トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
最終回:建築ビジュアライゼーションのこれから
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読者の皆様ご無沙汰してました。前回のコラムをUPした直後に連載終了が決まったため、何の告知もなく尻切れトンボで終わりになってしまい申し訳ありませんでした。今回M&Eさんのご厚意で最終回を書くことが出来る運びとなりました。という訳で長かったこの連載も今回で最終回となりました。これまで私の稚拙な文書をお読み頂ありがとうございました。最後にあたりこれまでの総ざらえとして今後のビジュアライゼーションについて私が感じている事を書きたいと思います。
ビジュアライゼーションの変化
私が前前職のゼネンコンを退社してから8年が過ぎました。その間、建築のビジュアライゼーションがどの位変化(進歩)したかといえば、ん〜あまり変わってないのでは?というのが私の実感です。勿論変化がない訳では無いのですが、私が頭に描くビジュアライゼーションはこうあるべきという姿にはまだまだ遠い状況ではないかと思います。8年と言えば相当な時間です。ムーアの法則からしても大きく変化していて当然だと思うのですが、他業種に比べても建設業の変化の度合いは止まっているかの如くです。Revit等のBIMも徐々に広まってきていますが、私が30年前に大学院での研究で考えていたことがやっと日の目を見だしたに過ぎません。私達ビジュアライゼーションのコンテンツの作り手もパースとアニメが主体と寂しい限りです。最終回という事で厳しい出だしとなりましたが、余り変わっていないように思えるこの業界で少しずつ変化しているものもあるので、その辺りから今後の建築ビジュアライゼーションを考えて見たいと思います。
変化の兆し
あまり変化のない中で最も変化の兆しが見えるのが、3次元モデルによるデザイン検証を設計者自ら行うようになってきたことでしょうか。勿論すべての会社がという訳ではありませんが、以前に比べると明らかに増えている印象があります。これはBIMの普及という側面もあると思いますが、最も貢献しているのは安価(又はフリー)で非常に操作が簡単なモデラーの普及があったことは否めません。また、もめにもめているオリンピック競技場問題で話題に上がるザハ氏のような建築が世界中でもてはやされ、自由曲面の扱いに長けたモデラーの普及を加速させています。一方で予算の問題もあって3次元と縁がなさそうに見える住宅などでも、住宅専用のほぼBIMを達成させている3次元のソフトがあって地方工務店などで広く普及しています。このように様々な要因から、設計の現場で3次元モデル作成がじわじわと浸透してきているという実感があります。3次元モデルが浸透し当たり前になってくるとプレゼンテーションに変化が起き始めます。
3次元モデルのもたらすもの
3次元モデルが当たり前になってくると、その3次元モデルを設計のワークフローのなかで様々に活用(流用)したくなるのは人の性です。設計の早期の段階で3次元と言ったら設計者の作る簡易モデルか、外注して時間とコストをかけてCGを作らなければならなかったのが、設計者がつくるCGで置き換えることが出来るようになるので、これを活用しない手はありません。実際にRevitで設計を進めた場合に、設計途中の打合せでノートPCを持ち込み画面で3Dモデルを動かしプレゼンするスタイルの会社が暫く前から出てきています。BIMで設計を進めることで新規に3Dモデルを作る手間が省け、プレゼン資料の制作時間を短縮し、クライアントのニーズにその場で応えることが出来るプレゼンが出来ている訳ですから大きな進歩です。
その影響は
モデリングが普及してくるとプレゼンの定番であるパースに大きな影響が出てきます。これまではパースが必要な際にパースを描くネタ(3Dモデル)がなく、かといって手描きで描く設計者も昨今では激減しているためパースの発注に至っていた訳ですが、ネタがあれば簡易なパースは外注せずとも設計者で描けるようになります。実際にこれまでは外注に依存していたのに自分の所で描くようになった、または、外注するにはするが、自前で描ける分もあるので発注枚数が減ったという会社の話を聞きます。このことからパースの外注ニーズが減少していることが分かります。総数は景気にも左右されるので、現在の建設業の景気からすると増えているかもしれませんが、ニーズ自体は減ってきているので、今後トータルの発注枚数も確実に減少していくでしょう。ただこのことはパースの低価格に嘆いている方には朗報でもあります。簡易に描けていたパース、言い換えれば一桁万円台のパースが姿を消すことで、クオリティの高いパースの価格はある程度維持できるのではないでしょうか。更には自前で描けないパースが発注される訳ですから設計では出来ないクオリティ・クオンティティーが求められるようになり、それによって作家性が問われるようになれば、プロダクションの表現力が外注先を決め、表現力・技術力がフィーを押し上げるようになると思います。これからは腕の見せ所といったところでしょうか。3次元モデルでの検証を行っていない設計者からすれば予算が少ないプロジェクトもある(多い)ので低価格のパースが必要だと言う方もいるかもしれませんが、自前で3次元モデルを作るワークフローを取り入れることができれば、人件費を含めたトータルコストを下げることが出来ますので、外注依存の脱却を検討・実践されてみては如何でしょうか。
簡易的なパースは設計者が自前で描くようになると言いましたが、実はクオリティの高いパースも描くことが可能になってきています。Autodesk360に代表されるクラウドレンダリングが一例です。私自身はコスト的な問題で懐疑的だったためクラウドレンダリングを敬遠していたのですが、Revitのクラウドレンダリングの絵を見て正直驚きました。非常にリアルでクオリティが高かったからです。勿論セッティングの妙というのはあると思いますが、BIM設計ツールのRevitを買うとこの高品質なクラウドレンダリングがついてくると言うのは驚きです。先ほど3Dモデルがないから自前での制作が難しかったとお話ししましたが、それ以外にもハード(PC)の問題もありました。CG制作では高性能なPCを使用するため設計用途のPCと比べ値段が高く、設計者側で採用するにはコストパフォーマンスの問題がありました。たとえ高性能なPCを導入できたとしてもレンダリング時にPCを占有する訳ですから、通常の設計業務での運用は難しいのです。ところがクラウドレンダリングを活用するとPCのスペックをレンダリングのために上げる必要がなく(現在使用しているPCでOK)、レンダリングをクラウドに投げる訳ですから自身のPCは設計作業に継続して使えるという良い事ずくめの手法です。
もう一つの例はこのコラムで度々取り上げているハードウェアレンダリング(GPUレンダリング)です。GPUレンダリングも以前と比べると格段に品質が上がり、中には高品質と言えるものが出てきています。GPUレンダリングの場合はレンダリング速度がかなり速いためPCの占有時間を短く出来ます(リアルタイムならほぼ0)。またGPU系のレンダラーの速度はグラボでほぼ決まりますので、その殆どがDirectXベースで有る事からハードのコストが非常に安く済みます。ワークステーション用のグラボに対して価格比で1/3、スペック比では1/5程度です。現状ではまだメジャーなソフトが少ない(知られていない)状況ではありますが、どんどん新しいものが海外から発信されているので、今後は主流になる可能性が高いと思っています。
アニメーションの外注に関してはパースと逆で今後増える傾向にあると考えています。これまではパースがあってアニメーションという流れで、コストも時間もかかる点からも制作のハードルが高かったのですが、モデルはある、レンダリングはクラウド又はGPUで行うと考えればハードルはかなり下がると思います。実際私などは、アニメーションを主の仕事として受けて、そこから従のパースを切り出すという仕事もやっています。更にはアニメよりもリアルタイムでのインタラクティブなコンテンツが今後は増えてくると思います。私は10数年前から当時はVRと総称されていたリアルタイムでインタラクティブなコンテンツ制作を行っていました。私が関わったプロジェクトは大成功と言えるプレゼン結果でした。しかし設計者自身のウケが今一で(ネガティブな要因で)流行には至りませんでしたが、最近ようやく日の目を見だしています。私が知っているプロジェクトでゲームのミドルウェア系のGPUベースのソフトを用いてのコンテンツ制作があり、プロジェクトが大変上手くいっていると聞いています。一度そこに踏み込むと次回からは必ず同じようなコンテンツを求められるようで長期のプロジェクトとしてインタラクティブなコンテンツがもてはやされているようです。しかもフィーが良いというおまけ付きで。ですのでこれからは動的なコンテンツはインタラクティブコンテンツが主になりアニメはおまけで、静的コンテンツは作家性のある高品質なパースだけが残ると確信していますが、皆さんはどう予想されますか?
建築ビジュアライゼーションの姿
取り急ぎこれからの建築ビジュアライゼーションの展望を期待と確信をもって書きましたが如何でしたでしょうか。ここに上げた外注ベースの変化もあると思いますが、今後は設計者と外注という枠から一歩抜け出して、設計と我々のコラボレーションによるプロジェクトが起きると考えています。(上に上げたインタラクティブコンテンツの例が良い例で、ここまで来ると設計者とプロダクションの人間が一体となってコンテンツ作りをしないと好結果を生み出せません。) これまでは設計用のCADとCGソフト、2次元CADが動けば良いハードと高性能なCG用ハードと言った設計業務とビジュアライゼーション業務の明確な線引きがしやすかったのですが、Revit+クラウドや3Dモデル+GPUレンダリングと言ったように双方の垣根が曖昧になってくると、プレゼンのためには互いの知恵を出し合わなければならなくなり、そうした時に両者を上手く繋ぐディレクターのような役割の人間の必要性が出てくると思うからです。そのディレクターの職分はプレゼンテーションというより、本当の意味での建築ビジュアライゼーションのディレクターとして、建築の総合的なプロデュースに関わるような仕事です。私はこれこそが建築ビジュアライゼーションの本来あるべき将来と思いますが皆さんはどう思われますか?
最後に
最後に書いた建築ビジュアライゼーションのディレクターの話は眉唾または理想と捉えられてしまうでしょうが、この事が絵空事でも何でも無いという事を証明するために、私は今秋からプロジェクトを立ち上げます。間違いなくディレクターとして動きますが、それよりも私がディレクションすることでビジネスとして立ちゆくのかが問われる仕事になります。またこのことをどこかで皆さんにお知らせする機会を持てれば幸いです。
最後になりますが長い間私のような人間の語りを聞いて頂いた読者の皆さんへの感謝の念が絶えません。またこのような機会を与えて下さったAutodeskのM&Eさん、本当にありがとうございました。
最後の最後に........
これでAREAでの連載コラムは終了ですが、またまたAutodeskのM&Eさん、更にAECさんのご厚意により今秋からRevitのHPの中でコラムを書かせて頂ける運びとなりました。今後はこれまでよりもより設計業務よりの建築ビジュアライゼーションの内容になるかと思いますが、興味を持たれている方がいらっしゃるようであれば引き続き読んで頂けると幸いです。別のページに引っ越しということになりますが今後とも宜しくお願いいたします。