トレンド&テクノロジー / WHY 3DCG? 〜3DCGが支えるコンテンツ制作の現場〜
アニメーション業界編
CASE01:MAPPA

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WHY 3DCG? ANIMATION編

3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションにインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「アニメーション業界編」では、MAPPAにインタビューを行い、制作現場の声を聞いた。時代の変化が著しい昨今、アニメ制作の最前線で3DCGはどのように使われているのだろうか。

TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)

「2D的な表現を活かした3DCGワーク」で新たな表現に挑む

MAPPAが手がけた作品とは知らなくても、画面から放たれる独特な雰囲気を感じて「MAPPAかな?」と直感し、エンドクレジットに社名を見つけて「やっぱり!」と納得する。この一連の発見に潜む小さな満足感は、筆者の楽しみのひとつとなっている。もっとも、最近は「MAPPAが手がけた作品」という前情報から視聴を開始するファンも多いと聞く。

2011年、映画『この世界の片隅に』(2019)を制作するため、元・マッドハウス取締役社長の丸山正雄氏により設立されたMAPPA。以降、破竹の勢いで様々なアニメ制作を手がけ、設立10年目にして国内外から高い評価を得るまでになった。現在、社員数は約250名(2021年4月)。作画アニメーターを社員として多数雇用している点が特徴的で、これまで作画表現を中心に据えた制作スタイルを貫いている。今回、せっかくの機会なので、同社取締役でCGI部長の淡輪雄介氏に、「なぜ、ひと目みただけでMAPPAの作品だとわかるのか」について聞いてみることにした。

筆者の質問に対して淡輪氏は笑顔でうなずき、次のように話してくれた。「これまで取り上げられていない題材を扱った作品や、表現が難しそうな作品に挑戦することが多く、作風や絵柄にちがいがあっても "会社の色" のようなものが出ている、という認識はあります」(淡輪氏)。新たなチャレンジとして面白みがあるか。作品に対するクライアントや監督の情熱を感じ取り、ひとつひとつ手をかけてその思いを実現し、観る人の心が動く映像を届けたい。そんなチャレンジ精神とサービス精神に溢れた熱意が根底に流れているのが伝わってくる。この熱量から筆者は、「MAPPAの息吹」のようなものを感じ取ったのかもしれない。

淡輪雄介/Yusuke Tannawa
淡輪雄介/Yusuke Tannawa
MAPPA/取締役・CGI部部長

しかし、作品ごとに新たな挑戦を盛り込むとなると、その都度ワークフローの開発から始めなければならない。「今回も大変そうだなといつも思います(笑)。でもワークフローを組み立てて仲間たちと協力すれば、何とか達成できるのではと想像する。全て予定通りいくわけではないですが、それを乗り越えるのが楽しいんです」と淡輪氏。2020年、同社は映像化不可能と言われ続けていた『ドロヘドロ』を見事アニメ化し、原作ファンをもうならせた。

アニメ『ドロヘドロ』制作以降、「2D的な表現を活かした3DCGワーク」は同社の制作スタイルのひとつとして確立。作画ではとても描ききれないパートやシーンを3DCGのキャラクターで表現したり、レイアウトの下地を3DCGで切ったりという作業が多くなってきた。3Dレイアウトは、手描きでは想像できないアングルのショットを破綻なく多く生み出すのに適しているが、最終的な画面構築においては手描きの方が小回りが利く。この一連の作業は、話数スタッフごとにアジャストしつつ取り回されている。「セル調3DCGは、"寄り画" での細やかな表情や指先の芝居が苦手です。3DCGの弱みをフォローできる作画リソースをもつことで、お互いの強みを活かせる現場づくりを目指しています」(淡輪氏)。

ちなみに、作品ごとに使用するソフトを選ぶとのことだが、アニメCGの現場ではやはり3ds Maxが主流ということもあり、同社でもメインツールとなっているようだ。ただ、海外との連携が必要な案件ではMayaのモデルデータを用意されているケースもあり、本格的に社内に「Mayaチーム」をつくる必要性を感じていると淡輪氏は話している。

さて、2Dと3Dを往き来するワークフローについてもう少し詳しく聞いてみよう。淡輪氏は、「アニメなので、最終的には絵力が品質の決め手となります。作画ベースの制作では、担当者によって画柄や完成時期がバラバラになることが多いので、質と量の不安定さが否めません。3DCGでもコマごとに手を入れて画をもたせるのは変わりませんが、チームで作業をすることでスケジュールを守り、演出のチェック環境が安定しました」と話し、同社でも昨年からShotgunの導入を開始したと語る。「最近はリモートワークが増えたこともあり、会社のサーバに繋がなくてもShotgunから直接ムービーを引っ張って、チェックしたりコメントを入れたり。管理がとてもスムーズになりました」と淡輪氏。バージョン管理や進捗状況など、Shotgunにデータをアップすればどこからでもチェックできる利便性は、アニメCGの現場では定番となりつつあるようだ。

無料ソフトの開発が著しくそれぞれの魅力があるのは確かだが、同社では今でもオートデスク製品を選んでいる。「3DCGクリエイターの間では、長年Mayaや3ds Maxでつくり続けてきたという財産があります。サポートも含め、CGクリエイターの "基本のツール" として安定してそこにある、という魅力は変わらないかなと思います」(淡輪氏)。今後のアニメCG表現として、派手で映えるシーンだけでなく日常シーンにおいても「引き算された画的なケレン味」を追求して表現力を向上し、より魅力的な作品を届けていきたいと淡輪氏は抱負を語る。3DCGを武器に揺るぎない「作画」へのこだわりをもって、MAPPAはこれからも新たな表現に全力で挑み続ける。

アニメ『進撃の巨人 The Final Season』での3Dレイアウト
アニメ『進撃の巨人 The Final Season』での3Dレイアウト
▲アニメ『進撃の巨人 The Final Season』での3Dレイアウト。3Dセットを組んでいるシーンでは、作画カットでも3DCGでレイアウトを作成する場合がほとんど。正確で破綻のない原図を基に、演出が画的な指示入れや調整を行い、作画と背景の工程へと進む
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▲今放送中のアニメ『ゾンビランドサガ リベンジ』での3Dアニメーションの一例。表情の決め込みや揺れものなど、セカンダリアニメーションの作業画面。レンダリング結果を見ながら最終調整を行う。「タイトルからしてゾンビものかと思いきや、実はアイドルものだったり。(良い意味で)予想を裏切る作品をつくりました」(淡輪氏)
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