「Autodesk 3December 2011」イベントリポート
スペシャルセッション / THE THIRD FLOOR「プリビズの未来」
続いては、今回最大の呼び物である海外特別ゲスト――プリビズのプロ集団THE THIRD FLOORのCEO兼クリエイティブ・ディレクター、クリス・エドワーズ氏の登場です。エドワーズ氏はもともとルーカスフィルムのクリエイターとして「スター・ウォーズ」シリーズをはじめ、数々のビッグタイトルの制作に携わってきましたが、2004年にTHE THIRD FLOORを設立。この分野の第一人者として活躍しています。今回は横浜で開催される「ビジュアルメディアExpo 2011」のために来日。急遽オートデスクの要請に応えてくださいました。
「まず社名について紹介しておきましょう。THE THIRD FLOORという社名はルーカスフィルム時代、仕事場がスカイウォーカーズランチ(ルーカスフィルムの本社スタジオ)の3階にあったから。ここで2年間に渡りジョージ・ルーカスと映画製作に携わったんです。『スター・ウォーズ エピソード3』もその1つで、私は多くのパートでプリビズを作りスクリプトやストーリィボードも担当しました。そして、この場所で私は多くの才能ある人々と出会い、プロジェクト終了後、会社を設立しました。当初6人でスタートしたTHE THIRD FLOORは、現在120名を擁するまでに成長していますよ」
「アバター」や「アリス・イン・ワンダーランド」「アイアンマン2」等々、会場正面の2面の超大型スクリーンには、THE THIRD FLOORが手がけたさまざまな映画から選ばれたトレーラーが次々と映写されていきます。エドワーズ氏は、日本でもよく知られたそれらの作品を例に取りながら、彼らが手がけたプリビズについて紹介し、その制作過程についても具体的な例を引いて解説していきました。それらは観客の多くが実際に劇場で目にしてきた作品だっただけに、多くの観客にとって最高にエキサイティングな事例となったのです。
「たとえば『アイアンマン2』では、先ほどスポンサープレゼンテーションでデモが行われたXsens社のカメラ不要のモーションキャプチャーシステム "MVN"を使って、プリビズを作成しました。デモでも紹介されていた通り、これにより非常にスピーディかつ簡潔なディレクションが可能となりましたね。実際、トラッキングの作業現場にはスタントマンとディレクターがいて、その場でアクションを決めながら進めることが可能でした。だから、とてもスムーズかつスピーディで、しかもコンパクトなチームで進められ、コストもかなり抑えることができました」
紹介されたさまざまな事例からは、エドワーズ氏が、プリビズを使うことでこれらの映画の多彩なプロセスに深くタッチしていることが伝わってきます。そして、このプリビズの必要性・重要性について、エドワード氏は以下のようなポイントを上げました。まず監督やプロデューサーが行う多様な作業を手助けできること。もちろん品質向上や工程管理の質を上げることにも繋がります。また、これによりプロダクションそのものをより効果的に組み立てることもできるし、プリビズを行うことでその映画のファンドを集めることにも貢献できるのです。まさに、プリビズは現代の映画作りになくてはならない必須の工程となったと言えるでしょう。セッションを終えたエドワーズ氏には熱い拍手が贈られました。
スポンサープレゼンテーション / 日本ヒューレット・パッカード株式会社
ハリウッドからの最先端の「風」に熱く盛り上がった会場を少しクールダウンするため、ここでまた短い休憩がはされます。セッション会場外のロビーには、スポンサー各社のブースが並び、いずれも多くの出席者を集めています。中でも多くの観客を集めていた1社が、続くスポンサープレゼンテーションを行った日本ヒューレット・パッカードでした。同社の今回のプレゼンテーマは、先ほどのエヌビディアのプレゼンにも連動した内容。NVIDIA Maximusテクノロジを搭載した「HP Z」シリーズワークステーションの提案でした。
「NVIDIA Maximusテクノロジが実現するGPUコンピューティングの世界を体験できる、NVIDIA Tesla C2050プロセッサは徹底してハイパフォーマンスを目指して設計されています。448コアものGPUコアを搭載し、メモリは1ボードあたり3GBのメモリを2枚、つまり6GB。メモリバンドも144GB/秒で大規模演算を可能にします。このようなNVIDIA Tesla C2050を、しかも2枚も搭載できる最強スペックのマシンが"HP Z800 Workstation"。文字通りスーパーコンピュータ並の能力を1台に集約し、より少ないスペース、より少ない電力で、最強のパフォーマンスを提供します」
ユーザ・セッション / 株式会社白組「friends もののけ島のナキ ~新しい表現をめざして~」
長時間にわたった3December 2011もいよいよ最終章。エンディングを飾るのは「friends もののけ島のナキ」の監督・八木竜一氏とCGスーパーバイザーの鈴木健之氏です。「friends もののけ島のナキ」は「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズで知られる映画監督・山崎貴氏と「鬼武者3のオープニングムービー」を手がけた八木監督による最新3DCGアニメーション映画。12月の公開と同時にヒットとなり「この冬一番の泣ける映画」としてすでに大きな話題を呼んでいます。わが国CG・特撮界をリードする白組による初めてのオリジナルCG映画へのチャレンジについて語られた本セッションは、ラストを飾るに相応しい充実した内容となりました。
「今回『friends もののけ島のナキ』で私たちが目指したのは、まず海外のCGアニメ映画のクオリティに近づけたい、ということでした。CGアニメを作る以上、否応なく海外作品と比較されます。だからクオリティで並ばなければ勝負になりません。しかし私たちには彼らほどの資金はありませんから、その限られた予算の中でその高いクオリティを守りながら、90分きちんと作るということが重要になります。当然、徹底したとコストダウンと効率化が課題となってくるんですね。今日は、そこで私たちが直面したさまざまな試行錯誤や工夫の数々を紹介していきたいと思います」
もともとこの作品は、原案となった童話「泣いた赤鬼」に惚れ込んだ山崎貴監督が、2006年の秋頃に長年の仲間・八木監督を巻き込んで、4人ほどで「まるで部活動のように」スタートしたプロジェクトでした。手作り感覚で実験を兼ねて作成したパイロット版でプレゼンし、映画会社の配給が決まって制作のゴーサインが出たのが2008中頃のこと。そこから、上映時間1時間27分で総計791カット12万フレームに及ぶこの作品に携わったスタッフは、白組の社内スタッフが約40人、外部スタッフ22人に及び、そのほか3D化のスタッフも35人が参加したそうです。
「前述の通り、コストダウンという大前提のもと、それでも国産CGアニメとしてのオリジナティは出したいし、高いクオリティも維持したい。そこで当初からできるだけミニチュア化して行こうと考えました。もちろんキャラクタは3D CGですが、たとえば主人公の家は内外観ともミニチュアにし、対岸の島の村や地面もミニチュア。木の幹もミニチュアで作りましたが、葉っぱはCG。本物だとやはりどうしてもスケールが合わないんですよ。......そんな風にミニチュアとCG双方の良いところを生かしながら合成し、この現実にはない世界にリアリティを作りだしました」
さらに、この作品のもう一つの特徴として、主人公・ナキを始めとするキャラクタのアニメ的な造形や動き、そして豊かな感情表現と不思議なほどのリアリティとの共存があります。もののけも人間も現実にはけっしてありえない姿形なのに、会場のスクリーンに映写されたトレーラーの彼らには、たしかな現実感が漲っているのです。会場を埋め尽くした参加者たちも、その表現力に思わず引き込まれ、最期まで熱い関心を持って白組のお2人の言葉に聞き入っていました。セッションが終了すると、会場が割れんばかりの拍手に包まれたことは言うまでもありません。――このようにして2011年の3Decemberも大成功のうちに終了しました。
展示スペース
ロビーには協賛スポンサー各社のブースが並び、最新の製品が展示されました。どのブースにも参加者たちの大きな人だかりができ休憩時間中も会場は熱い熱気に包まれました。