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番外編:OLM研究開発部門訪問

2013.05.13

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SPAWN THE MOVIEのCGに関して

私は大学卒業後、この世界に入りましたので、実はそれなりに長いこと業界にいます。15年以上前の映画になるのですが、Spawnというアメコミを原作にした映画が公開されました。主人公であるSpawnが地獄から蘇ってきた男という設定ということもありダークな話なのですが、この地獄の世界のCGメイキングを当時NICOGRAPHの日立製作所ブースで見ることができました。15年以上前ですからはCGを多用した映画のVFXというと北米の大手プロダクションが制作することがほとんどだったと思います。この映画SpawnではEYEdentifyの松木さんがCGを手掛けたということで当時日本のCG業界で話題になっていました。そのプレゼンの中では、地獄のシーンの迫りくる数多のスポーンをアルゴリズムで制御したことが解説され、群衆の技術を安生さんが開発し映画に活用されたことが紹介されておりました。当時日本に居ながらハリウッドの仕事を請け負うなんて凄い人だなーと感動していたのを覚えています。その後安生さんがOLM Digitalに活躍の場を移られ、トゥーンレンダリングで数々のポケモンの映画製作を支えられているのをお聞きしていましたので、安生さんのお名前は私の中で半ば伝説のような存在になっていました。その安生さん率いるOLM Digital R&Dから遊びに来ませんか?と言われたのですから「行く行く!」と返事したのは言うまでもありません。

Mayaは凄いツールなんだけど、難しい部分があるよね

このコラムを読んでいる方にとってOLM Digitalを知らない方はいらっしゃらないと思いますが、劇場版ポケットモンスター(※1)を始めイナズマイレブン(※2)など数多くの素晴らしい映像を制作されています。

http://www.olm.co.jp/olm/work/2013/

このOLM Digitalの巨大な制作チームを影から支え効率的な環境や技術を提供しているのがOLM Digital R&Dという部門です。
ミーティングルームに向かうべくエレベータに乗り込むと丁度開発のマルクさんと一緒になりました。


マルクさんからは開口一番「Mayaは凄いツールなんだけど、普通のデザイナーにとって難しい部分があるよね」と言われました。
「OLMではMayaを主に使っていてパイプラインを組んでいるんだけど、アプリケーションの機能面ではMayaは不便なところが多いよね。例えば3ds Maxではオブジェクトを爆発させたり、パーティクルの回転制御が最初からできるようになっているし、SoftimageにはICEっていうフレキシブルなシステムが用意されている。だけどMayaでオブジェクト化したパーティクルを回転させることを考えてもExpressionを書いて、更にデザイナーは3D空間内で回転がどのような順番で計算されるのかを理解しておかないといけない。ちょっと敷居が高いよね。」

だからこそ僕らが居る

「だからこそ僕らのようなスタッフが居て、デザイナーの余分なところに力を使わなくても良いように技術開発や、ツール作成を行っているんですよ」
そう言って今度は曽良さんがNoise Deformerのツールを紹介してくれました。

球体にNoise Deformerを割り当てた結果。ノイズを使って決められた変形量を使い、法線方向に変形させています。


「Noise DeformerはMaxを使っていたユーザからの強い要望から開発されました。使いやすさを考えて、インターフェースはMaxを参考にして作っています。 」
「単純なツールですが、使い方次第では色々な表現ができると思います。例えば、バーニアから噴射する炎なんかもNoise Deformerで作られています。まだ作品の中では使われていないのですが、その他にもいくつかのアイディアがデザイナーから出てきました。中には名前がつけられないものもありますが、「こんなエフェクトありそう」と思わせる動きだと思いませんか? 」



「実はNoise Deformerは以前来ていたインターンの学生さんにプログラミングを担当してもらいました。前々から要望は上がっていたのですがなかなか手が回らずにいたところ、ちょうどいいタイミングでインターンに来たいと言う学生さんがいて、開発規模的にもちょうどよかったのです。毎日コードレビューやら機能についての話し合いやらを繰り返して、頑張ってコーディングしてくれたおかげで大人気ツールになりました。 」
「他にもこういった感じの手ごろなプロジェクトがあるのですが興味のある学生さんいらっしゃいませんか?」

「このプラグインはOLM OPEN TOOLSというプログラムで公開していますので、是非アクセスして使用してみてください」
http://www.olm.co.jp/rd/technology/tools/


制作現場で活用される各種ツール

「OLMの作品にはアニメ作品が多いんですが、Mayaの通常のトゥーンレンダリングだと影などの形が3Dオブジェクトの形をベースに計算されます。当然CG的には正しいんですが、作品としてはそんなものは求めていないんです。そこで理想的な形の影やハイライトが出るようにペイント作業で修正できるShade Painterなんていうものも作っています。」



Shade Painterを割り当て、陰影を編集しているところ。画像内にはカーソルが出ていないが、赤い部分がブラシで塗っているところを示しています。ブラシで塗った部分の陰影情報がアップデートされます。


「ハイライトの形状を変更できるプラグインも提供しています。ハイライトの位置や形は結局シーン内の形状、ライト、カメラ位置等から決まるんですけど、アニメ的には例えば細長いハイライトが必要!なんて時があるんですよ。このツールは内部的にはハイライト計算に使うハーフベクターと呼ばれるものを変形させて見た目上ユーザが望むようなハイライトの形状や、位置を調整できるようにしています。」
http://www.olm.co.jp/rd/tweakable-light-and-shade-for-cartoon-animation/

Highlight Shaderを割り当ててハイライト形状を窓のような記号的な形に変えたところ。移動、回転、拡大/縮小、分割などの変形操作をマウス操作で行い、キーフレームを設定することもできます。

「あとOppoというツールも開発しています。これは2009年の劇場版ポケモン(※3)の制作を前に行ったプリプロ時にデザイナーから要望が出て開発しました。その名の通り、「尾」を引くような光の軌跡などを表現するために使います。初期のミーティング時にデザイナーが見せてくれたサンプルが非常に具体的ですぐにアイディアが出て開発に着手しました。その後トントン拍子に開発、テストと進み、めでたく本番使用につながったツールです。パーティクルとかコンポジット時のテクニックとか、色々と実現する方法はあったと思いますが、プレビューができ、レンダリングのコントロールがしやすいオブジェクトベースの方法を採用しました。そのおかげで、もともと特定のエフェクトを作るために開発したのですが、色々な場面で使われています。たとえば、先に紹介したNoise Deformerとの組み合わせでミサイルの煙とかも作っています。 」
「あとはモーションブラーの表現の一手法としても有効です。モーションブラーは真面目に計算するとコストも高いしコントロールも難しくなります。Oppoを使えばプレビューもできるしノイズも出ないので簡単です。 」



Oppoを使った表現の一例。先端の球体をアニメーションさせ、その後にOppoを割り当てると軌跡に沿ってNurbsカーブが生成されます。それらをLoftさせることで図のような結果が得られます。ランプカーブを使ってノイズを加えることも可能です。


群衆の表現

「群衆のツールもずっと開発が続いています。 」
「Massiveみたいな専門的なツールが必要な場合ももちろんあるのですが、そこまで大げさじゃない場合も多くあります。そういう時に簡単に設定ができて、しかもMayaだけで完結できるツールが必要だと言うことで開発してきました。最初に作った「Maze」と言うツールでは、Mayaの中のロケータを「目標物」、「障害物」、「イベント」などとして扱い、それぞれそこに向かったり、避けたり、特殊な動きをさせたりすることができます。結果はキーフレームアニメーションとして出力されるので、気に入らなければ手で修正することができます。修正したら、その後のフレームだけ再計算、と言う感じで確実にシーンを組み上げていけます。 」



「これはこれで完成されたツールなのですが、もっと簡単なツールでいい場合もあります。私達の会社の作品ではよくスタジアムが出てくるのですが、その観客を動かしたいとか、遠景の街を歩いている人や一方向に走っている群れなどがそうです。そういった場合はまたパーティクルを使った別のアプローチをとっています。こういう風にそれぞれの求められている規模に合わせたツールを開発できたのはデザイナーも我々もノウハウを積み重ねてきているのだと思いますし、こういった最適化は効率的な映像制作のためには非常に重要なことだと思います。」


プロシージャルなパーティクルシステム

「Noise Deformerと同じく元3ds Maxユーザから出てきた要望でパーティクルを簡単にコントロールできるツールが欲しい、と言うのもありました。エクスプレッションを書いて動きを制御すると言うのはデザイナーにはハードルが高いこともありますし、単純にそういった作業に時間をかけられないこともあります。特にキャラクターの技などでパーティクルをたくさん使う上に毎週作らなくてはいけないテレビシリーズなどがそうです。そこでGUIを使ってポチポチッとボタンを押すだけでパスに沿って動かしたり、ランダムに回転させたり、ある方向を軸に回転させたりできるようにしたツールを作りました。ベースはエクスプレッションを使っているのですが、インポートやリファレンスに弱いと言う問題があるので、ICEのようなノードベースの作り方にしたいなあと思っています。 」

Particle Launch Boxを使ってパーティクルを球体に追随するようにしたところ。なお、球体のアニメーションは前出のOppoを同じものを使用。他にもインスタンスの回転を制御する機能もあります。


まだまだCGには不満がある

と、実はここに書いていない技術も含め様々な研究開発のものも紹介してもらったのですが、それ以上の時間をかけ我々はR&Dの方々から様々な我々の開発に対するディスカッションを行いました。それらはMayaを中核にした開発環境に始まり、ソフトウエアレンダリング、GPUレンダリング、サードパーティツールのAPIとMaya APIの関係、リファレンスモデルとAPI、物理シミュレーションのソルバーの問題、ICEのフレキシビリティの高さとその可能性に対する提言など、非常に楽しい時間を持たせていただきました。
私がCGを始めた頃に比べ、CGアプリケーションでできることは当時と比較できないほど広がりましたが、逆に可能性が広がった分、それ以上に市場の要求度は上がっていますし、昔ならあきらめていたことにもチャレンジできるようになってきたとも言えます。
我々のツールも元は3社が別だったものが一つになり(それ以外にも中小の開発会社が一緒になった)、開発内での意見交換で新しいものも生まれ、新機能として市場に投入できるようになったことでツールとしての進化のスピードはより一層高まってきました。
ただマルクさんや曽良さんからご指摘があったようにまだまだの部分も多く、これからもブラッシュアップが必要です。OLMの皆さんの姿勢に見習い、これからも精進せねばと思った日でした。


※1 劇場版ポケットモンスターシリーズ(1998-2013)、最新作は「劇場版ポケットモンスターベストウイッシュ 神速のゲノセクト ミュウツー覚醒」2013年7月13日公開予定
http://www.pokemon-movie.jp/

※2 劇場版イナズマイレブンシリーズ(2010-2012)、最新作は「劇場版イナズマイレブンGO vs ダンボール戦機W」(2012)
http://www.inazuma-movie.jp/

※3 劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール「アルセウス 超克(ちょうこく)の時空へ」(2009)

著者

門口 洋一郎

門口 洋一郎

オートデスク株式会社
技術営業本部
M&Eマネージャー

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