トレンド&テクノロジー / 建築ビジュアライゼーションのニューノーマル
第1回:ニューノーマルへの旗と地図

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ニューノーマルへの旗と地図

建築ビジュアライゼーション新コラム著者のご紹介

(以下建築ビジュアライゼーションを建築ビズと略す)

今回コラムを執筆していただく株式会社 竹中工務店、山口大地さんにはここ数年で様々なオートデスクおよび認定販売パートナーの活動にご参加いただきました。

2018年7月、(株)Too主催の建築ビズイベント(東京、大阪、福岡)にて講演。
2019年7月、CGWORLD NEXT FIELDイベントにて講演。ゲームや映画といったエンターテインメントだけではない業界において、3DCGを活用している先駆者を招き、現在の取り組みと今後の活用の可能性を語った。
2019年10月、Autodesk University Japan 2019にて講演。AUJはCAD、CG業界の設計者、キーパーソンが集う、オートデスクのフラッグシップイベント。山口様のセッションのアンケート満足度は200名以上参加したセッションでは最高満足度を記録。セッション終了後には50名ほどの質問者が列を作るなど、大きな反響を得た。

ご覧のように多くのイベントでお話し頂き、そして多くの共感を得ています。山口さんはビジョンと人を惹きつける言葉を持っています。
2020年春、コロナ禍の中、オンラインミーティングでさらに先を見据えた新たな構想を伺いました。変わりゆく建築ビズ業界においても、根幹的なものを提示しているものと感じ、今回のコラム執筆を依頼した次第です。
ぜひ、建築ビズに携わっている皆さんに共感していただければと思います。
では、山口さんよろしくお願いします。

オートデスク株式会社 マーケティング本部 一ノ瀬真一郎


ごあいさつ

This Series of articles are about Architectural Visualization.

みなさま、こんにちは。
ご紹介に預かりました山口です。はじめましての方も多いかと思いますので、まずは簡単に自己紹介です。

私は大学院まで建築意匠設計を専門に建築学を勉強し、設計課題やアイデアコンペに精力的に取り組んでいました。その中でビジュアルの良し悪しがコンペの勝率を変えるほど重要であることに気付き、特にビジュアル制作に熱中していました。当時は3DCGソフトには興味がなく、もっぱら手描き+Photoshopで制作しており、実は社会人になるまで3DCGに触ったことすらありませんでしたが、3DCGで作られたゲームや映画の美しさには度々心惹かれていました。そんな「心に訴えかけるビジュアル」を建築と掛け合わせ新しい表現ができないかと思い、ビジュアル制作を専門とする世界に飛び込んだのです。これが建築ビズ業界に足を踏み入れた背景です。

現在私は国内建設会社の設計部にて、3DCGで専門的にビジュアルを制作する部署に在籍しています。3ds Maxを使用したビジュアル制作とアートディレクションが仕事の大部分を占めます。最近は3DCG以外の手法も取り入れて、建築が作り出す価値をどう世の中へ伝えるか、という課題に取り組んでいます。そこで得た知見を複数のイベント、web媒体、雑誌にて取り上げて頂きました。今回の連載では、それらイベントで発表した内容に加え、時間の都合上泣く泣く省いた内容、さらに当時は明かせなかった考察やそのテクニックについてもお伝えします。私の話を聞いたことがある方も、初見の内容が何割か含まれておりますのでチェックしてみてください。

今さら建築ビズを知らないとヤバい!?

今回は初回ですので、この連載の目的を皆さんと共有するところから始めたいと思います。

突然ですが、「建築ビズ」という言葉を聞いたことがありますか?
まだ聞き覚えがない方も多いかと思います。今、建築業界では「建築ビズ」という表現が求められています。そしてこの「建築ビズ」について明確に理解しているか否かで、これからの時代を生きていく上で大きな差が出ると言っても過言ではないくらい、建築業界での「建築ビズ」の立ち位置は重要になってきています。

「求められていることは、心に訴えかけることです」

この言葉は、私が登壇する度に主張してきた言葉です。そしてこれが「建築ビズ」のもつ価値です。ここで、「建築ビズ」はいわゆる「建築パース」のことじゃないの?何が違うの?と疑問に思った方も多いかと思います。「建築パース」の方が知名度の高い呼び名で、よく目にするビジュアルですよね。

「建築パース」を簡単に説明しますと、建物が立つ前の完成予想図として建築業界で広く使用されているビジュアルです。建物を主役のように画面中央に配し、画面いっぱいに描くのが特徴です。それに対して「建築ビズ」は情緒的な表現が印象的なビジュアルが多いです。

建築パース
建築パース
建築ビジュアライゼーション
建築ビジュアライゼーション

上の二枚はどちらも同じ建築が描かれていますが、大きく印象が異なります。二枚の違いは明らかですが、「建築ビズ」はこれまで主流であった「建築パース」と何が違うのでしょうか?例えばよく言われるのは、「写真のようにリアルなビジュアル(フォトリアル)」、「情緒的で雰囲気があるビジュアル」などです。どちらもハズレではありませんが、的を射ているとも言えません。

What is Architectural Visualization?

建築業界において、3DCGはかなり浸透し、多くのビジュアルが3DCGで作成されています。3DCGで描かれたビジュアルはフォトリアルな表現が圧倒的に多いです。しかしどれも似たような表現に陥りやすく均質的になりがちなので、そこから脱却しようと情緒的な表現を試みたビジュアルが増えてきました。だから「建築ビズ」はフォトリアルで情緒的なビジュアルと言い表されることが多いのです。そのせいか「建築ビズ」における目的と手段は混同されがちで、描いている本人も気付かぬうちに表面的な表現をしてしまいます。表面的な表現は、相手に誤解を与えてしまうばかりか、ビジュアル自体の訴求力の弱さに繋がるなど、本質的でないイマイチなビジュアルに陥りやすいです。そうならない為にも、「建築パース」と「建築ビズ」の違いを的確に理解しないとヤバいんです。

繰り返しにはなりますが、「建築ビズ」において、

「求められていることは心に訴えかけることです」

いやいや、「建築パース」も心に訴えかけることは大事だったよ、と聞こえてきそうですが、もちろんそうです。それでも両者は決定的に違うのです。理由はシンプルで、「建築パース」が価値を持っていた時代と今とでは時代背景が異なるからです。昔は「モノを消費する」時代で、今は「コトを消費する」時代。
「モノを消費する」時代では「建築パース」が価値を持ち、「コトを消費する」時代では「建築ビズ」が価値を持ちます。この時代背景を捉えずして、「建築パース」と「建築ビズ」を描き分けることは困難です。このお話はこれだけで一つのテーマになりますので、今後の投稿へ持ち越します。

ニューノーマルへの「旗と地図」

2020年春、日本においては入学、入社など出会いの季節に、世界は新型コロナウィルスにより想定外の時代に突入しました。この先どうなるか、を予想するのがあまりにも無謀なくらい、先が読めない時代です。今の自分の仕事は果たして残るのか、それとも価値が無くなってしまうのか。では未来へ残る仕事は何なのか?多くの人がこの漠然とした不安によって焦燥感が募る日々かと思います。

もし、これからの未来について考えるヒントが「建築パース」から「建築ビズ」への変遷に隠されているとすればどうでしょう? 先人は温故知新という言葉を現代人に残しております。故(ふる)きを温(たず)ねて新(あたら)しきを知る。今回の連載では「建築ビズ」を通して、未来へ繋がる価値を過去に探り、次の時代のニューノーマルも探っていきます。

NEW NORMAL

今は検索すれば大抵の情報は調べることができますが、ニューノーマルを探るにあたって手に入れるべきものは、未来への指針を示す「旗=思想」と、その旗に辿り着く為の「地図=技術」の二つです。「地図=技術」があれば険しい道のりをかき分け、山を登っていくことは可能ですが、その先を示した「旗=思想」がないと、頂上へ辿り着けず途中で遭難するか下山を余儀なくされます。だからこそ「旗と地図」=「思想と技術」の二つを備える必要があります。しかしこの「旗と地図」の両方を持って進んでいる人はかなり少ないです。頭では分かっていても実行するのは難しいですよね。

THE FLAG + THE MAP

「旗」は自分で立てても良いだろうし、誰かが立てたものでも良いと思います。もちろん地図も同様で、自分で描いた地図でも他人が描いたものでも良いと思います。ただし片方だけ持っていれば良いというわけではないので気を付けたいところです。特に3DCGに関する多くの情報は技術的な内容に偏っており、肝心な「旗と地図」の両方を手に入れるのは困難なのでなかなか骨が折れます。

今回の連載では、10年以上前の学生の時から描き続けてきた私の「旗と地図」が役に立てばと思い、公開するに至りました。この連載を読み進めて頂ければ未来を示した「旗」とそこへの道のりが視えてくるのではないかと思います。しかし真の目的は、最短で効率よく進む為のものではなく、その先のまだ見ぬ新しい世界=ニューノーマルに行く為のものです。「旗」に辿り着いてからが本当の始まりです。先の見えない今だからこそ、ただ何もせず佇んでいるのではなく、「地図」を片手に「旗」を目指し前へ進みましょう。いつの時代も勇気ある一歩が、新しい未来を作ります。

これから始まる連載を、一つの考え方として楽しんで頂ければ幸いです。

To be Continued...

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