テクニカルディレクター 津軽屋 敦士氏インタビュー

更新日 2012.01.24

  • はじめに、津軽屋様の自己紹介をお願い致します。

  • 映像業界でのキャリアは、17年目になります。主にモーションキャプチャエディットを担当させて頂くことが多いのですが、最近はスクリプトやプラグイン制作を担当させて頂くケースもあります。もちろん、VFX、コンポジットと何でもこなしますが、個人的にはモーションとICE、スクリプティングをやっているときが幸せですね。これまでに、エクスマキナ、ファイアーエンブレム、龍が如く 見参&3、4、ドラゴンズドグマなどの作品に関わらせて頂いております。

    趣味は主に猫いじりですが、最近は日曜大工ならぬ日曜CGも楽しんでいます。昔から、ボルダリング、ヒップホップ、マラソン、イベントのオーガナイザー、ガラス工芸など幅広い分野の趣味を楽しんできました。

  • 影響を受けた作品についてお聞かせください。

  • 専門学生時代に観たヤン・シュワンクマイエルの「アリス」には衝撃を受けました。「こんな映像、世の中にあるのか?!」とハッとさせられたのを今でも鮮明に覚えています。

    「ジュラシックパーク」の恐竜も驚愕でした。しかし、パート1ではアニマトロニクスのカットが多いというのを知って後でがっかりした覚えがあります。(笑) 最近の作品では、モーションにしっかりと重量感が感じられる「ガンダムユニコーン」が凄く好きです。

       
     津軽屋 敦士 氏
     フリーランス テクニカルディレクター

    ■ 津軽屋氏によるICEベースの鎖生成ツールの実験

    Chain Generator ←リンク先でコンパウンドも公開されています。

  • 今回、プロシージャルな鎖の生成を題材として扱われたのはなぜですか?

  • 実は、過去の仕事でも鎖のリギングを行ったことはありました。その際は、余った鎖を手の中に何十個も隠して見えなくするといった原始的な対応をとらざるを得ませんでした。この方法では鎖の数を最適化出来ないことからアンビエントオクルージョンでのレンダリングパフォーマンスに影響が出るという弱点がありました。

    そこで、Softimage 2012 からサポートされたICEモデリングで問題解決に挑戦してみようと思い着手したのです。差し迫って仕事で必要なエフェクトという訳ではありませんでしたが、表現出来ると便利だなと単純に思ったところから始まっています。
     

  • 完成までの道のりをお聞かせください。

    アプローチの方法は、まず頭の中で設計を構築してからICEノードで表現していくという形になります。カーブに対して等間隔にポイントを配置するという処理で壁にぶちあたってしまい、Twitterで質問を投げたところ、たくさんの方々が協力してくれました。そこでたどり着いたのが、処理のパフォーマンスも優れたJulian Johnsonさんのコンパウンドです。

    中身は複雑でしたが、アルゴリズムを解析しながら改造を進めて行きました。しかし、途中の段階で今回の目的に適切な制御を実現するために、改良という形ではなく結局は初めからノードを組み直したという経緯があります。

    大まかな完成形を頭に思い描きつつ、デバッグを行い徐々に完成を目指しました。このアプローチでは頭の中がパンク寸前になったので、やはりフローチャートをちゃんと書いたほうが良かったなと少し反省しています。完成までには約6日を要しました。そのうちの半分はリサーチに充てています。「パフォーマンスを上げるにはどうしたらいいか?」というのが一番悩んだ部分で、今でも改良の余地を考えたりしますね。

       

  • ICEで対応している分野で、どこに最も魅力を感じていますか?(ICE Modeling、Kinematics、パーティクル、Lagoa...など)また、将来的にICEで対応して欲しい部分はありますか?

    今のところ、パーティクル周りについてはかなり分かってきたので、いろいろ自在に試せるようになったのが楽しいですね。パーティクルと聞くと多くの方は、粒々のイメージが強いかと思います。しかし、僕の感覚としてはデータの塊をイメージします。あるときはマトリックスになりますし、あるときはカウンターにもなり、またあるときはコリジョンの位置を記憶させたりも出来るのです。

    このように、概念によっていろいろ様変わりする自由度が大変気に入っています。自由度が高いために、作業の時は他の方が後で見ても何のデータか認識が出来るように、コメントノードを使うなどして分かり易く作るのを心がけています。

    将来的にICEで対応して欲しいエリアは、モーションクリップのコントロールでしょうか。トランジションをICEで作れるようになると、複雑な動きの群集表現をさらに簡単に作ることが出来るのではと思ったことがあります。後は、ICE Kinematicsは、Globalの処理のみ対応していますが、Local.kineの開放が行われるとICEでリグがもっと組みやすくなるでしょうね。また、さらにプリセットが充実して、これを押したらもうプロダクトレベル!くらい強烈なレンダリングまでのサポートが行われると良いですね。

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  • いわゆる純粋なデザイナーは、ICEとどのように向き合うべきでしょうか?また、スクリプトは書けるが、ICEには手を出せていないという人達に何かアドバイスはございますか?

    組み方がまったく分からないといった方でICE自体に興味があるのなら、まずはマニュアルを読んでみるのをオススメします。僕もよくやる方法ですが、ざーっと流し読みで良いと思うのです。分からないところは飛ばして読む。そして、どんなことが出来るのかを空いた時間に、なんとなくで良いので実際にやってみたり、思い出してみたりすることで一つずつ消化していくのです

    そして、以前に仕事上で非効率だったことを覚えておいて、その処理をICEで少しチャレンジしてみる。出来なかったら、すぐやめる。といったことを繰り返せば、なんとなくですが、少し使えるようにはなるのではと思います。何はともあれ、まずはチャレンジをしてみるという選択や勇気が必要です。

    スクリプト記述の知識があるような方であれば、一度、カスタムのICEコンパウンドを試しに作ってみると一層理解が深まるかと思います。ICEノードは、スクリプトでいうところの、関数とほぼ同じですが、ICE特有の部分を覚え直すことに抵抗を感じてはダメだと思います。

    また、値の表示(Show Values)で、データの流れをきちんと把握しておくことが肝心です。どうしたら値の表示(Show Values)を見られるのかといった部分も重要なファクターになります。

    Paul smithさんのチュートリアルは、とてつもなく参考になりますので、見ながら実際にちょっとやってみるだけで、結構使いこなせるようになるのではと思います。

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  • 昔から数学やプログラムが得意だったのでしょうか?

    プログラムらしきことは小学生の時から始めました。最初の頃は、父親が購入してくれたPC-8001で「BASICで作るゲーム」の本を片手に、ぷちぷち打ち込んでゲームを遊んでいました。スクリプティングが今でも楽しいのはこの影響かもしれませんね。しかし、本当の意味でのプログラムは、この頃はまったく理解していませんでした。

    PythonやICEをやり始めたのは割と最近なのです。必要になったから使い始めたといったところでしょうか。知識を深めるには、やはり経験が必要だと思います。ICEについては、ウェブで情報を収集したり、数学も本を片手に学習したり経験を増やしています。

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  • スクリプトを学ぶことの重要性についてご意見をお聞かせください。

    スクリプトを学ぶことによる一番の恩恵は、同じ作業をコンピュータにまかせられるところです。
    しかも、絶対に間違えません。優秀な部下が増えた感じです。しかし、融通が利かないので、全てを教え込まなければなりませんが・・・。

    また、スクリプトを理解すると、データの流れがなんとなく理解出来ます。無駄が省けるようになるために、不必要に重いデータや不安定なデータの発生を未然に防げるという利点もあるかと思います。

  • Pythonの言語としての魅力や利点をお聞かせください。

    Pythonを使うようになったのは、MotionBuilderのカスタマイズがきっかけです。最初の頃は、プロット処理からデータの書き出しを行なうツールや、キャラクタライズまでをほぼ一発でセットアップするスクリプトを書いていました。

    Pythonは、物凄くシンプルに書けるのが魅力です。そして、素晴らしいモジュール群がたくさんあります。今はほとんどのDCCソフトでPythonが使えるので、他の言語を覚えなくても良いといった利点もあります。他のソフト用に作ったプラグインなども、割と簡単に移植することが出来ます。SoftimageはVB ScriptやJSscriptにも対応していますが、最近ではPython以外では作業しなくなりましたね。

       

     Tools Development Environment(ツール開発環境)レイアウト で作業されるケースが多いという。

  • Softimageについて、ICE、スクリプト環境以外で気に入っている部分はどこですか?

    Softimageで特に気に入っている機能は、GATORです。GATORは本当に良く使う素晴らしい機能です。キャラクタセットアップのときは、ローモデルでスキンウェイトを塗り、後でハイメッシュへ転送!もうGATORなくしては作業出来ないくらいの存在ですね。

    UIのレスポンスが良く、とても軽快に作業できるのも魅力です。Animation EditorではFカーブの視認性に優れており、大量Fカーブの表示も速いですね。Schematicエディタもユーザビリティに富んでいる気がします。2012 SAPでサポートされた選択操作の改善もとても気に入っています。ツールとして完成度が高く、なにより手に馴染んで使いやすいというのを常日頃感じています。

  • 仕事にやりがいや面白みを感じるのはどういった時でしょうか?

    僕の場合は、作業を始める前の何も出来ていない段階は少しイライラした状態だったりします。そこから、だんだんと完成に近づく課程が一つ一つ山を乗り越える爽快感のようで面白みを感じます。そして、映像を通じて人々に感動や何かしらのメッセージが伝えられるということにやりがいを感じたりします。

  • テクニカルディレクターとして重要な能力や必要とされる能力は何でしょうか?

    プロブレムソルビング能力、つまり問題を解決に導くことが出来る能力が重要なのかなと思います。常日頃からリサーチを怠らないことも重要です。多種多様の新しい情報を自分なりに消化出来て、手持ちのカードが多い人が優れたTDなのかなと思います。

    また、経験が豊かなTDは、表層的ではない潜在した見落としがちな問題に対しても、何かがおかしいと直感的に感じ取ることが出来るようになると思います。そこから解決策の提示まで行えるようになり、プロジェクトの舵を取りってクライアントやデザイナーを成功へと導けるのが一人前のTDです。

    アセットやパイプラインが複雑化してきていると思いますが、テクニカルディレクターの需要は今後より増えていくと思いますか?

    大規模なプロジェクトのほうが、TDの活躍の場が多いと思うので大きなプロジェクトが増えてくれるといいですね。しかし、近頃は決め事や仕様が複雑化しすぎている傾向があるように感じています。パイプラインに必要ないものはバンバン切り捨てていくという単純化というのもキーワードなのかもしれませんね。

    しかし、TDで求められる知識は多岐に渡ります。限られた時間のなかで難易度の高い問題を全て解決するというのは不可能です。置かれている状況下で実現可能なことを正しく判断して、最も効果が得られる解決策を掘り下げるということが大事なのかもしれません。

  • 積極的にウェブで情報共有を行われている理由を聞かせください。

    実はブログを立ち上げたきっかけは、過去に在籍していた会社の取り組みに興味をもってもらうためでした。つまり、人材募集の観点から情報発信を目指していました。今現在は、Softimageユーザーと情報シェアをしたいという純粋な気持ちでやっています。

    僕のCGに対する捕らえ方は少し一般的でない気がするので、視点を思いっきり変えて記事を書いています。そして、なるべくオリジナルの考え方をするというのを心がけていますね。もしかすると、気軽に読みにくいのかな?という懸念があったりしますが、そのあたりは今後も改善していきたいところです。モチベーション的には、正直なところ、CGが楽しくてしょうがないのです。Softimageに命令をすると、こういう風に返答がある。次にこうしよう、やった出来た!という試行錯誤がかなり楽しいです。

    知識や情報というものは、本来盗られる類のものでは無いと考えます。ですので、もっと沢山の方たちとオープンにお互いの情報をシェアしたいですね。シェアしてもらって、もっと面白いものが出来て、さらにシェアして、さらに面白いものを作るという連鎖反応が理想的だと思っています。

  • 最後に記事をご覧になった方に一言メッセージをお願いいたします。

    今回、読んでくださってありがとうございました。
    まだまだTDとしては未熟ですが、今年もブログにていろいろ発信していこうと思います。

    http://a-s-c-e-n-s-i-o-n.blogspot.com/

    これからもSoftimageの機能を最大限引き出すように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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