「Autodesk 3December 2012」イベントリポート
Autodesk 3December 2012
日程:2012年12月 7日(金) 13:00-19:30
会場:ラフォーレミュージアム六本木
定員:500 名
これに行かなければ年を越せない! いまや3DCGユーザの定番行事となった師走の一大イベント「3December」が、12月7日、ラフォーレミュージアム六本木(東京・六本木)で開催されました。3Decemberは、Autodeskが開催する3DCGユーザのためのグローバルコミュニケーションイベント。最新の3DCG情報や最先端技術、クリエイターにメーカーが結集する祭典です。特に今年は、話題作3本のメイキングを携えた日本最大級のCGプロダクション・デジタル・フロンティア様に、CMやPV、VIなど幅広い分野に展開するヴィジュアルデザイン スタジオ WOW様によるSIGGRAPH入賞作品「SUIREN」のメイキング。さらにゲーム界における本年最大のヒット作「BIOHAZARD 6」のビジュアルを、制作パートごとに紹介するカプコン様など、大盤振る舞いの貴重なセッションが大集合。会場を埋めつくしたファンたちは終始熱く盛り上がりました。
ご挨拶
メディア&
エンターテインメント
事業本部長 吉崎哲郎
12時半の開場と同時に、行列を作っていた参加者が順次入場し、用意された500席はたちまち埋っていきます。やがて午後1時。会場の灯りが静かに落とされ、参加者の期待に満ちた囁きも少しずつ静まると、司会者が「3December 2012」の開会を宣言しました。紹介を受けて登壇したのは、オートデスク メディア&エンターテインメントの事業本部長 吉崎哲郎です。吉崎はまず、会場のお客様へ感謝のメッセージを贈りました。続いて「Autodesk 360」を中心とするオートデスクの新たなチャレンジを紹介し、さらに日本のエンターテインメント市場の状況と課題、そしてこれに対するオートデスクの取組みを力強くメッセージしました。
「CGに関わる文化産業を支える意味でも、今日ご来場の若い方々には大きな期待がかかっています。今日はぜひ、多くのことを吸収していってほしいと願っています。しかしもちろんオートデスク製品を使えるというだけで、今日紹介されるような作品が生み出せるわけではありません。私は多くのユーザから、作品を生み出す上でコミュニケーションこそ最も重要だ、と伺っています。今日のセッションで、多様なコミュニケーションこそが作品を創りあげていくことを、皆さんにも実感してもらえるでしょう。今日はぜひそのことにも注目しながら、最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします」
オートデスク セッション「新しく生まれ変わったSmoke」
最初のセッションは、メディア&エンターテインメントによる、発売直前の「Autodesk Smoke 2013」のデモンストレーションです。 ビデオ編集とエフェクトが融合した人気ソフトウェアAutodesk Smokeは、この最新のAutodesk Smoke 2013で大きな進化を遂げました。プレゼンテータはメディア&エンターテインメントの宋と藤田が担当。Smokeの歴史を振り返り、さらに実際にSmoke 2013で編集されたアニメーションを題材に、その先進の機能をテンポよく紹介していきました。
「オートデスクのハイエンド製品は、VFX系、オンライン編集系という2つのラインで20年にわたり進化し続けてきました。2つのラインは常にその時点のハイエンドテクノロジを互いに共有しながら開発が続けられましたが、より多くのお客様にハイエンドテクノロジをお使いいただくため、2009年プラットフォーム、価格、使いやすさ等も改善。Mac版という形でリリースされたのです。そして間もなく登場する「Autodesk Smoke 2013」において、Smokeはさらに進化します。ハイエンドビジュアルエフェクト機能はそのままに、より分かりやすいビデオ編集に向けインターフェイスを一新しました。この機会にぜひご検討ください」(*Smoke 2013は2012年12月17日に出荷開始された。)
ゲストセッションA / デジタル・フロンティア「最新制作事例 〜師走の豪華3本立て!〜」
吉村剛久 氏
堀部 亮 氏
土井 淳 氏
下澤洋平 氏
「ここからはお待ちかねのゲストセッションです!」。そんな司会者の声に、Smokeの高機能に圧倒されていた客席が再び大きく湧きました。一気に盛り上がる熱い期待のなか、登壇したのは、近年次々とVFX長編映画制作に挑戦している日本最大級のCG制作プロダクション、デジタル・フロンティアの4人です。今回は、同社が手がけた3本の話題作――『おおかみこどもの雨と雪』『biohazard DAMNATION』『鉄拳タッグトーナメント2』について、各担当ディレクターが個々に制作秘話を語る豪華3本立て。客席の期待がさらに盛り上がるなか、司会役の吉村剛久氏が立ち上がりました。挨拶に続いて会社紹介を兼ねたデモリールを流した吉村氏は、たちまち観客を魅了。そして3人のディレクターを紹介し、まず「おおかみこどもの雨と雪」担当ディレクターの堀部亮氏にマイクを渡しました。
吉村氏「今年7月公開の『おおかみこどもの雨と雪(スタジオ地図作品)』は、言うまでもなく『時をかける少女』『サマーウォーズ」』に続く細田守監督の新作ですが、公開後59日間で興行収入40億を突破した大ヒット作品ですね」
堀部氏「ええ、今朝調べたら実はまだ全国で2館の劇場で上映されているそうで、夏に封切られたものが12月になっても見られるのですから、本当にすごいロングランです。さて、この大ヒット作でCGが果たした役割とテーマですが、以下の5つが挙げられます。1つ目は風を表現すること。通常のアニメーションの背景は1枚絵で動きませんが、今回は背景美術の質感のまま、植物が風に揺れる様子など表現しようと考え、これが今回1番のテーマとなりました。2つ目は主観移動やドリー、クレーンショットのような立体的なカメラワークを3DCGによって実現すること。さらに雪や雨などの自然現象の表現を1から考え直し、CGで描くことが3番目の課題でした。また4番目はクルマやモブ、虫や小動物等のCG制作で、5番目は空間表現や画面作りを、統一感を持って全編コンポジットすることです。テーマだけ見ると、どれも地味で、少し裏方的に感じられるかもしれませんが、実はどれも最終的には本作の絵作りに欠かせない、効果的なものとなりました......」
堀部氏による『おおかみこどもの雨と雪』のメイキングが終わり、風に揺れる花の繊細緻密な工夫に驚かされた観客たちは、続くセッションでは一転、新しい衝撃に直面します。サバイバルホラーゲームの金字塔『バイオハザード』を原作とするフルCG長編アニメ『biohazard DAMNATION』の担当ディレクターである土井淳氏の登場です。
吉村氏「ポジション的には『おおかみこどもの雨と雪』とは全く真逆という感じの作品ですね。ちょっとギャップがあり過ぎるかも知れないので、観客の皆さんは頭を切り替えてご覧ください(笑)」
土井氏「そうですね(笑)。本作のCG制作が始まったのは2011年6月で、約12カ月で完成させました。スタッフ数は総数450名でうち200名が社内スタッフ。ワークフローはMotionBuilderを中心にした当社の基本的なパターンで、キャラクターやフェイシャルをMayaで作り、背景とエフェクトを3ds Maxで制作しました。データのやり取りは、FBXとAlembicです。 ガンマニアの監督のこだわりに応えてフラッシュハイダーに合わせたマズルフラッシュのプリセットや、1個1個ウェイトを仕込んで繊細な動きをコントロールしたフェイシャル。ティーカップからこぼれる紅茶までリアルに再現したハイスピード液体表現等々、徹底したこだわりのビジュアルについてご紹介しましょう......」
実写さながらの迫力満点の映像で満座を盛り上げた『biohazard DAMNATION』メイキングが大喝采のうちに終了すると、続いてこれも定番的な人気を誇る格闘ゲームの雄『鉄拳タッグトーナメント2』のオープニングムービーメイキングが始まりました。担当ディレクターは下澤洋平氏です。
吉村氏「鉄拳タッグトーナメント2のオープニングムービーは、アーケード版とコンシューマ版の 2種類ありますね。コンシューマ版は発売されたばかりですが、アーケード版は2011年度のシーグラフに入選しました」
下澤氏「はい、そのアーケード版OPはアクション重視の内容だったんですが、コンシューマ版の方はお祭り感重視のテーマで、今年の頭から作成しました。そこで大きな課題となったのが両OP共通の舞台であるメインスタジアムです。ゲームの進行上欠かせないモノはクライアントから設定資料をもらえますが、無論それだけでは作れません。さまざまな資料を集めてイメージを固める一方、悩ましい問題もありました。大量の照明がアニメーションし、広い閉じた空間で1万人もの群衆が賑わう――そんな会場の臨場感をどう再現するかです。主にはライティング的な問題でしたが、時間も無いなか、負荷を減らしつつ雰囲気を出すのは困難を極めました。そこで考えたのが、逆に臨場感のないフラットな画に大量のライトフォグやライトマスク素材を出して、コンポジットで絵作りしていくアイデアです......」
スポンサープレゼンテーション /日本HP「NVIDIA Keplerアーキテクチャ Quadro K5000搭載 HP Workstation」
大橋秀樹氏
メディア&エンターテイメント
テクニカルスペシャリスト マネージャー
門口 洋一郎
豪華3本立てのセッションで熱く盛り上がった観客にひと息入れてもらうため、ここで25分間の休憩が挟まれました。配られたドリンクでのどを潤し、協賛各社の多様な出展ブースを楽しんだ観客の皆様が席に戻ると、間もなく次のプログラム、日本ヒューレット・パッカードによるセッションが始まります。日本HP 大橋秀樹氏によるそれは、NVIDIAから新登場のKeplerアーキテクチャGPUの紹介と、これを採用した新グラフィックスカードQuadro K5000を搭載したHPワークステーションのプレゼンテーションです。
「NVIDIAの新しいグラフィクスカードNVIDIA Quadro K5000は、より美しいCG表現が可能になるKeplerアーキテクチャGPUを搭載しています。このKeplerアーキテクチャは、電力あたりのGPU数を飛躍的に増やすことができ、消費電力もスペースも変えずにより多くのGPUコアを搭載。高度なGPU処理性能と電力効率を発揮します。Quadro K5000はこの強力な次世代型GPUに加え、メモリも4GB搭載。複雑な画像表現もビデオメモリ上で一気に展開できるほか、NVIDIAのカードとして初めて4出力のポートを備えています」
大橋氏によれば、このグラフィクスカードQuadro K5000は、新しいアンチエイリアステクノロジを搭載したのも大きな特長なのだとか。通常、ハイクオリティなアンチエイリアスをかけるとパフォマンスが落ちますが、K5000はパフォマンスを落さず、高いクオリティを維持するアンチエイリアスを搭載しているのです。しかも従来の倍近い4GBのメモリを搭載し、精密なポリゴンやテクスチャを多用するシーンに最適。プレゼン後半はそんなK5000搭載の「HP Z820 Workstation」を使った、オートデスクスタッフによるAutodesk Maya 2013のデモンストレーションが行われ、Maya
上に実装されたOpenSubdivisionSurfaceがGPUアクセラレーションによってCPU実行の10倍のスピードで動作するところが紹介されました。
「専用に作成された小さなアプリではなく、Mayaの様な巨大なアプリケーションにおいて10倍ものレンジの高速化など普段なかなかありませんが、ご覧の通りKeplerアーキテクチャは、CUDAベースのGPUを使うアプリケーションに最適化されています。今後さらに多様なツールがGPU・CUDA対応していくことになるので、この新しいGPUは単なる3D表示のみならず、計算に使うプロセッサとして重要性を増していくことになるでしょう。当然ながら、この新カード搭載の HP Z820 WSは拡張性にも富み、バラエティ豊かな構成が可能となっています。お試しになりたい方へは、検証用のお貸出しなども可能です。どうぞ遠慮なくお声がけください」
ゲストセッションB / WOW「WOW流 ヴィジュアルエフェクトの作り方〜SIGGRAPH Electronic Theater入賞の「SUIREN」メイキング!〜」
Visual Designer 金原朋哉 氏
日本HPによるパワフルなデモンストレーションに続き、本日2つ目のユーザセッションが始まります。ヴィジュアルデザイン スタジオ WOW Inc.は、CM、PV、VIなどの映像デザインやディレクションから、クライアントワークで表現しきれないショートムービーやインタラクティヴ映像のインスタレーションなどのオリジナルワークを発信する注目のクリエイター集団。今回は2010年のSIGGRAPHのElectronic Theaterで入賞した『SUIREN』で知られる、同社ビジュアルデザイナーの金原朋哉氏が登場しました。一度観ただけでは「どうやって創ったかも分からない」と言われるSUIRENのメイキングだけに、会場を埋めたコアユーザたちの期待もいよいよ熱く盛り上がりました。
「今日のセッションは"コアな"お客様も多いと聞きましたので、私は洒落っ気なしのテクニカルなお話しをさせていただきます。まず最初は自主制作でつくったSUIRENについて、ここで1から創っていく過程をお見せしようと思います。インハウスなど一切使わず、ソフトさえあれば誰でも作れるというものなので、ご覧になって家に帰って速攻で同じものを創れますよ。中心となるのは、FumeFXとKrakatoaにRealFlowを掛け合わせた表現方法です。制作期間は、アイデア出しにちょっと時間がかかりましたが、実作業自体は全て1人で行い、日数も合計1カ月もかかっていません。そんなSUIRENの、まずはティザー映像をご覧ください」
まるで生命をもつマシンが有機的に成長し、増殖していくように......幻想的で、しかもリアルな質感にあふれたSUIRENの映像世界が、たちまち参加者たちの心を捉えていきます。ここまで紹介された『おおかみこどもの雨と雪』や『バイオハザード』とは全く異質な、まさに誰も観たことのない異様な美しさが参加者たちを魅了していきます。特に作品の中核にあって幾度も繰り返し描かれる、リアリティ豊かな流体表現のエフェクトは鮮烈そのもので、豊富なキャリアを持ったコアな観客たちも驚くほどでしたが、金原氏自身は、前述の通り特別なツールなどは使用していないと繰り返し語ります。そして金原氏は実際に3ds Maxを操作しながらSUIRENのメイキングを語ってくれました。
「最初に簡単にFumeのセットアップを行います。FumeFXは、本来は爆発や煙づくりに使うプラグインですが、当社の仕事ではそうした表現はあまり要求されないので、実写素材でカバーしてしまうことが多いのです。ここではちょっと変わった使い方をしています。まずFumeFXで流体シミュレーションを行い、その結果をParticle Flowに変換。パーティクルの操作が重くなるので、シミュレーションは荒くて大丈夫です。次にKrakatoaでパーティクルを書き出し、これをRealFlowでメッシュ化。SUIRENでは約5~6万パーティクルを出してメッシュ化しています。このやり方でやれば、あまり労力をかけずに相当複雑なものを作れるのです。あとはV-Ray SSSで質感設定を行い仕上げていきます......」
落着いた口調で語る金原氏が、わずか10分ほどで要領よくSUIRENのメイキング解説を終えると、今度はSUIRENの本編が上映されました。金原氏の言葉どおり、特殊なツールなどを使わないでも、創意工夫でこれほどまで独創的かつ高品質な映像が作り出せるということをたっぷり体感し、客席は再び静かな興奮に包まれます。このSUIRENのメイキングに続いて、金原氏はさらに、同様にFumeFXを用いたTOTO株式会社のショールーム用のVPの『水の華』や、大ヒットゲーム『BIOHAZARD 6』タイトルにおけるFROSTの活用など、さまざまな事例を取り上げ独自の工夫とテクニックをたっぷり紹介。コアユーザたちの大きな喝采を浴びました。