「Autodesk 3December 2013」イベントリポート
■開催概要
3December 2013 CELEBRATES THE COMPUTER GRAPHICS COMMUNITY
日程:2013年12月 3日(火) 13:30-18:50
会場:フォーレミュージアム六本木
定員:500 名
12月3日、3DCGユーザの年末最大のビッグイベント「3December」が、今年もラフォーレミュージアム六本木(東京・六本木)で開催されました。3DCGユーザのためのグローバル・コミュニケーション・イベントと位置づけられる3Decemberは、旬な3DCG情報に最先端技術、そして世界のクリエイティヴの息吹に触れられる数少ない機会として、今年も内外から多数のクリエイターが結集してくれました。ゲーム界きっての人気シリーズ最新作『龍が如く 維新!』メイキングをご用意の株式会社セガ様を筆頭に、ハリウッドのPixomondo社からは各賞受賞に輝くVFXのスペシャリストが来日し『アフター・アース』ほかヒット映画のVFXを語り、さらに期待のPS4ローンチタイトル『Knack(ナック)』のアートワークを紹介すべくSony Computer Entertainment JAPANスタジオのアーチストたちが来場するなど、今年もまた豪華なセッションが連発。満座の来場者は終始熱く盛り上がりました。
ご挨拶
メディア&エンターテインメント
事業本部 西松和朗
東京タワーもほど近い都心部ながら、豊かな緑に包まれたラフォーレミュージアムB1。開場と共に受付を済ませた参加者たちは、ホールの各社ブースを回って同業者や友人たちと旧交を暖めます。やがて午後1時、アナウンスに促された参加者たちが静かに着席すると、まず最初にメディア&エンターテインメント事業本部の西松和朗が登壇しました。開口一番、ユーザと支援スポンサー各社への感謝を笑顔で述べた西松は、続いてMedia&Entertainment事業部における3DCGの開発体制の変遷を紹介。ユーザニーズに応える、オートデスク開発体制の進化を力強くメッセージしました。
「従来、私たちは製品ごとにチームを分けて開発を行なってきましたが、より効率的にユーザの声を反映させるため、2010年に開発体制を一新。モデリングやモーション等々、ファンクション別に開発チームを分けました。さらに3年後には業界ごとに異なる要望に応えるため各チームに業界窓口を設け、最終的にこの2月から市場別の3グループ体制――Games Solution Group、Film & TV Solution Group、Video Solution Groupという業界別開発体制をスタートさせています。まさにユーザニーズに応えるため、進化させ続けた開発体制と言えるでしょう。本日は6時45分までの長丁場となりますが、どうぞぜひ最後までたっぷりとお楽しみください」。
オートデスク セッション / Autodeskの現在と未来
メディア&エンターテインメント
門口洋一郎
最初のセッションは、メディア&エンターテインメントの門口洋一郎による最新技術のプレゼンテーションです。一礼した門口は、まずメディア&エンターテインメントが保有する基礎技術をまとめたムービーを上映しました。次々と画面に出現する膨大なテクノロジの奔流の中から、門口は幾つかをピックアップし説明していきます。たとえば200億ポイントクラウドの点群データを扱うAutodesk ReCap Pro、高解像度写真からモデルを生成するReCapPhoto、レーザスキャンデータから巨大メッシュを生成するproject memento、サードパーティのプラグインを共通のインストーラでアップするAutodesk Exchange Appss Store......特にproject mementoは、宋明信による3ds Maxのデモも行われ、観客席を圧倒しました。
「ご紹介したムービー前半の技術群は私たちが持つ現在のテクノロジーであり、皆さんがすぐにでも使うことができるものです。しかし、後半でご紹介したものは、今も私たちがチャレンジしている次代のテクノロジ・プレビューです。それだけに、ご覧いただいたものがいつお手もとに届くのか、現時点ではいっさい予測できませんし、途中で無くなってしまう可能性も少なからずあります。そういった可能性も含めて、Autodeskは、今までも、そしてこれからも、このような形で新しい技術というものにどんどん積極的に挑み、開発しつづけて行きたいと考えています。何が生まれるか分からない、Autodeskのこれからに、どうぞご期待ください!」
ゲストセッションA / 株式会社セガ「龍が如く 維新! メイキング」
第一CS研究開発部
チームリーダー 工藤裕一 氏
最新技術の奔流に圧倒された観客席の興奮が続くなか、司会者は本日のメインイベントであるゲストセッションの開始を告げました。トップバッターは、日本のゲーム界を牽引する1社、株式会社セガの工藤裕一氏です。工藤氏といえば、強力なフェイシャル・アニメーション・ツールとして知られる「MagicalVEngine」の開発者であり、国内外のテーマパーク・アトラクション開発でも有名なエンジニアです。
今回は、現在開発が進行中の『龍が如く』シリーズ最新作『龍が如く 維新!』のメイキングとあって、観客の期待は大きく高まります。『龍が如く』といえば、深みのある人間ドラマと壮快なバトルシステム、長く遊べるやり込み要素が揃った大作シリーズとして、累計出荷本数600万本を超える超人気作品。その最新作『龍が如く 維新!』は、幕末を舞台にした歴史スピンオフ第2弾です。熱い期待のなか、始まった工藤氏のセッションは、まさに現在進行形の開発現場の息吹を生々しく伝えるセッションとなりました。
「今回の『龍が如く』は、シリーズ史上最高のクオリティの極上エンターテインメント作品――というのは制作側の惹句ですが、この言葉に嘘はありません。シリーズの特徴である実在俳優のキャスティングも、今回は船越英一郎さん・高橋克典さんほか歴代出演者によるオールスターキャスト。幕末仕様の剣戟主体のバトルシステムも非常に気持よくできていますし、背景やステージも一新されて、やり込み要素も盛り沢山です。お客様にとって本当に楽しい作品になるでしょう。ただし、それだけに制作ボリュームは巨大なものとなります。たとえば膨大な登場キャラクターはシナリオの進行とともに衣装もどんどん変わり、しかも幕末だけに羽織袴や袖がついた着流しなど着物系の衣装主体で非常に手間がかかるのばかりです。それを半年強という制作期間でどうやって作り、入れ込んでいくのか......。これが開発当初から私たちの大きな課題となりました」
映画とも見紛うリアルかつ重厚感あふれる『龍が如く 維新!』の映像をたっぷり流しながら、工藤氏はさらにストーリィパート制作の具体的な詳細について語りを進めます。イベントシーンのワークフローを図解し、歴史スピンオフならではの特異な課題として、羽織や袖、袴といったボディ回りの「揺れもの」表現の困難さとその膨大な物量が、大きな問題となったことをあらためて強調しました。シーンによってはそうしたカットの数が200以上、フレーム数2万8000から3万以上もあるものが多数判明。シナリオからシミュレーション等に必要な時間を計算すると、総計で6年もの時間が必要と判定されたのです。しかし、もちろんそんな時間的余裕はまったくなく、ここから問題解決をめざす挑戦が始まりました。工藤氏が考えた解決策は4つ。人員を増やし、マシンを増強して分散処理を行ない、さらに独自のCrothエンジンを開発してデザイナー作業を絞り込む――これにより6年かかるとされれた作業期間を、わずか6カ月へと短縮したのです。
「まず、デザイナーにとって使いづらいものだったClothシミュレーターを、アーキテクチャ的に全面改良して本当に必要な機能だけに絞り込み、使いやすく高速なClothエンジンを開発しました。そして、このClothシミュレーターを活かし、本来デザイナーがやるべきでない"楽しくない"ルーティンな作業はできるだけマシンに任せ、デザイナーはデザイナーでなければできない、演出などの"楽しい作業"に集中できるワークフローを構築したのです。その上で人数を増やし、マシンを増強することで、当初6年と思われた作業を6カ月まで短縮できたわけです。ポイントはいろいろありますが、特に"楽しい作業"に絞りこむことで効率がすごく上がるのは想像以上でした。特に今回のような、短期間に大量のデータを作らなければいけないケースや、3DCGという頭がこんがらがる状況では、これはとても重要な発見ですね。いまや制作は最終段階に差しかかっていますが、そうした意味でも、今回はとても上手くワークフローが回っていると実感しています」
スポンサープレゼンテーション / 日本HP「HP Workstation 2013年新製品ご紹介」
株式会社
大橋秀樹 氏
宋明信
『龍が如く』の熱い映像に酔った観客席をクールダウンするため、ここで30分ほどの休憩時間となりました。緊張感から開放された参加者たちは、各社の多様な出展ブースを回り、実際に機器の操作を楽しみます。やがて休憩が終わり、灯が落とされると、間もなく日本ヒューレット・パッカードによるスポンサーセッションが始まりました。観客の拍手を受けながら登壇したのは、今年もまた大橋秀樹氏です。すっかり3Decemberの顔の一つとなった大橋氏の今年のプレゼンテーションは、「HP Zシリーズ」として一新されたワークステーションとNVIDIAグラフィックカードの新製品です。大橋氏が特にフォーカスしたのは、この10月に発表したばかりのモバイル・ワークステーション新シリーズ「Zbooks」でした。
「Zbookという新ブランドによるこの新製品は、17、15、14インチと3ラインナップで展開しています。特に17、15のミッドレンジ以上の製品には、高速インターフェイス「Thunderbolt」を採用。外付けのストレージ等と高速でデータのやり取りができる、このインタフェイスをWindows機にようやく搭載できました。これにより、映像制作にも活用できる環境になったのではないかと思っています。また正規な発表はまだですが、近々デスクトップ製品もThunderbolt2のカードを発表予定で、いよいよ4Kの映像制作等がより現実的なものとなってきているといえるでしょう。まさにそうした制作現場で、Windowsのデスクトップとモバイルを合わせて使っていただける環境をお届けできると考えています」
「Thunderbolt」搭載のニュースに沸く客席をさらに興奮させたのは、大橋氏からマイクをバトンタッチされたオートデスクの宋明信による、Hp Zシリーズ・ワークステーションの実機デモでした。今回はNVIDIAの最新アーキテクチャKeplerによるモバイル用高性能グラフィックQuadra Kシリーズ最上位のK6000を載せた、デスクトップワークステーション「HPZ820」にAutodesk 3ds Max2014を使用。マシンのパフォーマンスを見るため、宋はGPUリソースを全て使い切るリアルタイムレンダラー「iray」によるレンダリング作業を選択しました。結果はまさに圧倒的。宋自身が「ひと昔前なら中規模プロダクションのレンダファーム並み」と呆れるほどのハイパフォーマンスぶりを発揮し、会場を埋める参加者たちを驚かせたのです。宋からマイクを返された大橋氏は、そんな参加者たちを見つめながら語りました。
「実はこの最高スペックのマシンは、なかなか日本に来なかったのですが、今回ようやく本イベントに間に合わせることに成功し、私も初めて実機を使ったデモを行えました。皆さん同様、私も初めてそのすごさを実感した次第です。もちろんトップエンドのCPUなので、若干コストもかかります。ただ、さきほどデモをお願いした宋さんのお話にもありましたように、このマシンはかつてサーバ何台もで組んでいただいたレンダーファームを、たった1台のデスクトップWSで実現する製品です。ひと晩かかっていたレンダリングが10~30分で終わる実力を見ていただければ、コスト・パフォマンス的にも、十分ご納得いただけるのではないでしょうか。4Kの画像制作や映像編集等々、よりトップエンド製品が欲しいという話もあると思いますし、4Kの編集制作がより現実のものになってきたのかな、と感じていただければ幸いです。ご興味がございましたら、ぜひお声がけください!」。
ゲストセッションB / Pixomondo「アフター・アース」をはじめとする長編映画のVFX ~ビジュアル エフェクトのプロダクション テクニック~
Visual Effects Supervisor
Andrew Roberts 氏
ヒューレット・パッカードによる最新ワークステーションのパワーに圧倒された観客席では、次のプログラムのタイトルを聞いて再び静かな興奮が盛り上がり始めました。それもそのはず。2つ目のゲストセッションは、ワールドワイドに展開する国際的VFXスタジオ Pixomondo社のデジタル アーティスト、Andrew Roberts氏によるセッションでした。盛大な拍手とともに登壇したRoberts氏は、満座の観客に笑顔で一礼しました。受賞歴を持つ同氏は、グラフィックデザインにゲーム、テレビ、映画といった幅広い分野でVFXのCG制作を手がけ、「ゲット スマート」や「アバター」、「エンジェル ウォーズ」等に参加。Pixomondo入社後は「ワイルドスピード MEGA MAX」や「センター・オブ・ジ・アース2」、「スノーホワイト」、「アフター・アース」のCGを監修してきたプロ中のプロフェッショナルです。Pixomondoと自身のキャリアを簡潔に紹介したAndrew氏は、まず自身のクリエイティブ・スタンスについてこんな風に語ってくれました。
「映画製作のプロジェクトには、毎回独特の新しい課題が存在します。以前創ったものと同じでいい、というクライアントは絶対いませんね。むしろ品質のハードルはつねに上がり、きまって何か違うものが求められるのです。大変といえば大変ですが、そんなクリエイティブな挑戦が、私たちをアーティストにしてくれるのでしょう。しかし、当然ながら、だからといって利益を無視していいわけではありません。利益とお客様の満足とはきちんとバランスを取る必要があり、より賢く効率的にクリエイティブを行うことでそれが可能になります。たとえばお客様に「これはフルCGでやってくれ」と言われても、実際に評価したらそこまで要らないと気づくことがあります。背景もマットペインティングで十分。前景や中景にCGを置けばいいと思ったら、そのようにやればいい。それで実際に利益も上がりお客にも満足してもらえるでしょう。つまり、真にお客様が必要としているのは何なのか、実際にそこで何が必要となるのか。――きちんと見きわめることが最も大切なのです」
そんなAndrew氏が事例として取り上げたのは、今年日本でも公開され大きな話題を呼んだ、M・ナイト・シャマラン監督の『アフター・アース』でした。人気スターのウィル・スミスと息子のジェイデン・スミスの共演でも話題を呼んだこのSF大作では、人類が地球を去って1000年後の未来、未知の危険に満ちた惑星での異星生物とのドラマチックな戦いと冒険がテーマとなっています。まず、この『アフター・アース』の劇場予告編が上映され、わずか数分間のフィルムながら、壮大なスケールの異星風景の映像美、異様で凶悪な生物の群れやダイナミックなアクション等々が参加者の目を釘付けにしました。Andrew氏はそこで使用したCG映像制作技術の詳細なディティールを1つ1つ具体的に解説。Pixomondoの7つのオフィスのシームレスな協力により生み出された、効率的かつ合理的なワークフローを紹介し、観客たちに深い感銘を与えたのです。 「私たちはしかし、まだまだ満足していません。むしろさらに効率を上げたいと考えており、そのためのさまざまな取組みを進めています。たとえば、多彩なプログラム間でデータのやり取りをシームレスに行う取組みはとても重要です。この点ではオートデスクも3ds MaxとMaya間の連携で頑張ってくれていますが、私たちも自社ツールの開発を強力に推進しています。また、スケールが大きな取組みでも、プロジェクトに関わるアーティストたちが関連する最新エレメントをつねに意識して付け加えられるように、プロジェクト全体を把握できるようなツール開発にも取組んでいます。自動シーンアッセンブリやアセットアップデート、さらにはクライアントからの最新のフィードバック等々がきちんと反映できるようにするということですね。そしてもちろん、アーティストが最新の技術やツールの情報を把握することもとても大切です。そこでソフトウェア・ベンダーを招いて最新技術情報の説明会を行ってもらったり、社内アーティストによる専門分野のレクチャー等の取組みも活発に行っています。こうした私たちの取組みから生まれるものが、いくらかでも皆さんの参考になれば幸いです」。