トレンド&テクノロジー / CG教育最前線・未来のクリエーターはここにいる!
第3回:九州デザイナー学院~モデラー(コンセプトアーティスト)編~
- コラム
- 教育
第3回の本コラムは、九州デザイナー学院からゲームクリエイター学科のゲームデザイン専攻に在籍している釼持 駿(けんもち しゅん)くんと、栗本 奈実(くりもと なみ)さんを紹介いたします。
九州デザイナー学院(福岡県福岡市)は、ここ数年、クオリティーの高い学生作品を出し続けており、CGプロダクションやゲーム制作会社からも注目を集めている専門学校です。
今回のコラムでは、今年度のエースである釼持くんと栗本さんに取材させていただくことができ、2年制の専門学校で仕上がりの良い学生を生み出すヒントが満載のインタビューになりましたのでご紹介させていただきたいと思います。
モデリング希望者の映画クオリティのポートフォリオ
生山:早速ですが、作品を見せてもらえますか?
栗本さん:最初の作品は、映画「バットマンVSスーパーマン」のときのバットモービルで、2年になってすぐに制作して6月に完成した作品です。工業高校出身なので、メカメカしたものを作りたくて(笑)。
生山:すごいクオリティだね!これが2年になってすぐの作品なんだ。車のモデルを1ページ目に持ってくるって、女性のポートフォリオではかなり珍しいね。リファレンスにしたものは何かあるの?
栗本さん:動画をリファレンスにしました。実際の映画で使用するバットモービルを作ってる工程が見られる動画があるんですよ。タイヤを動かすのにどうしようとか研究しながら作っていく工程を見ることができて、モデリングするときにとてもわかりやすかったです。
生山:なるほど、構造が確認できる動画ってモデリングするのに良いよね。この5ページ目の作品は背景があって、構図も良い感じだけど、何か元になるイメージ画があるの?
栗本さん:この作品は映画の1ショットですね。
生山:完成したイメージがちゃんとあって模写したのか。本当に良く出来てる!
栗本さん:次の作品は1年の後半、さっきのバットモービルの前に制作した「室内」の風景の作品です。CGarchitecのランキングに載っていた作品を模写したんですけど、マテリアルの研究を試してみた作品ですね。
生山:試してみた作品と言いつつ1年後半でここまでフォトリアルな表現ができるとは。しかも、Arnoldを使ってるって書いてあるね?
栗本さん:Arnoldは便利ですね。mental rayを使ってからのArnold 5だったから便利さがよくわかりました。
生山:1年後半でArnoldとmental rayを比較して「便利だ」って言えるのがすごいね! Arnoldの使い方はいつ教わったの?
栗本さん:Arnoldの使い方は、オートデスクさんのサイトに記載されているテクスチャーとマテリアルのところを見ました。先生が「URLを貼っとくね」って誘導してくれて、「わからなきゃ聞いて」みたいな感じで。
生山:オンラインマニュアルで?!確かに最新の情報は載っているけど、ほぼ独学みたいな感じなんだ。
栗本さん:次の作品は、バットモービルの後で、2年の6月から作りはじめた作品で、初めてコンセプトから考えて制作しました。初めてだったので、難しさを思い知ったというか、すごく勉強になった作品ですね。
生山:どんなコンセプト?
栗本さん:コンセプトは「人のような生活をしている動物」にしたので、近いのはズートピアかなと思って、デフォルメの具合とかを参考にして作ってみました。
生山:勉強になったっていうところは?
栗本さん:模写とは違うので、「主役がどれ」とか「質感の絞り込み」とか、構図・ライティング・その他も全部を自分で考えて決めていかないといけないので本当に勉強になりましたね。
生山:CGを作る前のスケッチも良いね。確かにポートフォリオの作品(p13)はライティングで主役がどれだって分かるようになってるね!この作品からコンセプトを自分で考えたのは何か理由があるの?
栗本さん:就職したら、コンセプトから起こすと思うので、練習と思って。あと、この時点である程度の模写はだいたいできるようになっていたので、自分でどこまでできるかって試してみました。
生山:単品をモデリングするにしても、デザイン込みでコンセプトから携わるってことだね。ただの新人モデラーとは違うぞって感じだね!それに「模写はだいたいできる」って言えてるのが本当にすごいね!栗本さん、ありがとうございました。
生山:では、続けて釼持くんの作品を見せてもらえますか。
釼持くん:よろしくお願いします。まず、最初の作品は2年になってすぐに作り始めた作品で、映画のワンシーンを作りたいと思って、初めてフルでオリジナルで制作した作品です。
生山:おー、これも1枚の絵に仕上がってるね~!ゲームの学科だけど、釼持くんの作品も、やっぱり映画をイメージしてるんだね。フルでオリジナルの作品っていうことだけどコンセプトから考えたってこと?
釼持くん:そうです。週に1回ある世界観を考える授業で「地上から脱出する」っていうコンセプトを考えて、鯨型の巨大な船も考えてスケッチを起こし制作しました。
生山:2年になってすぐの作品で、既に1枚の絵として表現できてるんだけど、この作品では先生からどんな指導を受けてるの?
釼持くん:「構図が悪い」とか「スケール感が出てない」とか、全体の色味とかも先生に繰り返し指導してもらいましたね。
生山:やっぱりモデリングの指導じゃなくて、もう絵作りの指導だね。ここはCG教えてる専門学校は参考にした方がいいね。
釼持くん:次の作品は、1年の最後の作品で、映画のクリムゾンピークに出てくる室内です。
生山:これも映画だ(笑)。1年でここまでの質感を出せるんだね!ライティングが良い感じだし。
釼持くん:次の作品は1年のときに作った車です。この時には特にお題がなくて、ちょうど007を見てたんで(笑)。
生山:本当に映画をよく見てるんだね。
釼持くん:先生たちから「家に帰ったら映画か海外ドラマを見ろ!」って言われてるんです。「とにかく良いもの見ろ」って。
生山:「良いもの見ろ」って言うのは必要なインプットだよね。そういうインプットがあるから仕上がりの良いアウトプットができてるのか。
釼持くん:次の作品は、他の人が考えた乗り物のコンセプトがあったんですけど、そこからシルエットだけ参考にして、構図とか質感とか細かい部分は全部自分で考えて制作した作品です。
生山:写真というか本当に映画の1シーンだね!どの作品もフォトリアルで本当にクオリティーが高いね!
生山:お二人のポートフォリオを見て、2年制の学科で、ここまでの作品が作れてるのかって本当に驚きました。良いもの見させていただきました。ありがとうございました。
仕上がりの良い作品を生み出す授業:Mayaの基本操作
生山:授業について聞かせて欲しいんですけど、二人は入学する前からMayaは使ってたとか?
栗本さん:私は、ここに入学して初めてMayaを知ったので使ったのも初めてです。
釼持くん:僕は、大学時代に本屋さんでCGWORLDを見てCGを作るのにMayaを使っているって記事を見て、無料の学生版を自宅のパソコンにインストールして少しだけ使ってましたけど、本格的にMayaを使ったのは、ここに入学してからです。
生山:入学する前にはMayaの存在も知らない学生が、1年の後半には写真みたいなCGを制作できるようになってるんだけど、Mayaの基本操作は1年の前半で詰め込んだの?
釼持くん:Mayaの基本操作は、入学して「2週間で基本的な操作を教えるから叩き込め」って (笑)。
栗本さん:最初はMayaが英語版だったので難しかったんですけど、みんな2週間でモデリングできるようになってましたね。
生山:英語版は慣れちゃえば問題ないってことだと思うけど、2週間でモデリングできるようになるって結構短期間だよ。それで、その後は?
釼持くん:基本操作の後は、いきなり「建物3つを2週間で作れ」って言われて、次に室内3つ、これも2週間で、プロップをまた次の2週間でモデリングして、その間にテクスチャーとレンダリングの勉強をしつつ、2か月ぐらいでみんなレンダリングまでできるようになりましたね。
生山:2か月でレンダリングまでっていうのもかなり短期間に詰め込んでるね!テキストとかはあるの?
釼持くん:テキストはないです。詳しい内容はオートデスクのオンラインマニュアルを見て、分からなければ先生に聞いてます。
生山:そこもオンラインマニュアルなんだ!基本操作の習得にはオンラインマニュアルで十分だってことだね。というより、こういう授業をやっているので、そもそも独学ができる体制を作っているというのが凄い興味深い。先生が教えない授業をアクティブラーニングと言って巷で話題になっているけど、まさかCGの専門学校でそれを体現している学校があるとは(笑)テキストに載っていないことでも当然調べ方もわかっているので、教えてもらわなくてもどんどん学習して行けるし、それは移り変わりの早いCGの業界では重要なことだよね。
仕上がりの良い作品を生み出す授業:作品制作
生山:続けて、作品制作について聞きたいんだけど、自分の作品はいつごろから制作を始めるの?
釼持くん:夏休みごろには、オリジナルで作りたいコンセプトとか模写したい実写のリファレンスを持ってきて、自分のテーマが良いか悪いかを先生に評価してもらってもらってますね。
生山:1年の夏休みごろからって半年経ってないんだよね。1年の時には何作品ぐらいつくるの?
栗本さん:1年では1つか2つですね。私は2つでした。
釼持くん:作品は、だいたい3か月で作れって言われてるんです。3か月以上続けても良くならないっていうメドらしくて。
栗本さん:グダグダやらないようにとも言われてますね(笑)。その他に、企業さん向けの展示会がだいたい3か月ごとにあるので。
生山:3か月っていう制作期間は先生の経験的なメドなんだね。それに展示会っていう目標があるのも良いね。制作している3か月は先生からどんな指導があるの?
釼持くん:制作してる学生の後ろから先生が見てて、「もっとカメラ上げろ」とか「これは変だ」とかってアドバイスしてもらってます。
栗本さん:モデリングの段階では「形が違うから直せ」とか言って去っていきますね(笑)。
生山:先生がディレクターみたいだけど、先生の頭の中に皆の作品のイメージがあるんだね?
栗本さん:そうですね。先生にイメージを提出して「いいんじゃない」って言われてから作り始めるので。
生山:なるほど。制作前から構図とかカメラアングルの全体のイメージというか完成イメージは先生と共有できてるのかすごく大事なことだね。
仕上がりの良い作品を生み出す授業:絵作り
生山:世界観を考える授業があるってことだったけど、それはどんな授業?
釼持くん:文章とか小説みたいなテーマが出されるので、それを読んでデザインを自分で起こしていくんです。サムネイルみたいな小さいスケッチとかラフをいっぱい描いて、シーンを少しずつ詰めていくんです。
栗本さん:1年の頃は文章で「君が考えるキャラクターは?」とか「そのキャラが持ってるものはどういうデザインか」って出題されて、「こう思ってこうデザインしました」っていう発表会があるので、色々と考えてから描いていくんです。
生山:そのスケッチとかラフは、手描き?デジタル?
栗本さん:手描きでもデジタルでも何でもいいんですけど、だいたいみんなスケッチブックに描いてますね。
生山:この世界観を考える授業が作品の絵作りに大きな影響を与えてると思うんだけど、他に絵作りに関係する授業ってある?
釼持くん:絵作りっていう部分では、映画のカッコいいと思うスクリーンショットを撮ってくるっていうのがあるんです。それでどんな絵作りになってるかみんなで見てるんです。
生山:それ良いね~!さっきの「良いもの見ろ」っていうのも、このスクリーンショットを撮ってくるのも良いインプットだよね。
釼持くん:プロが作った絵なので「何が良いのか」って分析とか整理になりますし、カメラワークとかライティングの参考にもなったりしてます。
生山:そういうインプットがあって、世界観を考える授業とか作品制作でクオリティーの高いアウトプットができるんだね。
釼持くん:その他で、うちの学生作品ってグラフィックの先生がポスター風のパネルにしたいって指導してくれるんです。
栗本さん:グラフィック的なセンスで作品指導されるんですよね。
生山:確かに作品がポスターみたいだもんね。
釼持くん:でも、センスとか絵作りとかは「聞かないと教えないぞ」って言うスタイルなんです。
生山:作品制作は受け身じゃなくて学生がプロアクティブなんだね!その姿勢とかモチベーションはみんな維持できてるの?
釼持くん:そうですね。学生が一人で悩んでるってことはなくて、テーマとかコンセプトを考えるときなんかは、ディスカッションって呼んでるんですけど、周りの学生と輪になって一緒に考えるんですよね。
生山:ゼミとか研究室みたいだ。この学校には、絵作りに効果的な取組みとか指導が色々とあるね!
仕上がりの良い作品を生み出す授業外の活動
生山:今は、作品制作で実際にMayaを使ってる時間ってどれぐらいあるの?
栗本さん:朝8:30から夜8:30までで、ほぼ毎日です。土日は、授業はなくても学校は空いてるので、ほぼ来てますね。映像制作の会社とかゲーム会社に就職している先輩方も土日に教えにきていただいてるんで。
釼持くん:「暇だから」とか言って来てくださるんです(笑)。その時に色々と聞いてるんですよね。
生山:卒業生が来てくれるって良いね。授業だけじゃなくプロの先輩たちにも教えてもらえる環境がこの学校にはあるんだね。学校以外では、例えば家では制作するの?
釼持くん:自宅のパソコンに無料の学生版のMayaをインストールしてますけど、あんまり触る時間はないんですよね。8時半まで学校で制作して、帰ってからは寝るか映画を見るかなので。
栗本さん:私は、自宅に自分のパソコンを持ってないので(苦笑)。でも、先生たちからは「家にパソコンなくても作業は学校でやればいいし、家に帰ったら家でできることがある」って言われてましたね。
釼持くん:逆に「家に持って帰って作業するな!」って言われるんですよね。だから自分も作業はほとんど学校だけですね。
生山:じゃあ、学校だけの作業で、この作品のクオリティーを出せてるんだね!家で作業しないんだから徹夜とかもないってことだ?!
釼持くん:徹夜しても次の日にパフォーマンス落ちるからやめろって言われてます。だから「パソコンは買わなくていい」って。
生山:「パソコンは買わなくいい」って、なかなか聞けないセリフかもね。それでも、授業外もCGとか絵作りのための活動になってて、かなり徹底してるというか充実してるね。
将来像
生山:最後に、将来のことを聞きたいと思ってるんだけど、まず就職について聞いても良いですか?
栗本さん:私は背景モデラーとしてフロム・ソフトウェアさんに採用してもらいました。
生山:ゲーム会社だね。
栗本さん:もともとゲームが好きなんで。あとフロム・ソフトウェアさんは福岡支社に卒業生が何人もおられるんで。
生山:確かに福岡にあるもんね。そういえばフロム・ソフトウェアさんって学校に教えに来られてるんだよね?
栗本さん:1か月に1回来られているので、その関係もあってエントリーさせていただきました。
生山:就職っていう部分でも、この学校に来てよかったね(笑)。釼持君は?
釼持くん:僕もモデリングカフェさんの福岡スタジオで内定をいただきました。
生山:モデリングカフェさんも学校に教えに来られてるよね!二人とも就職では本当にこの学校に来てよかったね!ちなみに、二人ともポートフォリオの作品数が少ないけどこの作品数で内定が取れたってこと?
栗本さん:そうですね。デッサンも入れてるんですけど、私たちは授業も見ていただいていたのもあるんじゃないかと思ってるんですけど、私は他の企業さんも受けてて、同じポートフォリオで内定をいただけていますし、作品が少ないって言われたことはないので、1点1点の質さえ上げれば、どこまで作れるのかって見てもらえれば大丈夫なのかなと。「私はこれぐらい作れますよ」っていうのを見せれるようになるまでは時間がかかりましたけど。
釼持くん:自分は作品選考が長ったんですけど、作品のクオリティーというか限界値みたいなところを見られてるように思いましたね。
生山:自分の限界値を出して、ここまでのクオリティーを出せれば、ポートフォリオの作品数は少なくても問題ないってことだね。特に二人のポートフォリオは、クオリティーの高い作品を選りすぐったのかなって思っちゃうかもね。あと、近い将来にはコンセプトアーティストになってくれるかもって言う期待もできそうだからね。二人は将来どんな作品に携わりたいとかあるの?
栗本さん:海外のゲームとか、クオリティーが高くて、制作の意識も高く作っているようなところで制作してみたいと思ってます。海外だと研究者と一緒にコンセプトを作ったりしているので、そういう人たちとの制作では説得力のあるデザインができそうなので。
釼持くん:僕は海外のゲームのシネマティクスを作ってるスタジオに行って背景とかメカを担当させてもらいたいと思ってます。海外のゲームのシネマティクスとかオープニングを見てると「これがCGか?!」とか「飛びぬけてるな~」って思うんですよね。
生山:二人とも既に海外志向、恐ろしい世代だな(笑)。でも、そういう風に思ったのはいつごろから?
栗本さん:この学校に入ってからですね。色々と映像を見るようになって、海外にそういう会社があるっていうのを知って、「これはすごいな!」って圧倒されてからですね。
釼持くん:僕は、入学する前は実写とかVFXで映画の方に行きたいって思ってたんですけど、入学してから色々な海外の映像を見るようになって、シネマティクスが面白そうだな~とか、ゲームのシネマティクスはリアルに無いものをオリジナルで作れるのが面白そうだなって思うようになっていったので、この学校に入学してから考え方とか思考回路が変わっていったと思います。
生山:この学校に入学して、色々な映像を見て、知識が増えて、自分の夢が広がってる感じだね!
いや~、すごい刺激的なインタビューになりました!
釼持くん、栗本さん、ありがとうございました。
最後に
今回は、学生のみのインタビューでしたが、いかがだったでしょうか?
学生から聞いた先生方の指導や授業は「徹底」「集中と選択」「合理的」という印象があり、また、「キャラクターはやらない」「背景がメイン」「静止画で求める質が高い」というところが先生方(学校?学科?)のコンセンサスになっているようで、単なるモデリングに終わらず一枚の絵作りを先生がしっかりとディレクションすることで、クオリティーの高い作品を生み出し、先生方のマインドが学生たちに受け継がれ、モデラーの域を超えた学生を生み出していると感じました。
今回の釼持くん、栗本さんへのインタビューは本当に刺激的ものになりました。貴重なお話しをありがとうございました。
お二人の、また同校の益々の活躍を期待しております!