とびきりの夢づくり職人をめざしてーーTELYUKAが語る制作者が持つべき「3つの愛」

とびきりの夢づくり職人をめざしてーーTELYUKAが語る制作者が持つべき「3つの愛」
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2018年8月31日(金)、オートデスク株式会社の主催によるユーザカンファレンス「Autodesk University Japan 2018」が開催されました。本レポートでは、Autodesk Mayaなどのツールを用いて、フル3DCGで作られたバーチャル女子高生「Saya」などを生み出すアーティストユニット、ガラテアサーカス株式会社のTELYUKAこと石川晃之氏、石川友香氏の講演「とびきりの夢づくり職人をめざして」をレポートする。

「制作への情熱を伝えて行きたい」から登壇しているというTELYUKA。講演はまず、「GarateaCircus」という会社名の由来からスタートした。「Garatea」とは、ギリシャ神話に登場する、彫刻から人間になった娘の名前。もうひとつの「Circus」は、友香氏が小さい頃から憧れていた、人種も国も区別なく楽しめる空間のこと。「いつか自分の生み出したキャラクターが生き生きと活躍する場を作りたい」という思いから付けられた名前だ。

自主制作の大切さ

AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子

今でこそアーティストとして世界に名を知られるTELYUKAだが、ここに至るまでは長い自主鍛錬があった。二人は2009年にオリジナル作品の制作を始める。

「与えられた仕事だけをやっていても、技術は向上しますが、様々な能力の探究や開発には自主制作をすることが大事です。自主制作が自分たちを支えてくれました。自主制作をやって、悪いことは何もありません」(友香)

自主制作では、演出や構図をすべて自分たちで考えて、制作し、アウトプットの見られ方まで考える必要がある。そうして得られる一番のものは、「考える」こと。そして、考えたことをどう行動に移すのか。さらに、「妄想力」も大事な要素だ。"こんなものを作りたい"という欲求が自然に生まれてくるサイクルを身につけることで、様々な行動の変化が現れてくるようになる。

アイデアが出ないという人のために...

「自主制作で取り上げる題材は何でもいいと思います。絵本の世界をそのままの質感で動かしてみる、映画のワンシーンをそのまま作ってみる、フィギュアをリアルにしてみる、漫画を再現してみる、ゲームを題材にする...いろいろなアイデアが、たくさん湧いてきます」(友香)

「Courir」
「Courir」

そうしてTELYUKAが作ってきた自主制作の作品が「Courir」だ。2013年から2015年まで作っていたバーチャルキャラクターで、"女性キャラクターとSci-Fiスーツ"の組み合わせで、元となるアイデアは「メトロクロス」というゲームをフォトリアルでイメージしたところが発端だった。

「Gandy」

また、実在するモデルをまるで雑誌の1ページの様に表現できるのかどうかにチャレンジしてみたいと再現した「Gandy」という作品も。

こうした自主制作と発表を繰り返すことで、国内、国外問わず各プロダクションから連絡が来るなど、仕事の幅が広がっていった。

「PRの仕方はすごく大事です。そして大切なのは、一般の方からの反応。CGを作っていると、同業者だけの反応だけで満足してしまいがちですが、アーティストとして生きていけるかは一般の方からの反応がどれだけあるのか、がキーになります」(友香)

そしてSayaへ

TELYUKA を一躍世界に知らしめたプロジェクト、バーチャル女子高生キャラクターの「Saya」は2015年に始まった。「我々の思う理想的で清らかな乙女を作りたいと思った」と言う。

「CGだと西欧人のモデルが多いのですが、日本人の容姿も、美しいものとしてありえる題材だと思いました。又、Sayaはハンドメイドですが、手で作り出すゆらぎやアーティストらの持つ美的感覚から生まれる理想的表現をメリットとしています。但し自然と自分たちの容姿に似てくるという現象がありますので、悪い部分が似ないように工夫が必要でした」(友香)

「口の動きは自分の顔を見ながら作ったりしますし、隣にいる友香を見ながら作っているのでやっぱり似てきてしまうのでしょう」(晃之)

AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子
AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子
AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子

2015年の発表後、Sayaはセンセーションを巻き起こし、シャープなど様々なコラボレーターが名乗りを上げた。東映デジタルセンター ツークン研究所と組んでパフォーマンスキャプチャ―を取り入れ、キャラクターのアニメーションを表現。博報堂とのコラボレーションではアメリカ・テキサスで行われた「SXSW」に出展。「文化庁メディア芸術祭」に応募した作品は、審査委員会推薦作品に選出され、講談社が主催するオーデョション「ミスiD」においてもファイナリストに残り、「ぼっちが、世界を変える。賞」を受賞した。

「「ミスiD」では、人間の女の子と同じ環境でチャレンジするために、カメラテストの環境をMayaで同じように作りました。"Sayaは肌が綺麗だからズルい"という意見があったりして(笑)、人間の女の子に脅威に感じられるのは開発者冥利に尽きると思いました」(友香)

AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子
AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子

インディーズから生まれたSayaがいろいろなことを実現していくのには、資金も必要。そのために博報堂などのエージェンシーとコラボレーションし、さらなる進化を遂げていくという。

ワークフロー

AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子

続いて、晃之氏がTELYUKAのワークフローの考え方を披露。ワークフローとは、「リソースを体系的に組織化した反復可能な業務活動のパターン」である。

「TELYUKA では、自分がワークフローを考えています。例えば、たまたま最近Sayaが手からロケットを出すという映像を作成したのですが、クレイアニメのような柔らかい表現が必要だと考えました。こだわったのは、ロケットから出る煙の表現です。ただスケールして透明になって消えるだけでは芸がないので、煙が出て消えるまでのあいだ、線の太さは同じまま大きくなり、細くなって消えていくという動きが出来れば、と考えました。もともと 3ds Max では標準の機能として存在しているのは知っていましたが、この動きをMayaで表現するために、NURBSカーブを利用した「押し出し」と「ブレンドシェイプ」を組み合わせて再現することになりました。」(晃之)

AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子
AUJのセッション「とびきりの夢づくり職人をめざして」の様子

「ワークフローは、まず表現のイメージから始まり、機能の選定、検証、そして表現の実現へと至り「反復可能」な事になることで、ただの作業では無くなるものと思います。今回のケースでは納期まであと一日しかなかったので、最低限の機能だけを使って動きを実現しましたが、同様の表現を他のカットでも使用しています。アイデアは机の前で座って考えている時よりも、掃除など、作業をしていない時の方が浮かびますね。PCの前にいるのは、あくまで考えたことを試したり、実現するための時間です。」(晃之)

得た知識を組み合わせることがアイデアになると晃之氏は語る。

「昔はアイデアもなく、作業を漠然と行っていて、その頃の自主制作は上手くいかなかった。他に興味が惹かれるような事があると投げ出してしまっていました。そんな中、人をまとめたり繋げたりする経験を経る事で、自分で創る方がどんなに簡単な事かと気付いた時、今まで面倒だと思ってやっていなかった事にも取り組めるようになり、やりたいことのアイデアも浮かぶようになりました。ワークフローを考えるという事は、豊かな表現を行う為の一つの手段として、また3DCGを理解し、「創る」という事の楽しさの一部になってくれるのではないかと信じています。」(晃之)

夢づくり職人を目指して

AUJのセッションの様子

最後に、「映像は、存在しないものを織り交ぜて表現することが出来るため、その映像を見た人々は様々な妄想的刺激の受け取ることが出来る。映像を作るということはそういった人々の夢を引き出すきっかけを創る事が可能だ、だから私たちは「とびきりの夢づくり職人」を目指してみたい」と語ったTELYUKA。

そして制作する上で大事にしている3つの愛。
まずは、テクノロジーへの愛。CGの進化、テクノロジーを支える人へのリスペクトのことだ、ツール一つにも様々な想いが根底にあるということを忘れないように。そういった想いが積み重なったテクノロジーの上で私たちの表現は支えられている。

2つ目は、制作への愛。
「様々な目標の実現や壁を乗り越える為には、制作への愛情、情熱や意思の強さというエネルギーが必要不可欠。それは、環境という生まれ持ったものに左右されず皆それぞれに平等に存在するものであり、それを如何に多く引きずりだせるかが鍵になってくる。」(友香)

そして3つ目の愛は、
「見てくれる人々への愛。様々な作品を見てきて、制作者側の愛情を感じ感動してきた、私たちも同じように感動を作り出してみたい」(友香)

「情熱を保ちつづけるには、体力そして精神的な強さも必要です。そしてインディーズの活動でも、奮闘している姿を見せ続ければ、手を差し伸べてくれる人らと出会う確立も上がってきます。勇気を持って創り続けてほしい」(友香)

今後は、Sayaのようなバーチャルヒューマンがどんどん登場して、シーンが盛り上がってほしいと語ったTELYUKA。ぜひこれかも、新しい世界を見せてほしい。

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