トレンド&テクノロジー / VFXの話をしよう
第7回:生き抜け!フィルム

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今回の記事は今から2年前に私が「カムイ外伝」という映画のVFX制作に携わった頃に書いたものだ。今回、改めて読み返してみたら、たった2年しか経っていないのに、ずいぶんと古くさい感じがした。本稿は変遷するメディア媒体をテーマにした記事なのだが、その文章を書いた当時のメディアの状況がすでに遠い昔のことのように思えるのだ。あまりにも現状に即してないように思えたので、掲載を止めようかとも思ったのだが、一方で、クラウドコンピューティングにスマートフォン、電子書籍などがリアルな生活の中で利用され、文字も映像も音楽もすべてがネットや通信でやりとりされることに何の違和感もなくなっている今、本稿を読むことで、この2年の状況の変化が実はとても急激なことだったことを感じられたら、それはそれで面白いかと思い、やはり掲載することにした。ちなみに、フィルムの需要は当時に比べて、さらに格段に落ち込んでいるが、まだ消滅はしていない。

「カムイ外伝」のVFX制作は、私の勤めるイマジカの敷地の片隅にプロジェクトルームを作って進めて来たのだが、側には工作室があって社内のフィルム機器のメンテナンスなどをやっているようだった。ある日、一服しに外に出るとやたら大きな機械(マシン)が放置されていた。何かと思って近づくと、紙が貼ってあって、そこには「抜き焼きプリンター」と書いてある。それは、映画のフィルムの必要な部分だけを焼き付けるための機材だ。聞けば、世代交代で廃棄されるのだという。その静かに置かれた大きく古びた機材を見ているうちに「フィルム」というセルロイドの加工物に思いが走った。

私が大学を卒業してCGの世界に飛び込んだとき、世は「ニューメディア」という言葉に沸いていた。1980年前後からオーディオCDが発売され始め、映画では「トロン」(昨年リメーク版が公開された)というSF作品がコンピューターで作られたデジタル時代の象徴のようにマスコミで話題になっていた。「ニューメディア」ブームのきっかけは当時台頭してきた様々なデジタル技術だった。あらゆるメディアは今後すべてデジタル化され、本や雑誌、新聞、映画、テレビといった既成のメディアはすべて21世紀までにはデジタルを核にした「新しいメディア」に置き換わることになる、というのが大まかな主旨だった。

映画などは格好の標的で、「フィルムは21世紀にはなくなっている」と断言する専門家も少なくなかった。事実、80年代から90年代にかけては「ニューメディア」として新たな電子媒体が次から次に発表された。ビデオテープなどはβvsVHSの競争の果てに一般家庭向けには、S-VHS、8ミリビデオ、Hi8、Digital8などが立て続けに売り出され、プロの世界でもインチのオープンリール形式からBETACAM、D1、D2、D5、HDCAMといった様々な種類のカセット型が乱立した。一方、データ系のメディアのほうも凄まじく、3.5インチサイズのフロッピーディスクに始まり、CD-ROM、CD-I、Exabyte、MD、DLT、DAT、DVDなどなど、挙げたらまだまだ出て来る。(Zipとか懐かしいなあ) しかし、21世紀もほぼ10年を経た今、それらの「ニューメディア」はどうなったのだろう。そのほとんどが淘汰され、消え去ったメディアの何と多いことか。我が家の片隅には今や見ることが困難になったレーザーディスクが何枚もある。

そして今や時代は「ネットワーク・コンピューティング」に突入し、かつて乱立した記録メディアはハードディスクやUSB メモリに集約されつつある。VFXの仕事でも、今やテープ類が使われることはほとんどなく、メールやwebを使ったネットワークでのデータのやりとりだったり、HDDを小脇に抱えて走るスタッフの姿が普通になっている。確かに、社会はデジタル中心の環境にはなったが、結局、紙媒体もフィルムもなくなることはなかった。紙に関して言えば、個人的な日ごろの実感から言えば、むしろ益々使われている気がしてならない。一連のニューメディア時代のバカ騒ぎに踊らされた人は、自身も含めて多いと思うが、今思えば滑稽でもあり、懐かしくもある。 フィルムに関して言えば、確かになくなることはなかったし、近年のシネコンの増大で劇場プリントの量も比較的安定はしているようだ。けれども、フィルム媒体が減少、消滅しかかっているのは確かだ。写真に関して言えば、もはやほとんどの人たちがデジタルカメラで楽しんでいるし、ビデオ以前に隆盛を誇り、私自身が自主映画時代にお世話になった8ミリフィルムについてもコダクロームの現像は今や国内では行っていない。富士フィルムもシングル8の生産中止を発表している。

確かに、フィルムの将来は明るいとは言えない。しかし、先に挙げた数々の消えたメディアのように、フィルムがなくなることは決してない、と私は信じている。消えたニューメディアと紙やフィルムの最も大きな差は、後者には質感があるのに対して、前者にはないということだ。言い方を変えれば、前者が情報の影だとすれば、後者は情報の実像そのものということだ。古人は「形あるものは滅びる」と言ったようだが、一方で人間は形あるものをこそ残そうとしてきたと思うし、数千年も前に誰か描いたかもわからない壁画だって今に残っている。フィルムにはそれと同じくらい根源的で、強力な「生命力」があるように思うのだ。

役目を終えて暗闇に静かにたたずむプリンターから離れて背を向けると「お疲れさま」と心の中でつぶやいて、私はまた騒々しい現場に戻った。

© 映像+/グラフィック社刊
現在、映像+に連載中 http://www.graphicsha.co.jp/

本稿は「映像+7」 2009年7月25日発行に掲載されました原稿を元に改訂をしたものです。
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