トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第32回:豚もおだてりゃ木に登る?

2014.08.18

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このタイトルを見てアニメの「タイムボカン」シリーズを連想された方は多分私と近い年齢ではないかと想像しますが如何ですか? 褒めおだてると豚ですら木に登ってしまうという事ですが、今回のコラムに何の関係があるのかは後ほどに譲るとして、前回はパースの表現力に関して書きました。今回はそれを受けて、どういった手段で表現力をUPさせるのかを私なりの経験を踏まえた上でお話ししたいと思います。


批評を受け入れる

私は講演会などで話をすると、「歯に衣着せぬ物言い」が心地良かったとか(腹立たしく思っている方もいるかも…)、「辛口トーク」ですねとか言われることが多いのですが、CGパースを前にしても「歯に衣着せぬ辛口トーク」を展開します。辛口と言ってもわざと酷評している訳では無く、思ったことを素直に話しているだけで本人は至って純粋です。当然の事ながら良い点は褒めますし、素晴らしいと思うと美辞麗句を並べてべた褒めする事もあります。ただ、多くは辛口批評をしていると取らえられるのですが、この事を快く思わなかった人もいたようです。私が見聞きする中で、他人の描いたパースを悪い方に批評する(良くないと思った点を批評する)といったような話を聞いたことがありません。大抵が褒める話ばかりです。ここで表題の「豚も〜木に登る」に繋がるのですが、むやみに褒める事はパースを描いた本人にとっていいことでなのしょうか? 勿論褒め称えるパースもあるとは思いますが、良くない点とまで言わなくても自分では今一良くわからない表現や、自分だったら違う表現を選ぶな〜などと思うことが一度や二度は経験しているのではないでしょうか。子供の頃はハッキリと好き嫌いを言っていた人が大人になると人の評価を公にしなくなる傾向にあります。したとしても飲みの席での酔った勢いの時ぐらいです。プラスやマイナスをひっくるめての評価無しに自分が描いたパースの善し悪しをどうやって判断するんでしょうか。褒められはしてもネガティブな批評もなければ正しい判断はできませんし、表現力の向上も望めません。ここで表現力向上の1つの手立てなのですが、他人に自分が描いたパースを積極的に批評してもらうことがそれです。勿論他人の批評が全てではありませんし、間違った事をいう人も出てくると思いますが、それは自分の中で交通整理してまえば良い訳で、それよりも評価を多く受けることが大事なのです。あなたが描いたパースをあなたがどれだけ素晴らしいと思おうが、逆に駄目だな〜と思おうが、そのパースが世間に出た時の評価や価値は他人が決めるものなのです。どれだけ気にいったパースでもクライアントがアウトと言えば駄目なパースだし、駄作だと思っていても展示会などで多くの人が賞賛すればそれは素晴らしいパースとなるのです。またその評価の具体的内容を自分が描いたパースに照らし合わせて熟考する事は更に重要です。「こういった表現は、あの様な言葉で言い表せるのか〜」とか、「自分はこう思って描いたのだけど、人は全く違う視点で見ているな〜」など、パースと言葉を頭の中でリンクさせて整理することが肝要です。積極的に批評を受け入れて、その言葉を頭に入れるようにしていれば、徐々に自分の足りない所が言葉として見えてきます。そうしたらしめたものです。見えてきたものを今度はどう向上させるかに集中すればいいのですから。


評論家の目と分析力を持つ

こういう事を書くとその足りない部分をどう向上させれば良いかが分からないから苦労するんじゃないかと言う人も出てきますが、ここで表現力向上のもっとも重要な次の手段を。それは自分が他人のパースを批評する事です。良く言いますよね、人にものを教えることは本人の勉強になると。ソフトの使い方などを教えようとすると自分が体系立ってそのソフトの事を知らないと教えにくいものです。またその使い方にポリシーがないと話が拡散してしまい、教えられている方はゴールが見えにくくなります。これと同じで、人のパースを批評するという事は自分のパース感を明確し、技術を体系立てて把握する事と同じなので、批評する自分にとっても非常にためになることなのです。そのためにも単に批評すれば良いと言ったものではなく評価の理由を明瞭に指摘できるようにならなければなりません。例えば「空が良いですね」といった場合に空の何が良いのか、「雲の形が良いのか」、「配置のバランスが良いのか」、「どのような要因でそのバランスは生まれているのか」、「色が良いと思うのならどうしてこの色が良いと思うのか」、「建物を引き立てている空だと思うのなら何がそうさせているのか」等を明確にする事です。また悪い点も然りで、何が悪いのかを明瞭にして言葉で説明することが大切です。この明瞭にする事が重要で難しい点でもありますが、この辺りを修練するためには常に分析眼を持ってパースに接する事が必要です。常に考えてパースを見る。遠くから全体を見て、些細な部分は目を近づけてまじまじと見る。また見たものに対しての感想を言葉にする。常に考えながらパースと接し、その考えを答えを言葉にする事で段々パースの善し悪しが言葉として分かるようになります。言葉に出来るようになったという事は、次にどうしたら良くなるのかというステップの一歩を踏み出したことになります。


アドバイスが出来る技量を持つ

ステップを踏み出した後にくる表現力向上のための最後にして最も重要な事は、どうしたら良くなるのかを批評とセットで話すことです。これが出来れば世話は無いと言われそうですが、今は出来なくてもこれまで書いたように、他人の批評を受け入れ、他人のパースを批評し、そのために分析する目をもって真摯にパースに向き合い自問自答し続ける。このサイクルの中で自身のパース感を養っていけば、最後にはどうしたらより良くなるかの答えを導けるようになると思います。辛口批評と言われる私ですが、良くないと思われる点やもっと良くなると思う点を話す時には必ず、どうしたら良くなるかをセットで話しています。そもそも批評するのは、もっと良くなるのにという思いからであって、その人を貶めるためではありません。伸び代がありそうな人にのっと伸びて欲しいという思いから話しているつもりなので、どうしたら伸びるかも必ずセットで話します。私程度の人間から批評されてもと思う方もいるとは思いますが、どうしたら良くなるかという事を話す人は殆どいないと聞きます。そうであれば取りあえず聞いて受け入れてみても損はしないと思いますが如何でしょうか。(中には感覚派の人がいて言葉での批評が苦手な人もいると思いますが、そういった人は自分ならこんな感じで描くというアドバイスに代えて伝えて下さい。)
互いに互いのパースを褒め愛であっていてはいつになっても表現力の向上望めないと思います。褒められて木に登ろうとしても、そもそもそ木自体が細り先がなくなりつつある業界でどう登ろうというのでしょうか。


1枚の絵として考える

CGパースの表現力の向上というとテクニカルな技量と考える人もいるかとは思います。しかし前回お話ししたようにパースにとって最も重要な事は、何のためにパースを描くのか?、そのために何をどのように表現するのか?といった1枚の絵全体の話であって、パースに登場する個々の質感は全体のテイストによって表現が異なるものなので、テクニカルな話は後に出てくるものです。建具のアルミサッシュの表現が非常にリアルに出来たからといって、それが正解か否かはパース作りのコンセプトによって決まります。例えば建築の空間的な奥行きを見せる事をコンセプトとして掲げている場合は、細かな要素に目を奪われないようにするためにアルミサッシュの硬質な表現を弱める(映り込みを無くす、ハイライトを非常に弱くする等)事もしばしばです。勿論全体のテイストに基づいて質感を決めていく訳ですから最終的にはテクニカルな技量も必要になりますが、表現力向上のために最初に取り組む必要は無いものと思います。「木を見て森を見ず」という諺があるように、1本の木(個々の質感)を注視していては森(パース)は見えなくなります。(テクニカルな事は様々な書籍がありますので、そちらに譲ります)。


最後に

絵の表現の話をしているのに言葉だけでの話ではお叱りを受けそうなので、最後に事例として私の拙書にあるパースを載せておきます。このパースは某組織設計事務所でCGを教えている時に出した課題に対する私の回答です。このパースに対して人から評価を受けた内容(私の考えや評価ではありません)を幾つか挙げておきます。皆さんも評価者となって、何が良くて何が悪いか、またどうすれば良くなるかを考えて見て下さい。

・陰影が空間を引き立たせている。特に交差点部分の影が建築を引き立てている。(レンダラー)
・建物屋上部の雲がスリットを通して見えていることで建物上部の抜け感が良く出ている。(設計者)
・点景の配置が存在感がありながら、建築の邪魔をしていない。(レンダラー)
・周辺の建物がメインの建築を邪魔しないレベルでリアリティがある。(レンダラー)
・空が全体的に暗い感じ、下から中間部分を明るくするとより奥行きが出て、建物が映えるのでは。(設計者)
・交差点手前の横断歩道の白線のパースがおかしい。これは奥の白線と合わせるか、切った方が良い。(レンダラー)
・交差点奥行き方向と左右方向の見せ方や陰影など構図としてのバランスが良い。(設計者)
注:()内はコメント者


Design&CG:Next Picture Co.Ltd.

割と褒めて頂く事が多かったパースですが、改善点も指摘されています。本を購入頂いた方は、載っているパースとは違うことに気づかれたかと思います。上の指摘を受けて、パース下部の横断歩道の部分をトリミングしたものが本に載せているものです。


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