3DECEMBER 2010 Events Celebrate the Computer Graphics Community

Digital Entertainment Creation
最新のデジタルエンターテインメント創造のためのソリューション紹介

メディア & エンターテインメント
シニアソリューションスペシャリスト
鳥羽浩行

続いては、オートデスク株式会社メディア & エンターテインメントによるプレゼンテーションが始まります。登場したメディア & エンターテインメントの鳥羽浩行は、ヘッドセットを付け両手をキーボードに走らせながらプレゼンテーションを開始しました。......今回のテーマは、モノづくりにおいて、3Dデータが多様なオートデスク製品を経由し、多彩に加工されていくことの重要性です。そうした中では、内容に応じ制作パイプラインを組み換える必要があることから、より柔軟に対応できるパイプラインが求められています。これこそが、オートデスク現在もっとも力を入れて取り組んでいる課題なのです。

「われわれには多くのCG製品があり、これをPremium SuiteやEntertainment Creation Suiteといった形で、それぞれの良い処を生かしてパッケージングしています。この流れの中で3Dによって創っていくわけですが、最終的にはお客様の見やすい2Dにも出力するため、2D/3Dのハイブリッドもまた重要なテーマとなります。こうした流れを、私たちは"Cross Pipeline Collaboration"と呼んでいます。このようなパイプラインをデータがどのように動いていくか見ていきましょう」。

鳥羽は、バトンをエンジニアの宋明信に渡します。宋はユーザにも広く知られる"3ds Maxの達人"。早速、3ds Maxを立ち上げ、NVIDIAのプレゼンでも紹介された新レンダラーirayを試し、その驚くべきスピードで会場を沸かせます。またこれも新搭載の物理シミュレーションPhysXを用いてリアルタイムで計算をかけたり、Mudboxへ連携させるなど、3Dデータをキャッチボールしながら自由自在に加工。 FBXで書き出したデータはFlameやMayaなどへ送られ、すべてメタデータとして活用できることが示されました。さらにそのままの流れで畳みかけるように始まったのがSoftimage の3Dステレオ表示デモ。こちらもFBXファイルによるFlameとのデータの受け渡しやMayaとのICEフロー等が実演されたほか、新たな流体表現機能であるLagoa等も紹介され観客の大きな喝采を浴びました。

「このように、独立していた多彩なプロダクトが1つにまとまりつつ、それぞれ得意分野を生かしながら、3Dデータを高い次元で練り上げて最終段階まで持っていく--いまそんな流れが生まれようとしているのです。ところで、今回紹介を控えたツールが一つあります。Mayaです。今日はMayaの主席開発者であるダンカンが来日しているので、Mayaの紹介は彼に委ねましょう!」

ダンカンのMaya 2011のダイナミクス新機能紹介

Duncan Brinsmead
シニア プリンシパル
デベロッパM&E
プロダクト開発部

鳥羽の紹介に応えて、拍手とともに登壇したのは、今回が初来日という米国オートデスクのダンカンブリンズミードです。満面の笑顔の好々爺然とした風貌とは裏腹に、彼はAutodesk Mayaの主席開発者としてMayaの進化を牽引するエンジニアなのです。ダンカンはまず、自身が柔道や合気道に尺八まで嗜む日本通であると語り、長らく望んでいた来日をついに実現できたことの喜びと感謝を述べました。そして、おもむろにiPodを取り出し、録音してきた自身の尺八演奏を会場に流します。突然流れ出した風流な尺八の音色に客席は大喝采。「I love SHAKUHACHI!」と満足げな笑顔で腰をおろしたダンカンは、Maya 2011を起動し、プレゼンテーションを開始しました。

「Maya 2011のダイナミクス新機能紹介」と題されたプレゼンの内容は、タイトルどおりMaya最新バージョンの数多くの新機能のうち、特にダイナミクス・エフェクト関連のそれを中心とするもので、ダンカンが実際にMaya 2011を操作する画面を見せながらのダイナミックなプレゼンテーションとなりました。開発者自身が駆使するMayaは、当然のことながら鮮やかな挙動で観客を魅了します。

Maya nParticleの紹介では今回nParticleによる液体の放出が可能となり、粘性に富んだ液体の表現をnConstraint により複雑なエクスプレッションを記述せずにより繊細にコントロール。ダンカンの操作どおり、複雑精妙に動く粘性を備えた液体のシミュレーションに、参加者から驚きの声が上がります。また全般的な高速化やモーションブラ対応、UVテクスチャ作成など、パワーアップした回転機能やメッシュ機能が紹介されます。また、ダンカン自身「たいへん使い勝手がいい!」とお気に入りなのがMaya Fluidのサイズの自動変更自動調節機能です。内部に気体を含んだものなど、複雑な流体のモデルも、スピーディかつより効率的に作成できるのです。

こうして、エンジニアらしく終始徹底して具体的な機能紹介にこだわった、華麗かつストイックなダンカンのプレゼンテーションは、その新機能の鮮烈さと共に、参加者を魅了しました。......その後ふたたび休憩時間が始まると、ロビーには十重二十重にダンカンを囲む熱心なユーザたちの輪ができました。

デジタル・ヒューマン〜フォトリアリズムの追求〜

Digital Domain
Lead technical Director
三橋忠央氏

プログラムもいよいよラスト。後半最大のクライマックス、三橋忠央氏のセッションが始まります。同氏はハリウッドの SFX制作会社Digital Domain社で、リードテクニカルディレクターを務めるCGクリエーター。「Maya使い」として、特にリアルスキンシェーディング・ライティングでは世界最高と言われ、数々の大作映画で腕を振ってきました。今回は参加していた大作『トロン:レガシー』が完成し、日本へ里帰りしていたことからこの奇跡的セッションが実現したのです。登壇する三橋氏が万雷の拍手で迎えられたのは当然でしょう。

セッションテーマは、フォトリアリスティックなデジタル人体の制作とその活用。『マトリックス』『キャットウーマン』『ベンジャミン・バトン』そして『トロン:レガシー』等々、三橋氏が手がけた作品を例に、映像と共に進められる贅沢なセッションです。同氏がまず語ってくれたのはセッションテーマの背景。「なぜ人間をデジタルでつくるのか?」という疑問への解答でした。

「CGが出現した1970年頃からずっと、クリエータにはよりリアルなものを作りたいという願望があり、その中で"人間を作る"というのは分かりやすい目標の1つでした。実際、人間は実に複雑で、本物と見分けがつかぬように作るのは非常に困難な、究極の目標でした。作るべき要素、表現すべきもの、計算すべきことが膨大過ぎたんです。しかし近年、コンピュータが高速化しこれらもスピーディな処理が可能となり、さまざまな条件が整ってきました」。

もちろんデジタル・ヒューマンはこうした技術的チャレンジのためだけでなく、映画がそれを必要としたからこそ進化したもの。たとえば実在しない人間--現在より若かった頃の俳優や逆に今より年老いた俳優。あるいは他界した俳優や想像上の人物、危険すぎるスタント等々、現実の俳優に対応できないキャラクタやシチュエーションで大きな力を発揮するのだ、と三橋氏は言います。

「その意味で、デジタル・ヒューマン等のVFXも演出手法の1つに過ぎません。監督が考え、語るストーリィに観客を引き込むさまざまな要素......カメラワークや照明等と同じなのです。裏返せば、技術が進歩し不可能が可能になれば自ずと演出の幅も広がるわけで、それ自体非常に意義のあることです」。

ここからは作品を映写しながら、それぞれのデジタル・ヒューマンのメイキングを語り始めました。最初に登場したのはデジタル・ヒューマンに初めて取り組んだ『マトリックス・リローデッド』。まだ新人だった三橋氏は、この作品の主人公ネオや敵役エージェント・スミス等のデジタル・ヒューマンのほか、マーカーレスフェイシャル。モーションキャプチャー等々の専用ツールやシステ厶も制作。続く『マトリックス・レボリューションズ』では、より進化したかつてないフルCGによるクローズアップシーンを作りました。また『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』では、80歳のブラッド・ピットという"誰も見たことのない"フルCGキャラクタのデジタル・ヒューマンが大きな話題を呼びました。今回の最新作『トロン:レガシー』も、こうした幾多の積み重ねから生まれてきた技術によって達成されたものに他なりません。

「トロン:レガシーでは、ベンジャミン・バトンとは逆に25年前の、若い頃のジェフ・ブリッジスを作ることが大きなチャレンジでした。80歳のブラッド・ピットとは異なり、昔"誰もが見たことのある"若い頃のブリッジスだからこその難しさがありました」。--何であれフォトリアルな結果を求めるなら、現実世界/実物を模倣するのが第一歩だと、三橋氏は言います。どんどんキャプチャし、現実世界にあるディティールを使い、そして、そのキャプチャデータも、現実にあるものとなるべく近い使い方をするべきなのだ、と。

「もちろんそうやって作り上げても、それは素材でしかありません。やはり、映画という芸術作品には、それを魅力的に仕上げるアーチストの力が不可欠であり、彼らの能力が最大限発揮できる仕組みこそが、一番求められているのだといえるでしょう」。華やかなフィルモグラフィと最先端の世界に酔いしれた観客席は、語り終えた壇上の三橋氏にいつまでも拍手を贈り続けました。

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