トレンド&テクノロジー / 建築ビジュアライゼーションのニューノーマル
第4回:モノ/コトのビジュアライズ

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モノ/コトのビジュアライズ

この連載を進めている間に、色々なイベントで建築ビジュアライゼーションという言葉が使用され、かなり浸透したように感じます。最近のメディアでは「デザインビズ」というジャンル内に建築ビズが位置されることもあり、益々建築ビズがニューノーマルへと向かっているのを肌で感じます。

(※以下建築ビジュアライゼーションを建築ビズと略す)

さて今回の内容は、前回の予告通りモノとコトをどう描き分けるかという話と、建築ビズのニューノーマルについて少し触れていきます。

Re: 建築を可視化する

改めて、建築ビズは文字通り、「建築」を可視化(ビジュアライズ)することを指します。「建築」と書きましたが、この単語には多様な意味が含蓄されておりますので、「建築」の何を可視化するのか?という問いに、日頃からとても考えさせられます。私の場合、「モノとコト」という切り口で可視化すると、今求められているビジュアルが整理できると説いているわけですが、いずれにしても大事なのは「建築の何を伝えたいのか?」を整理し、表現することです。

あなたは建築の何を可視化していますか?

モノのビジュアライズ

モノのビジュアライズ

では建築ビジュアルにおけるモノとコトの特徴をそれぞれ説明します。
モノは、建築の形状や素材、光、陰影、配置など、建築の具象的な部分です。モノを描く際は、それがどういう物なのか分かり易く描くか、もしくはそれが美しく見える瞬間を描くかのどちらかです。ただしモノは具象的な分、説明的になりがちです。それを避ける為に、モノの素材感やディテールをより細やかに表現する事が求められます。特に光と影を象徴的に表現することで、よりモノを美しく見せることが出来ますし、建築全体の印象も同時により美しくなります。

モノのビジュアライズ

建築以外の時間帯、気候、天気、照明など、光環境に関わる要素も、建築を美しく描く際大きな役割を持ちます。つまり建築以外をどう美しく表現するかという視点が、建築を美しく描くのと同じくらい重要になります。例えば、光環境を大きく決定付ける空のような面積の大きい箇所は、ビジュアル全体の印象を決める要素でもありますので注力したいところです。

3DCGと個性

建築業界では現実世界にある物を再現することが求められているゴールの一つであるので、その表現はフォトリアルへと流れがちです。これに関しては3ds Max などの高度化された3DCGソフトが得意とする範囲です。3ds Max ではモノを表現する事に関して出来ないことが無いと言えるほど、様々な表現が可能です。さらに建築ビジュアルの魅力に大きく関わるマテリアル、ライティングの設定値をノウハウとして溜めていくことが容易なので、安定したクオリティでアウトプットを量産できます。建築パースが、手描きから3DCGに置き換わったのも、この3DCGの得意分野がパース業と親和性が高かったからでしょう。しかし、安定的な質を保つことはパース業の一つの命題でもありますが、表現が均質的になり、没個性的になってしまう危険性も否めません。表現が均質的になるとビジュアルの印象が弱くなるので、印象を残さなければいけない場合不利になります。つまり、3DCGでモノを美しく描けたとしても、数多あるビジュアルに埋没してしまう危険性を孕んでいると言えます。とはいえ、昨今の3DCGの描写力、PCスペックなど、技術の飛躍的な向上により、これまで表現する事が難しかったコトも表現できるようになりました。このコトの表現が、結果的に均質的な表現の脱却に繋がる個性を獲得することとなりました。ここでいう個性とは、自分らしさなどの類ではなく、ビジュアルコミュニケーションにおいて、相手に良い印象を与え差別化が図れているかどうか、という点です。

コトのビジュアライズ

コトのビジュアライズ

ではそのコトについてです。

コトは、建築が作りだす体験やその時得られる感情など、抽象的に獲得できるものです。例えば上のロビー空間を描いたビジュアルでいうと、モノはガラスやコンクリート、暖炉や家具などです。コトは、静かで落ち着いた自然の雰囲気を楽しむ、というようなこの空間で過ごした時に得られる体験や感情です。コトをビジュアライズする時は、ホテルに宿泊する時の時間帯、デザインで受ける印象、そこを訪れた時にどんな事を感じるか、などを、複合的に描いていきます。このビジュアルを見た時の印象と、この建築が作り出す体験を重ねていきます。ただし、人によって獲得できるコトは千差万別であり、同じ時間と場所を共有していても、同じコトを共有できるとは限りません。コトの捉え方には正解が無いので、掴みどころが難しい反面、描き手にとっては表現の自由度が高いともいえます。その建築や空間の解釈次第で表現の幅が出せる分、良し悪しはさておき、個性が色濃く現れます。つまり、自分がどんな選択をするかによって、ビジュアルの説得力が大きく変わるのです。

このビジュアルはある施設へのアプローチを描いている
「このビジュアルはある施設へのアプローチを描いている。ここには建築が一切出てこないが、森林浴をしながら施設へ向かう気持ちの良い体験そのものが重要であるので、あえてこのシーン(=コト)を描いている。建築が作り出す体験で何が大切になるのかを見極めるのもビズ職能の大切な仕事である」

ではコトを魅力的に見せるにはどうすれば良いのでしょうか?

これが本当に難しくて、腕の見せ所でもあります。コトは時代背景や地域、場所の雰囲気、流行りなど、あらゆる要因によりその魅力は刻々と変化しています。流行の体験を盛り込む場合もあれば、逆に普遍的で良質な体験(例えば散歩、談笑、リラックスしているなど)を盛り込む場合もあります。普遍的な体験は、普段見慣れているのでインパクトが小さいかもしれませんが、想像しやすい分、安心感を伝えられます。逆に流行りの体験を入れ込むのは一見刺激的で魅力的に見えるかもしれませんが、数年後には廃れている可能性があるので、マイナスに働くこともあります。どちらが正解とは言えませんが、コトの賞味期限切れには気を配る必要があります。

また、あれもこれも体験を詰め込んでしまうのも、リアリティの無いシーンになってしまう可能性があります。やはり、どんなコトがそこで起こりうるのか想像して、魅力的なコトを選択するしかありません。その為にコトを表現する際は、何を相手に伝えれば建築の価値がより向上するのか?という視点で整理していきます。ここで前回のビジュアルコンセプトがキーになってきます。もしビジュアルコンセプトの方向性が固まっていれば、それに準ずるコトを表現するのが有効な手段だからです。つまり伝えたいメッセージが決まっていれば、描くべきコトも定めやすいです。

コトと個性

「学ぶは真似る」という番外編を第一回目で書きましたが、コトに関しては少し違います。真似をするというより、今世の中で何が起きていて、どういう流行があり、何が最先端なのかなど、目の前の生活で起こるあらゆる出来事に対して、自分なりの解釈を持つことが大事になります。そうすると魅力的なコトが何であるかが、自然と感覚で捉えていけるはずです。普段から自分のアンテナの感度を上げていれば、どんな経験でも血肉になるということです。つまり、自分が何に興味あるのか、どんな経験をしてきたかで、表現の幅も変わり、個性が滲み出てきます。それをビジュアライズする方法論を知れば、コトの表現は誰でも出来るようになります。その方法論は次回伝えていきますが、下のビジュアルを使って少しだけ先取りします。

コトのビジュアライズ
「このビジュアルは、自然との触れ合いによる人間性の回復を伝える為に描かれたビジュアル。自然との触れ合いによって得られるコトを表現することが求められた。豊かな自然と人との関わりをより印象付ける目的で、ここにどんなコトが生まれるかを想像し、整理し、そして選び抜く。具体的には、屋根と縁側を持つ建築の特徴を印象付けながら、縁側の上にバードウォッチングをしている人を入れた。他にも、縁側に座っていたり、談笑したりしている人を入れることもあり得たが、建築が人と自然を繋げている事を示唆する為に、森の方向へ目線を誘導するバードウォッチングが最適だと考えたからだ。このコトを通じて、この建築が人間性の回復へと繋げる体験ができる、というメッセージを伝えている。」

ニューノーマルの兆し

建築の何をビジュアライズするかで、建築ビズがどこまで拡張するのかを考えさせられた案件のコンセプトビジュアル。
(建築の何をビジュアライズするかで、建築ビズがどこまで拡張するのか、を考えさせられた案件のコンセプトビジュアル)

コトを魅力的に表現する為には、建築を理解することがより求められるでしょう。なぜなら、建築をモデリングし、形や素材感など見えているモノを美しくレンダしただけでは、コトの価値を表現できているとは言えないからです。その裏側にある設計者の思想や概念、そして建築のプロセス(土地の歴史、敷地の特徴、文化、地域性、住み心地、環境、経済など)を出来るだけ読み取ることで、ビジュアルに価値を与えていきましょう。初めは難しいかもしれませんが、そうして生まれたビジュアルは、メッセージ性を感じ、どこか印象深いビジュアルになっているはずです。

これからの建築ビズでは、建築のどこに価値を見出し、何を選択しビジュアルへ落とし込むのかをデザインすることが求められています。建築ビズを制作する過程にデザインのようなプロセスが入り込んだことにより、冒頭で述べた「デザインビズ」のジャンルに建築ビズが組み込まれたのかもしれません。ただ言われたことだけを描くオペレーターではなく、ビジュアルをデザインする気持ちで目の前の仕事に取り掛かりたいですね。これまでとは違い、建築家、設計者と共創してモノづくりが出来れば一番良いですが、色々なケースがあると思います。

いずれにしても、建築ビズの可能性はどんどん拡張しているので、もしかしたらこれまで見えてこなかった新たな道が見えてくるかもしれません。それがビジネス的にも大きな差を生み出すことでしょう。私の場合、ここ数年で様々な種類の仕事が増えてきているのを通じ、建築ビズの可能性と拡張を肌で感じております。具体的なお話はいずれこの連載でも取り上げたい内容です。

今回は少し難しい内容でしたので、この辺で終わります。
次回は、モノとコトの描き分けを理解したうえで、どうやってメッセージへ落とし込み伝えていくか、その方法論について具体的に説明していきます。

To be continued.

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