「Autodesk 3December 2012」イベントリポート
ゲストセッションC / カプコン「BIOHAZARD 6メイキングストーリー」
PRODUCER 平林良章 氏
LEAD CHARACTER ARTIST 福井 誠 氏
LEAD VISUAL EFFECT ARTIST 黒田和正 氏
LEAD IN-GAME CINEMATICS ARTIST 宮崎政人 氏
LEAD CINEMATICS ARTIST 村上亮平 氏
『SUIREN』のセッションが終わると、プログラムはここでもう一度休憩時間となります。協賛各社のブースで最新製品に触れる方、サービス価格の書籍を購入する方......三々五々に休憩時間を満喫した参加者たちが席に戻ると、いよいよ最後のユーザセッションが始まります。今回最大の呼び物、株式会社カプコンによる『BIOHAZARD 6』メイキングストーリーです。いうまでもなくシリーズ累計5,500万本を超えるサバイバルホラーゲームの金字塔『BIOHAZARD』シリーズ最新作を、モデル制作からインゲーム演出、カットシーン制作等々パート別に分け、それぞれ担当アーチストがじっくり語ろうという贅沢なセッションです。司会役のプロデューサー・平林良章氏が率いる4人のアーチストと、協力会社のジャストコーズプロダクション山田氏の総計6名が大きな拍手で迎えられました。
「初めまして、カプコンの平林です。本作ではプロデューサーを務めさせていただきました。今回、弊社スタッフ4人、並びにご協力いただいたジャストコーズプロダクションの山田さんと共に、2012年10月に発売されたBIOHAZARD 6のビジュアルについて、これがどうやって作られていったか、少しでもお伝えできればと思っています。ゲームコンテンツだけに、デジタル・フロンティアさんやWOWさんのプリレンダーのクリエーティブともまた違う、秒間30フレームをきちんと出していかなければならない縛りの中で、どんな風にビジュアルをチューニングし、同時に効率を上げていったのか各パートに分けてお伝えしたと思います。まずはモデルについてキャラクター担当の福井がお話します」
(1)Character
拍手で迎えられて演壇に上がった福井氏は、本作におけるキャラクター回りの多様な表現の中から、特に3つの表現手法にポイントを絞り、語ってくれました。3つのポイントとは、まずゾンビの欠損表現に関する3つのテクニック。すなわちゾンビのボディと服それぞれのダメージ表現を、パーツコントロールやチャンネルマスク機能を駆使し、さらにテンプレートマテリアルのシステムで管理し多様な欠損表現を可能にしたこと。そして2つ目は、関節なしで多彩なアニメーションを可能にする新感覚シェーダー、頂点プッシュの活用テクニック。3つ目は、モデルのワールド法線を使って歪ませることで透明表現を可能にする、ディストーションのテクニックでした。
「ご紹介したキャラクター表現のテクニックは、特別最先端の高度な技術というものはありません。しかし、既存の技術やテクニックでも、様々な工夫や応用次第で色々面白いことが出来るんだというのは感じて貰えたのではないでしょうか。中でもマテリアルのコントロールでメッシュの移動・変形が行えるシェーダー・頂点プッシュのテクニックは、それ自体が発想の転換・創意工夫のカタマリのような技術で、楽しんで見て頂けたのではないかと思います。実際これにより、臓器が脈打つような表現も関節を気にすることなく行えるようになり、作業の効率化・処理の軽減・表現の幅が向上し、キャラクターを納得いくまで作りこむ楽しさに繋がりました。このことが一番大きかったと思っています。」
(2)Visual Effect
続いてビジュアル・エフェクトについて話してくれたのは黒田和正氏です。ビジュアル・エフェクトといってもさまざまなものがありますが、今回、黒田氏が取り上げたのは、絵作りする際に「もうひと味」加えていい感じに仕上げるテクニック。すなわち、ビジュアル面のクオリティアップに繋がるこだわりポイントに焦点を当てたのです。紹介されたのは、まず、BIOHAZARDでは絶対に欠かせない、重要ポイントの"血"に関わる液体表現のこだわり。そして、フォグフィルタを中心とする雰囲気あふれる空気感へのこだわり。さらに、ルートガイド機能のフィルタを活用した、絵作りなどのポストエフェクトにおけるこだわりポイントという3点でした。
「BIOHAZARD 6のビジュアル・エフェクトでは、様々なことにチャレンジしています。例えば血の表現は2Dのビットマップではなく、Softimageで制作した3Dのポリゴンデータを使用しています。このことによって、デザイナーが立体感や質感をコントロールすることが容易になりました。ただこれだけではポリゴンの固い表現になってしまうので、更に実機上でスムージングやフィルタリングをかけて液体のように見えるような処理を行い、ポリゴンによる表現の可能性を追求しました。絵作りにおいてポストエフェクトについても幅広くさまざまな処理を行っており、こういった細かな調整を重ねてゲーム全体のクオリティアップを図っています。システム的に各マテリアルごとにフィルタリング等の処理を行うことができるようになっています。キャラクターのマテリアルに対し専用のシェーダーを組み、それぞれの微調整ができるように仕込んでいるのですが、例えば一定の深度に入っているキャラクターに対し、特殊なフィルタリングをする事で色味を変化させるなど、絵を追い込んでいく作業を行っています。こうしたポストエフェクトによる絵作りは、ある程度のビジュアルが完成した時に、最終的な絵を詰めていく工程に相当します。」
(3)Animation & Cinematics Frameworks
次に宮崎政人氏が登壇すると、ここからはBIOHAZARD 6のもう一つの特徴である、In-Game CinematicsとCutSceneがテーマとなりました。宮崎氏によると、カプコンではシナリオ段階からゲームの構成要素を3つに分割しているのだそうです。そして、走る・撃つなどゲーム操作に直結したアクションを「Battle」、いわゆるデモムービーを「Cut Scene」と呼び、BattleでもCutSceneでもなく、ゲームの流れは停めずにゲーム自体の幅を広げていくような演出を「In-Game Cinematics」と呼んでいます。言わばゲームの任意のシーンのシチュエーションに合った、専用アクションや自然な演技の演出です。
「通常、ゲーム内ではさまざまな処理が施されているため、デモ再生時にそれらのプログラムが邪魔することがあります。そのためBIOHAZARDではこれを非表示かつ処理オフにしてトラブルを回避していますが、インゲームはゲームとシームレスにする必要があるためこの処理ができません。そこで、新しく上書きする形で元の"挙動を奪う"ことによりインゲーム演出を可能にしています。しかし以前はこれもプログラマが1つ1つ処理していたため、制作工程が非常に長くなり管理も難しくなりがちでした。そこで、本作では発想を転換してワークフローと管理手法自体を一新し、専任のインゲーム班を新設しました。今作ではこれがきわめて効果的に機能したのです......」
(4)In-Game Cinematics
インゲームといっても、カットシーンとしか思えないものからバトルそっくりのものまで多種多様。そのため管理が難しく、工数を計算するのも困難です。宮崎氏によれば、インゲーム班はこれをユニットコントロール、アクションメイク、インゲームデモという3つに分類して工数を管理。それぞれFramework用のツールを開発して制作していきました。ユニットコントロールはNPCや敵キャラのゲーム内での専用モーションで、アクションメイクはプレイヤーキャラの動きに絡めた専用モーションや短いデモ風映像。そしてインゲームデモは、ゲーム進行を円滑にするためのインゲーム内デモです。
「たとえばインゲームデモなど、カットシーンにしか見えないかもしれませんが、カットシーン班でなくインゲームセクションが作っています。なぜならゲーム進行を司るインゲームデモは、開発中でも敵の数や再生する場所などの設定がどんどん変わるから。ゲーム演出に直結する立ち位置にいるインゲームセクションが最適なのです。インゲームデモだけで147シーンもあり、しかもカットシーンと比べても遜色ないクオリティが求められましたが、今回はフィジックスや簡易のフェイシャルシステムを使って簡素化。工数を緩和して、最終的には6分の1程度まで工数を抑えることに成功し、147シーンを作ることができました......」
(5)Cut Scenes
ここでマイクは宮崎氏から村上亮平氏と山田竜一氏(株式会社ジャストコーズプロダクション)に渡され、いよいよ最終章のカットシーンに関する話となります。高品質なカットシーン映像はBIOHAZARDシリーズの呼び物の1つですが、今回はシナリオが4本というボリュームのため前作に比べ膨大な制作量となりました。村上氏によれば、カットシーンのシーン数は108で、「5」の 61シーンの約2倍。総尺数も「バイオ5」の70分に対し「バイオ6」は167分と2倍以上になったのです。加えてポスプロ期間は「5」の9カ月に対し12カ月。つまり前作の1.3倍程度の期間で、2倍以上の物量をこなす必要がありました。
「そこで考えた対策が外部制作会社との連携改善です。BIOHAZARDの制作は国内外の外部制作の協力を仰いでいますが、そのためのマネジメントロスの拡大が問題でした。そこでクローズアップされたのが、アクターマネジメントから制作まで一貫して請負えるジャストコーズプロダクションです。今回はこのジャストコーズと連携して制作することで、マネジメントコストを劇的に縮減できました。監督含めCGチーム、ライティングチームは国内で制作し、プリビズ、モーションキャプチャは、キャラに合わせて海外アクターを使用するため海外で収録。制作は国内で行うことにより、チェックや外部制作会社とのテクニカルなトラブルシュートのレスポンス向上を図ったのです......」(村上氏)
「弊社では今回、演出を含めカットシーン制作全般を担当しました。ポイントは幾つかありますが、前作から導入したバーチャルカメラ・システムが大きなポイントでした。このバーチャルカメラを使って人の手で撮影することで求められた映像の臨場感が生まれ、作業効率化が図れたのです。また、とにかく今回は当初から物量が多いと分かっていたので、"いかにアニメーション制作の負担を軽くするか"に重点を置いて綿密に準備しました。たとえば演出も絵コンテ・ビデオコンテ段階で細かい所まで決め込んで、必要な撮影だけに注力しました。それを元に行った精度の高いインテグレーションとバーチャルカメラ撮影が、結果的に無駄なアニメーション作業を省き、効率化に繋がったと思います......」(山田氏)
こうして90分にも及ぶ濃密なセッションが終了すると、会場からは万雷の拍手が巻き起こりました。やがて司会者が終了を宣言すると、会場のそこここに講演者や出展者を囲む来場者の輪が生れ、交流はさらに大きく広がっていき――2012年の3Decemberも大成功のうちに終了しました。