしまっています。これを知った設計者達は自分たちでパースを描くことに抵抗がなくなり、むしろ積極的にパースを描こうとする人たちも出てきています。更にはBIMを推奨する部隊が簡易アニメーションまで作って設計者をサポートしだしています。

この事は建築ビジュアライゼーションで生業を立てている者にとっては由々しき事態です!単純に業務量が減少してしまうことを意味しますから。更には前回お話ししたインハウス化がパース発注量の減少化を加速させています。この状況に対して他力本願で恐々として指を加えていても事態は好転しません。例え景気が回復したとしても好転するとは必ずしも言えない状況であることを前回お話ししました。しかし私は逆にこれをチャンスと捕らえています。勿論、正攻法でこの問題にぶつかっていっても太刀打ちは難しいでしょう。となればちょっと側面から問題を捕らえ直して、斜めからこの問題に取り組んでみたらどうなるでしょうか。


現状をビジュアライゼーションの側から整理してみる

いきなりショッキングな展開でスタートしましたが、冷静に現状を把握してみましょう。建築ビジュアライゼーション側の人間から見て冷静に分析してみると以下の事が問題になります。

1. 設計者自らパース制作を行いだした。
2. 設計サポート部隊がアニメーション制作を行いだした。
3. もともとインハウス化により制作業務が減少傾向にある。

これを見ると八方塞がりに思えますが、私の目から見るとそれぞれはこう捕らえることが出来ます。

1. 設計の企画・計画段階やデザインフェーズでのパース制作が起こってきている事であり、これまで低価格やサービスで制作していた業務がこれに当たるため影響は少ない。逆にこの段階で出来ているパースを元に少ない作業で高品質のパースに仕立て直す新たな業務が発生する。

2. アニメーションが設計フェーズの早い段階で使われ出していることは建築ビジュアライゼーション側にとっては歓迎すべき事。アニメーションを簡易に作成できるようになったとしても、やはり制作部署にとっては負荷のかかるもの。アニメーションの重要性が認識されれば、新たなフェーズでの需要が高まる。

3. インハウス化によってCGのクオリティがより明確に問われるようになる(社内で制作を行う過程で自社の制作能力と外部の制作能力を設計者の目で明確に比較される)。表現力を持ったCG制作会社にとっては、コスト競争から抜け出した形で安定した受注に繋げることが出来る。

7_future_01.jpg

これらをマクロに捕らえれば、建築ビジュアライゼーション自体が活性化するため様々な形で業務が発生する可能性を秘めている事を意味しています。建築ビジュアライゼーション側の人間にとっては良い事づくしです。但し、世の中そう甘い事だけで大事をなすことは出来ません。以下のように若干の注意点もあります。

1. 設計フェーズの速い段階で求められるコンセプチャルな描画法をマスターする事と、少ない工程でパースを劇的に変化させることができるレタッチセンスとテクニック。
2. 簡易的なアニメーション手法とレンダリング時間を短縮出来るレンダリング手法の二つで、制作コストと制作時間を短縮する事。
3. 発注者のニーズに完全に答えることが出来る様々な表現力を身につける事。
4. これまでのパース、アニメーションは更に高度な表現が求められるようになる。それに応えられれば制作費用をアップすることも可能になる。(発注者側の選択と集中によって、高度な業務に対しては相応の対価を求めることが可能となる)
5. 設計の初期段階のフェーズではリアルタイムレンダリングが主流になり、リアルタイムコンテンツ制作という新しい制作業が発生する。リアルタイムコンテンツはコンテンツに止まらず、システム構築も初期段階では業務とする事が可能。

4,5は新たに加えましたが、これらからビジュアライゼーションの制作者側が行わなければならない事は以下に集約できます。

・設計フェーズで求めらる、コンセプチャルな表現をマスターする。
・軽い設定で絵にする事ができるレンダリング手法のマスター。
・これまでの表現力の幅を広げる。
・新しい表現手法(リアルタイムレンダリング等)を積極的に取り入れる。

これまでの本コラムと重複する内容ですが、私はここに現状の閉塞しつつある建築ビジュアライゼーション業界の活路があると思っています。逆にこれらを現状で対応できているならば今の状況はチャンスと捉えることができるのではないでしょうか。


建築ビジュアライゼーションの業務範囲が明確に切り分けられる。

これまではビジュアライゼーションに関わることは設計者以外の人間が殆どの制作物をサポートすることが当たり前でしたが、これからは違います。過去においてCGが世に無かった時に、設計者自らパースを描き、重要な場面ではパース制作事務所に発注していた頃の業務の切り分けが起こります。

切り分けとは、
・設計サイドが行う、デザイン行為に関わるビジュアライゼーション。(早い段階での施主打合せ、設計者間の打合せ等)
・CGプロダクションが行う、プレゼンテーションにおける品質が求められるプレゼンテーション(プロポーザル、コンペ、プロモーション等)

CG制作者サイドから見るとこれまでの業務範囲の半分が食われてしまいそうですが、良く考えればこれまでの無駄な作業が軽減される事に気づくと思います。

これまでプレゼン用のパースを描く場合にどんなやり取りが設計者との間に発生していましたか?モデリングが終わり、ラフなパースが出来た段階で設計者が見て、「ん?、こんな感じになるのか。それじゃこの部分を変更しよう」とか「この様に見えるのであれば、この壁は止めよう」とか「ちょっと暗い感じだね。外壁の色を変更しよう」など、ラフパースを見ながら設計行為が始まり、それに付き合って多くのアングル出しや、様々なバリエーションのモデルやレンダリングをする羽目に陥っていませんでしたか?ここでCG制作者が対応していることはプレゼン用のパースを描き挙げるという本来の目的からは逸れて、設計のお手伝いになっています。このお手伝いの費用をみて貰えるのなら何ら問題はありませんが、お手伝い作業をしようがしまいが、またその作業が重いか軽いかで制作費の上下は殆ど無いというのが現実でしょう。

はっきりいってかなりの負担を強いられながら制作費に反映させることの出来ない、CG制作者にとってつらい部分です。この辛い部分を設計サイドで行ってくれる訳ですから、同じ時間、同じ単価でも成果品のクオリティを上げることが出来るようになります(絵作りに専念出来る)。


リアルタイムレンダリングが建築ビジュアライゼーション初期段階の表現手法になる。

更には設計行為の段階で作られるパースはリアルタイムレンダリングに移行します。

パースは建築物のある一面を2Dで切り取ったに過ぎません。建築は3Dです。あらゆる角度から検討すべきものです。そのための一つの手段としてアニメーションがありました。

リアルタイムレンダリングコンテンツを用いれば、多枚数のパースを描く必要性がなくなり、アニメーションの制作も不要になります。デザイン行為でのビジュアライゼーションとしては最適なコンテンツなのです。幸い設計者にとってリアルタイムコンテンツはさほど普及していません。ということはリテラシーが低い段階なので、CG制作者にとってここに新しい制作業務が発生したことになります。

基本的に設計の初期段階で用いられるコンテンツなので品質よりもリアルタイム性が求められます。短納期で動くコンテンツを作れればよい訳で、これまでのパース制作に比べれば遙かに制作しやすいコンテンツになります。BIM化しているクライアントからの依頼であれば、かなりシステマチックに量産することが可能でしょう。

但し、制作単価は下がります。楽して出来る訳ですから当然と言えば当然です。しかしリアルタイムコンテンツ制作を請け負う最大のメリットは、設計の初期段階からプロジェクトに関わることが出来ると言うことです。リアルタイムコンテンツでスタートしたプロジェクトもいずれはプレゼンテーションフェーズやその他の品質が求められるフェーズに移行します。その時の発注先の候補として1番目にいるのがリアルタイムコンテンツの制作会社です。このことはクライアントの外注制作費が絞られている中で、最大のメリットとなります。

7_future_02.jpg


これからの建築ビジュアライゼーション

ここまでお話しした事を建築ビジュアライゼーション制作者側から整理しておきます。

1. 設計の初期フェーズでは設計者がビジュアライゼーションコンテンツの制作を始める
。 ・制作されたコンテンツの簡易なクオリティアップを図る制作業務の創造。
・リアルタイムコンテンツへの移行とリアルタイムコンテンツ制作という新しい制作業務の発生。
・設計の初期フェーズからプロジェクトに参画し、その後のフォローを含めて受注するワークフローの確立。

2. これまでのパースやアニメーションに対するニーズの変化が起こる。
・よりクオリティの高いものが求められるようになる。
・建築物を演出するセンスとテクニックが要求される。
・CGプロダクションの差別化が起こり、表現力によって設計者がプロダクションを選別する時代が来る。
(手書きパースの時代にあった「このプロジェクトは重要だから○○さんの所に頼もう」といった、作家性が発揮される時代の到来)

如何でしたでしょうか。皆さんの回答と違っていたでしょうか。私は間違いなくこれらの変化が訪れると確信しています。

ここで挙げた事が同時に全て起こるとは言いませんが、既に起きはじめている事も有りますし、それ以外もかなり近い将来に起こると思っています。そう言った意味でも来年は勝負の年になると考え来年の種まきを精力的に行っています。だからといって、みなさんの回答がこれと違っていても何ら問題はありません。というのも100%全てそうなるとは限らない部分もありますし、変化が緩やかに起こることも十分考えられます。その間に新しい技術やハード・ソフトの進歩で違った切り口が出てくるかも知れないからです。それよりも今回のような問題提起とそれに対する自分の明快な解を常に持ちながら業務を行う事の方が大切だと思っています。

今回の問題提起と回答へ至るプロセスが、みなさんの普段の業務に変化を与えるきっかけとなり、更には実務において実利となって還元されることを願って止みません。

2009年も残りわずかになりました。2010年を明るい年にするためにも、これからも様々な形で情報発信をしていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願いいたします。

更新日 2009.12.07
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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