トレンド&テクノロジー / カラーマガジン
第2回:カラースペースにおける3つのファミリー

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昨今、ビデオによる撮影や、ビデオの作業に関わる人にとって面白い時代になってきた。「ビデオ」カラースペースだけでなく、「Logarithmic(ロガリズミック)」と「Raw(ロウ)」のカラースペースでイメージを生成することができるカメラが、ビデオマーケットに向けて登場したりしている。

今号の「The Color Magazine」から数回に分けて、これら3つのカラースペースの違いと、この新しいオプションを使用することで、ビデオマーケットの人々にどのようなメリットがあるのか紹介する。その前に、まずは「色」についての、新しい専門用語を説明しよう。これらの用語は、今後皆さんもより頻繁に耳にするようになると思う。



約15年前、Kodakのサイエンティストが、多様なマーケット間(スチル写真、DTP、グラフィックアート、シネマトグラフィー、ビデオ等)で共通して使用できるカラーエンコーディングを開発しようと試みた際、カラースペースは3つのカテゴリーに分類できると認識した。つまり、膨大な数のカラーエンコーディング(すなわちカラースペース)が存在するにも関わらず、たった3つのファミリーに分けることができるのである。これは非常に重要なことである。なぜなら、同じグループ内でのカラー変換は比較的容易なのに対し、違うグループ間でのカラー変換は複雑だからだ。

カラースペースが所属するファミリーを「イメージステート(Image State)」と呼ぶ。この概念は現在、国際標準ISO22028-1「フォトグラフィーとグラフィックテクノロジー−デジタル画像の保管・取り扱い・互換用の拡大色符号化---第1部:構造および要求事項」で公式なものとされている。このドキュメントはフィルムおよびテレビ分野のカラーマネージメントにおいて進行中の研究のベースとなっている。では3つのイメージステートを見てみよう。



ファミリー【1】
多くの人にとって馴染みのあるイメージステートは、ISOスタンダードで「output-referred」と呼ばれているものだ。全てのビデオカラースペース(ITU-R BT.601およびBT.709を含む)はこのファミリーに属する。また、sRGB(IECによる色空間の国際標準規格であるstandard RGB)を含むDTPカラースペースと、ICC(国際カラーコンソーシアム)カラープロファイルフォーマットのPCS(Profile Connection Space、機器に依存しない色空間)もこのファミリーに属する。さらには、デジタルシネマ上映のためのDCIカラースペースもこのファミリーだ。このグループのカラースペースは実際に広範囲に渡って使用されており、よく知られている。多くの人はあと2つのファミリーについては知らないだろう。

ファミリー【2】
2つめのイメージステートは「scene-referred」と呼ばれている。このグループのカラースペースは、オリジナルシーンの光に"リニア"に比例する明度を持つ。従って「Raw(生の、加工していない)」カラースペースと呼ばれている(元々はハイエンドのスチル写真の世界から来たもので、現在はデジタルシネマトグラフィーの市場でも使用するようになってきた)。多くの画像処理演算は、これらRawカラースペースにおいて最適に行われる。例えば、CGIレンダリングソフトウェアは内部的にRawカラースペースを使用するが、多くの合成ソフトウェアもRawカラースペースを使用する(注意:「"リニア"カラースペース」という用語は紛らわしい。このファミリーのカラースペースを指すことがしばしばあるし、ビデオカラースペースを指すこともあるからだ)。

ファミリー【3】
3つめのカラースペースは、フィルムシネマトグラフィーのマーケットで生まれた。Kodak Cineonシステムの一部がその発祥である。これらのカラースペースは一般的に「Log」と呼ばれているが、正式には「negative-referred」または「intermediate-referred」と呼ぶ。元来の目的は、カラーのネガフィルムに何が記録されたかを正確に示すことであった。最近はデジタルシネマカメラがログイメージを生成するようになっている。とは言え、その特徴は、カラーネガフィルムによってキャプチャーされたものとは大きく違う。scene-referred(ファミリー【2】)もそうだが、intermediate-referred(ファミリー【3】)カラースペースは、output-referred(ファミリー【1】)カラースペースと違ってダイレクトにビュー(閲覧)することはできない。しかしながら、例えばネガフィルムストックの特徴を含むため、scene-referredカラースペースとは異質なものとなっている。



output-referredカラースペースとscene-referredカラースペースでは、明確な違いはないように見えるかも知れないが、しかし、例えばビデオモニター上でシーンの比色分析を行い、複製したとしても満足のいく画像は得られないであろう。これには大きく3つの理由がある。1つ目として、屋外でビューする場合と、テレビや映画を通常の環境で観る場合の視聴環境の違いは、極端に大きいという事実である。人間の視覚システムはその違いに順応するが、この順応は不完全で、結果として画像は補正されたものになる。2つめの理由は、実世界のシーンのダイナミックレンジは絶対的であるのに対し、実際の表示技術はこのレンジのほんの一部しか再現できない。3つ目の理由はシンプルで、私たちは、実際とは違ったシーンを表示することを望む場合がしばしばある(青い空、青々と茂った芝生等)。


従って、scene-referredとintermediate-referredのカラースペースは、人間の視覚システムの不完全な順応(おおざっぱに言うと、コントラストブースト:コントラストを強める働き)の原因となるoutput-referredスペースへコンバートするため、色変換を適用しなければならない。この視覚システムの順応とは、ダイナミックレンジの中で一番興味を引く(美的選好に起因する)部分を選択することである。このプロセスは通常「レンダリング」と呼ばれている。映画制作システムでは、ネガフィルムとプリントフィルムを合わせ、コントラストブーストと、シーンのトーンスケール(色調スケール)の中で欲しいところを選択するカラータイミングが使用される(フィルムデザインとグレーディングが美的選好に即するために行われる)。ビデオカメラでは、この変換がカメラの電子技術の中で適用される。(注意:これはしばしばガンマ補正と思われがちだが、実際は、CRT反応のインバースそのものではない。純粋なコントラストブーストが起こっている。)さらに、カメラのセッティングはシーンの色調レンジから欲しい部分を効果的に選択し、全体のルックに貢献するのである。

intermediate-referred(Log)やscene-referred(Raw)カラースペースで撮影することの利点は何なのだろうか。いくつかのメリットがある。まず、より広いレンジの情報をキャプチャーすることで、ファイナルカラーグレーディングセッションで可能なことが増える。また、オンセットで、ファイナルルックを決定するのに長時間悩む必要がなくなる。広いレンジの情報を画像に持っておくことで、別のルックを試したり、デジタル的にリライティング(再照明)するテクニックが利用できる等、高い柔軟性をポストプロダクションで持つことができるからだ。さらには、より広い色再現領域のカラースペース(例えば、DCIシネマリリース、ワイドガマット・テレビ等)のためのバージョンを制作しなければならないケースも対応が可能である。次号では、これらのトピックについて考察を進めていく。


本稿は「The Color Magazine」として2008年 6月号にメールマガジンとして配信されたものです。

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