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東映アニメーションに聞く次世代のためのアニメーション・ワークフロー:前編〜リアルなクッキングシーンのためにスタッフもクッキング!?フルCG短編映画『Petit☆ドリームスターズ!レッツ・ラ・クッキン?ショータイム!』

©2017 映画キラキラ☆プリキュアアラモード製作委員会
東映アニメーションに聞く次世代のためのアニメーション・ワークフロー:前編〜リアルなクッキングシーンのためにスタッフもクッキング!?フルCG短編映画『Petit☆ドリームスターズ!レッツ・ラ・クッキン?ショータイム!』
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東映アニメーションは1956年(昭和31年)創立(東映動画)。日本最初の長編アニメ『白蛇伝』から『ドラゴンボール』『ワンピース』『セーラームーン』『プリキュア』まで、60年以上に渡り、日本を代表するアニメーションを送り出してきたスタジオである。昨年、東京都練馬区に新スタジオ「東映アニメーション新大泉スタジオ」をオープンした。地下1階、地上4階の大規模なスタジオだ。

東映アニメーション新大泉スタジオ

今回は、2017年秋に公開された『映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』と併映されたフルCGアニメーションの短編作品『Petit☆ドリームスターズ!レッツ・ラ・クッキン?ショータイム!』についてその裏側を聞いた。

お話をお伺いしたのは、本作品におけるCGプロデューサーの野島淳志氏とCGディレクターの小林真理氏。

野島氏
野島氏
小林氏
小林氏

『Petit☆ドリームスターズ』の制作スタッフは、協力会社まで含めて30名程度。アニメーター6名、コンポジット5名、エフェクトは2名。製作期間は5ヶ月ほどである。

作品はパステルカラーで統一された、ドリーミーなイラスト調のタッチ。『キラキラ☆プリキュアアラモード』のペコリン、『魔法つかいプリキュア!』のモフルン、『Go!プリンセスプリキュア』のパフ&アロマらの妖精たちがクッキー作りにチャレンジするのだが、間違った材料を入れてしまって、天地をひっくり返したような大騒ぎに...。

Petit☆ドリームスターズ

「この作品のポイントは、ストーリーよりも可愛らしさが目立つこと。ただただ可愛い、ただただ美味しそうというところを目指しました」(野島)

「いわゆるセミリアルなルックではなく、イラスト調の作品にしたいというのが監督の希望でした。キャラクターたちがお菓子作りに失敗してハチャメチャになるという宮原直樹監督の提案から始まっています」(小林)

宮原監督によるラフ
宮原監督によるラフ
宮原監督による絵コンテ
宮原監督による絵コンテ

アニメ制作のフローにおいては、まず監督がラフを描き、それに従って絵コンテが作成される。CGディレクターは絵コンテに並行し、CGのアニメーションの方向性を決めていく。

「一番難しかったのは、お菓子を作るところ。アニメーションでお菓子を作るのは、作画などCG以外の表現手法でもおそらく大変なことなんだと思います。CGディレクターとしては、例えばバターのムニュっとした動きなど、再現するハードルが高い動きと実現可能な動きを選別して、やるところはごまかさないでちゃんと見せました。観賞するお子さんにとって、キャラクターがお菓子を食べるという行為はきっと共感しやすいだろうと思って、かなり力を入れています」(小林)

美味しそうな映像をCGで作ることは難しい。そのハードルを乗り越えるために、なんとクッキングスタジオを借りて実際にメンバーでクッキーを実際に作ってみたという。

クッキングテストで実際に作ったクッキー
クッキングテストで実際に作ったクッキー

「監督をはじめコアメンバーがみんな食いしん坊だったので(笑)、クッキングテストはすごく盛り上がりました」(小林)

「クッキーだけでなく、カレーライスも作ったくらいです。カレーのルーを何にするかで監督とみんなで揉めたりして(笑)」(野島)

キャラクターモデルの完成ルック
キャラクターモデルの完成ルック

小林氏は監督のビジュアル・イメージから実際のルックのテストを進めていった。

「技術的なテストをして、こういう方向でやれば作品が作れるというプリプロダクションをしてから、実際のプロダクションの設計をしました。いきなり本番で作るのではなく、最初はワンショットでとりあえず作ってみて、それを元に実際どれくらいのアセットを作るのか、技術的にクリアしなければいけない課題は何かなどの設計をするんです」(小林)

バッググラウンドアセットの完成ルック
バッググラウンドアセットの完成ルック

それが公開から5ヶ月前のこと。小林氏が全体のCG設計を決定した後に、デザインなどのCGスタッフを招集し、「こういう作品を目指す」とディレクション。全員が、同じ方向を向いて制作に取り組んでいく。

「自分がワンショットで作ったイメージを、作品にするためには何10カットにも広げなければならない。そこでパイプラインやワークフローの設計などの開発が必要なんですね。CGディレクターとしての私の役割のひとつは、それを咀嚼してクリエイターたちにパイプラインに乗せてもらうための相談をすることです。1カットだけなら自分で作れるけど、スタジオで量産するためにはそこからの設計が必要ですから」(小林)

「弊社は分業制で制作しているので、アニメーション、エフェクト、コンポジットそれぞれに特化してスタッフが作業していきます。それぞれのアニメーションが終わったら、どんどん完成したファイルをパイプラインに流して、最終的に映画として作り上げていくんです」(野島)

イラスト調のルックを実現するために

イラスト調のルック

今回の、水彩で描いたイラストのような、可愛らしいルックを実現するためには様々な工夫があったという。

「意図的に、2Dイラスト的なハイライトが常に絵に入るようにしていました。キャラクターにライトを埋め込んで、ライトの角度でリムライトがシュッと入るようにしています。ハイライトを入れるのは、立体感のグラデーションや、作画アニメのような"実線"を持たないデザインを絵として認識できるようにするため。それまで作っていたプリキュアのエンディング映像と違った絵作りだったので、初めてのチャレンジでした」(小林)

アニメーションの動きについても、通常のプリキュアとは違う苦労があった。

「妖精たちは手足が短いキャラクターなので、いわゆるスクワッシュ&ストレッチというカートゥーンのような、ちょっと伸びたり縮んだりというアニメーションが中心でした。プリキュアのように等身が高くて手足が長いキャラクターとは違うので、そこはアニメーションで苦労したところです」(小林)

そこでもはやり役に立ったのは、スタッフ全員で実際にクッキーを調理した経験だった。その経験が、キャラクターのモーションやお芝居にも役立てられたそうだ。

Mayaの話

『Petit☆ドリームスターズ!レッツ・ラ・クッキン?ショータイム!』

今回、基本的にプレビズからアニメーションレンダリングまで、全てMayaで作られている。

「複雑なシミュレーションやコンポジット以外の部分はすべてMayaを使っています。イラスト調の絵作りをするのに、以前はCG側からいろんなパスを出して、後処理で質感を作っていたんですが、今回はMayaのシェーディングネットワーク内で初めからイラスト調のルックを作ってしまって、ワンパスでもファイナルルックと同じ絵が出るようにしました。その代わりにノーマルやオブジェクトIDなど、ビューティー以外のパスを多めに出して、コンポジット工程で平面的な絵作りのなかにも3Dならではの空気感や光の効果を得られるように設計しています」(小林)

ほか、爆発や煙などのエフェクトは、種類によってツールを選択しているそうだ。

「ツールの特製を活かして選択しています。例えば爆発の煙は3ds Maxで作っていますね」(小林)

3ds Maxで作成したエフェクトの素材
3ds Maxで作成したエフェクトの素材
コンポジットでイラスト調に調整したエフェクト
コンポジットでイラスト調に調整したエフェクト

本作品の制作進行には、SHOTGUNを使っている。

「弊社にはレンダリングする時にMayaを立ち上げなくてもシーンや設定を構築してくれる「Retort(レトルト)」という便利な自社ツールがあります。それに紐付いた形で、SHOTGUNはショットやアセットの情報を取りに行くデータベースにもなっています。今どういうムービーが完成しているのかという進捗もひと目でわかる」(小林)

「以前はエクセルなどで管理していたんですが、データベースとしてツールを介してファイルに直接アクセスが出来ないのが悩みでした。SHOTGUNだったら社内のツールと連携させたファイルアクセスができるのですごく便利です。各スタッフがSHOTGUNにショットの情報を予め入力しておけば、例えば「このカットにこの妖精が出る」という場面で自動的にキャラクターを読み込んたり、レンダリング用にライトの方向やプリセットを読み込んだり...」(野島)

「スタッフ全員がレビューする場所としても機能するので、なくては仕事ができない感じですね。完全にパイプラインが連携しているので、なくなったらレンダリングもできなくなってしまいます」(小林)

果たしてSHOTGUNがどう東映アニメーションで使われているのか、詳しくは後編でお伝えする。

自分が見たい絵を提案したい

小林さん

小林さんは美術大学在学中に独学で2Dアニメーションを学び、自宅に撮影台を置いて自主制作の2Dアニメを制作したこともあったという。大学時代の恩師にLightwaveを教わったのをきっかけに3DCGに興味を持ち、本格的にCGを習得したのはアニメーション会社に就職してからだった。なぜ現在のキャリアへと進んだのだろうか?

「はじめはLightWaveや3ds MaxでいわゆるアニメCGの仕事をしていましたが、アニメは作画が主役なので、徐々にキャラクターアニメーションをCGで作りたいなと思うようになりました。そこで、ちゃんとCGでキャラクターアニメーションをやるならMayaだなと思い、アニメの会社でMayaのパイプラインを持っている東映アニメーションに転職したんです」(小林)

小林さん
デスクにて

ディレクターになって、今も変わらずにあるのは"自分が見たいものを自分で作る"という気持ち。

「アニメーションの現場は集団制作なので、作品が大きくなればなるほど末端の仕事も増えるんですが、どんな仕事をやるときでも、オーダーされたものの中に自分が見たい絵を見つけて提案することを楽しむようにしています。同時に一緒に仕事をしてもらうスタッフも楽しむポイントが見つかるように工夫をします。アニメーションを作っていると『どうしてこんなに大変な仕事をしているんだろう』って思う時もありますけど、やっぱり自分が見たいものは、覚悟を決めて自分で作らなきゃって思いながら、一人では作れないのでどんどんいろんな人を巻き込みます(笑)。そういうことの積み重ねで、ディレクターをやらせてもらえるようになったのかもしれません」

作りたいものは、いつでも"自分が最初に見たい"と思えるもの--。最後に、お二人が考える『才能があるアニメーターとは?』を聞いた。

「"面白い人"です。技術は盗めるけど、センスは盗めないんですよ。アニメーターは不思議で、同じぐらいの技術がある2人でも、同じカットが作れるかというと違う。弊社のアニメーターも皆個性がバラバラで魅力的な人がたくさんいるので面白いです」(小林)

クリエイターも人間である。人間そのものに愛があり、森羅万象の動きを楽しむことが出来る人がアニメーターになれるのではないかと語る。

「やはり、人間に限らず、動くものに愛情が持てない人はアニメーターになれないというか。人間や動物や自然の動き、そういうものに興味を持てる人が、アニメーターになるのかなって思いますね」(小林)

「アニメーターは役者であるのはもちろんですが、実在しないキャラクターを演じたり、自分ができないことをキャラクターにさせなければならないので、役者以上に想像力も必要です」(野島)

そしてプロデューサーを目指す人であっても、CGを習得していたほうが良いと野島氏は語る。

「例えば、デザイナーさんにソフトやプラグインが欲しいと言われても、なぜそれが必要なのか、それでどんな映像がつくれるようになるのかわからなければプロデューサーは務まりません。決められた予算やスケジュールで、どこにお金や時間を効果的に使うのか、最終的に判断するのはプロデューサーですから。そして、制作工程やCGのトレンドもある程度は把握しておかないと。そうでなければ、面白い映像は作れない。CGでこの作品をやる意義、というものをプロデューサーは誰よりも理解していなければならないんです」(野島)

カフェにて
カフェにて
『映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』

『映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと!想い出のミルフィーユ!』
2018年3月7日(水)発売
Blu-ray特装版(PCXX-50129) 7,600円+税
DVD特装版(PCBX-51758) 5,700円+税
DVD通常版(PCBX-51759) 4,700円+税
発売元:マーベラス/販売元:ポニーキャニオン
©2017 映画キラキラ☆プリキュアアラモード製作委員会

後編では、東映アニメーションにおけるデジタル作画と「SHOTGUN」のコラボレーションについて紹介する。

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