「Autodesk 3December 2013」イベントリポート
ゲストセッションC / SCE PS4ローンチタイトル「Knack(ナック) 」におけるアートワーク制作事例
インターナルデベロップメント部
ビジュアルアートグループ
アートディレクター 山口由晃 氏
インターナルデベロップメント部
ビジュアルアートグループ
アーティスト 土屋武人 氏
インターナルデベロップメント部
ビジュアルアートグループ
テクニカルアーティスト 飯田裕介 氏
本場ハリウッドの息吹を伝えるAndrew Roberts氏のセッションが終了すると、ここで再び30分間の休憩が挟まれました。きわめて内容が濃かったAndrew氏のセッションに火照った頭を冷やそうと、参加者たちは三々五々、ホールの展示ブースを回遊します。各社の最新製品を見て、触れて、鋭気を養った参加者たちが席に戻ると、いよいよラストラウンドが始まりました。
今回の「3December」のトリを取るのは、Sony Computer Entertainment の最新作「Knack(ナック)」開発チームの皆様です。「Knack(ナック)」は、日本では2014年2月に発売予定の次世代ゲーム機「PlayStation4」のローンチタイトルであり、「クラッシュ バンディクー」シリーズや「ラチェット&クランク」シリーズで知られるマーク・サニー氏が総監督を務めた超注目作。今回は特にそのアートワーク面にテーマを絞り、SCE JAPANスタジオからビジュアルアートグループの3氏が登壇してくれました。盛大な拍手を受けて、まずマイクを握ったのは「SIREN」シリーズや「Gravity Daze」で知られるアートディレクター 山口由晃氏です。
「今回ご紹介する『Knack』は対象年齢を広く取り、誰でも簡単に、安心して楽しめるタイトルとしてリリースされました。今までゲームしたことがなかった方も最後まで楽しめて、家族も巻き込んで一緒にプレイできることを想定しています。そんな『Knack』だけにアートコンセプトは非常にシンプルなものです。マーク・サニーからは3つのキーワードだけをもらい、それを基に進めていきました。テーマの1つ目はピクサースタイルのキャラクター。2つ目は温かみを感じさせる背景。これらは誰でも親しみを感じられる温かい世界観を構築したいということですね。そして最後にもちろん、PS4ゲームならではの次世代感の表現もキーとなります。......実は私がこの『Knack』に参加したのは、『Gravity Daze』が終わってホッとしてた時、"ちょっと手伝って欲しい"といわれてアサインされたのが始まりです。ところが入ってみると、既に時間は1年少ししか残っておらず、なのにまだアセットを大量につくる環境も揃ってない状態でした。ここからPS4のアプローチに向け、次世代機に相応しいハイクオリティなアートワークの構築と大量なアセット生産を、しかも絶対に遅れせられないローンチタイトルで、という厳しい状況を課せられたわけです(笑)。大変でしたが、そこはチームワークでいろいろ協力しながら、作業環境も含めて整備して1年で一気に作りあげた感じです」
つづいて山口氏からマイクを受け取ったのは、キャラクターのリードを担当する土屋武人氏です。『鉄拳 TagTournament』シリーズのキャラクターデザインで知られる土屋氏は、まず『Knack』の主役である「ナック」というキャラクターについて、2つの大きな特徴があると語りました。すなわちナックは、さまざまな形状の「レリック」と呼ばれるパーツによって構成され、シームレスに変化するキャラクター。フィールドに落ちているレリックを吸収し、大きく成長していくキャラクターなのです。
「ナックのアイデアの出発点は、"PS4のパワーをどうやって表現するか?"でした。そこで5000パーツという膨大なデニックのディティールから、PS4のパワーを見せつけようと考え、パーツならではの表現をいろいろ工夫していったわけです。たとえばナックが攻撃を受けるとパーツが吹き飛び、その吹き飛んだパーツが四方八方転がっていく。またパーツならではのスーパームーブという必殺技や竜巻のようにパーツをグルグル回転させて敵キャラクターを吹き飛ばしていく等、どんどん考えを発展させながらキャラクターを構築していきました。大きさがシームレスに変化するのもその一環で、一番小さい可愛いナックは60個のパーツから、最終的には5000個まで増えて、身長も70センチから10mまで変化するんです......」
ナックのキャラクターについて語ってくれた土屋氏に続き、再び山口氏がマイクを握り、BG(バックグラウンド)に関する説明をしてくれました。 「『Knack』の世界のコンセプトは、シンプルデザインという言葉に集約されます。ここで言うシンプルデザインというのは、単なるリアルではなく、そこに少しだけデフォルメを加えてより"分かりやすい"表現にするということです。単純にかっこいい絵ということではなく、そこがどういう場所か・それがどういう物か、お爺ちゃんでも子どもでもひと目でハッキリ分かるようにしよう、と考えたのです。具体的に言えば、どのステージも構成要素を複雑にせずに、できるだけシンプルに見せようというわけです。そして、プレイヤーが今いる場所がどういう所なのか、すぐ把握できるように、コンセプト段階から、このシンプルなデザインを追求していきました。だから『Knack』では、どのシーンでも、木や緑、クリスタル、遺跡など、進行に最低限必要な基本要素しか入ってません。もしも別要素があったら、プレイヤーはそこに引っかかってしまうかもしれませんから......」
最後に、飯田裕介氏がランタイム向けのモーションデータなど、ゲーム周辺の開発について語ってくれました。飯田氏は3D格闘ゲームの名作と呼ばれる『Dead or Alive』シリーズや『幸福操作官』、『The Last Guy』などで知られるテクニカルアーティストです。 「私たちが言う"ランタイム"という用語は、実際のゲーム環境のことを指しています。このランタイムにおけるモーションデータの作成で課題となったのは、やはりナックを構成するパーツ数がゲームの中で大きく増減するという点でした。そこで私たちは、60パーツのS、300パーツのM、1200パーツのL、5000パーツのLLという4つのリグを作成したのです。そして、これらを使い分けながらモーションを作成していきました。"パンチ"のような1つのモーションについても、それぞれ4サイズのリグでモーションを作ったんですね。ただし、これはあくまでデータの持ち方の話。いちいちアーチストが4つのモーションを創るわけではなく、オートでモーションを流し込める仕組みを工夫したのです。アーチストの作業量が4倍になるわけではありませんよ......」(笑)。 ――こうしてワンカットワンカットが鮮烈な印象を残すム−ビーとともに、大規模な開発現場ならではのスケールの大きな開発ストーリィが、3人のアーチストによって語られました。時おり会場の参加者たちの笑いを取りながら、和やかな空気のなかで彼らのセッションが終了すると、やや時間が押しぎみだったにもかかわらず、客席は万雷の拍手に包まれました。そして、司会者が終了を宣言しても、会場のあちらこちらで講演者や出展者を囲んで参加者たちの輪が生れ、談笑の声は長く長く続きました。