トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第4回:建築CGパースに求められるもの

更新日 2009.07.24

今回は建築ビジュアライゼーションの成果品の中でも最もポピュラーなパースについてお話ししたいと思います。

皆さんはどういった考えで、どのような表現を、どんな制作手順でパースを描いていますか?また何に一番頭を悩ませますか?一番時間を割いている事は何ですか?
次々と問いかけをしてしまいましたが、大抵の人は半自動的(または全自動的?)にそれぞれのやり方でそれぞれの解答を持って制作しているんだと思います。
レンダリングテクニックに関しては皆さん勉強熱心なのでセミナーやネットで日々他の人の技術を学んでいるのではないかと思いますが、制作の考え方や手順などは案外自己流で済ませているのではないかと思います。パース制作によって自分が十分満足を得る対価を得ている人や、クライアントに引っ張りだこの人にとっては自己流で別に問題はありませんが、そうでは無い人は(そうで無いかも知れない人も)、たまには他人のやり方を覗いてみる事が自分にとって色々参考になる点があるかもしれません。

4_cgpers_01.jpg
しもきた克雪ドーム 設計:原広司+アトリエ・ファイ、大成建設

少々導入が長くなりましたが、参考にするかは別として私の制作プロセスとその時々に考えている事等をここでお話ししてみたいと思います。(ここでは一番制作がやっかいな、企画・計画-基本設計-実施設計フェーズでのコンペを含んだパース制作を取り上げます)


打合せの重要性

順番に従ってまず最初の打合せについて。はっきり言って最も大切なフェーズです。十分に時間を割いた方が良いでしょう。
当然の事ながらここで制作の方向性を誤るとその後に地獄が待っています。カメラアングルもなかなかOKがでず、質感に関しても打合せで言われた色をのせているのにイメージと違うと言って修正が何度も押し寄せてくる。考えるだけでも恐ろしい光景ですが、心当たりが有る方は結構いませんか?そうならないために私が打合せの時に気を付けている事が幾つかありますので次に挙げてみます。

1)使用目的は何か
2)見せる相手は誰か
3)設計コンセプトは何か
4)この建築の売りは
5)何故このカットが必要なのか(このカットの制作意図)
6)現状で決まっている質感(材質)は
7)制作サイズ、カット数、制作期間 etc

1)使用目的は何か
デザイン検討用なのか、コンペ用なのか等です。

2)見せる相手は誰か
1に付随してクライアントに見せるのか、社内用なのか、コンペであれば審査員は誰なのか(建築家が審査員にいるか)等が考えられます。この1,2によって大凡の方向性が決まってきます。1,2によって大きく2つの方向性が出てくるのですが何だと思いますか?  またその違いは何を境に生まれると思いますか?また質問形式にしてしまいましたが、答えはパースを最終的に見る人間が建築の「素人」か「プロ」かという点です。

ちょっと失礼な言い方にはなりますが、建築の素人に対するパースはエンターテイメントを重視したパースに、端的に言えば一般的に見て格好いいパースにする傾向があります。一方プロに対しては建築を語るパースになります。平たく言うと説明的な要素が入ってきます。これだけでも暗黙の内にカメラの画角やパースの付け方が見えてきます。

3)設計コンセプトは何か
3では直接的にパースに関わる言葉は出てこないと思いす。しかしここで語られる建築のコンセプトはパースの根幹をなすものですから、絵に関わる内容は無くても心に留めて置かなくてはなりませんし、そう出来るかによって絵は確実に変わってきます。

4)この建築の売りは
4も3に近い内容ですが、3よりも絵を描く上でもう少し直接的な部分が出てきたりします。この3と4でパースの雰囲気(空気感、重量感etc.) が見えてきます。

4_cgpers_02.jpg
しもきた克雪ドーム 設計:原広司+アトリエ・ファイ、大成建設

5)何故このカットが必要なのか(このカットの制作意図)
5はかなり具体的になります。通常はCGのクライアントがカット数と各カットごとのイメージの雰囲気などを指示してきます。
ここで重要なのは話を鵜呑みにしない事です。話を鵜呑みにして事を進めると本当に必要なカットに対して数倍のアングル出しが必要になり、多くのアングルを出したにも関わらずアングルが決まらないという自体が起こりがちです。ここで重要なのは何故そのアングルが必要なのかという点です。
この部分はクライアントに大いに語ってもらいましょう。一頃話を聞いたら、「という事は、仰っているアングルよりも低くして、画角も広角にした方が良いのではないでしょうか?」とか、場合によっては、「仰っているアングルは先ほどのアングルと被ってくるので、不要ではありませんか?カット数が必要ならば別の目的のアングルを追加されてはどうでしょうか」など言葉によってお互いのイメージをシンクロさせる事に注力します。言葉のキャッチボールによって自分がアングルに関して認識を深める事は勿論ですが、相手になるだけ明確なイメージを植え付ける事が重要です。これをやるかやらないかで、アングル出しの苦労を劇的に減らす事が出来ます。
現に私は2カットの要求があれば2カットで済ませる場合も多くありますし、プラスして各カットで1アングル追加する場合も、そのカットを作った理由を打ち合わせた内容をもとに明確にしてクライアントに伝えます。これで大抵は追加のアングル検討を言い渡されることなくアングルをFIXできます。逆に実際のアングル検討の際は十分時間を割いて下さい。自分がどうしてこのアングルにしたかを説明しつくせる位に。

6)現状で決まっている質感(材質)は
6は最低限の質感を付けるベースとなります。しかし指定された質感に振り回されないようにして下さい。ここでも1から5の話を元に自分でアレンジして構いません。重要なのは何故そうしたかを打ち合わせた内容をもとに説明できるかです。
私の場合は完全にキーとなる色はなるべく指定された様に再現しますが、そのほかはキー色に引きずられる形で変化していきます。ある意味違った色になってたりしますが、キー色とバランスをとっているため修正指示を受ける事はあまりありません。ただしあくまでバランスを取った際に色が違ってきても大きな問題はないと言う事で、好き勝手に色を付けて上手くいってるという事ではありません(当たり前ですよね)。

7)制作サイズ、カット数、制作期間
7はテクニカルな部分で、どこまでレンダリングを重くできるかといった事柄です。逆に言えば、どこまで軽いレンダリング設定で自分の思い描く絵を作れるかという事です。この部分は経験値がものをいう部分なので、業務をこなす事で普通に身に付く事柄です。 最終工程のレタッチを含めてトータルで早くイメージ通りに仕上げる自分なりの手法を確立しましょう。


イメージを構築する

先に述べた留意点をもとに様々な建築パースを眺めてみると自分なりの一定の評価で出来るようになってきます。

なぜこのアングルなのか? どうしてこの様な色調を選んでいるのか? 等々。実際の答えはその業務に関わっていないと出てくるものではないですが、自分なりの解答を持つ事は重要なことです。また解答が出せるにしろ疑問点が残るにしろ、こういった観点でパースを見れるという事は、パースの表現から類推して、自分だったらこうするのに!といった自分のイメージが頭の中に構築出来だしている証拠です。
打合せの重要性は説きましたが、打合せの内容によって自分の頭の中でイメージを構築できなければ何も得る物はありません。頭の中にイメージがあってこそ打合せをスムーズにかつ自分のペースで進められるようになるのです。

会話の中でも常に意識してイメージを構築するよう心がけて下さい。


最後に

次に制作段階での留意点を書くつもりでしたが文面の都合で次回にまわしたいと思います。

最後に冒頭で載せているパースをどの様な考えで描いたのか載せておきます。
まずは冒頭のパースを見て自分なりの問いと解答をイメージして下さい。イメージを構築したら下の解説を読んでみて下さい。読んだ上で再度自分なりの考えでイメージを構築してみて下さい。
この様な観点でトレーニングを行っていればきっとパースの制作が楽しく、また結果的に楽になると思いますよ。

与条件:コンペ用のパース、内観のメインカット
4_cgpers_03.jpg
パースに求められた事
・ 幕構造の屋根から柔らかい光が降り注ぐ
・ 屋根の形状はデザインの重要コンセプト
・ 内部のアクティビティを表現する
・ 冬期は屋内野球場をメインで使用
・ ドームを一周する回廊の表現
・ 展望台の表現

これらの条件により展望台が入るアングルの内、野球のアクティビティを良く表現できるキャッチャーよりに決定できる。また、アイレベルに近い位置で見上げる事で、幕構造の屋根を大きく表現し、回廊が直線的に見える事でドームの構成を明確にし、かつ目線に近い野球の臨場感を持たせるようにしている。
幕からの柔らかい光に満ちた表現にするため全体のトーンを柔らかい色調で統一している。またそれはパースを見た際に変なアイキャッチが生まれず(ピッチャーマウンドやホームの部分の土をあえてグリーンにしている)、ドームの内観という全体的なものが見えるよう配慮した結果でもある。

冒頭のもう1カットのパースはドームのコンセプトを表すためのもので提案書の表紙用に作成した。コンセプトを表現する上でパースというより言わば平面的なグラフィックの構成になっている。条件によってはこの様なパース表現が適している場合もある。

何事も既成概念に捕らわれぬ様。
更新日 2009.07.24
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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