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第2回:吉田学園情報ビジネス専門学校~3DCGアニメーター編~
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吉田学園情報ビジネス専門学校(北海道札幌市)と言えば、CGを教えている専門学校では老舗であり、SIGGRAPH Computer Animation Festivalに2度(2004年、2006年)も入選するような実績を残してきた学校としてご存知の方も多いのではないでしょうか。
今年度(2018年3月卒)も同学科では3DCGアニメーターとしてゲーム会社やCGプロダクションから内定を得ている学生がおり、その中で既に株式会社バンダイナムコスタジオに内定をもらっている成吉一真君に就職するまでの勉強方法や作品制作について聞いてきました。
また、成吉君の担任である田中雅継先生には3DCGアニメーターの育成に特化したカリキュラムについて伺ってきましたので、インタビュー形式でお届けしたいと思います。
左から同校コンピュータグラフィックス学科 成吉一真君、田中雅継先生
このインタビューを通して、吉田学園の驚異的な結果の理由が少しでもご理解いただけると嬉しいです。
就職活動の際に使用したデモリール及び授業課題
まずは、インタビューの前に、成吉君のデモリールから見ていただきましょう!
このデモリールには、授業で作成したものは含まれておらず、すべての作品が就職活動用に作成した作品で構成されています。
以下は、授業で作成した作品6点です。
学生インタビュー:普通の高校生が3DCGアニメーターに!
【聞き手:生山浩(アライアンス)】
バックボーン
生山:まずは、CGを勉強しようと思った経緯を知りたいんだけど中学や高校時代に美術部だったとか、絵が好きだったとかなのかな?
成吉:特に美術の経験はなく、高校も普通科で大学を目指せるところだったんですけど、自分がやりたかったことがはっきり決まっていたので、この学校に入学しました。高校生の時に将来何になろうかって考えるタイミングが何度かあり、その時に自分はゲームが好きでゲームを作る上で職種が色々ある中で、デザイナーになりたいなってことで、この学校を選びました。
生山:なるほど、そういう意味ではCGデザイナーにも色々な職種があるけど、この学校に入学する前から3DCGアニメーターになるっていう意識はあったの?
成吉:入学前は、CGをやってみたいっていう程度だったので、アニメーションを目当てにこの学校に来たわけではないんですけど、学校で勉強してるうちにアニメーションの仕事をしていきたいなって思うようになりました。
生山:じゃあ学校に入ってから「アニメーションって面白いじゃん!」ってなったんだね。
3DCGアニメーターの勉強
生山:この学科でどんな勉強をしてきたのか教えてもらえますか?
成吉:授業は、3DCGのアニメーションがメインで、もちろんモデリングもあり、その他に自分たちでチームを組んで企画から制作までやろうっていう実践的な授業もあります。でも、アニメーションが圧倒的に授業数が多いです。
生山:パソコンにはAutodesk MayaとかCGソフトは何がインストールされてるの?
成吉:学校から貸与されているパソコンなんですけど、入学後すぐにセットアップする授業があって、Maya、Adobe Creative Cloud、Microsoft Office、その他に個人で購入したタブレットと一緒にZBrush Coreをインストールしました。
生山:それ良いね。用意されたパソコンを使うんじゃなくて、自分の使う環境を自分で構築しておくのは何かマシンに問題があっても自分で復旧できるしね。正直社会人でもこういうの苦手な人いたりするし。
生山:成吉君はMayaで3DCGアニメーターとして内定を獲得するまで成長したってことなんだけど、アニメーションをやってて、手応えとか、成長してるって感じたことはある?
成吉:人の動きは難しいけど、それより動物の動き方が難しいっていうような、あきらかにこっちの方が作るの難しいってことが分かるようになったり、以前は表現できなかったアニメーションが表現できるようになっているのは伸びてきているのかなって感じることはありますね。
生山:できなかったことがいつのまにかできるようになってるって感じなの?
成吉:そうですね。どんどん繰り返しやっていくことで、以前は難しかったところが、今では当たり前になってるみたいな。
生山:繰り返しやってたのが成果として出てくるってことだ?
成吉:アニメーションの授業の多さも影響してると思います。たぶん、大量のアニメーションを制作する機会がなければ、ここまで伸びてなかったと思いますね。
生山:手応えとか成長は「繰り返し作り続ける」「制作の総時間数」で実感することができるってことだ!授業以外ではどんな勉強してた?
成吉:武器を使った攻撃のアニメーションは授業では制作しなかったんですけど、アクション系の動きがとても好きだったので、何個か作ったり、ドラゴンとかのアニメーションも授業以外で作ってました。
生山:いつも家で何時ぐらいまで制作してるの?
成吉:遅いときでだいたい夜12時ぐらいまでです。自分のやりたいことは自分の時間で、学校の授業ではアニメーションの技術を磨く時間っていう感じです。もともと入学する前から授業以外でもどんどん制作して良い会社に絶対入ってやるっていう強いモチベーションを持っていたんですけど、学校に入学したらさらに先生から授業以外でも作品作れとさんざん言われて、これはやらなきゃって感じになってましたね(笑)。
生山:それであれだけのクオリティーのものが作れてるんだね。コンピュータを使わないで、アニメーションを作るのに役立ってることって何かある?
成吉:研究っていう意味ではゲームをプレイしたり、映画を見てます。「この動き良いな」っていうインプットのためにです。最近では生活の中でも動きを見てアニメーションの知識を蓄えてますね。ただ、最初からアニメーションを見てやろうってことじゃなくて、気になったところがあれば見るようになった感じです。職業病みたいになってきてるのかな。
生山:アニメーション制作でこだわってることってある?
成吉:自分がこだわってるのは、YouTubeとか、既に世に出ているゲームだったり映画だったりのアニメーションを参考にしているので、そういったもののクオリティーにどれだけ近づけるかってことですね。学生だから「ここまででいいや」ってことじゃなくて、いずれは自分も仕事としてやっていくんだから、それぐらいのクオリティーを目指すのは当たり前だと思ってますし、自分より上と比べることで最終結果に重点をおくことにこだわってますね。
同校コンピュータグラフィックス学科 成吉一真君
3DCGアニメーターへの就職
生山:就職活動はいつごろから始めたの?
成吉: 2月ぐらいから始めました。でも、アニメーションの作品は3月入ってから一気に作り始めて、内定をいただいた格闘ゲームなどで有名なバンダイナムコスタジオさんには4月末にエントリーしました。
生山:えっ?たった1~2か月ぐらいでこの作品を作ったってこと!?
成吉:実は、1年生後期まではモデラーで就職しようと思ってたんですけど、企業説明会に行った際に「このモデルの出来栄えだと厳しい」という現実にぶち当たって・・・。
生山:「このレベルだと厳しいよ」って言われて、その時点でモデラーとしてある一定の評価をもらわないとヤバイってわかったってことだよね?
成吉:自分は専門学校に入学するまではパソコンも使ったことがなくゼロから始めてるんで、その時期からモデラーとして実力をつけていくのは、時間的に厳しいかなと思って。そこからアニメーターへの転向を考えました。
生山:でもアニメーターとしてもゼロからじゃない?それまでの授業でアニメーターとしては勉強してて、自信とか手応えがあったってことかな?先生からはアニメーターとしてはクラスで断トツでトップだって聞いてるけど。
成吉:そうですね。先生からそういった感じのことは言われていたので、多少なりとも自信はあったかなと。
生山:アニメーターで行けるとは思ってたんだね。正直1年勉強しただけでその自信が持てるのは凄いね!ちなみにデモリールの制作で誰かにアドバイスってしてもらった?
成吉:本校の卒業生で先輩でもある株式会社モックスの住岡さんに見ていただきました。その時は完全に仕事というか内定獲得に向けていろいろと厳しく言っていただいて、実際に現場で働かれている方なのでアドバイスも的確でした。他にも、住岡さんが新卒採用のデモリールで最初に見た作品(アニメーション)のレベルが低かったら全部見ない傾向があるってことを教えていただけたので、最終的に今のデモリールになりました。
生山:それでドラゴンのアニメーションをトップにもってきてるんだ?
成吉:はい、自分はこういうのが作りたいですってアピールしたかったのと、制作時間もそれなりにかけましたし。
生山:ドラゴンをちゃんとそれらしく動かしてるのはすごいよね!これは授業でやったの?
成吉:授業ではまったくやってないです。映画やゲームでドラゴンが出てくるものをいろいろと見て、こうやったらドラゴンっぽいかなってイメージして作りました。実際にいないものなので、どういう骨格で動くのか考えて作りました。それを制作するまでに学校の講義では人間の骨格しかやってなくて、やっと4足歩行の動物をやり始めたぐらいだったので、完全に自分で研究してましたね。
生山:人間の骨格とか基本をちゃんとやっとけば、教わってなくてもこういう風にできるってことなんだね。
成吉:自分のデモリールを作る上で授業の課題は1つも入れたくないって思っていたので、いろいろと挑戦して制作していました。
生山:授業の課題を1つも入れたくないって凄いね!!!
将来について
生山:バンダイナムコスタジオさんから内定をもらってるわけだけど、どんな作品に関わりたいとかどういう風になりたいとかある?
成吉:自分が好きなゲームに関わりたいっていうのもあるんですけど、ゲーム好きな人だけじゃなくて、どんな人でも知ってるような有名なゲームタイトルに関わりたいと思ってます。将来的にはアニメーターをまとめてディレクションしたり、業界の中でアニメーターとして評価されるような人になりたいですね。この仕事を専門的にやるんだったらやっぱり上位にたちたいなって思いますね。その他に講演会とかCEDECとかでアニメーションの講演ができるようになりたいですね。
生山:このタイトルやりました!リードアニメーターですってことになれば、すぐにオートデスクから依頼が来るかもね(笑)。高校から考えていたゲーム業界への就職も決まって、夢がかなったね?
成吉:簡単ではなかったですけど、しっかりと努力はしたので。高校までの勉強とは違うし、しかもゼロから始めて、次の年には就職を決めなきゃいけないので、その分詰めて詰めてだったので忙しかったですけど充実してました。自分のやりたいことに近づくことができたんで結果的に吉田学園に入って良かったなって思ってます。
同校の教室、自習風景
3DCGアニメーターの育成に振り切った教育内容
3DCGアニメーターを育成するカリキュラム
生山:続いて、田中先生にはカリキュラムについて伺いたいと思いますが、まず3DCGのアニメーションに特化した2年制学科って他にないですよね?
田中:そうですね。他都府県の専門学校さんですと、3年制や4年制でアニメーター志望の学生さんが多い印象ですが、2年制で3DCGのアニメーションに特化しているところはあまり聞いたことはないです。1年次にはモデリングの授業もありますが、2年次にはモデリングの授業はありません。他校だとアニメーション「も」力を入れてるっていう学校さんもあると思いますが、本校では3DCG アニメーション能力が高い人材を育成目標にした教育課程を編成しています。アニメーションの授業は、1年次には19コマ中6コマから7コマで、2年生になると少し増えて、前期に9コマ、後期になると12コマになります。
生山:1年次は色々と基礎的な科目もありつつだと思いますけど、その中でアニメーションの授業が全体の1/3、2年次に至っては1/2とか2/3になってるんですね。
田中:2年次は、後期になると殆どがアニメーションの教育になります。
生山:力入れてるっていうより振り切っちゃってますね。ここまで振り切ってる学校は他にはなさそうだけど、それぐらいじゃないと成果がでないってことですかね。でも、2年制で3DCGアニメーターに特化した教育って難しいんじゃないですか?
田中:考え方さえ理解してしまえば、そこまで難しくはないと思っています。私も当初はアニメーションに特化したCG教育はかなり難しいだろう思っていましたが、教えるにあたって株式会社モックスの住岡さんが主体となって考案されたカリキュラムが非常にわかりやすく構成されており、学生に教える際に重要点だけをかいつまんで教えることができたと感じています。
同校コンピュータグラフィックス学科 田中雅継先生
生山:住岡さんの考えられたカリキュラムには教材があったんですか?
田中:たとえばバウシングボールだとか、人体の重心とその移動がどういうものなのかなどを順序だてて教えていく内容になっていて、私はそちらをより詳しく掘り下げて学生に教えています。
生山:住岡さんは実際に授業はやってらっしゃるんですか?
田中:年に2回、前期1回、後期1回ずつ来ていただいて、朝から晩まで、直接学生に指導してもらっています。その他に、だいたい2か月に1回ぐらいでSkypeをつないで、品評会をやっています。普段の品評会に来校していただく際には、住岡「先生」として来ていただいているんですが、2年生になってからは株式会社モックスの「代表取締役」として『今後アニメーターとしてやっていけるのかどうか』を含めて厳しくご指導いただきました。私も学生作品を評価する際はクリエイターの先輩として「1クリエイターとして評価をする」ことを心がけています。
生山:質の良い人材を産み出している学校は、前回のECCコンピュータ専門学校さんの取材でもそうでしたけど「業界から来た新しい先生」が「きびしい」というところが似てるんですよね。田中先生は先生ですけどディレクター職としての意識が強いですか?
田中:およそ7対3ぐらいで作品のディレクションをしている意識で指導しています。ただ、実際の業務での「ディレクション」は、作品の方向性を決めたりすると思うのですが、学生自身が制作する作品は、その学生のやりたいことがしっかりと作品に反映されていないといけないと思うので、あくまでもクオリティーと技術面でディレクションをさせていただいています。例えば、「これはクオリティーが低い」と言うのは簡単なんですが、「これで何を表現したいのか?」と、制作意図が見ている人に理解してもらえることを意識してアドバイスしてます。
生山:やっぱり先生がきちんとディレクションできているから学生が育っていくんですよね!
田中:学生の数だけプロジェクトを担当している感じですね。
生山:なるほど、良い例えですね(笑)。先生がディレクションして、企業の協力を得て、時間が無い2年制学科であればカリキュラムを振り切ることが重要だってことが見えて来ましたね。カリキュラムの細かい部分なんですけど、3DCGアニメーションのためのデッサンやクロッキーのような手描きの授業ってあるんですか?
田中:1年前期のアニメーションBasic2という科目で「モーションプラン」というキーポーズを手描きしています。それ以降も「モーションプラン」を描き出させてからMayaでアニメーションを制作していくんですが、慣れてくるとキーポーズは描かずに直接Mayaでブロッキング(キーポーズ)とって制作してみようかってことになっていきます。
生山:キーポーズを描く練習ってするんですか?
田中:練習というか、例えば、1コマ(90分)かけて、ネットにUPされてる様々な野球選手のピッチングフォームの動画を何度も見返して、「重要なキーポーズってなんだろう」と考えさせてから描き出させて、その後は個別対応で精査して、実際にアニメーションをつけていきます。
生山:キーポーズを見つける作業は徹底的に教えてるんですね。
田中:リファレンスを探し出す作業でも、動画を再生しっぱなしにするのではなく、キャプチャー後にAfter Effectsへ流し、自分に必要なところだけ編集して、リファレンスをより詳細にリファレンス化していくように心がけています。
生山:先ほど成吉君が、授業外でも制作してるって言ってましたけど?
田中:そうですね。「授業内の制作活動だけで就職できるほど甘い世界ではない」と、入学後すぐに伝えています。私自身もゲーム制作会社に在籍していましたが、同じような経験をしているからなんです。それに、クリエイティブな世界に携わる人間は、普段の生活の中でも絵作りやモデリング、アニメーションなどについて、常時研究をしている人が伸びていく人材だと思うので、学生には日ごろからそのようなことを伝えています。それでも、学生なので遊びたいだろうし、その遊びから得られる知識や技術、情報を自分たちの表現に活かすことができることも伝えています。そのように遊びと学業をうまく両立できている学生の一人が成吉君なんです。
生山:その他にも、3DCGアニメーションの授業や制作回数が多いと言っていましたが。
田中:やはり、3DCGアニメーションに特化した学科なので強く意識しています。3DCGアニメーションは「目を養う」ことも重要なので、何度も何度も見る作業を繰り返さなければいけないですし、時間もかける必要があります。ただ、成吉君はとても意欲的な学生なので、私からは逆に、何度か「休みなさい」って言ったことがあるぐらいストイックな学生です。専門学校に入学するまでパソコンも使ったことがない学生が、パソコンの操作を覚える、Mayaを覚えて、3DCGアニメーションを勉強して、制作スピード・技術・知識に関してクラスでトップになったんだと思います。また、当初はモデラー希望でしたが、アニメーター希望に変更してからは、1日6時間以上の勉強時間を確保して3DCGアニメーションの作品制作をしてました。
生山:3DCGアニメーターとして、ここまで短期間に成長した理由がわかりますね。また、学校も3DCGアニメーターに特化したカリキュラムで、それ以外の部分でも振り切って教育しているんだっていうことがよくわかりました。
田中:世間的には評価しやすいのはモデラー職種なのかもしれないですが、ある一定のクオリティーを出せる人がゴロゴロいるのも実態です。モデラーで就職するのは大変な時代になってきたなって思います。またモデラー志望であれば美術系の学校で学ぶことが正しいのかなとも思いますし、技術系の学校としてはアニメーション教育を主とすることが最適と判断したのもあります。業界の皆さんに「札幌の吉田学園には、優秀なアニメーターがいるらしいぞ」と認知していただけるように、私ももっと精進しなければいけません。
生山:すばらしい!吉田学園情報ビジネス専門学校コンピュータグラフィックス学科の3DCGアニメーター育成に振り切った取り組みは、3DCGアニメーター不足の業界にとっても期待の大きいところなので大成功と言えますね!
左から同校コンピュータグラフィックス学科 田中雅継先生、成吉一真君
最後に
CGを学んでいる学生の皆さん!いかがでしたでしょうか?
企業にとっては成吉君のような姿勢と実力(作品)を併せ持った人材を求めているのではないかと思います。
また、3DCGアニメーターが不足しているゲーム会社やCGプロダクションは、この吉田学園情報ビジネス専門学校のコンピュータグラフィックス学科に改めて興味がわいてきたのではないでしょうか?
筆者は今後も吉田学園情報ビジネス専門学校コンピュータグラフィックス学科に継続して注目していきたいと思います。
今回も非常に刺激的なインタビュー取材をさせていただきありがとうございました。
成吉君、田中先生、貴重なお話しをありがとうございました
お二人の、また同校の益々の活躍を期待しております!